すくーるらいふ⑥
ボクが教科書を集め終わる少し前に、2年2組の子達が体育館に入って来た。
丁度、前のクラスが終わるくらいのタイミングで次が来る様にしてるのね。って事はボク達は3組に声を掛ければ良いのか。
…誰が伝えに行くんだろ?
単に1番前にいる子かな?
教科書を鞄に放り込みながら取り留めもない事を考えていると、ふと前にいる光さんの鞄に目がいった。
光さんが持っているのは学校指定のスクールバック、今ボクが持っている物と同じなのだけれど、使い方が違うんだ。
使い方って言っても、枕にしたりサンドバッグにしたりって意味じゃないからね?
この鞄3weyバッグでね、手提げ鞄、肩掛け鞄、背嚢の三種類に変形するんだよ。
因みに、ボクとなづな は背嚢形態で使っている。
ランドセルみたいに背負ってる訳だね。
この状態なら両手が自由になるから他に荷物があっても問題ないし、何よりボク達はよく手を繋いでいるでしょう?背負ってしまった方が都合が良いんだ。
自転車通学してる子なんかは背負っている事が多いかな?
最も多いのは手提げ鞄として使っている子だろうね。
理由はわからないけれど、大多数がこの使い方だ。
逆に最も少数なのが肩掛け鞄。
肩掛けにしてるのって、通学定期券やお財布なんかを鞄に入れちゃう子が多い気がするね。
肩に掛けたまま鞄の中を見られるっていうのが利点なんだと思う。
ただ。
最近になって、肩掛けがにしている子が少ない理由が理解った気がするんだ。
肩掛けにするときって、だいたい斜めに掛けるんだよ
右肩に掛けて左腰にバックを持って来るとか、お尻の方に回すとかね。
で、その時ストラップがどうなっているかと言うと…
袈裟がけに縦断しているんですよ。
お胸の中央を。谷間を。
そうするとですね。
お胸が強調されるんです。ドーンって。
思春期に入って体型が変わり始めると、そういうのが気になったりするんじゃないかな〜って、思ったんだよね。
ボクは、あんまり気にしないんだけれど。
で、光さんの話に戻るんだけれど。
光さん、肩掛けにしてるの。
なんか勝手に手提げ鞄にしているイメージを持っていたのでちょっと驚いた。
彼女の様な楚々とした美少女は、手提げ鞄を、体の前に、両手で下げている、ってイメージじゃない?
それがまさかの『○\○』ですよ。
「光さん、肩掛けにしてるんだ。」
「え?あぁ、これ?」
クイッとストラップを引っ張って
「似合わないかしら?」
「似合わないって事はないと思うけれど…あぁ、でも袴姿で肩掛けにしたら、THEお嬢様って感じかも。」
「なぁにそれ。」くすくす。
「肩掛け鞄って憧れだったの。」
憧れ。ほほぅ?
「私ね、歳の離れた従兄弟がいるのだけれど、その人が大学生の時にね、応援団に入っていらしたのよ。」
ほうほう。
「学帽にあの長い学生服…長ランというのですってね。それに濃紺の外套と白い肩掛け鞄を掛けていて。凄くピシッとしていて格好良かったのよ。」
へぇ、それはまた大時代的な…。
おっと。誤解の無い様に言っておくけれど、この場合の ”大時代的” はネガティブな意味じゃなくて、古風なってニュアンスだからね?
「祖父が言うにはバンカラというのですって。」
バンカラ!
既に死語と言っても過言ではない言葉!
少し解釈に齟齬がある気もするけれど、なるほど。
それにしても、その従兄弟さんを見てピシっとしていて格好良いという感想なのに、格好に憧れを持つんじゃなくて鞄の掛け方に憧れるって…。
なかなかズレていてイイね。
因みにバンカラの対義語はハイカラなんだよ。
知ってた?
いやまぁ、どうでもいい情報だったね。うん。
「ははぁ…で、やってみてどう?」
「こうして鞄を前に出している時はいいのだけれど…後ろに持っていくと、少し胸が苦しいかしらね…?」
ちょっと困った様な笑顔で、クイクイっとストラップの場所をずらす。
まぁそうだろうね。
弁当売りスタイルの時はストラップのテンションは背中に掛かるけれど、背中側に回した時は肩、胸、脇腹ににテンションが掛かる訳で。
昨日、揉…ゲフンゲフン!
え〜と、その、なんだ、掌に感じた感触からすると結構な秀峰が聳え立っていると思われますのでね、そりゃあキツかろうと。
「そっかぁ、それは、まあ、仕方ないね。服が引っ張られて胸に押し付けられてるんだもん。」
「でも、こういう時は出し入れが容易だから便利よね。」
体の前にある鞄の蓋をパカパカと動かしながら、楽しげに笑う。ふぉお、やっぱり可愛いな。
「確かに。便利そうだね。」
ボクの方はというと、鞄が体の前にくる様にショルダーストラップに腕を通している。
背負うんじゃなく、抱える様な格好だね。
でも、これだと意外に腕の自由が効かないんだよ。
気をつけないとストラップがズリ落ちちゃってさ。微妙に不便。まぁ、入れ終わっちゃえば背負うんだし、不便なのは僅かな間だけなのだけれど。
教科書は全部で9教科分。プラス副読本が5冊で14冊。まぁ大した数じゃない。
大した数じゃないけれど、国語と社会の教科書。
やけに厚くない?!あれ?去年の…一年生の教科書、こんなに厚かったっけ?
