あっとらいぶらりー㉑
「あ、いたいた!よかった!……って、なんてカッコしてるの2人とも?!」
あ、満さんおかえりー。ハヤカッタネー。
え〜…と。
経緯と状況を説明させて頂きますとですね、先程までボクとなづなは、そりゃあもういい雰囲気だったのですよ。ちょっとした会話の流れからですね、見つめ合い、お互いの意思を確かめ合いながら、ゆっくりと
唇を重ね…ようとした瞬間に声を掛けられて。
2人して弾かれた様に、どころか、突如として磁界の反転した強力磁石の様に背中側に吹っ飛んだ、という感じでしょうか。
で、ですね。
満さんの言う『なんてカッコ』なのですが…。
先ず、なづなは先程2人で座っていた場所から3m程向こう側の書架にもたれ掛かっています。
ポーズは…書架に向かい女の子座りして、オシリを突き出して、グゥっと背中を逸らし上半身をペッタリと書架にくっ付けております。
そうですね、爪研ぎをしている猫ちゃんみたいなポーズ、と言えば伝わるでしょうか?
その状態で『あー、コレ、こんなトコロにあったんだーシラナカッタナー。』などと呟いています。
棒読みです。
はい?
ボクですか?
ボクはですね。
元いた場所から2回ほど転がった位置に仰向けで寝そべっていますね。
左脚を立てて、その膝の上に右脚を乗せて。
4の字固めの脚の形に近いでしょうか。
つまり寝転がって脚を組んでいる訳です。
その体勢で顔の上に本を掲げている、といった感じなのですが…上手く説明出来ているでしょうか?
そうですね…ベッドの上に仰向けに寝転がって本を読んでいる、というのが1番伝わり易いかもしれません。
問題はボクが履いているのが制服のスカートだという部分なのではないかと思われます。
おそらく。おそらくですが、結構、捲れ上がっていて、満さんの位置からだとですね、その、下着がですね、丸見えなのではなかろうか、と。
平素であれば、なづなにお小言を頂く事間違い無しという、それはもう淑女にあるまじき体勢をとっておりまして…ハイ…
…ほんっっっとに、なんてカッコしてんだボクは!?
いやコレは、いくらボクでもはしたないと理解るよ!
まあね!?下着くらいならね?!見られたとしてもね?!ちゃんと可愛いの履いてますし?!それ以前に所詮は布ですよ!なんてことはないですとも!ええ、別段気にする様な事で恥ずかしーーーー!!
ちょっと満さん!?まじまじ見ないで?!
あああ!ここで体勢を変えて隠すという行動を取って『陰ではこんなだらしないのにカマトトぶっちゃってさ。』と思われるのと、体勢を変えず堂々として『実は破廉恥な子なんだ…。』と思われるのではどっちがマシですかね?!
いやいやまてまて、堂々としていれば案外ネガティブには取られないかもしれないじゃないか!『自室ではこういう恰好してるんだ。へぇ。』程度で済む可能性だって充分ある!
なづなだって、変に取り繕うよりも素直に言った方が好印象だって言ってたじゃないか!そうだよ、素直に堂々と有りの儘。それが一番カッコいいじゃないか!
…よし!堂々としていよう!
普段どおりですがなにか?みたいな態度で押し通そう。うん。そうしよう。
以上『2人とも!?』から凡そ2秒間の思考!
「あ。満さん、おかえり。首尾は?」
何事もなかったかの様にゆったりと体を起こし、スカートの裾を払って座り直す。
ふっふっふ。
どうですか、この堂々たる有り様は。『ありさま』じゃないよ?『ありよう』だからね?同じ字なのに読み方ひとつでニュアンスが変わる、しかも正反対に。にも拘らず一方がもう一方の意味を内包するという。日本語って難しいね!
って、今それはどうでもいいんだよ。
さも普段通りの行動ですと言わんばかりのこの態度、これならば相手も普段通りに接しやすくなるというもの。そう、普段通り。変わった事など何もなかった!たとえ下着が見えていようとも普段通りならば敢えて触れずとも良いだろうと
「せりさんパステルカラー似合うわね。」
触れてきたぁ!
