すくーるらいふ⑧
少しオカルト入ります。
「えっと…どういう事、ですか?」
ボク達に示されたのは保健室の在室証明書。
その時間に、そこに居ましたという書類だそうだ。
先日、保健室に行った時にマリー先生から受け取ってマキ先生に提出したものだ。
何か不備が…いや、手渡した時『問題ない』って言ってたはず。なら書類そのものには、おかしなところは無いって事だよね?
「まぁ、個人的に確認しておきたかっただけ…なんだが…。」
個人的に確認?
学校とは関係ないって事?
てゆうかお説教じゃないんだ。よかった。
「てっきり体育館の件でお叱りを受けるものとばかり思っていたので…。」
「あの程度で小言をくれる程、狭量ではないよ。」
フッと笑って肩を竦める。
「それでだ。さっきも言ったがこれは個人的な確認なので、気楽に答えてくれ。」
あ、ハイ。え、何聞かれるの?
「これは黄瀬マリ子先生から渡された物、で間違いないか?」
「…え、ええ。間違いない、と思います…。」
と思いますって…何言ってんの なづな…?
中身をすり替えられたとか、そういう事?
ずっとポケットに収まってた封筒の中身を入れ替えるなんて出来るわけないじゃない。そもそもそんな事して何の得が…って、そういう意味じゃないよね。
「ふむ。間違いないのだな…?」
受け取らない方が良かったんですか?
「ああ、いや。受け取ったのは良いんだ。手渡しで担任に提出というのが通常の流れだからな。…5年程前迄なら。」
ん?
「今は違う、という事ですか?」
「ああ。違う。」
違うの?!え?じゃあなんで渡されたの?
「今はほぼ全ての遣り取りがメールで行われているからな。在室証明書も直接私のPCに届くんだ。」
え!?じゃ、じゃあ、これは何?!
「在室証明書だよ、保健室の。間違いなく。ただし今は使われていない物だが。」
使われて…ない?
それだと先生がPCを確認する迄は保健室とかに居たって証明してもらえないって事じゃない?それって意味なくない?
「今使ってるのはこれだ。」
そう言ってマキ先生が取り出したのは、レシートとか領収書みないな…ペラペラの紙。
「これも呼び名は在室証明なんだが…手書きではなく、PCに打ち込むとプリントされて出て来るんだ。生徒には、これを持たせる事になっている。担当教諭が捺印した後にな。」
えぇと?ボク達がマリー先生から受け取ったのは、今は使われていない書類だって事だよね?
マリー先生がうっかり昔の形式の書類で書いてしまった、とか?いや、それならボク達に問い正す必要が無い。そもそも聞かれたのは “マリー先生から受け取ったので間違いないか” だ。
って事は、つまり…?
え〜…と、マリー先生以外の人から受け取ったのではないか、と、疑われているって事?
「せ、せり… 」
「なに?」
「昨日の…マリー先生だったよね…?」
「うん…そうだと思うけれど?」
「…マキ先生…マリー先生は、在室証明書を書いていないと仰ってるんですね?」
「…そうだ。」
は?…え?なんで?どういう事?
「だが、これの控えも、診断報告書もしっかり記入されていた。ハンコも本人のモノだそうだ。」
「なのに本人は書いた覚えがないと言っている。」
「それはそうだろう。黄瀬先生は、この在室証明書を使った事が無いはずだからな。存在も知らんはずだ。」
存在も知らないって…あ、今の方式になってから赴任して来たのかな?
「なぁ、せり。昨日、保健室のベッドを使っていたのはお前だけか?」
「えーと…あ、いえ、奥のベッドにどなたか寝ていたと思います。カーテンが閉まっていたので確認した訳ではないのですが…。」
「なるほど…なら証言は一致するな。」
すいません、何がなんだかわかりません。
「黄瀬先生は、その奥のベッドで仮眠を取っていたんだそうだ。」
……えぇ!?
それってつまり、マリー先生が仮眠してる間に何者かが保健室に侵入し、マリー先生に成り済ましてボク達に応対した…って事?!そんなバカな。
「いや、それはないだろう。」
…あ、違うのか。そりゃそうか。
「保健室は内側から施錠されていたそうだ。鍵も黄瀬先生が持っていたから、開けるには職員室のマスターか予備を持ち出さなければならないんだが… 」
「そんな記録はなかった。」
職員室のキーBOXは開ける時個別のpassが必要なんだって。だからいつ誰が持ち出したかわかるらしい。
「なのに、お前たちは保健室に入れた。」
不思議だろう?とマキ先生が笑う。
じゃ、じゃあ最初から2人いたとか…
職員でもない者が校舎内に居たって?そんな馬鹿な。
そんなの大騒ぎになってもおかしくない。
マリー先生が双子って説は?いやないだろうなぁ…
「そもそも、お前たちが会ったのは黄瀬マリ子のはずだ。違うのか?」
…そうだ。
そのとおりだ。
ボク達は間違いなくマリー先生と会っている。いくら使用頻度が低くても保健室に常駐している先生の顔くらいは覚えているし、忘れる事もない。あの時、保健室にいたのはマリー先生だった。
…はずだ。
あれ?
