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あわーくらするーむ⑦

遠目で見ても綺麗な人だとは思ったけれど、近くに寄ると一層綺麗だ…

「…きれい…… 」

しまった…!つい口に出しちゃった…!

慌てて口を押さえても、発言はなかった事にはならない。ああ、もう…。


目を丸くして暫く固まっていたセリナお姉さまが眼を細めクスリと笑って、ゆっくりと階段を降りて来た。

「あなたに言われると、自信持っちゃうわね。」

いえ、そんな、ホントに綺麗です。


北欧系、だろうか?彫りの深いはっきりとした顔立ち、身長はそれほど高くはないのに起伏に富んだボディラインで、制服のお胸が窮屈そうだ。脚もとんでもなく長い。標準丈のスカートなのにミニスカートみたくなってる。

ワルキューレってこんなイメージじゃないかな?


すぐ側まで降りて来て、じぃ〜とボクを見つめてくる

あの、お姉さま、あまり見つめられると穴が開きそうです。照れます。

「…なるほど、ビスクドール、ね。」

うん。と頷いているけれど、何に納得しているのだろうか…?

「鈴代せりさん。」

「はい、セリナお姉さま。」

「私の名前、知っていたのね。」

嬉しいわ、と微笑む。

流石、セリナの名前に恥じぬ華やかさ。

セリナは確かユリの品種で、ピンク色の八重の花弁が豪華な花だったはず。ボクに一文字足しただけで、こんなに変わるのは反則でしょう。


「ゆっくりお話しをしたいのだけど、そうね…週明けの実力試験が終わったら、お時間くださる?」

おぉ…呼び出しくらいました。

「はい。喜んで。」

ぱっ、と喜色を浮かべボクの頭を撫でて

「お姉さんもお誘いして良いかしら?」

「勿論です。なづな…姉も喜びます。」

冷や汗も流しながら喜んでみせる姿が目に浮かぶ。

そのせいで、ちょっと表情筋が緩んだらしい…

「…あなた、笑うとヤバイわね。」

ヤバイってなんですかっ?!

「あ、ごめんなさい。変な意味じゃないから気にしないで。」

気になりますよ!


「忙しいところを呼び止めてごめんなさいね。」

「いえ、お声掛け頂きありがとうございます。」

試験明け楽しみにしています、そう伝えたところセリナお姉さまが、う〜ん、と唸って天を仰いだ。

「鈴代せりさん。」

「はい?」

「あなた、司お姉さまと同じタイプかもしれないわね…。」


…どういう意味でしょう?

「まぁ、いいわ。時間がある時にね。」

はぁ…司お姉さまと同じ…?

っていうか、司お姉さまとお知り合いだったのですか。何この学校、綺麗な人はみんな横の繋がりがあるの?最近知り合ったお姉さま方、みんな美人美少女ばかりな上に何処かで繋がりがあるみたいですけれど。


あ、そうだ。

折角お誘い頂いたのだし、他のお姉さま方がいない状況というのは中々珍しいし…。

不躾ではあるけれど、お願いしてみようか…?

「あの、セリナお姉さま。」

「なにかしら?」

「宜しければ、ボク…私達姉妹の事、いえ、姉の事は、名前で呼んで頂けないでしょうか…?」

「それは勿論いいけど、何か事情が?」

「え、と。最近お知り合いになったお姉さま方、皆さん可愛がってくださるのですけれど… 」

お姉さまが、ひとつ頷き先を促す。

「双子ちゃん、ジェミニちゃんと呼ばれておりまして…何方(どなた)も名前で呼んでは下さらないので… 」

「ボクとセット扱いでは、姉が不憫です…。」


ボクは構わないけれど、なづなが可哀想だ。

歴とした個人で、ボクの自慢のお姉ちゃんなのだ。ボクがなづなの付属品扱いならまだしも、セット呼びは、ちょっと…納得いかない。


「…それは、セット扱いがイヤという事?」

「いいえ。自慢の姉とセットに見られるのは、寧ろ光栄です。ですが、姉が個人として見られていない様で… 」

腕を組んで聞いていたセリナお姉さま

「うん…、わかった。…せり。」

「はい。」

おぉ、いきなり呼び捨てできたか。

距離の詰め方が一足飛びだね。口調も一気に砕けたし。…なんか嬉しいけど。


「あなた達の事は名前で呼びましょう。呼び捨てにするけど、いいわね?」

「…もちろんです。」

「その代わり、ひとつ条件を付けるわ。」

「…なんなりと。」

無茶振りじゃないといいなぁ…。

「私の事はセリナと呼びなさい。“お姉さま”は付けずにね。」

「え、でも、それは… 」

「イヤ?」

「いいえ、いいえ!とんでもないです!」

「じゃあ、呼んで。」

「…セ…セリナ、様。」

「よろしい。」

腰に手を当てて、とても満足そうに大きく頷く。

「欲を言えば“ 様” もとって欲しいところだけど、いきなりは難しいでしょう。」

これからで良いわ、って、これから?!

