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ごきげんよう、お姉さま⑤

お手伝い午前中が終了

とりあえず

お昼にしませんか?

”あの子“が泣いている

ボクに手を伸ばして

何かを叫んでいる。

なんで泣くのさ

姉妹だって言われたって

一緒に居た事なんて一度もないのに

何でそんなにボクを気にするの

ボク達は


        敵でしょ?






「まさかバルーンだったなんて…」

頭を抱えて項垂れるポニーテールお姉さま

袋から引っ張り出して拡げてみたところ、白無地のエアーアーチと呼ばれるバルーンゲートである事が判明した。

古いタイプの物で重量があるが丈夫そうで、エアーを充填すれば容易に移動出来そうだ。

「図面には幅と高さと簡単な絵しか入ってなかったし、文化祭のアーチを想像していたから…勝手に木製だと思い込んでいたわ…」

「実行委員も把握していなかったのは驚きですけど。」

全くだよ。バルーンだと判明した時に一緒になって驚いていた事に驚きましたよ、ホントに。

 どうやら式典の実行委員の代替わりの際に情報の断絶が起こったのが主な原因の様だけれども、現物の確認もしないで計画書に記載し、あまつさえそれを承認するとか。杜撰にも程があるでしょう。

実行委員の皆さんには綱紀粛正を求めたい!

「時間的に丁度切りもいいしお昼にしましょう。1時に再開するから、ここに集合ね。いい?」

はい、と皆さんの返事。

「じゃあ、解散!」

ポニーテールお姉さまの号令で三々五々散らばってゆく。

「双子ちゃん達のお陰でホント助かったわ。下手したら午後もずっと見当違いの所を探してたかもしれないもの。」

思い込みって怖いわと首を振っているが、本当にその通りだ。もし、なづなが気付かなかったら。もし、ボクが躓かなかったら。皆が在りもしない大道具の様なアーチを探し続けていたかもしれない。


ともあれお昼だ。お弁当を持参していないので買い出しに出ねばならないが、いずれにせよ一度書道室経由で中等部玄関行かないと。お姉ちゃんへ経過報告もあるし上履きのまま校外に出る訳にいかないし。ホントはそれが1番早いのだけれど…流石に躊躇われちゃうので仕方ない。



「「失礼しま〜す」」

まずは書道室に戻りお姉ちゃんに報告だ。余り待たせるとご機嫌が斜めに傾いて戻すのが大変だ。

「遅い!」

あ。既にご機嫌が傾いていらっしゃる。

「色々とあって結構大変だったんだよ。ちゃんと説明するから、先に買い出し行って来て良い?」

腹が減っては戦は出来ぬ。出来ぬ戦はやらぬがよろし、とはいかないので腹拵えは必須である。

「ん。」

少々不機嫌顔のすずな姉ちゃんが足元のコンビニ袋を指差し

「お湯沸かして。」

隣にある書道準備室にポットがあるからと指示を出しながらコンビニ袋を手に取り、作業場所から最も離れた教室の逆端に移動する。

ボクは準備室のポットに水を入れるべく廊下の流しへ。流しの窓から下を見れば中庭でお弁当を広げ談笑するお姉さま方、既に食べ終えたのか横になってお昼寝モードのお姉さまもいる。

今日は暖かいからお昼寝には良い日かもしれない。後でちょっと横になるのも良いな。

ポットの電源を入れ沸くまで報告会かなと書道室の扉を潜ると、お姉ちゃんに抱き竦められ可愛い悲鳴を上げているなづなが見えた。

うんうん。仲が良くて微笑ましい。存分にイチャイチャするといいよ。ボクはそれを堪能させて頂きます。

2人とは離れた席に座りイチャイチャしてる2人を眺めていると、凄く暖かな気分になる。少し激しめではあるけれど、お姉ちゃんがボク達に向ける好意は紛れもない愛情だ。同級生の子なんかは兄弟姉妹の事をうざいとかキライとか言っているけれど、正直よくわからない。

少なくともボクは、お姉ちゃん達に愛されている自覚と実感が有り、その気持ちに全霊をもって応える覚悟はある。前世の、あの全身を引き裂かれる様な後悔と哀しみは、二度と繰り返さない。絶対に。繰り返してなるものか。


