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あわーくらするーむ⑧

「すいません!通して下さい!」

ざわめく人の向こう側から誰かがやって来る。

複数いる様だけれど、大人の声も混じっているみたい。先生が来たのかな?

「ごめんなさい、通ります。」

この声は

「椿さん!?」

「!せりさん!」

少し息を切らせながら、人波をかき分けて近付いて来る彼女の後ろに、スーツの男女数人がいるのが見えた。

「先生!」

「待たせてすまないね。職員室に誰もいないって?」

「はい。施錠されていて、中にはどなたも…。」

先生方は顔を見合わせて「何か聞いている?」「いえ、予定通り教科書配布のはずですが…。」「当直者が残っていたんじゃなかったか?」等々、話しているが、こういう会話が成されるという事はこの事態が想定外だという証明だ。

高等部でクラス担任を持っている先生だけが来たのなら、担当クラスを持っていないすずな姉ちゃんは、所在不明だという事になる。

携帯電話で連絡出来ないものかと思うところだけれど、生徒は勿論、教員も校内での携帯電話使用は原則禁止されている。

先生方は職員室以外では使用しないので、自分の席に置きっぱなしなのだとか。

規則遵守は立派だけれど、今回ばかりは連絡手段を断たれているので、なんとも言い難いね。


「先生、私の姉が用務員室廻りで玄関を確認に行っているのですが、まだ戻っていません。そちらに行っても?」

「ふむ。迎えに行くのは構わんが、単独行動はいかん。2人以上で行動する様に。」

「はい。承知しました。」

誰に頼もうか

「私が行きます。」

そう言って手を挙げたのは椿さんだ。

「ありがとう、お願い椿さん。」


「各クラス代表者2名を残して、一度教室に戻りなさい。」

先生にそう宣言されては従わない訳にもいかず、皆、誰を残し誰が戻るのかを話合い始めた。

ボク達の行動ははもう決まっている。

ボクと椿さんが、なづなの捜索及び回収。

光さんと満さんが残り、戻る可能性のある菫さんを待つ、という感じだ。

ボク達が戻った時点で全員揃うなら、改めて残す人員を決めれば良い。

「じゃあ光さん。ちょっと行ってきます。」

「ええ、気をつけてね。」

「満さんも、よろしく。」

「うん、任せて!」

そう言って胸を叩く満さん。そんなに気合入れなくても大丈夫だよ。たぶん。


椿さんを伴って職員棟の奥にある用務員室へ向かう。

走らずに、慌てずに。

「ね、せりさん。」

「うん?」

「執行部に推薦されたってホント?」

なんで知ってるのっ?!…って、光さんか。

別に隠してる訳じゃないんだけどね、言いふらす気もないだけで。

「あぁ…うん。昨日一昨日、二日間ご一緒したお姉さま方が推薦しておく、って言って下さって。」

「見初められたんですねっ!」

みそめっ…?!

う、う〜ん、目を付けられたという意味では同じか。

…同じか?

「そ、そうだね。”使える“と思っては頂けたみたいだから…評価としては悪くないんじゃない?」

「試験明けにお誘いがあるんじゃないですか?!」

「セリナ様に時間取ってね、って言われたけれど…あれは執行部とは関係ないのかな?…ん?…個人的呼び出し?いや、なづなも呼んでって言ってたよね?…そう言えば何の用事か聞いてなかったな…?」

なんとなく先程の会話を反芻して首を捻っていると、椿さんが立ち止まって、目を見開きボクを見ていた。

え?何?どしたの?

「椿さん…?」

「今、“セリナ様”と仰いましたか?」

「え?うん、言った、と思うけれど…?」

「執行部の百合沢セリナお姉さまの事で、間違いありませんか?」

「うん、そのセリナ様ですね。」

その言葉を聞いた瞬間、椿さんが、ふわぁっと陶酔の表情を浮かべ、身体が傾いていく。

うわぁ!?

超ダッシュしました!

ゼロヨン、0-4メートルね?の世界記録だったかもしれないってレベルで!

なんとか受け止めたけど、尻餅ついちゃった。

イタイ。

あ〜…でも、椿さんが頭打っちゃってたら洒落にならないので、ボクのオシリが割れるくらいなら安いものだね。間違いなく割れてるね。最初からね。うん。

てか、なんでいきなり倒れたの?!

大丈夫?!生きてる?!

首筋に手を当てて脈を診る。あ、大丈夫だ。少し早いけどちゃんとある。

息は?口元に耳を近付けて呼吸を確かめる。

…よかった、普通に息してるね。

驚いた…そう言えば、今朝もこんな事あったっけ。

椿さんって、気を失い易い体質なんだろうか?

近くにいる時は気をつけておこう…

椿さんの頭を抱いたまま座り直し、膝枕の体勢に移行する際に、椿さんの脚を伸ばす為に胸を椿さんの顔に押し付けてしまたんだけど…なんか「もがっ!」って声がして、またグッタリしちゃったんだよね。

窒息する程長く押し付けたつもりはないのだけれど…

椿さん?椿さーん?大丈夫?

ちょっと幸せそうな顔してるから平気かな?

なんかいい夢でも見てるんだろうか?


「ん、ううん… 」

「あ。起きた?気分は?」

声を掛けてみたんだけど、どうも状況把握が出来てないっぽい。

「椿さん。ボク、わかる?」

「……せせせせせりさん!?」

”せ“が多いけど正解。

「急に気を失っちゃったんだけど…貧血とか?」

夜更かし徹夜なんか頻繁にしてそうなんだよなぁ…椿さんって、寝食そっちのけで創作活動にのめり込むタイプだもん。絶対。

「いえ、貧血では…ないと思います。」

「寝不足とかは?ちゃんとご飯食べてる?」

お母さんかっ!自分で言っといて何だけど、これはウザイかもしれない。ウザかったらごめんね?


