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ごきげんよう、お姉さま③

さあ、張り切ってお手伝い致しましょう


痛いのもキライ

苦しいのもキライ

暗いのもキライ

明るいのもキライ

怖いのもキライ

白いのもキライ

黒いのもキライ

キライキライキライキライキライキライキライキライ

全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部

 


         コワシテヤル






講堂の扉は閂とフランス落としで施錠されていた

「これ、内側からしか開かないんだ…」

知らなかった。というか気にした事がなかった。確か渡り廊下や各校舎の扉は職員室で集中施錠開錠が出来るって聞いたけれど、ここは完全にアナログなんだ。

そういえばこの講堂が全校舎の中で1番古いんだっけ

木造3階建て築80年を超える文化遺産級の建物だ

「…それは電子化出来ないよね」

閂を外し内開きの扉を引く。軋み音こそしないものの結構重い。

「あ。開いた開いた。」

お姉さま方が覗き込んできて、開けるのを手伝ってくれる。外側から押されると意外にスッと開いた。フランス落としをかけて固定

ロビーの空気が入れ替わるのがわかる。

あ、涼しい。


「お待たせ致しました」

「ううん、大丈夫。私達もさっき来たばかりだから」

「まだ全員揃ってないしね」

「そうなのですか?」

「うん。講堂の鍵を借りに行ってる子もいるし」

なんですと?

「あの…お姉さま?」

「なぁに?」

「この扉、内側からしか施錠、解錠が出来ないようなのですけれど…」


「「「………えっ!?」」」

あ。ご存知なかったのですね。ボクも先程知りました。


「…ホントだ。閂なんだ。へぇ〜…」

「…全然知らなかった」

「5年も通ってたのに…」

そんなものです。身近な物ほど改めて調べようとは考えませんからね。

「それはそうと、もうひとりの双子ちゃんは?」

「姉でしたら体育館の方に」体育館へ繋がる渡り廊下の方を指差す

「あら、あっちにも手伝いに行くの?」

「はい。看板の文字入れならば手分けした方が良いだろう、と。」

「2人とも字が上手いんだ。書道習ったの?」

「嗜む程度ですけれど」ウフフ。嘘です。がっつり習いました。なづなが上手上手と褒めてくれるのが嬉しくて超がんばりました。おかげで段持ちです。

字が上手くて困る事はないので習っておいて良かったとは思う。…余計な仕事が増える事はあるかもだけど。


「あれ?開いてる?」

不意に聞こえた声に顔を向ければ、武道館側の渡り廊下から入ってくる人がいた。

弾む息を整えながらこちらに歩いてくる。

「外からは開かないって言われたから、こっちから来たのに…もしかしてジェミニちゃんが開けてくれたの?」

「はい。先程ぶりです、お姉さま」

バス停に居たお姉さまだ。

「申し遅れました。鈴代せり、と申します。」

軽くカーテシー

「こちらこそ、よろしくね。」



「あの、お姉さま」

「なにかしら?」

ショートカットのスポーツ少女風お姉さまに問いかける。

「立看板、形状違いが複数枚あるのですが…入学式は縦長の大きい方として、それ以外はどれになんと書けばいいのでしょうか…?」

「え…と、ちょっと待ってね。確か指示書が…」

「あ、あった。え〜…入学式、会場入口、案内所、来賓受付…各一枚ね。」

「使うのは4枚ですか。残りは予備でしょうか?」

「たぶんそうね。あ、待って。案内所はサンヨンって書いてあるわ。他のはニンロク?」

「サンヨン?」

「サイズの事よね?」

「300、400?」

「センチ…な訳ないですね。ミリは小さ過ぎるし…」

「比率の事かしら…3:4」

「ならコレね、きっと」2枚ある正方形に近い看板を指で示す。確かに比率的にはそのくらいだけれども…そんなわかりにくい書き方するかな…?