「せり…。」

いつの間にか側にいたすずな姉ちゃんの声に意識が引き戻される。

「どうしたの?何かあった?」凄く怖い顔で外を睨んでいたからと顔を覗き込んで来るが、感情が波だっていて視線を合わせられない。

しまった…記憶に呑まれていたらしい。失敗した。

「ううん。別に何も…ただ、ちょっと、仲間ハズレだなー…とか、思ったり、思わなかったり…」なんて適当な言い訳を口にすれば

「ごめんねーーー!お姉ちゃんに構ってもらえなくて寂しかったね!大丈夫だよ!お姉ちゃんね!せりの事大好きだから!」

ガバっと頭を抱き抱えられてグリグリと頬擦りしてくるお姉ちゃんの柔らかな胸に包まれ、激しい愛情表現に翻弄されていると

「私もーーーー!」どーーーーん「ぐふぅ!?」

なづなが背中に抱きついて来てサンドイッチ状態で揉みくちゃにされた。

たったこれだけで心が平穏を取り戻す。暗く荒れた海に光が射し、穏やかに凪いでゆく様な、そんな感じ。


カップ麺とおむすび、サラダにジュースという酷くジャンクな昼食を終え、椅子を並べて寝そべっていると

すずな姉ちゃんが頭の方へ歩より、いきなり顔の上座ろうとした。

「ひぃ!?」と短い悲鳴と共に飛び起きた瞬間、今度は後ろ襟を掴まれ引き倒される。

倒れた先は膝の上。膝枕というやつだ。

姉ちゃんはボクの頭を撫でながら

「ちょっと寝てな。」

あぁ…きっと、さっきので気を使わせちゃったんだ…

ごめんね。ありがとう。

「今度は、なづなが拗ねるよ?」

照れくさいので冗談めかして言えばなづなが、ボクの太腿を枕にして寝転がりながら

「拗ねないよぅ。」

ここからだと顔は見えないが、言い方がもう“拗ねてます”って感じで可愛らしい。

じゃあちょっとだけ、と瞼を閉じれば驚くほど一瞬で意識が沈んでゆく。ボクは争わず意識を手放した。



優しく髪を撫でる感触に少しづつ意識が浮上してくる。頬に当たる風が心地良い。

「お目覚めかい?」

「…うん。おはよう、すずな姉ちゃん」

気分が凄くスッキリしているのがわかる。とても深い眠りだったようだけれど、どのくらい寝ていたのだろか…?そこまで考えてサッと血の気がひいていく。

「い、今、何時?!」

起き上がろうとして脚の上に何かが乗っているのに気付いた。見ればプラチナブロンドの髪がそこにある。なづなだ。まだ寝ているようで微かに寝息が聞こえてくる。

「まだ1時前。寝てたのは10分くらいだよ。」

グイっと頭を押さえつけられ、わしゃわしゃと髪を弄られた。くすぐった気持ちいい。

お姉ちゃん、ボクの様子が変だと気づいて、少しでも落ち着く様にずっとこうして撫でてくれてたんだろうな…本当に優しい女性(ひと)だ。


「午後も体育館?」

「うん。午前中はほとんど進まなかったなからね。すずな姉ちゃんは?」

「こっちはもう終わるから、後で見に行くよ。あぁ、講堂と体育館のプログラムも持って行かなきゃだから…1時半くらいに誰か寄越してくれる様に言っといて。」

午後最初の仕事は伝書鳩に決定。

「ん、わかった。」

身体を起こし、なづなの頭を撫でると身を捩って此方に向く様に寝返りを打ちボクを見て

「…ん。おはよう、せり。」

重力を感じさせない動きでゆらりと起き上がるとカッと目を見開き

「い、今、何時?!」

すずな姉ちゃんと2人で大爆笑してしまった。なづなは何故笑われたのか理解出来なくて、しきりに首を傾げていたけれど。



講堂で作業中のお姉さま方に連絡事項を伝えるべく、人もまばらなロビーを通り抜け講堂の中に進むと舞台上で指示を出しているスポーツ少女お姉さまを発見。2人で手を繋ぎ舞台前まで歩みを進めれば、お姉さまの方が気付いてくれた。

