あっとらいぶらりー㉕
おお、もう行っちゃった。
行動が早いな、流石元気っ子。
遥お姉さまの事を心配しての行動なのだろうけれど、巻き込まれて2人であわあわしている姿が目に浮かぶよ。…うん、ファイト。
で、なづなは何をしてるのかな?
「うん?あぁ、明之星以外の七不思議って、どんなのがあるのか気になっただけ。ほら、明之星のは単なる噂じゃなくって、実際の体験人数が多い上に周期みたいなのがあったりするでしょう?他の学校にもそういうのあったりするのかなって。」
で?どうだったの?
「う~ん…よくある怪談話ばっかりだね…怖い系の。」
こ…怖い系かぁ…
じゃあやっぱり明之星は珍しいパターンというか、少数派なんだね。恐怖を煽るというよりも不思議体験系だもん。
「珍しいパターンっていうか…明之星のが特殊なんだよ。有名な七不思議って20個くらいあるんだけど、そのどれも明之星の七不思議に合致しない…似てるのはあるけど。」
へぇ明之星の七不思議ってそんなに独自性が強いんだ。
…って、20個!?20個って言った?!七不思議なのに?
「ある程度パターン化されてる。というより、学校のは七不思議っていうより『学校の怪談』って言った方がいいみたいだね。」
あ、学校の怪談…なるほどね。
「そもそも『世界の七不思議』が誤訳なんじゃないかっていうのが一番の衝撃だったけど。」
世界の七不思議って聞いたことあるね。
え~とギザの大ピラミッド、バビロンの空中庭園、ロードスの巨像…あとなんだっけ?覚えてないや…あ~…なんか出てこない。後で調べておこう。で?これ誤訳なの?『世界の七不思議』が?
「らしいよ?『Wonders』って単語をそのまま『不思議』って訳したから、オカルトと結びついてオーパーツ扱いされちゃったんだって。元々は『七大びっくり』とか『見ておくべき凄い建造物7選』的な意味みたいだね。」
…『七大びっくり』の訳し方の方が吃驚だよ。
「うん、満足。」
PCの電源をおとし、グッと伸びをする なづな。
七不思議の事で何か気が付いた事でもあったのかと思ったけれど、どうやら本当に興味のまま七不思議を検索しただけらしい。
「影法師さ、他校にも似たような事例がないかなぁ~って思ったんだけど…しっかり調べれば見つかるかもしれないけど、ちょっと調べたくらいじゃ出てこなかったねぇ。」
あぁ類似例がないか調べたかったのね。
…なんで?
「…なんでだろう?なんとなく?」
なんとなくかぁ…なづなは“なんとなく”ってよく使うんだけれど、時々すごく重要な事が紛れていたりしてさ、なかなかに侮れないんだよね。
まぁ後々になってみないと分からないから、役に立つかどうかは微妙な感じではあるのだけれど。
うん、それはいいや。
で、どうする?まだ調べ物、続ける?
「そうだねぇ…実は、これ以上調べても有益な情報って出て来ないんじゃないかって思ってるんだよね…。一応知りたかった部分は知れた訳だし…これくらいにしておこうか?」
結局のところ何を成すべきかが分かる訳じゃないのだから、不安ばかり募ってしまうんじゃないか…って。どうしても気になる様ならまた来れば良いのだから切り上げて片付けて帰ろうか、と。
確かにね。
そうだよ、あんまり先の事ばかり気にしていても仕方ないのはその通りだ。
それよりも目の前にやる事いっぱいあるんだから。
新歓祭の事、実力テスト、セリナ様の呼び出しの件、直近だけで3つもあるんだから。
うん、じゃあ片付けちゃおうか。
部誌が出しっぱなしで移動しているのは なづなにしては珍しい事だが…いつもだったら片付けてから移動しそうなものだけれど、今回は満さんが一緒だったんだし、行動を優先したんだろうなぁ。
まぁ書架から出した本はブックトラックに積んであるし、順番も大して崩してないから戻すのにもそう時間はかかるまい。
梯子を登り、渡される部誌を順次書架に詰めてゆく。
改めて見ると、装丁や表紙の色数などは最近になればなるほど綺麗に、豪華になってきている。
けれど、紙そのものは画一的というか普通な感じなんだよね。さっき満さんが言ってた…PP加工だっけ?それ一辺倒で、如何にも量産品感が否めない。
けれど30年前くらいの部誌。この辺りの表紙は単色刷りなのに、表紙に使われている紙がとても凝っていて特別感がある。
なんていう種類なのか知らないのだけれど、ポコポコと波打った様な紙とか、染め物の様な色合いの紙とか…ワンオフです!って主張している気がするよ。
作った人達の思い入れが現れている…そんな感じ。
ま、実際は印刷技術の向上で、紙に凝るよりも安く綺麗に刷れるってだけなのかもしれないけれど。
「この時代の部誌の手触りが好き、だな。」
なづなもそう思う?
そうなんだよ!手触りが良いんだよね!
ツルツルじゃなくて、適度に指が引っ掛かるというか、馴染むというか…まぁ強く擦るとインクが剥げちゃいそうなんだけれど。
ふと下にいる なづなを見ると、ブックトラックに乗った部誌の通巻番号を確認しながら、前後を入れ替えたりしている姿が目に入った。
ここから見ると、少し俯き目を伏せた様に見えるのだけれど…なんて表現が適切かな…物憂げな?アンニュイ…?かな?なんか、寂しげな雰囲気が滲んでいそうな…そんな風に見えてさ、ちょっと、胸がキュッとなった。
なんでいきなり、こんな気持ちに…?
さっき教室で、どっちが寂しがり屋か〜みたいな話をしたから?それとも、例え話とはいえセリナ様となづながお付き合いする…なんて事を言ったから、それがダメージになってるとか?だとしたら、メンタル弱すぎだろうボク…。
いやね、春休み明けてからこっち、少し情緒不安定気味だったのはその通りなんだけれど…。
こんな、思い出した様にバランス崩れるかな?
…大丈夫、大丈夫だよボク。
なづなから貰った言葉を思い出せ。
『一緒に生きてくれますか。』って言われたろう?
ボクは、それになんて答えた?
『よろこんで。』
そう応えたはずだ。
大丈夫。ボクの気持ちは固まっている。
何を不安に思う事がある。
ボクが沈んでたら、なづなが心配するだろう?
しっかりしろ。
「?せり?どうかした?」
ん?いや?なんでもないけれど?
…やばい、顔に出てた?
「そう?なんか、ここ…。」
そう言いながら、自分の眉間をグニグニとマッサージして見せる。
む。眉間に皺がよる程顰めっ面してたのか。いかんいかん。ボクも真似して眉間をマッサージする。伸びろ〜伸びろ〜皺消えろ〜。
「あんまりグリグリすると眉間が広がっちゃうんじゃない?」
え、それはイヤだなぁ。
「じゃあ続き。はい、次はこれね。」
立て続けに渡された本を受け取り、書架に収めていく。段々と並んでゆく文芸部誌。つい今しがた知ったのだけれど『星ヲ見ル』と書いて『ホシヲノゾム』と読むらしい。さっき書架に戻した一冊にローマ字でルビが振ってあったから、多分間違いない。
『見ル』って書いてあるのに『ノゾム』って読ませるの、無理がありませんかね、大お姉さま方?
…厨二病って、大昔からあったんだろうか?
短くて申し訳なく…




