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あっとらいぶらりー⑲

「でも冗句はその限りでは無い、でしょ?」


む。確かに。

ガチガチに“嘘吐かない”を守ったら冗談のひとつも言えなくなっちゃうから、明らかな嘘…というか悪意のない軽口くらいはいいんじゃないかって事になったんだよね。

菫さんともそんな話をしたっけ。


いや、でも、此処で嘘吐いたらそれは冗句の範疇を越えちゃうでしょ?

おでこに肉って落書きして『何にも書いてないよ〜』って言うのと同じだもん。それで外に出たら笑われるのは書かれた相手なんだし、それを見て愉快になるなんて…それはもう虐めじゃないか。悪意以外の何物でもないよ。

もちろん程度の差はあるけれど、やっている事は同系統。そういう行為というのは必ずエスカレートするものだから。人によっては歯止めが効かず際限なく。自制心で止められる、自分にブレーキをかけられるなんて驕らない。だからボクは最初からそんな事はしない。


「…例えが極端な気がするけど、そうだね。うん。せりはそんな事する子じゃない。」


ようやくムニムニと頬を揉んでいた手を止めて、ウンとひとつ伸びをする。


「ん〜…っと、さて、どうする?もうちょっと調べていこうか?」


もともとの目的は()()なんだし、続きをしよう。4階の作業が終わるまでは図書室開いてるんだもんね?もしかすると満さんも戻ってくるかもしれないし、折角仕分けたのだから見ておかなければ勿体ない気がするし、ここで止めて片付けるにしても、これまでにピックアップした部誌のNo.(ナンバー)…何年の何号かくらいはチェックしておかないと二度手間になっちゃう。

…って、既になづながメモし始めてる。さすが。


「まずはこの6冊…これが影法師中心で詳しい体験談込みの考察本。」


さっきボク達が目を通したやつだね。

内一冊は、かなり最近の書かれた本で研究色が強い。


「次にこっちの6冊。七不思議全般を扱っている様だから、影法師の事はちょっと触れる程度のも含んでるね。」


どの程度触れているかは、しっかり読み込まないとわかんないんだね。ふむふむ。


「で、残りの60冊近く…目次にこそ七不思議の表記が無いものの、一切触れていないとは言えない…。これに目を通すのは正直無茶だと思う。放課後毎日通ってもひと月以上かかるんじゃない、かなぁ…。」


だよねぇ。

しかも4階の閉架書庫に、これ以前の部誌があるんでしょう?そっちもとなると、どんだけかかるのか想像出来ない。というかしたくない。


「一応、一番知りたかった『充実した学院生活』の()()は判明した訳だし、考察の部分だけ読んでみるっていうのは如何、かな?」


うん…それが無難そうだねぇ。

どうしても気になる様なら、その都度来れば良い。

いっぺんに答えを求めず、後に楽しみを取っておくのも一興でしょう。

……すいません、格好つけました。ぶっちゃけ物量に押されて心折れ気味です。

だってここにあるのは昭和50年以降の物だけなんだよ?って事はそれ以前の物は閉架書庫に収蔵されているんだよね?もし、万が一、学院創立当初から毎年一冊づつ発行されていたとしたら…少なくともあと50数冊ある訳で。更に言うなら昭和30年以前は口語も現代とは相当に違う上に、この学院はお嬢様学校だ。とんでもなく丁寧な文語体とか(そうら)え文で書いてあるかもしれない。

つまり。

解読から始めなければならない可能性がある。

そう!古文の授業の様に!


…いやぁ…流石にそこまではないか…


「あ、これ可愛い考察だよ。少女(オトメ)全開って感じ。」


部誌の一冊を読んでいた なづなが華やいだ声を上げる。

少女(オトメ)全開の可愛い考察?

少女漫画的って事なのだろうか?

ズリズリとなづなの横に移動し開かれたページを覗き込む。

どれどれ?


『…これら七不思議すべてに共通項を見出す事は、なかなか困難ではあるが…』


「あ、もうちょっと先、えっと…この辺。」


え?あ、こっちか。

示された場所、なづなの指の置かれている先の文章を改めて読み進める。


『…以上の事を考え合わせると、七不思議のいくつかは“学院の意思の具現化”或いは“校舎に宿る精霊”の様な高次の…いや超常の、と言った方がいいだろうか?そのような存在ではないかと思えてならない。“影法師(ドッペルゲンガー)”は改革者を選定し、“百合の乙女”は寄り添う二人に祝福を、“雨垂れの少女”道を示す。宛ら(さながら)湖の乙女のようではないか。』


…湖の乙女ときたか。

なるほど、確かに精霊とか神秘的なものに(なぞら)えるの好きな子って多いよね。年頃の女の子にはスピリチュアルなものって刺さり易いんだろうな。まぁボクも嫌いな訳じゃない、傾倒していないってだけで。

なにしろ精霊は兎も角、妖精っぽいのなら以前の世界(ぜんせ)にたっくさんいたから散々見たし。身長が30㎝くらいで(はね)みたいな光を背負っててふよふよ飛んでんの。当時は鬱陶(うっとう)しいとしか思わなかったけれど…今思えばアレ、可愛かったかもしれない。

…あ、また脱線しちゃった。修正修正。


「…これ、面白いね。」


「ね。面白いよね。“学院の意思の具現化”に“校舎に宿る精霊”。まぁ精霊の方は校舎じゃなくて土地じゃないかなって思う、けど。」


土地?


