あっとらいぶらりー⑨
サブタイトルを変更しました。
「じゃあ、もう少し探してみよう、か?」
そうだね。こっちの12冊だけでも目を通しておいて、他のは後日、諸々落ち着いたらって事で如何だろう?流石にこの量をチェックするのは時間かかるだろうし。
「だね。で、七不思議の記述って何でも良いのかな?それとも影法師だけ?考察とか体験談とか指定ある?」
流石に体験談は希少だろうから載っているとは思えないけれど…あったら最優先でチェックだね。取り敢えず今回は何でも良いです。抜き出しておいて下さいな。
因みに3階の本って基本的に貸し出し不可だよね?
なら、出来ればコピー取りたいんだけどな。
出来るのかな?
「開いちゃうと本が壊れちゃうしね。データがあればプリントするだけ、なんだけど…。」
…そうだよね背表紙割れちゃうもんね。
「最悪、ホントに最終手段だけど、スマホのカメラで撮っておく手があるよ。PCで閲覧出来るデータは全部写真の取り込みだから。」
あ!そっか!写真か!
なんで気付かなかったんだ!
一番お手軽な方法じゃないか!
満さん凄い!
「…ん〜、ホントはこういうのお薦めしちゃいけないんだと思うんだけどね。」
お薦め出来ない。
ほう?そのココロは?
「えっとね、昔カメラ付き携帯電話が普及し始めた頃にね、本屋さんで、読みたい記事だけ写真に撮って本は買わない、みたいな事がたくさんあったんだって。」
なんだそれ…酷いことするなぁ。
「なんて言ったかな…あ、そうそう。デジタル万引き!あんまりイメージ良くないでしょ?結構問題になったらしいよ。本を縛って中身を確認出来なくしちゃった本屋さんが増えたのもその頃なんだって。」
そういう行為が横行してた時代があるから、あんまりお薦め出来ない行為だと。確かに図書室の蔵書保存の為のデータ化作業と違って、利用者が勝手に写真を撮っていくっていうのは…ちょっと問題ありそうな気がするねぇ。例え問題なくても、なんか気分的にイヤだな…う〜む…やめといた方がいいかな…。
此処に来れば読めるんだし、そのうちデータ化したらプリントして貰えば良いんだもん。何より期限も何もない、個人的な興味で調べてみようと思っただけだしね。
うん。写真はいいや。やめとこう。
「そう?いいの?」
「うん、大丈夫だよ。そこまで切羽詰まってる訳じゃないし、ここなら中身の確認は何時だって出来るから、ね。」
なづなの言う通り。3階の蔵書は学校資料が主だから貸し出し対象外だけれど、閲覧は出来るんだもの。読みにくれば済む話だ。
「さ。改めて始めましょうか。」
そう言うと満さんも手元の部誌に目を落とし、記事を読み進めていく。ボクも同じくだ。
が、ボクは知っている。
実は、なづなは先程の会話中も、ほとんど手に持った部誌から視線を外していない。ずっと文章を目で追いながら、ボク達と会話してたんだ。凄いよね?
なづなは、パラレル・シンク?とかいう技術だって言うんだけれど、全然真似出来ない。ホントに全然。
前に説明して貰った時は『踊りながら歌うとか、料理しながら歌うとか、ラジオ聴きながら勉強したりするでしょ?あれと同じだよ?』って言われたんだ。
その時はなるほど〜って思ったんだけれど…
ぜっっったい違うよね!?
そんな技術の所為で、なづなは既に三冊ほど目を通し終わっている。うぬぅ。ボクだって速読ならちょっとは出来るんだから、負けてらんないぞ、と。
いやまぁ、勝負してる訳じゃないんだから勝ちも負けもないんだけれど。
結果としては12冊中6冊に影法師の記述があった。
体験談を複数纏めた物、七不思議としての考察、過去の事例からのより深く掘り下げた考察等々、中々に面白い。
っていうか文章が上手い。ちゃんと読み物の形になっている。プロのライターさんみたいだ。凄いな文芸部。
折角なので、この6冊ちゃんと読んでみようか。
「どうする?一人で一冊づつ読む?それとも一冊をみんなで、読む?」
う~ん、同じ文章でも理解の仕方が違ったりするからなぁ…一人一冊だと後で擦り合わせをする時が面倒かもしれないよね…?