ジーッと看板を見つめていた黒縁の大きめの眼鏡を掛けて黒髪を三つ編みに纏めた、如何にも文学少女といったお姉さまが

「あ、尺?」シャク?…ああ!尺!3尺4尺 90cm X120cm。なるほど!ならニンロクは60X180、細長いのの大きい方で正解ですね。

凄いですお姉さまと両手を胸の前で組んで見つめれば、ふいっと顔を逸らされてしまった。

あら、ちょっとショック。あざとかったかもしれない。反省。

「では、他のはこちらの細長い方に書けばよろしいのですね。」

「ええお願い。その間に私達は飾り花の用意をしましょう」ポンと手を叩いて立ち上がり動き出す。


三枚目っと。

うーん、と唸って腰を伸ばす。

寝かせた看板を跨ぐ様に、立ったまま書いているので腰がキツい。そのまま書こうとしたところ、髪とスカートがすこぶる付きで邪魔だったので、髪は纏めて筆を簪代わりにして留めた。スカートも脱ぐ訳にはいかないのでたくし上げヘアゴムで長さ調整、太腿も露わな斜めカットのミニスカート状態だ。下着が見えそうで少々恥ずかしいが効率最優先。


看板を立てたまま書ければよかったのだけれど…駄目だった。墨汁が垂れてしまったのだ。

模造紙の様なツルリとした紙で墨を吸わない。書き初めた直後ス〜と幾本もの黒い尾を引いて墨汁が垂れた時はもう…紙の質まで考えてなかった…相も変わらず考え足らずの自分にガッカリだ。

予備を1枚無駄にしてしまったところで、寝かせて書く方法にシフトしたのだけれど問題は4枚目。

流石に90Cmは跨げない

残念ながら脚はそんなに長くない

横から書く?無理だよね。

上に乗って書く?木のフレームとベニヤの板面が耐えられるとは思えない。いや、ボクの体重が重いという訳ではなくてね?強度的にね?

いっそ一度紙を剥がして書いてから貼り直すとか…いやいや、万が一皺や折り目なんか付けてしまったらどうする。

むむむと腕を組んで唸っていれば

「何を悩んでいるのかしら?」ジェミニちゃん、とバス停お姉さま

「案内所の文字をどうやって書くこうか思案中です」

「横から乗り出して、は無理ね。端の小さな文字なら兎も角、真ん中は流石に」

「ええ。出来れば正面から見て書きたいです。大きいとバランスが取り辛いので。」未熟なものでとひとりごちる。

「長机を並べて隙間ををつくって、こう…ダメね。結局乗り出して書くのと変わらない。立っているか座っているかの差しかないわ。」

「上に渡せる足場があればいいのよね。」何かないかしらとお姉さま方が首を捻る。

「例えば…」文学少女お姉さまが口を開く

「長机を並べてその上でうつ伏せに寝そべって…」こんな風にとポーズをとる。

「長机の脚の間隔なら看板を跨げると思うわ。」なるほど確かに。これなら正面から見られてバランスも取り易い。ならば…。

「それでいきましょう。その為に少々ご協力頂きたいのですけれど…」

先ずは寝そべっているボクの身体を支えてもらわなければならない

胸の下辺り迄乗り出していないと腕が自由に動かせないから、下半身、脚を抑えてもらう必要がある。

次に筆

墨のバケツを差し出してもらうか、筆を交換してもらうか。

最後に看板

一文字書く毎にずらしてもらう。

ボク自身は動けないからね。


「じゃあ始めようか」

「はい。お願いします。」

机の上に寝そべって待っていると太腿の上に文学少女お姉さまが跨ぐ様に座り臀部下端辺りに手を添えグっと体重を掛けてくる。

「ひゃん」

っうっわ、変な声出た!

