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すくーるらいふ⑪

「見ると聞くとは大違いだな…いや、参った…。」


保健室の丸テーブルを囲んで座っているのは、項垂れているマキ先生と、ほとんど抱き合った状態のなづなとボク、そして今度こそ本人であろうマリー先生。…本人だと思う。本人だったらいいなぁ…本人じゃなかったらちょっと怖いなぁ…。


「よもや自分で経験する事になるとは、夢にも思わなかった…。」

それはそうでしょう。ボクだって思いませんでしたから。しかも二回も。二回目なんて目の前で影法師が消えて本人が現れるなんていう、正に超常現象って経験までしてしまった…。

「それ、本当に私だったの~?」

「…少なくとも私はそう認識していた…。」

「ボクも、です。」

「わ、私も…マリー先生だと思っていました…。」

そうなんだ。ボク達には間違いなくマリー先生に見えていたし、お話だってしたんだもん。疑う事なんてなかった…あ、いや最初、というか目を覚ました直後には疑心がなかったわけじゃない…怖いとかイヤな感じがしなくって、話しているうちに何故か段々と疑心が薄れてしまったんだ。

「ボクとなづなはマリー先生…影法師(ドッペルゲンガー)の方のマリー先生ですけれど…と、かなりしっかりとお話ししてるんです…。」

「そうなんです。七不思議のお話をかなり詳しくしてくださいました…。」

そう、詳しかった。

七不思議の話がいつ頃からあるとか、どんな話で、最初とは少し違う話になっているだとか…。

「マリー先生は七不思議の事、詳しくご存知なんですか?」

「そこそこ詳しいわよ〜。本に纏めるくらい調べたもの〜。」

本に纏めるくらい…それは影法師(ドッペルゲンガー)の言っていた文芸部の部誌というやつだろうか?

とすると、やっぱり在学中は文芸部所属だった時期があるんだなマリー先生。

「その本というのは、文芸部の部誌でしょうか?」

「あら、なづなちゃん知ってるの?」

影法師(ドッペルゲンガー)の方のマリー先生が言ってらっしゃったんです。気になるなら文芸部の部誌を読むと良いって。」

…なづなも同じ話をしていたのかぁ。

「そうなの?!凄いのねぇ影法師(ドッペルゲンガー)。そんな事まで把握してるなんて…文芸部の子に教えてあげなくちゃいけないわね〜。」

また七不思議の体験談が捗るわ〜だって。

…あれぇ?

随分と予想外な驚き方をしてらっしゃいマスネ?

「マリー先生は、その、怖いとか気味悪いとか、思わないんですか?…その、ご自分の影法師(ドッペルゲンガー)が現れたって…。」

「今までの出現例からの推測でしかないけど、別に悪いモノじゃないみたいだし〜…そんなに怖がる必要はないんじゃないかしら〜?」

自分に会ったら死んじゃうっていうのが本当なら怖いけど、顔を合わせる直前に消えちゃったのなら、その辺りは気を使ってくれているみたいだし、寧ろ優しいオバケなんじゃないかって。

なるほどなぁ。

考え方ひとつで随分と印象が変わるものだね。

…とは言っても、目の前で人体消失を経験した衝撃は中々に払拭し難いよ…ホントに怖かったんだから。

「でも〜、今回はかなり珍しいケースよね〜。」

影法師(ドッペルゲンガー)が落としていったリストを眺めながらマリー先生は言う。

「というと?」

「まず二人同時に会話しているというのは前例が少ないわね~。」

「そして目の前で消えたというのもほとんど無かったはずよ~。」

へぇそうなんだ…確かに、なづなとボクは同時にマリー先生の影法師(ドッペルゲンガー)と会話しているし目の前で消失した。希少事例が二つ同時ならレアケースと言ってもいいね。

「三つ目はこれよ。」

リストの挟まったバインダーをトンと叩いてボク達を見る。

「対象者と一緒に仕事をしたなんて、今迄一度も聞いた事なかったわ~。」

あ、そうだ!それ気になってたんだ。ホントにチェックしてたのかなって。

心霊系の話でよくあるパターンだと、幽霊が書いた文章とかは後で見てみると意味のない文字の羅列だったり、そもそも文字ですらなかったりするものだけれど、影法師(ドッペルゲンガー)は如何なのだろうか?バインダーを持って移動したり、在室証明を書いたりハンコ押したりしているのだから物理的に干渉出来る存在ではあるんだろうけれど…。