「それに、私達、名前も似てるから(・・・・・・・・)慣れないとムズ痒いわよね。」

あ、確かに。

「では、せり。」

「はい、セリナ様。」

「試験明けの事、覚えておいてね。なづなにも伝えておきなさい。」

(うけたまわ)りました。」

とてもとても満足そうな笑顔でボクの頭を撫でて、踵を返し階段を上がってゆく。

踊り場まで昇ったところで振り返ったセリナ様と目が合った。

「…せり。」

「はい…?」

「目立ってたみたいよ…。」

え?


踊り場の階段の陰、手摺の影から10…15人?くらいの人が一斉に顔を出した。きゃあきゃあ言いながら手を振ってくれるのは良いのだけれど…また、やっちまった感がスゴイ…しかも、今回は なづなとじゃない。

もうへたり込みたい…。


セリナ様が同級生に囲まれて、揉みくちゃにされているけど、どうしようもない…が、ガンバって下さい。

取り敢えずこの場を去ろう、ちょっと居た堪れない。


「セリナ様!」

皆が一斉にこちらを見た。

ひぃ…!

「一旦お暇致します!」

軽いカーテシーでご挨拶。速攻で離脱!

背中から黄色い悲鳴が聞こえるけれど、聞こえない。聞こえないったら、聞こえない。


この2〜3日で何回やっちゃってるんだろうか?

わざとじゃない。注目浴びたくてやってる訳でもない。なのに何故か毎回毎回、誰かに見られているんだもの!一昨日、見られるのは仕方ないと諦めた。しょうがないと、覚悟をした。

けど、いざ、見られていたと知ると…ああぁ…!

セリナ様も黙っててくれれば良かったのにぃ!


早歩きで廊下を歩いていると、柱の陰に張り付いている子や、お手洗いの中に引っ込んでいく子を複数…

見てない。

見てないものは見てない。

決して見ていない。

そんな子達はいなかった。

いなかったと言ったらいなかった!



一区切りついたら試験後の呼び出しの事、話さなといけないけれど。今は忘れよう。

見られてた事も忘れよう。

全部忘れよう。

トベ、ボクの記憶!

兎に角、今やるべきは配布物の事。

それが最優先。ボクの葛藤や逡巡はその後でいい。


職員室が近づくにつれ、ざわめきが大きくなってくる。さっきより人が多くなっている様子だ。

やっぱり、まだ解決してはいないのか。

帰って来たら、すっかり状況が変わっているんじゃないかと期待していたんだけどなぁ…。

光さんと満さんは…前の方かな?

「失礼します。」

ひしめいている生徒達の間をすり抜けて、さっき自分達がいた辺りまで進んで行けば、光さんが確認出来る。満さんもいるね。


ついさっき迄、それは綺麗なお姉さまと一緒に居たというのに、光さんにはやはり目を惹かれる。

ボクの周りって、可愛い子や綺麗なお姉さまは多いけれど光さんは抜群だよなぁ…

中等部10指に入る美少女と言われるだけの事はあるよね。そういえば菫さんもなんだっけ?菫さんも別格の美少女だからなぁ。この2人とお友達だって言うだけで鼻が世界一周しちゃうよ。

あと8人はどんな子なんだろうね?

あ、セリナ様がいるから残り7人か。

ん?じゃあ執行部のお姉さま方で大半埋まるんじゃない?残り4枠くらい?

ボク?

ないない。

なづなは美少女だけど、ボクらは…ほら、イロモノ枠だから、ね。10指には入らないよ。


閑話休題(それはさておき)


「光さん!満さん!」

「あ、せりさん。お帰りなさい。」

「おかえり〜。」

満さん、ゆるっ。

「どんな状況…って、進展無さそう?」

「ええ、先生方も戻ってらっしゃらないのよ…。」

「なづなと椿さんは?まだ?」

「まだよ。菫さんも。」

足留めされていたボクが1番早く戻って来たというのもおかしな話だけれど、何故、教員職員の姿が見えない?


例えば…担任は各クラスへ行っていて、その他の先生方がなんらかのトラブル対処の為に出払っている…とか?

いやぁ…それでも全員居なくなったりするかなぁ?


菫さん達が帰って来れば、少しはわかる事があるかな?


ね、なづな











百合沢セリナ嬢

執行部所属だけあって、中々に押しの強い方です。

同級生にも人気がある様ですね。

またまたハイスペックなお姉さまが現れたものです。

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