あっとらいぶらりー⑬
そうと決まれば早速行こう。
満さんが何をするのか気になる!
「ちょっと待って。部誌どうするの?!このままほっとく気?」
む。今はそれどころじゃないのだけれど…いや、そうだよね。場合によってはそのまま退去しなきゃいけなくなるかもしれないんだから、今片付けるのが筋なんだと思う。
本来は。
「流石にこれを戻してたら時間かかっちゃうし…どんな状況になっても一度戻って来よう。」
「…片付けるつもりがあるなら良いよ。」
勿論、片付けるよ。当然です。
『来た時よりも美しく』は基本中の基本ですから。
ただ、今は先に満さんの行動を見届けたい。というより、あの会話で思い付いたってのが気になるんだよ。
ちょっと見学するだけ。
全部を、最後まで観る必要はない。
本当に大事なところは2人だけのものだから。
顛末は後で満さんに聞けばいい。
なづなだって気にはなってるんでしょ?その証拠に、さっきからボクの行動を阻止しようとしていないもの。もし気にしていないのなら、ボクが見に行こうと言った時点で『駄目』って言ってるもん。行くなら片付けてから、ってね。
「…まぁ気にならない訳じゃない…。言い方はどうあれ煽った形だからね。満さんと遥お姉さまが険悪になったりはしないと思うけど…心配は心配だよ。」
うんうん。そうだよね。
なればこそ、満さんの行動は見ておかねば!
…はい、すいません。嘘ではないのですが壮大な建前です。ぶっちゃけると人の恋路?の転換点を目撃したいという俗欲塗れの理由です。
ホントすいません。
で、でもね、ほら、やっぱりボクもですね、思春期の女の子な訳でですね、他人の色恋にはですね、其れなりに興味があったりするんですよ。
いやね、これが先週だったのなら気に掛けはしても、積極的に『見に行こう』とはならなかったと思うんだ。
けれどボクはつい先日、なづなに告白をして受け入れてもらった。凄く嬉しくて、幸せいっぱいだった。その幸せを、ボクが感じた喜びを、友人達が同じように感じられるのならそれを共有したいなって。
そんな経験を経てしまった今のボクはね、ボク達以外の子たちがね、幸せだー!ってなった時にさ、どんな表情してるんだろ…って気になっちゃてね。
いやいや!それが見たいからって理由で満さんを焚きつけた訳じゃないからね!?
ちょっと背中を押そうって意図がなかったとは言わないけれど、利用しようとかそんなつもりは微塵もなかったんだからね?!そもそも今日この場で満さんが行動に移すなんて思ってもいなかったんだから!文化系元気っ子と評してはいたけれど、こんなに行動力が有るとは想像すらしてなかったよ。
ちょっと吃驚だ。
「それにしても、満さんって意外とアクティブだったんだねぇ。」
だよね。やっぱりそう思うよね?
まぁ文系の子がみんな引っ込み思案な訳じゃないし、満さんは元気のいい子だったから大して不思議ではないのかもしれないけれど。
それでも対人関係でこんなに積極的になれる子だとは思ってなかったんだよ。
その満さんが何かを決心して遥お姉さまのところへ向かったんだもん、どんなアプローチをするのか…うふふ…楽しみ。
…ちょっと悪趣味かな…?
「…せり、なんか悪い事考えてる?」
え?いや、そんなに悪い事は考えてないよ?
「…そんなに?」
あ、違う!考えてない考えてない!
ちょっと趣味が悪いかなぁ~とは思うけれど、悪い事じゃないから!
ホントだよ!?ボク嘘つかないヨ?!
「…ふぅん…まぁいい、けど。」
そ、それより早く降りようよ!満さん一世一代の告白劇が見られるかもしれないんだよ?!なづなだって気になってたんでしょ?!見逃しちゃうのは勿体ないじゃない、ね?!
「…ん。そうだね…その代わり絶対邪魔はしない事。いい?」
うん、当然。
節度…と言って良いかはちょっと疑問は残るけれど、そこの線引きはしっかりやりますよ。
そんなことを話し合いながら階下へと向かう為に階段へと急ぐ。
文化棟の階段は二重螺旋になっていて三階と四階を繋ぐ物以外は建物の中央を貫いている上に、手摺りはあっても壁のような物はない。更には一階一階の天井が他の建物より高かったりするんだよね。
つまり、身を隠す場所がない、という事。
さてさて…どうしたモノか…。
階段には床と同じく吸音マットが貼られているので降りても足音はしないだろうけれど、下の階からは丸見えだ。気づかれない様に一気に下に降りて書架の陰から?丸見えなんだから気づかれない訳ないでしょ。無理無理。
やっぱり二階の、階段の上から見守るしかないかなぁ?
…まぁ仕方ないね。
問題は声が拾えるかって事だけど…う~ん…。図書室は防音性能高いからなぁ…耳を澄ます程度で聞こえるんなら極限まで澄ましちゃうよ?
やるだけやってみましょうか。
二階の階段前まで来て、そっと一階を覗き見る。
ここまで来れば一階の様子は概ね把握できるのだけれど、流石に死角がない訳ではないので…もし、満さんと遥お姉さまがそこに入ってしまっていたらお手上げだ。
さぁ、どうだ…見える位置にいてくれるだろうか?
えーと…あ、いたいた。
入口の近く、カウンターの端っこ辺りに二人して立っている。
なにがしか言葉を交わしているようだけれど…やっぱり聞こえないかぁ…。
「聞こえないねぇ。流石にちょと距離があり過ぎ、かな?」
…だね。二人の様子で想像するほかないね。
満さんがモジモジしてて、遥お姉さまは何時も通り…って事は、まだ何かを言ったという訳じゃないのか。決定的なシーンには間に合ったわけだ。
どれどれ、見せて貰いましょうか、満さんが『決めた』事ってやつを。
「…せり。」
ん?なに?
え、まさか、ここまで来て見るのやめようとかって言うんじゃないでしょうね?流石にそれは暴動が起きても仕方ない暴挙だと思うよ?まぁボク一人だけしか居ないから、容易く鎮圧されそうだけれど。
「違うよぅ。私だって見てたいけど… 」
そう言って階段の上の方を指差す。
上?上に何が…あ!
誰か降りてくる!?
微かに…微かにだけれど足音が聞こえる!
ヤバいヤバい!
このまま降りて来られたら満さんの告白?が中断されちゃうかもしれない!
どうする?どうしよう?
ここで待ってもらう…のはダメだ、話声で気付かれちゃう。
「しょうがない、ね…上に行って足止めしよう…。」
それしかないかぁ…
折角のイベント、見損ねちゃったなぁ…。
「…せぇりぃ~?」
あ、ごめん、イベント扱いは失礼だよね!
すいません撤回します。
撤回しますってば!
ちょ、だから!脇腹突かないで!
地味に痛いんだってばっ!
ほ、ほら!上行こう?少しの間、待ってもらおう?ね?
度々、短い投稿で申し訳ございません…