バッと口を押さえて思わず振り返ると、文学少女お姉さま顔を逸らしてプルプルと小刻みに震えてらっしゃる。そんなに笑わなくても…

ふくらはぎを抑えてくれているスポーツお姉さまが苦笑しながら

「あんまり可愛い声で鳴かないで。変な気分になったら困るわ。」

すいません。

…でもでもだって!オシリの下に触れた指が、思いの外冷たかったんですもの!

前を向けばバス停お姉さまとおでこ出しのお姉さまが、顔を見合わせてニヨニヨと笑っている。

え…なに?どういう感情?


気を取り直し、大きく深呼吸をして背筋に力を込める。筆を構え。

「参ります。」

薄く息を吐きながら一気に書き切る。

「はい。」

合図と共に看板がずらされ筆を取り替える。

頑張れボクの広背筋。気張れボクの僧帽筋!

油断すると頭が下がって血が昇ってくる。のぼせる前に書き切れ!

「はい!」

3文字目を書き終えると看板がどかされる。筆を受け取ってもらい、床にべったりと手を付けて

「ふぅ〜〜〜〜…」

文学少女お姉さまが脚の上から退いてくれたので、グイッと上半身を持ち上げ机の上に女の子座り。

しばし上を向いて昇った血が降りてくるのを待つ。あ〜…顔があっつい…ふぅ〜と息を吐き、ありがとうございます、助かりましたと頭を下げる。

びっくり顔のバス停お姉さまと目が合う

「?」何か驚かれる様な事をしただろうか?

「ジェミニちゃん…あなた凄いわね。」

「??」

「字が上手なのにも驚いたけど、さっきの書道パフォーマンスみたいなのもカッコ良かった。それに最後の机の上への戻り方!手も使わずにヒョイって!」体操選手みたいだったと興奮していらっしゃる。見ればお姉さま方皆んなコクコクと頷いている。

「そ…そうでしょうか? あまり言われた事はございませんけれど…」

「周りの子達は付き合いが長いのでしょう?」きっと慣れて当たり前みたいになってしまってるのよと力説して、またも皆さんコクコク。

確かにボク達は幼稚舎からずっとこの学校だから、同級生や近い年代の子達は知っている人が多いはずだ。


その後も細かい文字入れをしながら雑談タイム


「さぁ、おしゃべりはそのくらいにして、片付けられる物は片付けちゃいましょう。」

長机はクロスを貼って使うのでこのままでも良い、看板は墨が乾く迄放置、習字道具は体育館へ持って行くので纏めておけば…いや筆とバケツは洗っておこう。

「じゃ私、筆を洗ってくる」立ち上がったのはおでこを出したボブヘアーのお姉さま。

「ご一緒します」ボクもバケツを持って後に続く。

2人でお手洗いの流し台へと向かう途中

「あの、お姉さま。お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「いいわよ?スリーサイズ?」

む。ちょっと知りたいかも。

「大変魅力的ですが、そうではなく…」

「ちぇっ」

ちぇって

「ボク…私、あちらのお姉さまに、何か失礼をしましたでしょうか?」

と、文学少女お姉さまを示す。

キョトンとした顔を向けられ、首を捻られる。

「ええと…その、目を合わせて頂けないというか、視線を逸らされるというか…」

お姉さまのキョトン顔が段々と何かを堪える様に変わっていき、ガバっと向こうを向いた瞬間

ぶはっっ!と盛大に吹き出し声を出さずに大爆笑している。

えぇ…なんなの…

流し台に着くまでくっくっくと笑い続けたお姉さまが

「ごめんごめん。違うのよ、あれはね、」

「はい。」

「あなたのファンだから」くっくっく

「はい?」

「正確には、あなた達の、ね。」

え?ファン?

