ごきげんよう、お姉さま⑧
お姉さま方に頼られて、嬉しいせりちゃんです。
なぁんだ、もう終わり?
つまんないなぁ
あんた達全然つまんない
ねぇ“あの子”連れてきてよ
ボクと遊んで壊れないの”あの子“くらいだもん
なんで断るの?
はぁもうイイや
消えちゃえ。
「そう。向こうも問題なく終わりそうなのね。」
「はい、1時間程で終了するのではないか、と仰っていました。」
それなら此方も終わらせてしまいましょうと立ち上がりボク達を促す。それに従って部屋を退出、アリーナへと移動する。
アリーナではパイプ椅子に来賓の貼り紙が貼られ、長机に司会とか救護とかの文字も見える。
ボク達が書いた物だが、
なんだろう、
ちょっと照れ臭い…展覧会で展示されている時より気恥ずかしい。たぶん、書いてある字の事なんて誰も気にしないのだろうけれど、当たり前にそこに存在するのが自分の作品であるという事実が、何ともくすぐったい。
上に視線を移せばプログラム…式の進行表が今まさに掲示されるところだった。
B全用紙3枚分はたっぷりあろうかという巨大サイズに、それはそれは綺麗な文字が踊っている。
うわぁ…これ、すずな姉ちゃんが書いたんだよね
凄いな、書道室の机で書いたんでしょ?どうやって全体のバランス取ったんだろう?
「凄いね…。」
文字単体も綺麗だけれど、間の取り方や大小のバランスが素晴らしい。本当に凄い。まるで書道の教科書のようだ。
なづなも同じ事を考えていたのだろうか、食い入る様に見つめている。こんな凄い作品が一度限りしか使われないなんて、如何にも勿体ないと思うのは、僅かばかりでも書に関わった故か。
いつかボクにも、こんな字が書ける日が来るのだろうか…?
「双子ちゃん。ちょっといいかしら。」
ボク達を呼びながらも、書類の束…チェックリストかな?から眼をを離さない。
「はい、問題があったのでしょうか?」
「いいえ。私達が確認した限りでは、全く問題はなかったわ。」
「では…?」
「あなた達にもチェックして貰おうと思って。」
ボク達にも?
「あなた達には、これから先も手伝って貰うつもりだから。慣れておいて損は無いと思うわよ?」
設営や運営、何だったら実行委員の方で采配を振ってくれてもいいわとか、恐ろしい事を仰ってます。
「あら?ご不満?」
「とんでもありません!」
「喜んでお手伝いします!」
「そ。じゃよろしく。」私達が卒業するまで逃がさないからね。せいぜいこき使ってあげるわ。可愛い子は側に置いておきたいのよ。頑張ってね。等とお姉さま方から次々に声をかけられて、チェックリストを渡された。
お姉さま方は掃き掃除やらモップ掛けやら、既に仕上げ体制だ。
ボク達も端からひとつづつ目視でチェックしていく。
なづながリストを指でなぞりながら首を傾げる。
「何か気になる事、あった?」
ん〜?チェックリスト上は問題無さそうなんだけれど…?
…チェックリスト上問題ない?
まって、どういう事…?
リストが正確なら、看板や貼り紙、アーチの事も、最初から正解があったという事?
え?でも実行委員の人もアーチの事バルーンだって知らなかったよね?立看板も最初のはしっかりした指示が無かった。
でもチェックリストには正確に記載されている。
なんだこれ。
「なに…これ?」
「わかんない…正解がわかってて、虫食いみたいな情報しか与えなかった…みたいな、感じ?」
「実行委員が何かしようとしてた…?」何の為に?
「違うと…思う。」
…だよね。わざわざ自分達の評価を下げる様な行為をするなんて考えにくい。じゃあ誰が…?
「…出来る事やっちゃおう。」
「ん。…そう…だね。」
聞くのは後でいい。きっと種明かしはある。
今は、任された仕事を完遂しよう。
「花乃お姉さま、このリストなのですが…」
なづなが、おずおずといった感じでリストを差し出すと、花乃お姉さまの他にも数名いるお姉さま方が、ニコニコとしてこちらに注目する。
「お。何か気付いた?」
その仰りようだと、やはり何かあるのですね。
「リストが余りに正確…です。」
「今朝渡された指示書の不備からは考えられない程に…」
うん、と頷いて先を促す
「誰に誰が、というのは判然としませんが…」
「試された…のではないか、と…」
へぇ、と声を上げた方がいた。当たらずとも遠からず…かな?
「アーチがバルーンだと実行委員が把握していなかったのもおかしな話なのですが…」
「そんな杜撰な企画が承認されている。そこが一番おかしいと思うのです。」
ニコニコしているお姉さまと、しきりに感心しているお姉さまが居ますね。やっぱりお姉さま方は答えを知っていらっしゃるのか。
「承認は生徒会と、学院が行うのですよね?」
そうね、と首肯するお姉さま方
「なら…学院側…先生方はバルーンの事を知っていて黙っていた…」
当然だ。学院の備品である以上把握していない訳がない。生徒会にしても、学校行事に使用するハードツールの購入履歴くらいは残してあるはず。知っていたから承認する事が出来た。
「おそらく生徒会も…」
…という事は
「「試されたのは実行委員会…ですね。」」
おぉ〜パチパチパチ
「いいわね。概ね正確。」
むぅ、やっぱり。
「まぁ試された訳じゃなく、お灸を据える計画だったみたいね。私達はそのお灸計画に巻き込まれたのよ。」
ええ…?
