閑話 百合の妖精さん達
扉の向こうに居たのは
百合の妖精さんでした。
え、と。
私は…まぁ名乗る程の者じゃないわ。
一応、明之星学院中等部3年生、よ。
それで、なんだったかしら?
ああ、そうそう。
階段室に居た理由ね。
ちょっとね、朝から、その、言い方が悪いんだけど…ムラムラしててね。
昨日、春休み中にあんまり会えなかった後輩、あ、2年生の子なんだけど、と、久しぶりに会ったのよ。
顔合わせなかったのなんて1週間かそこらよ?
なのに、なんかすんごい長く感じてたの。
で、昨日会ったらね…
超可愛くなってんの。
なんか、なんだろ?よくわかんないんだけど、キラッキラしてんの。
別に化粧してる訳でもないし、髪型が変わってる訳でもないのに。なんなの?
思わず聞いちゃったわ、何かあったのって。
そしたら、この子ったら、なんて言ったと思う?
お姉さまと会えるのが楽しみだったんです、だって!
なんて可愛いの!?
こんなの辛抱堪らんでしょ?
この子の手を引いて走り出しちゃったわ、思わず。
お姉さま、お姉さま、どちらに行かれるのですか?って問い掛けてくるけど、全く抵抗せずについてくるの。
益々可愛いじゃない?
妖精さんのところよ、って言って階段を駆け上がったわ。
屋上手前の踊場には何もない。
これは、誰も居ないって事なの。
今日は、HRサボるからって言い置いて、屋上階段室のロッカーからモップを一本取り出し、踊場の壁に逆さまに立て掛ける。
これでOK
階段室に置いて来た後輩のところに戻って、彼女の前に立つ。私、身長は高い方で、この子はちょっと低い方。身長差が20cmくらいあんのよね。
上から眺めていると、上目遣いでチラチラと私を見るの。こんな仕草も可愛いわよね。
ジッと見つめていたら、顔を上げて眼を瞑るじゃない!?
これ、いいのよね、その、口づけしても、良いって事よね!?
後輩の腰に手を回し、ゆっくりと抱き寄せて、少しずつ顔を近づけて…あぁ!
可愛いこの子の顔がこんなに近くに…!
心臓がうるさい。
息止めないと、鼻息がかかっちゃいそう。
ゆっくり、唇を重ね、
柔らか!あまっ!熱っ!
どのくらい重ねていたのかわからないけど、ん、って呻き声が漏れたのが聞こえて、反射的に唇を離した。
この子は、はぁって大きく息を吸った後、唇に指を当てて、うっとりとしている。
私、上手に出来たかな?初めてだったから、変じゃなかった?大丈夫だった?
私も初めてですから、上手かは分かりませんけど、とても幸せです、だって!
もう一回いい?
って聞いたら、黙って眼を閉じるのよ?
可愛くない?
可愛いでしょ?!
少しぽってりとした、厚めの唇の感触は、もう、なんて言ったっけ?アレよ、アレ!ほら、え〜と、ん〜と
甘露!
そう!甘露よ!
それにこの子ったら、2回目は私の首に手を回して深い口づけをして来たの。しかも、しかもよ。舌を、入れてきたの!絡んだ舌が甘くて、頭の芯まで蕩けそうだったんだから!もう、溶け合って離れられないんじゃないかと思ったわ。
唇を離した瞬間、腰が抜けちゃって座り込んじゃったんだけど、この子も同じだったみたいで、目の前にへたり込んでいたわ。
荒い息を整えながら、ごめんなさいお姉さま、どうしても、我慢出来なくて、って。こんな事言われたら許すしかないじゃない?
それからしばらくは、2人で座り込んだまま、何度も唇を重ねていたの。どのくらい経ったのかわからないんだけど、ある時、階段を昇ってくる足音に気付いたのね。
もしかして、サインを知らない子なのかしら?HRをサボってここに来る様な子なのに?あり得ない事じゃないけど、鉢合わせは不味いわよね、お互いに。
私達は、気付かれない様にこっそり屋上に出てドアに寄り掛かって、やり過ごす事にしたわ。
まぁ、それでね、階段室まで昇って来た子達の話をね、聞くとはなしに聞いていたの。
この子も、他人の睦言を盗み聞くなんて、イケナイ事をしているみたいでドキドキしますね、なんて言ってたけど、全面的に同意するわ。
そしたら、そしたらよ?
愛してます。
君以外、何もいらないです。
…ですって!!
えぇ!?
すんごいストレート!
私の隣で座っているこの子も、両手で口を抑えてパタパタと足を動かしているわ。わかる。
こんな熱い告白なんて聞いたらそうなるわよね。
そこから先は、ちょっと聞き取れなかったんだけど、なかなか仲睦まじい感じだったようよ?
2人して扉の向こうの熱に当てられて、指を絡め見つめ合ったり、口づけを交わしたり…そんな時間を過ごしていたら、階段を降りて行く足音が聞こえたのよ。
あぁ、帰っちゃうのか、なんて思っていたら
コンコン
驚いたわ。
心臓飛び出したかと思った。
思わず2人で扉を見上げちゃった。
扉に付いている型硝子を見れば、白い百合の花の様なものが揺れていたのよ。
え?何これ?
呆然と見ていると、百合の花が話しかけてきたの。
お二人の邪魔をしてしまってごめんなさい。
でも、おかげでちゃんと話せたの、ありがとう。
私達は幸せよ。
あなた達も、どうか幸せでありますように。
…って。
パタパタと階段を下っていく足音が聞こえる。
慌てて階段室に入って階下を覗き込んだんだけど、姿は見えなかった。
あはは、うふふ、って笑い声と足音は聞こえて来るんだけど、人の気配すら感じ取れなかった。
なんだったのかしら…?
呆然と階下を眺めていたら隣の、この子が呟いたの。
百合の妖精さん…
百合の、妖精?
百合の妖精って、あれ?
愛し合う2人の側で祝福を囁いてくれるっていう…七不思議のひとつの?
今のが?!
え…七不思議、経験しちゃった?
祝福されちゃった?!うそ?ホントに?!
お姉さま、お姉さま。
百合の妖精さんに祝福されましたよ。
私達、幸せになってねって、言われましたよ。
そう言って涙を浮かべて笑顔を作る、この子が愛おしい。
ああ、大事にしよう。
愛しくてたまらない。
妖精さん、ありがとう。
あなたの祝福で この子がこんなに喜んでくれました。
大事にします。
大切にします。
あなたみたいに、この子を愛します。
ふふ、新学期早々、凄い経験しちゃったわ。
きっと幸せな一年になるわね。
だって私達
百合の妖精さんに祝福してもらったんだもの。
妖精さん達はラブラブです。




