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10億年ぶりの更新

 錯覚してしまう。俺には人殺しの才能があるのではないか、と。

 俺の右側に横たわる弟。恐らくショック気絶しているんだろう。静まり返った部屋に、薄い呼吸音が響く。

「何も、感じない。」

 手の平だけを眺めていた。汗が出るのを待った。少しでも、欠片でも人間らしさが残っていてほしいと願った。

「……う…あぁ…」

 右隣から微かな声が聞こえた。弟だ。

 手の平を眺めるのをすぐにやめ、弟の肺辺りに刺さっていたナイフを、右手で引っこ抜いた。抜いた勢いで右手を振りかぶり、ナイフというより、握った拳で叩きつけるように心臓があると思われる胸のあたりを強く刺した。

「───っ!」

 声にならない声を上げ、一度身体を跳ねさせたが、すぐに力は抜けていった。

 完全に息絶えた。絶えさせた。

 ゆっくりと、親指と人差し指をナイフの柄から離す。次に残りの指を、上から下にかけて離した。

「……クソ…」

 小さい声で呟いた。何も感じなかったからだ。最後はただ、刺した。力任せに。

 手の平を眺めることを諦め、天井を見上げた。見上げても何も変わらない。変えられないというのに。

 呆けている時間はない。まずはこの二人をどうするか、だ。とりあえず、放置するのはまずいだろうな。異臭がするとか、連絡が取れないってなると警察の調査が入るに決まってる。なら先に、この二体を車に積んでしまおうか。幸い、実家は入り組んだ住宅地の、更に奥まった路地の突き当りにある。用事がなければ、来る人間などいない。

 ゆっくりと立ち上がり、まずは弟だったものの両脇に肘まで通し持ち上げる。予想よりも重い。でも、そんなことは言っていられない。

 高校時代は運動部だった。しかもスパルタ。ならこのくらいなんてことない。そう自分に言い聞かせ、力を振り絞った。

 それから二人を車に積んだ後で気が付いたが、引き摺った際にできたこの4本の線。二人の踵に付いた血や、酒が混じった液体。早く拭き取ってしまわないと跡が残ってしまう。俺は小走りで、ティッシュを箱ごと取りに行った。3、4枚ずつ中から取り出し、液体の上に乗せ、軽く回すように拭いた。その後、アルコールタイプのウェットティッシュを使い、念入りに拭く。

 そんな作業をしながら考えていたが、どうせ警察の調べが入れば、何かしらの手を使って証拠を掴んでくるだろうと思った。ならできるだけ複雑にしてやろうという考えに至った。親族総出で居なくなってしまえばなかなか、不可解な事件として処理されるのではないだろうか。運よく叔父叔母に家族は居ない。小さい子供も親族には居ないようだ。やりようによっては血を流すこともなく、迅速に処理できるだろう。

 そんなことを考えていた。


『狂っている。』


 思考中の脳に、無理矢理なのか、不意になのか、何度も問いかけてくる。

「……後悔なんて、ない。」

 言葉に出すことで気分を落ち着かせる。これが重要なのだ。言葉に出すことで、冷静さを取り戻せることもある。今回は正解だったかもしれない。あるいは何かを見落としていて気が付いていないだけかもしれない。だが、今は考えている暇なんてない。冷静じゃなくてもいい。

 それで生き残り、平穏が掴めるのなら。


 いや、驚いた。自分自身に、驚いた。まだ生き残るつもりらしい。俺は。更にいえば平穏までも欲している。


 甘い。これからおよそ人の生活を送っていけると思うな。不必要な感情は持つな。不必要な感情は、芯を崩す。崩れた芯は、心は、時に誤った判断を下し、自身を締めつける。なら崩すな。もしすでに壊れているのなら、その形を維持しろ。希望を見出すな。後ろめたさを抱えるな。ただひっそりと、日陰で生きていくことだけを目指せ。それが今の俺には必要な精神だ。


 ひとしきり考えて、床を拭く作業を終え立ち上がった。次にやることは決まったからだ。

 埋める。そう、山に埋めてしまえばいい。運よく祖父母とたまに行ってた土地を思い出したのだ。もう誰も出入りせず、車も滅多に通らない。電波は圏外。隠す、埋めるにはうってつけだと思った。

 思い立ったが吉日、俺にとってはそうかもしれないが、この二人には最悪の一日となったであろう。

 それから車を走らせ約3時間経過した。山にたどり着き、二人を車に積んだ時と同様に抱え、草木の上に横たわらせた。

 次、穴を掘る。できるだけ大きい穴がいい。人がいくらでも入れるくらいの穴だ。家の倉庫に大きいシャベルがあってよかった。これで埋めれる。シャベルは何回か使ったことがある程度だからなのか、あまりうまく掘れない。穴が広がらず、苦労する。こんなことなら祖父母の畑の手伝いでもするんだったな。

 人一人分の穴が掘れたところで座り込んだ。さすがに疲れた。なんで俺は、こんなに必死になって穴を掘っているんだろうか。なんで出頭しなかったんだろうか。

 頭を抱えそうになったがすぐに考えを切り替えた。今やるべきことをやる。俺が決めたことだ。

 小さい声で、自身を鼓舞するように言った。

「俺がやる。俺しかいない。……俺が変えてやる。」

 再び立ち上がり、さっきよりも速いスピードで穴を掘り始めた。

モチベはあります。

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