ホントに?
なんか急に自信なくなって来たんだけれど…。
「あの…マリー先生って、こう、髪を結んで肩に垂らしてて…眼鏡掛けてて、ちょっと間伸びした話し方をする方…ですよね?」
…眼鏡…メガネ?
「ああ、そうだ。身長はこれくらいで…… 」
なづなとマキ先生が特徴の答え合わせをしている間、ボクは昨日の保健室を思い出そうとしていたんだけれど…何故か微妙にはっきりしない。
顔立ちも髪型も覚えてる。じゃあ服装は?
何色の服だった?どんな服だった?
どんなシャツで、どんなスカートだった?
Yシャツだった?それともブラウス?
スカートだったの?パンツスタイルじゃなかった?
どっちだったっけ?
…眼鏡…掛けてた?
「な…なづな…。」
隣に居るなづなの袖を引いて
「マリー先生、眼鏡、掛けてた?」
「え?普段は…掛けてた…けど…?」
「昨日は?」
「昨日…は…あれ?」
「昨日、マリー先生、どんな服着てた…?」
「どんなって、白衣に…… 」
そこまで言って、少しずつ青褪めていく。
「…お…覚えてない…よね?」
「え…あれ?思い出せ、ない…?」
…なにこれ、怖い。
「先生、マキ先生…訳がわからないんですが… 」
「わ、私達、確かに昨日、保健室に行ったんです。ホントです、なのに、マリー先生の服装も思い出せない…?」
なんか、ぞわぞわする。
「あぁすまない。少し落ち着け。…脅かすつもりはなかったんだが…そうだな…お前達は明之星の七不思議は知っているか?」
「いくつかは… 確か、雨の日の昇降口の女生徒の話とか、百合の妖精とか…。」
「笑い声の響く無人の廊下とか…?」
「うん、それだ。その中のひとつにな、影法師というのがあるんだ。」
ドッペルゲンガー!もう一人の自分が現れて、出会うと死ぬっていう…あれですか?!
「うん、まぁそれだ。明之星に出るのはちょっと違うがな。」
…今、出るって…出るって言いましたか?!
「あ、あの先生…出る、というのは…どういう…?」
「そのままの意味だな。何年かに一度、目撃されるんだ。残念ながら私が見た訳では無いがな。」
ちょちょ…ちょっとまって?
マキ先生は、そんなオカルトを信じてらっしゃるのでしょうか?!影法師とか、そんな、非科学的な…いやいや!世の中には不思議な事はい〜っぱいありますよ?!ボクだって前世持ちですからね?!オカルト全般を否定したりはしませんよ?
しませんけどね?!
影法師って狐狸妖怪の類なんですよね?!
ボク達の記憶にまで干渉出来る様な超常のモノなんですよね!?
そんなのが学校に居るんですか?!
「信じるも何も、私の影法師も出たらしいからなぁ。」
マキ先生の影法師…?!
「複数人に目撃されていて、会話した者もいる。」
会話出来るんですか!?
「あの、マキ先生は… 」
何かを言い澱んでいた なづなが、恐る恐る口を開いた。
「…私達が昨日会ったマリー先生が…影法師だと…仰っている様に聞こえるのですが…?」
……っ!
「うん。そうではないかと思っている。」
……っ!!
「で、でも私達、マリー先生とお話ししてますし…」
「過去、会話した例はあるからなぁ。」
……っ!!!
「あ、あの、マリー先生が夢遊病とかって可能性は…?」
「だとしたら、ベッドで寝ていたのは誰なんだろうな?」
……ッ!!!!
「えっと…あの…、」
「心配しなくても、見たり話したりした者に障りがある訳じゃないからな、安心していいぞ。」
「そ…そうなんですか?」
「ああ。怪我をしたり、事故に遭ったり、そういう祟りの様なものにあったという話は聞いた事が無いな。寧ろ逆だ。」
「逆…ですか?」
「ん?…ああ…ん〜、楽しい学生時代を送れた者ばかりだな。特に会話を交わした者は非常に有意義な学生時代だったと聞いている。一人残らずな。そういう意味では影法師と言うより座敷童みたいな気はするが。」
「因みにそのうちの一人は、すずなだよ。」
「すずな姉ちゃ…?!鈴代先生なんですか!?」
「ああ。やはり聞いた事なかったか。」
「…初耳です。」
「すずなも影法師と会話した一人だよ。その時の影法師が私だったんだそうだ。」
……ッ!!!!!
「…おい、せり?大丈夫か?」
「え?…せり?!どうしたの!?真っ青じゃない!」
そこまで聞いた時、ボクの意識が途切れた。
我が母校にあった影法師の七不思議を元にしています。
昔の話なので今も伝わっているのかどうか…。