学年が上がると、やる事、覚える事が多くなるから比例して教科書が厚くなっている…んだろうか?
最後の一冊を回収して鞄に放り込んだら終了だ。
蓋を閉めて背負ってしまえば後は教室に戻るだけ。
ボクの後ろには、沙羅さん椿さんに皐月さんの3人がいるんだけれど、今まさに最後の一冊を皐月さんがGETしたところだった。これで2年1組は全員滞りなく受け取り終了ですね。
1列に並んでいたので大して気に留めていなかったけれど、彩葵子さんが見当たらないね?てっきりなづな と一緒にいるのだと思っていたのに…なづな と菫さんは体育館フロアとロビーの間でスマホ構えてる。
菫さんは何やら、ピースしたり話しかけたりしてるけど…?あぁ、みんなのリアクションを引き出してるのか。動画の素材集めね。なるほど。
各々、手を振ったりカメラを覗き込んだりと色々してるから、ボクも何かした方が良いかな?
う〜ん、使う使わないは兎も角、素材は多い方が良いんだよね?どうせボク達が最後なんだし、ちょっと派手な素材を提供するのもいいかな?
使えないなら使えないで構わないんだし。
うん。そうだね。やっておこう。
「ねね、光さん。椿さんと皐月さんも。ちょっといい?」
「何?悪巧みかしら?」
失敬な。
「入口の所で撮影してるじゃない?」
「菫さんと なづなさん?」
「うん、そう。あれにね、ちょっと派手目な素材提供しようと思って。」
光さんはなんとなく察した様だけれど、椿さんと皐月さんは首を傾げている。大丈夫これからちゃんと説明しますって。
「あれ、クラスメイトの個々の表情やリアクションを素材として集めてるんだと思うのね?で、ここから出るのはボク達が最後だから、少し大袈裟な事をやっても後の子が霞むって心配はしなくていいからね。」
「なので、ここはひとつ必殺技をかましておこうかなって。」
は?って顔になる3人。うんわかるよ〜。何言ってんだコイツって思ってるでしょ〜?
「え、と。つまり?せりさん がやろうしている事を手伝えば良い、って事ですよね?」
そうゆう事です椿さん。
ちょっとサポートが欲しいのですよ。
「私達は何をすれば良いのかしら?」
「なづなに向かって、ボクの前を走って欲しいんだ。で、直前で左右に分かれて横をすり抜けてくれれば充分。あ、なづなの後ろで止まっちゃダメだよ?」
走り抜けちゃってね、と付け加える。
「なんだかよくわからないけれど、要はせりさん が直前迄見えない様に、目隠しになれば良いのね?」
流石は光さん、話が早い。
こちらは、これで良し。
あとは…。
なづな の方を見ると、たぶん何かするんだろうと察している様で、今度は何するつもり?って顔に書いてあった。…そういう顔をしてたって事だよ?ホントに書いてあった訳じゃないからね?
う〜んと…もう少し、前に出て欲しいかな…?
ジェスチャーとハンドサインで、も少し前へ、しゃがめ、と送ってみたんだけど、なづなは直ぐに理解したらしく3m程前に出てしゃがんでくれた。
流石としか言い様が無いね。
更には、菫さんがスっと離れていったところを見ると、何をしようとしているのかも想像がついているっぽい。スマホを構えて、何時でも良いよとOKサインを出してくれた。
「よっし、じゃあ行きましょうか。」
「1、2の、3で。」
ボクは光さん、椿さん、皐月さんの後ろに隠れる様に位置して合図を出す。
「いち、」
「にの、」
「さん!」
3人がなづなに向かって一斉に走り出し距離が開いたところでボクもスタート。全力疾走だ。
3人が左右にバラけた。なづなが見える。
距離は、よし!
いっけぇ!
ロンダードから思いっきり踏み切って!
伸身宙返り半捻り!
視界がグルリと回って
体育館のステージ、天井、ロビー入口が順に見える。
そして、なづなと目が合ったところで身体を捻って
着地!
あ、やば、勢いつき過ぎた?止まれないや。
う〜、いいか。このまま走っちゃえ!
ちょっと、つんのめってしまったので、照れ隠しも兼ねて走り抜けちゃう事にしました!
光さん達も直ぐ近くを走っている。
「凄い凄い!せりさん!あんな事出来るのね!」
「本当、驚いたわ。体操選手みたいだった。」
「驚けば良いのか、せりさん だからと納得すれば良いのか…判断に迷いますね。」
ちょっと、椿さん?!
それ褒めてないですよね?!
「え?褒めてますよ?」
ほ…褒めくれてるんだ…えぇ…?ホントにぃ?
きゃいきゃいと女の子らしい声を上げながら、体育館を後にする。
「渡り廊下まで出て、なづなと菫さん、待ってようか?」
「そうね。そうしましょう。」
3人の賛同を得て渡り廊下へと進み、二人を待つ事にした。
あ〜、久々にバク宙したけれど、気持ち良かったな。
なんか前に比べて空中で余裕がある気がする。
ちゃんと色々見えてたし。
ああ、そうそう。
跳んだ時にね、空中で見てたんだけれど、なづなってば、ちゃんとカメラで追ってきてたよ!凄いね?!
けど、またこういう事する〜…みたいな顔してたから、きっと後で叱られるんだろうなぁ…。
やっちゃったモンはしょうがないけれど…。
やっちゃったかなぁ?
何時もお読み頂き、ありがとうございます。
今回は、せりちゃんの凄いところを書いてみました。
ちゃんと伝わってたら嬉しいのですが…如何でしょうか?