「無理しちゃダメだよ?」

お。今の なづなっぽくなかった?お姉ちゃんっぽかったんじゃない?同級生相手にお姉ちゃんっぽいもあったもんじゃないけど。



「…はい、ありがとうございます…。」

「うん。」

椿さんの髪を撫でお腹をポンポンと叩く。

一瞬、ビクンッと椿さんの身体が小さく跳ねたんで、びっくりしたんだけど…

当の椿さんは恥ずかしそうにしているだけで別段嫌がっている風でもなくて。赤ちゃん扱いされたみたいで恥ずかしかったのかな?

ごめんね?


「どう?起きられる?」

「大丈夫です、起きます。」

身体を起こし、特にふらつくでもなく立ち上がった。

よかった。大丈夫そうだ。

ボクも立ち上がり、オシリをパタパタとはたいて

「じゃ、行きますか。」

「はい。あ…ごめんなさい…先にちょっとお手洗い…いいですか…?」

「あ、ごめん、気が利かないで。どうぞ。」

「直ぐ戻ります!」

すっ飛んでちゃったよ。

そんな近くなってたのか…。


戻ってきた椿さんと再度行動開始。

実は、目的地の用務員室は目と鼻の先なんだよね。

1番奥の階段前の扉がそうだ。

さっきまで座っていた場所から、教室ひとつぶんって感じだね。

ノックして声をかける。

「すいませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」

…返事が無い。

「すいませーん。」

やはり返事は無い。

居ないのかな…?

引き戸に手をかけ、扉を開けてみた…

「失礼しまーす。」

中は、教室の半分くらいだろうか?

部屋の中央にはいくつかのデスクが、壁際には用具入れの様なロッカーが並んでいる。が、人は居ない。

「いないね?」

「いませんね。」

「玄関、行ってみる?」

「そうしましょう。」

はて?職員室にいるはずの先生方が居らず、用務員ももぬけの空。全員で何人くらいいるのか知らないけれど、全て出払う事ってあるのだろうか?

職員棟一階の玄関へ向かうべく、直ぐ前にある階段を降りて、廊下を東に真っ直ぐ。

職員棟の一階は事務所や校長室なんかがあるのだけれど、中等部の生徒は滅多に来ないところなので“ここにいる”という事自体が違和感でいっぱいだ。

高等部になると清掃の範囲に職員棟も含まれるので、くる事もあるみたいだけど。

学校内の普段来ないところって、なんか怖くない?

そんな事ない?

東端まで来ると、職員や教員の使用する昇降口がある。大きなガラス戸が4枚並んでいる、開放感たっぷりのエントランスだ。

あれ?

さっき職員室前にいた先生がいる?

高等部の女性の先生…なんとなく音楽の先生っぽいね。薄いピンク系のガーリーな服装が似合っている。あまり見覚えがないし…信任の先生かな?

「先生!」

「あら?どうしたの?用務員室に行くって言ってなかったかしら?」

「今、行って来たのですが、誰も居なかったものですから…。」

「あぁ、やっぱり。」

やっぱり?

「誰も居ないとご存知だったのですか?」

「あぁ、違うの。たぶん居ないだろうという予想だったのよ。」

んん?どゆこと?

訳が分からなくて、椿さんと顔を見合わせて首を捻る。

「業者さんがトラブルで来れなくなって、受け取りに行っている様なの。」

え?

ちょっと、説明が足りなくないですか?

「教科書の納入業者が来れなくなって、こちらから迎えに行っている、という事ですか?」

「そうそう。そういう事。」

はぁ、なるほど?

「時に先生。」

「なにかしら?」

「ボク…私の姉…双子の姉なのですが、見てらっしゃいませんか?」

「髪の短い子よね?」

おぉ!見ていますか!

「はい。どこにいるかご存知でしょうか?」

「同じ事を聞かれたから、用務員室に向かったって教えたのだけど…会わなかったのね。」

すれ違った?どこで?

「せりさん、なづな さんが東階段から上がったなら、入れ違いになってますよ。」

あ、そうか。ボク達が西階段降りてる時に東階段上っていれば、完全に入れ違いだ。

「ここで待っていた方がいいかな?」

「そうですね。用務員室に向かっても、また入れ違うかもしれません。」

ですよね。じゃあ、少し待ちますか…。

「ごめんね椿さん。付き合わせちゃって。」

「いいえ、全然平気です。」

(むし)ろとても貴重な体験をしました、ありがとうございます。って…貴重な体験?膝枕の事?あんなん、いくらでもして差し上げますけど?


さて、なづなと合流したら、どうしようか?

職員室まで戻るのが正解かな?

光さんと満さん、まだいるかな?

菫さんは教室かな?

う〜ん。


「せり!」

廊下の奥から、ボクを呼ぶ声が聞こえた。

短く切ったプラチナブロンドの髪を揺らして、小走りに駆けてくる姿が目に飛び込んできた。

「なづな!」

「ごめん、入れ違いになっちゃった。」

「ううん。ボクが、東階段使ってればよかったんだよ。」

せいぜい2〜30分しか経ってないのに、その間にセリナ様の事があり、椿さんが倒れ、ちょっと濃いめの時間でしたね。


取り敢えず

「「お疲れ様」」





















書いている最中に、何故か投稿されてしまった…


次話との整合性をとる為に少々加筆。


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