お姉さま方の解説によると
昨年度、行事の企画運営を行う実行委員会の提出する書類が、前年度のコピーだったり数字がいい加減だったりと中々酷い代物だったと。
最初こそ承認時に逐次修正していたが、流石に委員会の意識を矯正せねばならないと感じ、生徒会主導でお灸計画が立案され、学院側に許可を取って、今回実行に移したのだそうだ。
はた迷惑な。
「では、式典の準備が遅れるのは黙認するつもりだったのでしょうか?」
「いいえ。救済措置が設定されていたそうよ。」
実行委員が生徒会、もしくは先生方に助力を願い出れば、バルーンの事も立看板の事も教えるつもりだったらしい。
だけれど、実行委員はそのまま強行した。
15時迄待って、それでも願い出なかった場合強制介入する予定でいたが、ボク達が見つけてしまったと。
実行委員会には後でお小言大会が待っているらしい。
あ。もしかしてお昼にすずな姉ちゃんが言ってた「あとで見に行く。」って強制介入の事?!
結局来てないから、その可能性はあるかな?
あれ待って? と、いう事は
「…生徒会に通じていた方がいる、のですね。」
それも正解、と横に立つ人に視線を送る花乃お姉さま。
隣に立っているのはお茶を振舞ってくれたお姉さまだ。
「私が連絡係よ。」
なるほど、責任者の横にいる人なら全情報を把握出来ますからね。
「まさか蓮が諜報員だったとはね。」
してやられたわ、と花乃お姉さまが笑う。
「最初から知ってらしたのですか?」
「ええ。救済措置も含めて、全部。」
まぁ、そうですよね。
「花乃お姉さまが計画を知ったのは、」
「コンプレッサーを借りに行った時、でしょうか?」
「正解。」ビッと指をさして嬉しそうに
「報告がてら空気入れの相談に行った時にね。」
職員室に行ったら生徒会役員と先生がいて、来たのが実行委員じゃなかった事に酷く落胆していたそうだ。
しかし、アーチを発見し、空気を入れる事で相談したいと伝えたら、そりゃあ驚いていたと。
正解に辿りついたのなら、と、全てを打ち明けられた訳だ。
「聞かされた時はそりゃあ頭にきたわ。こっちは頑張ってるのに!ってね。」
けれどまぁ、実行委員会のだらしなさは目に余るモノだったので仕方ない、と飲み込む事にしたらしい。
大人だ。
「こうして種明かしすると、ゲームみたいで面白いわね。」
確かに。
実際、ボク達は大した被害には遭っていない。
貼り紙を書いた時に数がわからなかったり、看板の形状がわからなかったり、文字入れを2時間近く止められた程度……あれ?結構迷惑被ってない?
いやいや。
結果的には、お姉さま方と親しくなれた訳だし、全体として見れば楽しかったので、プラス収支だと思う。
「やっぱり、設営進行部門でキープしたいわ。」
ん?
「統括生徒会執行部に推薦するのもいいかもしれないわよ?きっと上手く使ってくれるもの。」
は?
「それじゃ侍らせられなじゃない。」
ちょ…?
「それは貴女の趣味でしょう?」
なんか本人達そっちのけで争奪戦が始まったのでしょうか?えぇ…?
蚊帳の外になりつつある現状にオロオロしていると、清掃が終わったという報告が来た。
「よろしい、じゃあ全員集まろうか。」
体育館で作業していた全員がアリーナに集合する。
花乃お姉さまの労いの言葉と、明日以降、撤去及び清掃があるので、また参加してほしいと希望者を募っていた。
「繰り返しになるけど、今日は本当にご苦労様。またよろしくね。では解散!」
お疲れ様でしたと声が揃う。
ボク達もお暇しようかと話していたら…
「双子ちゃん、施錠確認付き合って。」
「貴女、仕込むつもりでしょう…」
「やぁね、そんな気はナイワヨ?」
なづなと顔を見合わせ、クスリと笑う。
頼って貰える、一緒にいたいと言って貰える、今日は何度もそう言ってもらえた。
とても幸せな気分だ。胸がポカポカする。
ボク達は手を繋いでお姉さま方の後を追う。
「「お供します。」」
書は心画なり
絵や文章もそうですが、作品には「人」が出るそうです。
すずな姉さんは人として優れているのでしょう。
なんか、書いていたら勝手に謎解き回になってしまった…おかしい。ミステリーとかサスペンスとか書く様な頭は持ってないのに、何でこんな事に…
お茶のお姉さま
「蓮」と書いて「れん」と読みます
まんまデスね。