「あら、2人お揃いでどうしたの?」

「はい、実は鈴代先生からの伝言を…」

すずな姉ちゃんからの伝言を伝えると

「なるほど、了解したわ。」

即座に指示を出し皆が頷き行動を開始する。手早い。自身はボク達に向き直ると、ふわり、と膝を着き

「わざわざ、ありがとう。」

舞台上で片膝立ちになると、ボーイッシュな髪型と切長の目のせいで、まるで何処かの歌劇団のトップスタァのようだ。改めて見るとカッコイイなこの人…

「とんでもございません、それから…」

「新たなリストが届いているはずなのですが、追加はございませんでしょうか?」

会話を引き継ぐのはボクらがよくやる事だが、お姉さまにとっては珍しい様で目を丸くしてボクらを見比べている。

「…あの…?」

暫く静止していたお姉さまに声を掛ければ

「あ、ごめん。いや、うん。大丈夫。4枚で正解だったよ。」

それにしても、と

「失礼な言い方かもしれないけど、君達って本当に映画か演劇の登場人物みたいだ。」

フフフと笑うお姉さまを見て心の中で反論する。それはコッチの台詞です。

その後二言三言交わしてお暇する事にした。去り際、舞台袖に文学少女お姉さまがいるのを発見、なづなに小声で方向を示し手を繋いでカーテシー。

文学少女お姉さま、胸の前でギュッと手組んだ後、小さく手を振ってくれた。


講堂を出て体育館へ向かう途中

「ねぇ、なづな。さっきの三つ編みおさげのお姉さまね」

「うん。」

「なづなのファンなんだって。」

えぇ〜っと顔を赤くして照れる姿を見てボクも大満足。

体育館では椅子並べが始まっていたが、何故か人が少なくなっている気がする。まぁ原因究明は後だ、先ずはポニーテールお姉さまを探し伝言を伝え、看板書き込みについて指示を仰がねばならない。館内を見回し、柔道場に登ってみたが見当たらない。取り敢えず午前中に待機していた場所に行ってみるとリストが置いてあった。

見覚えがないので、これが指示書なのだろうか?

先行して始めてしまってもいいだろうか。

勝手に書いて、実は違いましたというのはかなりマズイ。

かと言って、ここでぼんやりしているのも時間が勿体無い

体育館で椅子並べに参加する?いきなり行って「まーぜーてー。」って?いやいや。手順や、やり方も理解らないのに手を出しても邪魔なだけだ。

「う〜ん…」

「せり。」

「うん?」

指示書を見ていたなづなが

「これとこれ、あとこっちも。看板じゃなく張り紙みたいだから書いちゃっても大丈夫だと思う。」

おぉホントだ。

「じゃあ、これは書いちゃうとして…ボクは下のお姉さま、どなたかに伝言だけ伝えてくる。」

「ん。わかった、書く準備しておく。」

パタパタと階段を降りてロビーに出れば皆忙しなく動いていて、なかなか声をかけるタイミングが掴めない。

あうあう…いや、何時迄もうじうじしてても仕方ない。意を決して1人のお姉さまに声を掛ける。

「お忙しいところ、失礼致しましす。少々宜しいでしょうか?」

「まあ!双子ちゃんから声を掛けて貰えるなんて嬉しいわ!なんなりと言って頂戴。」

「あ、ありがとうございます。実は…」


「なるほど、わかったわ。ちょっと待ってて貰えるかしら。」

そう言って近くにいた数名を集め幾つか指示をし、更に別の人に話をする。そんな事を3回ほど繰り返しこちらに戻ってきた。

「書道室に2人行くように言っておいたわ。それから花乃…あ、ポニーテールの子ね、見かけたら柔道場に行くように言伝ておいたから。」

柔道場で作業を続けてくれていいわと微笑んで去って行く。

手際が良いお姉さまだ…なんか人を動かす事に慣れている感じがする。

ともあれ、これで柔道場での作業に集中出来る。


「なづな、お待たせ。遅くなってごめん。」

「ううん、全然。」

もうすっかり準備が済んでいる。あとは書くだけ状態だ。此処にも手際が良い子がいた。もっとも、こちらの子は人を動かすより自分で動く事を好む傾向にあるけど。


「それじゃあ、ひとつ…」

「気合入れて、」


「「やりますか。」」

新たなお姉さまの登場

人を使う事が上手な人っぽいですね。


スポーツお姉さまは女子に人気のあるタイプ

この学校のクラス分けが月とか星とか雪とか宙とか花だったりすると色々とマズイ


そしてポニーテールお姉さまの名前が判明

花乃かのさんです。

他のお姉さま方の名前も、そのうち登場するかも。

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