「そ。この辺りは山岳信仰のお(やしろ)さんが多いからね。お山ひとつひとつに()()が宿っていてもおかしくないかな、って。」


あ~、そういえばこの辺は四方が山に囲まれているから山岳信仰が根強いって聞いたことがあったっけ。

まぁ、それはそれとして。

“湖の乙女”ならぬ“山の乙女”ね。

山岳信仰の御祭神は女神様、ぴったりじゃないか。

なづな、それで記事書いて文芸部に持ち込んでみたら!?詳細は伏せるとしても、ボク達の体験談を添えたら相当面白い記事になりそうな気がするんだけれど!


「なんで私?!せりがやれば良いじゃない。」


いやだって、ボクよりも なづなの方が文章書くの上手いじゃん。

それに伏せるとしても、自分で失神したエピソードを書くのはちょっと…。


「…私が書いたって似たような物だよ。それに体験談として書いたらホラー小説か怪談になっちゃうんだけど…?」


そうでした。

ボク達のは部誌に書かれている体験談に比べると、ずっと怖い話寄りなんだった…!

むぅ…ダメか。


「そんなことよりこの記事だよ。」


そんな事…そんな事扱いですか…。


影法師(ドッペルゲンガー)は良いとして、こっちの“百合の乙女”と“雨垂れの少女”の方。これたぶん、『百合の妖精さん』と『昇降口の雨女』だよね?」


…あ、ホントだ。

『百合の妖精さん』と“百合の乙女”は同じ話だね。

けど“雨垂れの少女”って『昇降口の雨女』の事なのかな?

道を示すって書いてあるけれど、『昇降口の雨女』ってそんな話だったっけ?っていうか、そもそもどんな話なんだっけ?


「昇降口で雨宿りしてると、いつの間にか見慣れない制服の女生徒が隣に立っている…みたいな話。特に何かをするっていうのは聞いた事ない…と思う。」


だよね…。


「けど、私達が聞いたのは伝聞…口伝でしょう?世代が進むにつれて歪んじゃったんじゃないかな?」


有り得る。

…因みにこの部誌はいつの時代の物なんだろうか?

ボクの質問に、なづなは部誌をパラパラと捲り、奥付のページを開いて見せた。

えっと…平成元年!?

ふた昔以上前…いやまてよ、これ…


「ママが明之星(ウチ)にいた頃に書かれたもの、だね。」


だよね?

もしかしたら、なんか覚えてるかもしれない。

帰ったら聞いてみよう?


で、もうひとつの方は百合の妖精さん。

昔は“百合の乙女”って呼ばれてたのがいつの頃からか乙女から妖精に変化している。これも伝言リレーみたいに段々と歪んでいったのだろうか?

ボクの勝手なイメージなんだけれど、今世でいうところの『○○の乙女』ってのは精霊とか女神の別名で、『妖精』は精霊や女神の前段階だと思ってるんだ。妖精が修行によって進化して精霊になる…みたいな。

あくまで今世ではという注釈付きだけれど。

でも、その理屈だと『百合の妖精さん』って…退化しちゃってるよね?

…ま、まぁ、所詮はボクのイメージだからね?実際どうなのかはわからないけれどね?全然的外れかもしれないからね?

『百合の妖精さん』“百合の乙女”は寄り添う二人に祝福を与えてくれる存在、か。影法師(ドッペルゲンガー)に比べると随分と優しい精霊さんみたい。どうせならこっちに出て来てほしかったかも…。


「ね、せり。」


うん?


「百合の妖精さんに祝福して欲しい、って思ってる?」


なななななんでわかるかな?!

…また顔に出てた?!


「それは私も思ってたからだよ?」


なづな、も?


「だって()()()()()()だよ?()()()()じゃない。」


あら意外。なづなが公認とか気にするとは思ってなかった。決めたら貫くタイプだから。


「ううん。気にしてるんじゃないの。ママも言ってたでしょう?『茨の道だろうけど、決めたのなら貫きなさい』って。」


「覚悟もあるし、貫くよ。」


「でも… 」


「認めてくれる人が多いのは心強いかな、って。」


相手は女神様だから“人”じゃないけど、だって。

そっか、そうだよね。味方が多いのはいい事だもの。

人であろうが、なかろうが。

と、するとだ。祝福して貰うにはどうすれば良いのかな?うんと仲良くしてればいいのかな?

イチャイチャしてる、とか?


「そんなに即物的かなぁ…?」


だよねぇ。余りにも俗っぽいよねぇ…。


「……試してみる?」


試すって何を…?

そう問い返し隣にいるなづなに顔を向けると

目の前に、なづなの顔があった。頬の産毛すら見える距離に。額が触れる程の距離に。

少し閉じた眼にボクが写っているのが見える。

凄く綺麗な瞳…長い睫毛が光を浴びてキラキラと輝いている。

ゆっくりと少しづつ、

なづなの顔が近づいてきて…

お互いの吐息が感じられるところまで…

これ、は、

唇が、

触れ…





「なづなさん!せりさん!いる!?」









ようやく図書室の終わりが見えてきました…


追記:またしても…またしても寝落ちしました…

   本日中に、もう一度加筆すると思います…

   本当に申し訳ございません…


追記2:11:05更新をもって本日の更新は終了

    次話は

    明後日AM01:00を予定しております。

    度々の失態、伏してお詫び申し上げます。

    誠に申し訳ございません。

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[一言] お疲れなら無理をせずに… お体には気をつけてください。
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