「なら一冊づつ話し合いながら?」
それが良いと思うけど、満さんもそれでいいよね?…って、あれ?なんか?マーク飛ばしてどうしたの?なんか理解んなかった事でも?
「一冊を、みんなでって…どうやって?」
ああ、なぁんだ、そんな事か。それならホラ、こうやって…。
満さんに部誌を手渡し、ボクとなづなで満さんを挟む位置に移動する。
「こうして読めば意見交換しながら見れるでしょ?」
当然の事だがこんな風に密着する必要はない。なづなはもとより、ボクですら逆さになった文字くらい読めるからね。別に向かい合っていたって問題なく読めるよ?じゃあ、なんでこんな風に寄り添っているのかって?それは偏にボクの趣味…ではなくてですね、折角だから満さんとの距離を縮めておこうと思ってさ。
満さんがボク達のするような、少々過剰なスキンシップに忌避感とか嫌悪感を持っていないのは確認できていたからね。ちょっと激しめに物理的な距離を詰めてみたってわけ。
勿論、嫌がられちゃったらやめるけれど…今のところ受け入れられているみたいだからこのまま続けるつもり。
「な…なるほど…?」
納得していただけた様で何よりです。
でもね満さん。この程度で怯んでちゃ駄目だよ。
遥お姉さまと親密になったら、もっともっと近い距離で触れ合う事だってあるかもしれないんだからね?
まぁ、大好きなお姉さまとボク達じゃ心の在り処が違うだろうから、練習にもならないんだろうけれど。距離には慣れるんじゃないかな。
それはあくまで副次的要素であって、主題は影法師の事だから。うん大丈夫。忘れてないよ?
「先ずはこれから、かな。」
なづなが示したのは体験談集が載っていた部誌だ。
目次だけしか見ていないので、どんな話が載っているかは読んでみないと分からない。ちょっと楽しみではある。
あ~…でも怖い体験談だったらイヤかも…さっきのアレ…思い出しちゃうかもしれないもん…。
因みにこの部誌は比較的最近に書かれたものらしく、一番古い目撃例からホンの5年前に目撃されたものまで、15程の体験談が記載されていた。
この生徒Sと教師Ⅿの影法師って…すずな姉ちゃんの話だよね?
10年も前の話なんだ…。
ん?って事は、すずな姉ちゃんも中等部の時に遭遇してるんだね?…へぇ。
幸い載っていた体験談には恐怖系のものはなく、後になってから『あの時会っていた人は影法師だったんじゃないか?』というパターンの物ばかりだった。
まぁ、一つ二つは影法師と別れた直後、本人と遭遇したというエピソードもあったけれど誤差の範囲だと思う。やはり『目の前で消えた』なんてのはレア中のレアみたいだ。すいません勘弁して下さい。
次、経験したら泣きますよホント。
最後に考察も載っていたのだけど、まず前提として影法師と呼ばれる何かは、必ず対象者と面識がある者として出現する。
そして対象者とのみ会話を交わしているが、会話の内容は単なる雑談から挨拶、試験の内容から仕事の事にまで多岐に渡るという事。
目撃者は複数人存在するのに、対象者以外は誰一人として会話を交わした者がいないみたいだ。
確かにマキ先生も柚ちゃんも会話をしていなかったし柚ちゃんに至っては、もしかすると見えてすらいないかもしれない。
考察にもその辺りの事は書かれていなかったので、見える者と見えない者の境目がどこにあるのかはわからなかった。
そして、対象者について。これが一番重要な事なのだけれど…。
マキ先生もマリー先生も、『楽しくなる』とか『充実した学院生活を送った』としか教えてくれなかった。
影法師と出会った者が一体どういう目にあったのか…当事者としては最も気になるところだ。出来る事ならいい事が書いてあると助かるんだけどなぁ、気分的に。
さてさて?
先へと読み進めると、考察の最後の部分に、それは書いてあった。
曰く、
対象者は皆
例外なく
伝説とも言える偉業を成した
と。




