おやすみ お姉ちゃん②
いちゃいちゃします。
たぶん。
今度こそ。
「こ、これ…うわ、うわぁ…。」
「これ…わぁ…あ、ここまでなんだ。」
試し読みはここまでか。
残念な様な、ホッとした様な…。
今ボク達は丸いローテーブル…ちゃぶ台の上にパパのお下がりのノートPCを置いて2人で画面を覗き込んでいる。
満さんに聞いていたタイトルやキーワード、BLやGL等々で検索しまくった結果、いや出るわ出るわ。
こんなにたくさんあるんだねぇ。
その中で人気のあるタイトルをいくつか見て見たのだけれど、これがまた…結構過激なのがあるんだよ。
「せり、これ、15禁って書いてあるよ!?」
「え?!あ、ホントだ!」
ちょっと椿さん?これ、ボク達が見ちゃダメなヤツじゃないですか?てゆうか、なんで普通に見れてるの?!年齢認証のページなんてありましたっけ?!え?あった?ちゃんと見てませんでした、すいません。
で、でもですね、これ見れちゃって良いんですかね?!いや、確かにね?サンプルで数ページしかないですよ?ないですけれども、何分の一かは見れちゃってるじゃないですか!?
しかし、はぁ、なるほど、これがBLというジャンルですか。
お耽美ですねぇ。
「はぁ…スゴイ漫画があるんだねぇ…。」
「ちょっと刺激的、だねぇ。」
15禁でこれだと、18禁ってどんななんだろうね?見たい様な見たくない様な…。
どうせならって事でGLタグの付いた作品も見てみたんだけれど、こっちは、まぁ普通の恋愛物だったって印象?主人公とヒロインが女の子同士というだけで。葛藤とか心の機微とか、上手に描いてるなぁとは思うけれど、正直焦ったい。覚悟しちゃえばどうにかなるのに!両思いなんだから!ってね。漫画の中の子達は可愛くて応援したくなる子ばっかりで先が気にはなる。でも、読んでるともどかしい!
「…ぷっ。」
なづなが突然吹き出して声を出さずに笑い始めた
「な、なに?どうしたの?」
「いや…せりって、良い読者だなぁって。」
…そう?
「そうだよ。キャラクター対してこうすれば、ああすればって、言ってるじゃない?」
そうだね、確かに。
「しっかり感情移入しながらアドバイスを口にしてるんだよね。」
う、そうかも…。
「ちゃんと没入しているじゃない。」
そう言われれば、そうなのかなぁ?
「焦ったい、もどかしい、言っちゃえば良いのにって せりが言えるのはね、」
言えるのは…?
「自分が通り過ぎた場所だから、かもね。」
…うぇ?!
「自分はちゃんと伝えて、返事も貰って、成功したから。言っちゃえって言えるんじゃない?」
うおぉ…上から目線って事?!
「普通はキャラクターに対して『そうだよね、怖いよね、断られたらイヤだもんね』って、なるんじゃないかな?」
「まぁ、読者目線だとキャラクターの心情は全部見えるから…言うなれば神の視点だもんね。せりみたいに思うのも仕方ないかもだけど。」
「……いや、読者視点だとそっちの方が多数派かもしれない?…う〜ん?」
なんか全然別のところに考えが飛んでっちゃったよ。
でも、そうか。
自分が通り過ぎた場所だから、ね。
なるほど。
という事は、もし読んだのが昨日だったら。なづなの言う通り違う感想だったかもしれない。
ボクは、なづなが先に言ってくれたから、同じ思いだと確信出来たから、言葉に出来たんだもん。
そう考えると漫画のキャラクター達は頑張っているんだなぁ。ボクよりずっと頑張ってるんじゃないか。
焦ったいのは焦ったいんだけれど。
そんな事を考えながら、ぼ〜っとPCを眺めていたら、不意になづなが背後から抱きついてきた。
「なになに?どうしたの?」
「ふふ…。ん〜ん、なんでもない、よぅ。」
「そっか…。」
右肩の上にある なづなの頭を撫でて首を預けると、ほんの少し頭をずらして俯く様な体勢になった。
暫くその体勢のままジッとしてたので、PC弄りながら なづなの髪を指で梳いていたんだ。
そしたらね…
カプッ。
…って。
首というか肩というか…その辺りを噛まれた。
ガジガジガジ。
うぇひひひくすぐったい!
