すくーるらいふ④
「なるほど…パイロットフィルムですか。」
都合の良い事に椿さんと沙羅さんが一緒に居てくれたので、まとめて説明してみた。
椿さんは知っていたけれど、沙羅さんはパイロットフィルムという言葉そのものに馴染みが無かったらしく、最初は首を傾げていたね。まあ普通に生活している女の子は、パイロットフィルムなんて言葉使わないもんね。当然っちゃ当然だ。
本編を作る前、スポンサーにこんなの作りたいんです〜って見せる為の試作品みたいなモノ、という如何にもざっくりした解説をして、体育館迄の行き帰りを動画に収めてくれる様にお願いしておいた。
ホントざっくりした説明でごめんね?
だ、だって、あんまりしっかり解説してると、みんなが先に行っちゃって撮影出来なくなっちゃうんだもん!しょうがないでしょ?!
兎に角!自然体のみんなが撮れるといいなぁと思う。
更に椿さんにはもうひとつ。
「ねぇ椿さん。BGMで楽しげに見える曲って、お薦めあるかな?」
「あ〜…そうですよね…選曲は大事ですよね… 」
曲…曲かぁ…う〜んう〜ん…あれはいい曲だけど、楽しげ…楽しげかぁ…う〜ん… と、ブツブツ呟きながら考え込んでしまった。
しかも歩きながら。
あ、ああぁ、椿さん?危ないよ?!前見て、前!
ちょっ!カド!柱ァ!
「椿さんっ!」
「え?あっ… 」
思わず背後から両肩を掴んで方向転換させようとしたんだけど、これが失敗だった。
肩を引いたのと、椿さんが振り向こうとしたタイミングが完全に同時だった所為で、足が絡れて仰向けに倒れていく。尻餅を突くように体を折り曲げるでもなく、まるで棒倒しの棒の如く。
あ。やばい。これ昨日の失神した時と同じ倒れ方だ。
昨日より近い、けど、近過ぎて回り込めない、加速して頭を、ダメだ隙間がない、支える?何処を?掴め、だから何処を?袖?腕?服?届くのは何処だ?
掴めたのは手首。
よし!
身体を反転させる勢いで腕を引き、身体全体をクッションにして椿さんの身体を受け止める。
ボクの肩口に衝突した椿さんの頭をホールドし、反対の手で腰を支えて踏ん張…れなかったーーー。
勢いよく引き過ぎて衝撃を吸収し切れなかったよ!
グルンと回って、思いっきり尻餅ついちゃった。
まただよ…
昨日に続いて…
尾骶骨が…おおぉ…
これは、確実にお尻割れてるよ…最初からね!
お約束だからね!言っておかないとね!
え?そんなお約束はない?パパの定番ネタなんだけれど!?
くぅ…やっぱり空元気でテンション上げても痛いもんはイタイね!
周りで目撃していたクラスメイト達が駆け寄って来ては、せりさん大丈夫?椿さん怪我は?と、心配してくれるけれど、まぁこのくらいでどうにかなる程ヤワじゃない。ボクはね。
「ありがとう、ボクは大丈夫。」にこっ。
…みんな、何故赤くなる…?
あ、それより椿さんが!大丈…ぶ?
ボクが抱えているはずの椿さんに視線を移すと…
やはり赤い顔で、ぷるぷるしてる…?
なんか、縋るような格好で手足を丸めて、ボクに横抱きにされている かた…ち…?
状況確認。
ボクは今、廊下で尻餅をついています。
胡座に立て膝で座っている様な感じですね。
で、椿さんはボクの膝の上に横抱き…赤ちゃんをあやす様に首と腰をしっかりと抱えた状態…お姫様抱っこよりも更に密着した状態となっております。
…みんなが赤くなってる理由、これかー!
「つっ…!椿さん、ごめん!大丈夫?!怪我はっ?痛いとこない?!」
ととととにかく無事かどうか確認を…と思ったのと、 “またやらかした“ という意識の所為でやたら早口で捲し立てちゃった!
っていうか、ボクちゃんと話せてる?!
いやでも、これはしょうがないでしょう?
