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ごきげんよう、お姉さま⑥

ポニーテールお姉さま改め“花乃”お姉さま

何処に行ってしまったのでしょう?








あの子”を傷つける記憶

遊ぼうと言っては襲いかかり

必死に身を守るだけで反撃をしてこない“あの子”

一方的に、嬲るように。

じわじわと、削り取るように。

反吐が出る。

こんな…こんなヤツが…!

      

……ボクだなんて……!







書道教室の如く 2人並んで書き込みを行っていく。

新たに届いたリストに拠ると、体育館の進級式は表彰式等が存在するため、表彰者と贈呈者の控室があったりするらしい。

おそらくだけれど、最初に必要かどうかわからないという理由で保留にした来賓と案内も、書いてしまっても問題なかった可能性がある。

まぁ現状、花乃お姉さまに確定情報を聞くまでは保留だけれど。

「こうして普通に書道してると、なんかお習字思い出すね。」

「確かに。なづなは最初から上手だったよね。形が綺麗というか、すごくバランスが良くて。」

「せりの字はバーーー!って感じで勢いがあってよかったよ。」

「勢いだけで上手ではなかったけれどね。」

「思い切りが良いのも魅力的、だよ?」

…そっか。魅力的か。そっかぁ〜。

どんどん書いて畳の上に並べていけば、張り紙の必要枚数はあっという間に描き終わる。さすがに2人で書けば時間はかからないのは理解っていたが、やる事が無くなるのは逆に困る。

…待って…

講堂の方のリスト…看板だけで大丈夫だったと言っていたけれどホントに?心配になってきた。これ、ちゃんと確認した方が良くないかな?いやいや流石にそんな手落ちを実行委員がやらかすとは思えな……つい先程やらかしが判明したばかりだったよ!

「…講堂の方は張り紙いらないのかな?」

書き終えた張り紙を眺めながら、なづなが呟く。やっぱりそう思うよネー。

「ボクも同じ事考えてたとこ。」

うーん。

「よし。倍付けで書いちゃおう。講堂で使うなら良し、使わないなら体育館の予備として扱う。無駄な事してって叱られたら…ごめん。」

「大丈夫!叱られたら2人でごめんなさいすれば良いよ。」

悪戯っぽく笑うなづなが、2人なら半分こだもん大した事ないよ、なんて言って気合を入れている。


書き上がっても花乃お姉さまは戻って来ない。

どうしたものか。

「降りて手伝える事探す?」

「此処をカラにしちゃってもいいのかな?」

「だよねぇ。」

雑談混じりに指示書を読み返し、抜けている物はないか、数は合っているか、文言に間違いがないか改めて確認をしていく。

「看板、書いちゃう…?」

自分で発言して直ぐに否定する。いや、さっき確認確定してからって結論したんだから、今更何を言ってるんだ。

「ダメだよ。確認してから。」

「…そうだよね。ごめん。」

皆が忙しく動き回っている中、自分だけがのんびりと座っているというこの状況が、如何にも居心地が悪い。我ながら今日は何故か落ち着きがない気がする。


「せり。」

なづなの声の顔をあげると

「双子ちゃん、いる?」

階段室の方からボク達を呼ぶ声がして振り向けば、見覚えのないお姉さまがこちらに駆けてくるところだった。

「居てくれてよかった。えと、花乃さんから伝言。看板は指示書で確定、書いて下さい。で、書き終えたらロビーに降りて欲しい。だそうよ。」お待たせしてごめんなさいね、と手を振って階下に降りてゆく。

確定したようだしさっさと書いてしまおう。目配せして並べてある看板の両端から、それぞれ指定されている文言を書き込んでいく。

立っている分、体育館で書いた時とは書き易さが段違いだ。

筆を滑らせていると、さっき迄の落ち着かない気分が嘘のように凪いで行く。

1枚、また1枚と書き上げてゆけばあっという間に終了。あとは乾くのを待つだけだ。

なづながボクの側に来て、順に看板を眺めていく。

「落ち着いたみたい、だね。」

あ〜…バレてたのか

「最初の方、ちょっと荒れて見えたから心配だったけど、今は大丈夫そうで安心した。」

書は心画なりとはよく言ったものだ

ダダ漏れじゃないか。

「なんだかわからないけど、今日は気分の乱高下が酷くて…」

自嘲気味にそう言ったボクの両手を取り、コツンと額を当て、目を閉じて静かに語る

「大丈夫だよ、せり。大丈夫。私はここにいる(・・・・・・・)。だから、大丈夫。」

うん…うん、そうだね。

なづなは、ここにいる。

だから大丈夫。

両手の熱と触れた額の冷たさだけを感じながら、彼女の優しさに感謝する。

ふと額が離れると右手を引いて

「あんまりお待たせしても悪いから、行こ?」

ちょっと照れくさいのだろう、此方に顔を向けずボクの手を引いて階段室へ向かって歩き出す。彼女の方を見れば、顔こそ見えないが耳が赤い。今、字を書かせたらどんな字を書くのだろうか?丸っこい字になったりするのかな?