がっつり鷲掴んできた!
褒めてくれてありがとう!
そしてお見苦しい物を披露してしまって失礼しました!
「全然!とっても可愛いわ!」
そ、そお?
まあ今日は上下お揃いの淡い色合いで、なかなかお気に入りなのだけれど、そっか、可愛いかぁ、うん、ありがとう。
「私、せりさん達って総レースで透け透けのとか履いてるんじゃないかと思ってたから、ちょっと安心したわ。」
ちょおっ!総レースで透け透けって!?ボクそんなイメージだったの?!
え~…いやまぁね、見る分には可愛いなとか大人っぽくって良いなぁなんて思ったりもしますけれど、流石に着ようとは思わないです…。
「せりさん似合いそうだけどね。」
いやぁどうかなぁ…?
ボクには似合わないんじゃないかなぁ?
…っていうか下着の話はいいんですよ!
それより満さんの方は!?どうだったの?!
遥お姉さまとちゃんとお話しできたんでしょ!?
ちゃんと聞いておかないと、気になって気になって考えすぎて糖分足りなくなって夜ちゃんと眠っちゃいそう!
「あ、うん。それは話すけど…夜眠れるんなら別に良くない?」
そこはノリで言っただけので気にしないで下さい。
それと、ちょっと待ってね?おーい、なづなぁ。満さんが惚気話してくれるらしいから、こっちおいで~。
「惚気話って…!」
違うの?……違わないよねぇぇひっひっひ。
「ちっ!…がわない、けど…。」
なんて話してる間に、すっかり気を取り直した なづながボクの隣に座り、満さんの話を聞く態勢をとった。さっき迄猫の様なポーズをとっていた事実など無かったかのように、しれっと。
切り替えが早いこと早いこと。
「で、で?どうだった?」
おおっと、ぐいぐい行くねぇなづな。
眼がキラキラしているところを見るに純粋に興味津々って感じだけれど。
「う?…うん、えっとね…その、遥ちゃんとお話ししたんだけどね…。」
うんうん。
「前みたいに仲良くしてほしいなぁ~…みたいな事を言ったのね?」
…うん?
「そしたら遥ちゃんが… 」
いやいやいや!ちょっと待って!
いくら何でも端折り過ぎじゃないかな!?
ボク達はその『仲良くしてほしいなぁ~…みたいな事』の件を詳しく聞きたいのであってですね、その辺りを飛ばされちゃうと楽しみの半分を封じられたも同然なんですよ。
と、いう訳で、詳しくどうぞ。
「わ、わかった…そんなに聞きたいんだ…?」
そりゃあ、お友達の恋路の行方ですからね!聞きたいですとも!
なづなも隣でコクコクと頷いている。
それを見た満さんが大きく深呼吸をし、ボク達を交互に見て、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「んと、ね。私、以前から思っていた事をね、ちゃんと遥ちゃんに伝えようって思ってね、言ってみたんだ。」
「“遥ちゃん”って呼ばせて下さい、って。」
…おぉ…おおおぉ!
凄い。凄いよ満さん!
「そしたらね… 」
そしたら…?
「抱きしめてくれたの。きゅうって。」
言った途端、両手で顔を覆って恥ずかしがる満さん。
そっか、そっかぁ!頑張ったね満さん!よかったねぇ!
遥お姉さま、ちゃんと受け止めてくれたんだね。
先程のお二人も言っていたけれど、踏み込み切れなかっただけでお互いの想いは一致していた、という事なんだろう。
でもこれで満さんは何の遠慮もなく、人前で“遥ちゃん”って呼べるんだ。
…よかった。本当によかった。
…よかったですね図書委員のお姉さま方!
これでもう満さん達を見てヤキモキしなくて済みますよ!
でも、逆にじれったい二人を見られなくなって寂しいかな?それとも熱々な二人を見て『爆発しろ』とか思うんだろうか?
まぁ思われたところで、熱々な二人にとってはどこ吹く風ってなもんだろうけれど。
夏はまだ先だってのに図書室の気温が上がりそうだネ。