あのままだと柱にぶつかっていただろうし、その後だって倒れて頭打っちゃったかもしれないし、危機回避の為の行動なんですよ!
緊急回避なんです、緊急回避!
…絶対言葉としては間違っているけれど。
コクコクと頷いて意思表示をしてくれている椿さん。ボクに抱えられて縮こまっているせいか、赤ちゃんポーズ…ピーカブースタイルみたいな格好になってて、とても可愛い。
可愛いが、そろそろ解放してあげないと。
あ…、でもこの状態で離すと立ち上がるの大変かな?誰か手を引いてくれれば楽なんだけれど…ま、いっか。この際一回も二回もおんなじだ。
取り敢えず立たせるにしても、ちゃんと意思確認はしておかないとね。今の状態を意識しちゃうとボクの顔まで熱くなってきちゃうから、極力気にしない様に。
改めて尋ねる。
「足とか大丈夫?捻ったりしてない?立てそう?」
「え、ええ、大丈夫…。」
「ホント?ダメそうならこのまま行ってもいいけれど?」
「このま…?!いえ!大丈夫!」
「そう?じゃあ、起こすよ?」
「は、はい…!」
椿さんを抱いたまま…抱いたままって言うとなんか誤解されそうだな?…抱えたまま立ち上がる。
“抱く” と “抱える” 。字は同じなのに読み方ひとつで印象が全然違うね。どうでもいいけれど。
「よっ、と。」
「ひゃぁ?!」
立ち上がれば、ボクより椿さんの方が身長高いので、ボクが抱きついているみたいに見えるんだろうね。
きっと。
まるでチークダンスの様な距離から半歩下がって再度確認する。うん、見た感じ怪我はなさそうだ。
「ごめんね椿さん、ボクが引っ張ったから…。」
「そんな!わ、私が考え事してたから…!」
こういう時って、なんか謝りあっちゃうよね?
自分の所為だから、いやいや私の所為なので、って。
面白いよね。どっちも “自分が悪い” って主張するんだもの。結局、じゃあお相子と言う事でって所に落ち着くんだけれど。
さっぱりと仲直り出来る、上手いやり方だなぁとは思うね。
「せりさん、椿さん、大丈夫?」
いつの間にやら、後ろの方に居た光さんが追い付いてきている。あ〜結構時間食っちゃったかな?
「うん、大丈夫。ね?椿さん。」
「ええ、なんともないわ。」
「そう、よかった。なら少し急ぎましょう?あまり遅くなると他のクラスの迷惑になるかもしれないわ。」
む、そうだった。ボク達が2年生の最初のクラスなんだから、もたもたしてたらどんどん時間が押していってしまう。ここはさっさと移動するべきだよね。
「皆、お騒がせしてごめんなさい。行きましょう。」
心配して集まってくれていたクラスメイトに声をかけて、ボク達も移動だ。
光さん、椿さん、沙羅さんと頷きあって前の方にいる一団に追いつくべく、ちょっと急ぎ足で歩く。走らないよ?昨日注意されたばかりだからね。
いやまあ、今日はお姉さまが突然出てきて注意されるって事はないと思うけれど、見られてないからやって良いって訳じゃないもん。
明之星のお嬢様らしく、お姉さまのお言葉を守ってお淑やかに。
なんで突然そんな事を言い出したのかって?
やだなぁ、ボクは元々お淑やかなんだよ?
すいません冗句です。
理由は簡単です。
前の方、渡り廊下の向こう側で、なづなと彩葵子さんがスマホのカメラでこっちを狙ってるんだよぅ。
クラスメイトを追い越して行く絵面と言うのも、作品の素材としてはオイシイ気がするのだけれど、撮られているのを知ってなお、わざわざ素材になろうとは思えないんだもの…しょうがないでしょ?
なのでボクは、なるべく平常心で隣の椿さんと談笑しながら、渡り廊下を進む。
光さんと沙羅さんも気付いていた様で、ボクらと同じ様に談笑しつつボク達の直ぐ後方を歩いていた。
なづなの横を通り抜け様に
「どう?使えそうなの撮れた?」
と、質問したところ、OKマークを作って笑った。
なるほど、幸先良いね!
他の子達も面白い素材、どんどんぷりーず。