ちょっと楽しくなってき

「ぶっ?」

突然立ち止まったなづなに衝突して鼻を打った。

イタイ…。

抗議の視線を向けたが、なづなは少し青ざめた顔を階段に向け、パクパクと口を開け閉めしている。

ボクの位置からだと階段は見えないため状況がわからない。階段が崩れている訳でもあるまい等と考えながら、ひょいと覗いたところでボクも固まった。

此方に背を向け、壁にビシッと張り付いたお姉さま方が1、2、3、4、しゃがんでいる人がいるから5、6人

コントの様に変なポーズで。

茫然と壁になったお姉さま方を見ていると、手前の1人がそぉ〜っと此方を窺いサッと顔を背け

「ミテナイデス。」

蚊の鳴くような声でそう言って壁に戻るお姉さま…

それを合図にわき目も振らずロビーまで一直線に駆け抜けたが、羞恥を振り切れる訳じゃない。

うわぁやっちゃったなぁ

確かに今朝、いつも通りに行動しよう、人目は気にしないと決めたけれど、人目どころか今回は衆人環視の中レベルでやってしまった…

やっちゃったものは仕方ない

前向きに考えよう。せめてなづなの前だけでも恰好つけて振る舞おう

「なづな、平気平気、見られて困る事はしてないんだから。」堂々としてればいいよ。

「せり、は、恥ずかしくないの?」

「そりゃ、ちょっとは恥ずかしいけれど…なづなと一緒に噂されて嬉しい気持ちもあるから…まぁ差し引きプラスかな」

「ずるい…」

ず〜る〜い〜と言いながらポコポコ叩いてくる。いや可愛いけれども、これも見られていたら、また噂が増えるんじゃないかな?


なんとか気持ちを立て直して、まずは花乃お姉さまと合流せねばならない。人気のないロビー端から正面玄関へ向かいお姉さまを探ものの、見当たらない。

確かロビーに降りてと伝言貰ったはずなのだけれど…はて?

「双子ちゃん!こっちこっち!」

え?何処から?

「外よ、外!」

あ、いた。

4枚あるガラス扉が全開にされエントランスの外側に数人のお姉さま方と一緒にいらっしゃった。  

降りていいのか逡巡していたら

「上履きは後で拭けばいいから、降りてらっしゃい。」

エントランスの外側では、寝かされ萎んだまま広げられたアーチに展張用のロープが結び付けられている所だった。

「ここに設置されるんですね。」

「そ。あとふた手間かけなきゃいけないけどね。」

ふた手間?

「膨らますのはコンプレッサーだから問題ないけど、立てる前に文字を貼らなきゃいけないのよ。」

書くのではなく貼るんですね。

「垂れ幕の様な物ですか?」

「ううん、カッティングシート。」

なるほどね!

白いアーチに赤い文字で「おめでとうございます」と入れるそうだ。派手そう。

「でね。バランスを見てほしいのよ。」

出来るだけたくさんの目で見て、なるべく均等に貼りたいと。

確かに、文字によっては完全に均等に隙間を開けるよりも少し離したり、寄せたりする方が均等に見える。

これは責任重大。なんたって式参列者全員が必ず見る、いわば顔だ。

そうこうしている内にコンプレッサーが到着。文字を貼るなら膨らませた後の方が良いだろうという事で、先に膨らます運びとなった。


空気を飲み込んで少しずつ膨らんでいくアーチは思いの外大きく、存在感たっぷりだ。

貼る文字は10文字。頂点左右に「う」と「ご」。実はこの「ご」が意外と曲者で均等にに並べると右に寄って見えるのだ。そんなバランスを逐次修正しながら並べていく。

並べ終わったらセロテープで仮止め後立ててみて更に修正。何度も少しづつ丁寧に。

貼る段階に持ってくるまで1時間近く使ってしまった。

だけど、ここまで来ればあと少し。


ゆっくり丁寧に、でも確実に

台紙をずらし、文字をアーチに載せ、曲面に合わせ、しっかりと密着させ…

今、最後の一文字を貼り終えた。



「「できたね。」」






看板、貼り紙、アーチ。

ようやく完成です。



鈴代姉妹

新たな噂のネタを提供しています。

本日二つ目。

いくつネタを提供してくれるんでしょうか?

楽しみです。

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