「あの子外部生でね、高等部からなのよ。」

「はい。」

「で、去年ビスクドールの噂を知って中等部に見に行ったらしいのよ。」

「そしたら、桜舞い散る放課後の中庭で踊っている双子がいて、それがまぁ、まるで映画のワンシーンの様だったのですって。」

…わぁお…

「その後もたまに覗きに行っては、裏の銀杏並木のベンチで寄り添ってお昼寝してたとか、夕立の時に自転車置き場の軒下でびしょ濡れになって笑い合っていたとか、」

「夕暮れの教室で髪梳かし合っていた髪が夕日に照らされて金色に輝いていたとか、他にも…」

「わわわわかりました、わかりましたから、堪忍して下さい!」

ぽっぽと熱くなる頬を押さえ必死に話を止める。

笑いを堪えながら、お姉さまは言う

「だからさ、」

「普通にしてて」

君達が普通に接するならば、あとはあのお子の問題、近づくも離れるも彼女の判断、君が気にする事じゃないと


それにしても

「人伝てに聞くと随分と耽美的ですね…」ボク達そんな麗しいモノじゃないのですけれど、はぁ、と溜息を漏らす。

「自分自身が1番遠い存在、とは誰の言葉だったっけ。」

…どういう意味ですか


洗い物を終わらせロビーへと戻れば、人が増えていた。

「お、やっと増援が来た様だね。」

そういえば最初に言ってらっしゃいましたね

文学少女お姉さまが新たに加わった方々に何やら熱弁を奮っておられます

「お疲れ様〜」

「お疲れ様です、お姉さま方」

おぉ…と声が聞こえる。

慣れたなこの反応。クスリと笑いが漏れる。


「さて、こっちの残りは飾り付けがメインだから、人海戦術で何とかなる。」

だからジェミニちゃんは体育館でお姉ちゃんと合流ね、とバス停お姉さま

「よろしいのですか?」

「うん。午後にはもっと人が増える予定だし、最初から飾り付けは夕方まで掛けるつもりだったから」

体育館が早く終わって手が空いたらまたおいでと誘われた。


ありがたい話だ


「わかりました。では一旦お暇致します。後ほど、また。」

一礼して体育館への渡り廊下へ小走りで進む。

体育館の玄関ロビーへ入れば、かなりの人数が忙しなく動いていた。

椅子並べに人数が必要だから、最初から人が多いのか。なるほど。

随分とバタバタしている割に椅子並べもしていない様に見えるけど、何かあったのかな?

あっちは体育祭なんかに使うテントだろうか?銀色のフレームやら何やら、色々と積み上がっている。あっちこっちで荷物をひっくり返して、大掃除という訳でもなかろうに。


なづなは何処だろう?


「あの、すいません、」

「はい、なぁに?あ、双子ちゃんでしょ?それならロビー上の柔道場にいるはずよ。」

「ありがとうございます、お姉さま」聞く前に教えて貰っちゃった


階段を昇り柔道場へ。

…ここ初めて来た。結構広い

40畳…もっとあるかも


あ、なずな、いた!

なずなも気付いたみたい。

小さく手を振りながら近付く。


顔を見合わせ


「「お疲れ様」」



文学少女お姉さま

プルプルしていたのは、あまりに甘く可愛い声が聞こえたので萌えていたからです。

相当に捗った事でしょう。


おでこお姉さまとバス停お姉さま

ニヨニヨしていたのは、文学少女お姉さまがプルプルしていた理由を知っていたからですね。


この御三方、腐女子と呼ばれり類の方々です

ただし、文学少女お姉さまはBL GL なんでも御座れの剛の者です。


スポーツ少女お姉さま

黒髪ショートの長身美人


バス停お姉さま

黒髪ボブヘアー

カチューシャで前髪を上げている

美人系


文学少女お姉さま

黒髪ロング三つ編み

黒縁眼鏡着用

可愛い系


おでこお姉さま

茶色に近い黒髪ボブヘアー

真ん中分けおでこ出し

可愛い系


こんなイメージ



「自分自身が1番遠い存在」

正確には

「自分自身に最も遠い存在は、各人それ自身である。」

ニーチェの言葉ですね。


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