甘噛みだから痛くはないんだけれど…ないんだけれど激しくくすぐったい!いひひひひ!
やっと噛むのをやめたと思ったら、今度はちゅーーーって吸い始めてさ。あたたたた、微妙にイタイ。
なんか吸いながら、ウフッとか、ンフフとか言ってて楽しそうだったんで好きにさせてたんだけど…。
結構長い間カプカプちゅーちゅーされててね。
あのね、なづなさん?
そんな所吸っても何も出ないんですよ?
なんなの、もー。
あ、そうだ。
ついでだから、ちょっと調べてみようか。
え、と。キス 首 意味 っと。
………ええと、なになに?
『執着。深い愛情表現の表れ。もっとイチャイチャしたい お互いの愛情を確かめたい 等の意思表示の場合も。二人だけの甘い時間を過ごしたいという心理が隠れてます。』
……ぉぉおおおおおぉ?!
深い!愛情の!表れ!甘い!時間を!過ごしたい!
YES!
あ、今の発音良くなかった?
いやいや待て待て。落ち着けボク。
これは男性から女性への場合だよね?女性からとか、同性でだと意味が変わったりするんじゃない?
あ、ほら!変わるのがあるじゃない!
やっぱりね!
えーっと、女性から、首、と…。
……同じだね……あれ?
じゃ、じゃあ、なづなは、ホントにボクと甘い時間を過ごしたいと思ってくれている…?
それは嬉しい。嬉しいけれども、どうすれば良いの?
どういうのが “甘い時間” なの?
「せりは、いつも通りに過ごしていれば良いんだよ。何も特別な事なんて何もしなくたっていいの。」
…そうなの?
「そうなんだよ。普段と変わらない時間が一番いいの。その時間の中でね、視線を交わしたり触れ合ったり、今みたいにちょっとだけ過剰気味のスキンシップをしてみたり。」
「そういうのがね、良いんだよ?」
「朝、目が覚めたら、隣に せりが居る。」
「手を繋いで歩く。」
「笑いかけたら、笑い返してくれる。」
「ちょっと楽しくなって踊ってみちゃう。」
「全部、全部、当たり前で普通の時間。」
「それが私にとって一番の甘い時間、だよ。」
…ああ、それは理解出来る…。
以前のボクには、何ひとつ無かったから。
手を繋いでくれる人も
笑いあってくれる人も
何も。
普通も当たり前も、現世に来て初めて手に入れたものだから。
それを大事に思うのは凄くわかる。
ちょっとした事で壊れちゃって、二度と元には戻らない…だから大事で愛おしい。
「そっか…当たり前な普通の時間…かぁ。」
いまだ首筋をカプカプしている なづなの頭を撫でて、
独り言ちる。
「ところで なづな。」
「なぁに?」
「いつまで噛んでるの?」
そう言ったら、何故か素直に噛むのを止めて少し離れた。…んだけれど、なんか噛んでた所を確認してちょっと悪い顔でニヤッとしたのが気になる。
歯型でもついてるのかな?
いや、そんなに強く噛まれてないから、それはないだろうなぁ。
まぁついてても薄っすらとだろうから、明日には消えちゃってると思う。
成長期の新陳代謝舐めんなよ。ふんす。
「あ、今何時?」
「…そろそろ6時半?」
「すずな姉ちゃんも帰ってくる頃だね。」
そうだ、執行部の事、色々聞いてみようかな?
あ、いや、まだ所属する事が決まった訳でもないのだけれど、知っておかなきゃいけない気がして…。
夕ご飯の時にでも話し聞けるかな?
聞いといて損はないと思う。
無駄にはなるかもだけれど。
「下降りておく?」
「そうだねぇ…。」
降りても夕飯の準備はさせてもらえないし、正直やる事ないんだけれど…。
何かしら用事を言いつけられるかもしれないし…。
降りておこうか。
下ですずな姉ちゃんに、おかえり言わないと。
当たり前で普通な事、やっておかないとね
やっとイチャイチャしてくれました。
が、やっぱり “おやすみ” しなかった…
あれぇ…?