「…ちゃんとチェックしてあるのよ~。しかもこれ…私の字によく似てるのよね~…影法師(ドッペルゲンガー)とはよく言ったモノだわ~…。」

あら。お仕事はちゃんとやってくれたらしい。

ありがとう影法師(ドッペルゲンガー)さん。二度手間にならなくて済みました。

また何かしら手伝ってくれるのなら大歓迎です。ただその際は絶対に正体を明かさないで下さい。どうか騙し通して下さい。目の前で消えるとかホントに怖いんで。今回だって失神しなかったボクを褒めてほしいくらい怖かったんですからね?

「そういえばマキ先生~、先生も会話したんですか~?」

「私か?…む?…会話…したか…?」

あれ?そういえばマキ先生が保健室に入って来た時にマリー先生の影法師(ドッペルゲンガー)さん、挨拶してなかったっけ…?

ボク達が迷惑かけていないかって言って、それに応えていた様な…

「…マキ先生が話しかけたのに対して、マリー先生は無言で…ジェスチャーで応えていたと思います。こんな感じで。」

なづながそう言ってパタパタと手を振って見せた。

ああ、そうだ!影法師(ドッペルゲンガー)さんバインダー振って応えたんだ!喋ってない!

あ、(ゆず)ちゃんの時もじゃないか?

柚ちゃんもマリー先生とは喋って…いや待てよ…。あの時、柚ちゃん何て言ったっけ?『なづなちゃんも一緒なんだね』って言わなかったっけ?なづなの傍にいたマリー先生に挨拶とかしたっけ?

「ふぅ~ん…じゃあやっぱり対象者は、なづなちゃんと せりちゃんなのね~。」

その、さっきからちょいちょい出てくる()()()って何なんですかね?

「詳しくは文芸部部誌をご覧下さい~。」

「読めばわかる、んですか?」

大凡(おおよそ)は、ね~。」

どうしても読ませたいんですね、わかりました、落ち着いたら読ませて頂きます。

「で、どうですかマキ先生、落ち着きましたか~?」

「ああ、お陰様でな…。」

流石のマキ先生も今回ばかりは相当取り乱していましたもんね。それでもボク達をしっかり抱えて、守ろうとしてくれたのはハッキリわかった。

まぁあまりの衝撃に三人とも腰が抜けちゃった挙句に悲鳴あげちゃったりしたんだけれど…しょうがないよね?

あんなの驚くなっていう方が無茶でしょう?


「せりはどうだ?大丈夫か?」

「はい、もう大丈夫です。」

ボクはといえば、あんなに怖かったはずなのに今は妙に落ち着いている。

これも七不思議である影法師(ドッペルゲンガー)の特性なのだろうか?


「そうか、それなら良いが…今日は帰ってゆっくり休め。明日からまた忙しくなるだろうからな。」

確かに、明日からは半日とはいえ授業があるし、新歓祭の準備だって始めなくちゃいけない。やることがいっぱいあって、間違いなく忙しい毎日になるはずだ。

「はい、そうさせて頂きます。」

「よし。ではそろそろお暇しようか。」

あ、でも、チェック作業がまだ半分くらいしか終わってなかったんじゃありませんでしたっけ…?

「そんなの気にしなくても良いわよ~。明日、保健委員の子たちに手伝って貰うから~。」

そうですか、それなら良いのですけれど…。

「それに、ここまでで進んでいたら…あら?何かしらこれ?」

マリー先生がバインダーに挟まっていた折り畳まれたメモ用紙のような物を取り出して首を傾げた。はて?受け取った時あんなの挟まってたっけ?

メモ用紙を広げて目を通したマリー先生の顔から表情が消え、ゆっくりとボク達三人の顔を順番に見て、再びメモ用紙に視線を落とした。

「伝言よ。たぶん、三人に。」

伝言…?



「脅かしてごめんね。…だって。」










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