あわーくらするーむ⑥
|「お待たせしました。」
椿さんと満さんがボク達のところ迄来てくれた事で、メンバーはは揃った。では、行動開始だ。
「まずは、教員棟でクラス用荷物受け取り。次に数量の確認。クラス迄の輸送と配布準備、ですね。」
その通りです、椿さん。
「OK。いきましょう。」
菫さんの号令で出発、歩いている生徒達を追い抜いて昇降口まで一直線だ。混んじゃう前に職員棟へ着きたいな、急げ急げ。
靴を履き替え走り出したその時
「こーら。廊下は走らない。」
後ろから注意の声が飛んでくる。
先頭を走っていた菫さんが、急に止まるものだから光さんが背中に衝突してしまった。
ボク?
ボクとなづなはクルリとスピンの要領で菫さん達の横を擦り抜け、2人の前へ出て突んのめりそうな2人を傍から支え
ふにっ
あ。
光さんの、その、なんだ、双丘の感触がですね、右掌にですね、ねえ?
なんかね、着痩せするタイプなんでしょうか?
その、掌にですね、収まらなかったんですよ。
なづなも、菫さんの感触を味わってしまったらしく、”あ。“って顔してる。
どんなだったか後で聞いてみよう。
ボク達が避けた所為で、椿さんと満さんが支えを無くし前のめりに倒れそうになっているのが見えた。
光さんを支えている手には、まだ彼女の体重が掛かっている。今、離したら倒れちゃう、離す訳にはいかない。けどこのままだと椿さんに手が届かない。
やばい、間に合わない、転ぶ…!
「おっと、…大丈夫かい?」
下駄箱の陰から現れた誰かが椿さんと満さんを纏めて抱き止めてくれて、2人とも転ばずにすんだ。
よかった。
「あ、ありがとう、ございます。」
お礼を述べる椿さんをしっかりと立たせた後
「怪我がなくてよかった。」そう言った声に聞き覚えがある。
「司お姉さま!」
なづなの声にこちらを向いて、柔かに微笑む黒髪ショートカットの長身美人。
「やぁ、ジェミニちゃん。君達も無事かい?」
「はいお陰様で。ありがとうございます、司お姉さま。」
「なに、偶々だよ。」
…いちいちカッコいいなこの人。
「あら司、お知り合いだったの?」
「うん?あぁ、一昨日ね。一緒だったのよ。」
司お姉さまと同じ下駄箱の陰から現れたのは、温和な雰囲気のこれまた美人さん。
なんだろう…どこかで会った事が…なんとなく光さんに似てる?容姿がじゃなくて、こう…纏う雰囲気が。
いや、そうじゃなくて。
最近何処かで…ん?
あ!高等部の生徒会役員の中に居たお姉さまだ!
「私が急に声をかけたせいで、ごめんなさいね。」
「と、とんでもありません!」
「私達こそ、端ない真似を致しました…」
ちゃんと止まったのだから立派よ、と逆に褒められた。
「私は蓬というの。変わった名前でしょう?」よかったら、お名前を教えてくださる?
そんなふうに言われて、否は無い。
「私は、鈴代なづな と申します。こちらは双子の妹で、鈴代せり。どうぞお見知り置き下さいませ。」
2人で軽いカーテシー。もう既にお約束。
「あらあら、まあまあ。」
胸の前で手を合わせて、ふわふわと微笑む蓬お姉さま。気のせいか周囲が明るくなった様に感じる。
…なにこれ。何か妙な能力でもあるの?
「そちらは?」
「は、はい!鈴木菫です!」
「妹尾光と申します。」
菫さんはカッチリとしたお辞儀を、光さんは柔らかな女性らしいお辞儀をする。へぇ…菫さんは体育会的なキビキビとしたカッコ良い動きだし、光さんは所作が洗練されていて綺麗だなぁ。
「まあ、良い所作だこと。」
今度はふわりといい匂いがした気がする。
えぇ…なんなの。
「あなた方は教えて下さらないの?」
「失礼しました!保坂椿と申します!」
「間島満です!」
椿さん達、最敬礼してますね。
「元気が良くて素敵だわ。」
ふぅっと爽やかな香りが吹き抜けた気がする。
ちょっと、ホントなんなのこれ?!
「みんな素直で可愛らしいこと。」
ふふって笑ってボク達ひとりひとりを撫でていく。
「蓬。あまり引き留めると迷惑だよ。」
「あ、そうよね。ごめんなさい。今度、ゆっくりお話ししたいわ。」
教員棟へ行くのでしょう?引き留めてごめんね、お手伝い頑張ってね、あ、走っちゃダメよ?と言いながら司お姉さまと、蓬お姉さまは去っていった。
「なんか凄い人、だね?」
「…うん。超能力でも使ってるのかと思った…。」
そんなわけないんだろうけど。
「せりさんも、そう思った?!」
おっと、満さんが食い付いて来たぞ?
「なんか、温度が上がったり風が吹いたりした様な気がしたの!」
「そうそう。匂いまで漂ってた気がした。」
教員棟に向かう廊下を歩きながら、さっき感じた不思議な感覚について意見を交わす。
現実的に考えれば、蓬お姉さまの持っている雰囲気が、そう感じさせるのだろうけれど、満さんは、いろんな能力名を出して、考察していた。
なるほど〜満さんって、能力バトルものとかオカルト系とかが好きなんだ。ボクそっち系詳しいよ?
なんたって、前は超能力戦士みたいなものだったからね。
「せりさんが、こういう話の出来る人だと思ってなかったから、ちょっとビックリ。」
「そう?ボク、バトル物とか読むよ?」
「なら、今度お薦め持ってくるね!」
「お、それは楽しみ。」
なんて話をしていたら職員室前に着いた…んだけど。
あれ…?
ここであってるよね?
「光さん。受け取りって、職員室前でいいんだよね?」
「そのはず、ですけど…。」
ボク達と同じクラスの代表者が何組かいるのだけれど、皆一様に困っている様に見える。
「あの、どうかしたのですか?」
なづなが、近くの生徒に声をかけている。
「ええと、ここに配布物が積んであると聞いて来たのですけど…ないのよ。」
ない?
「届いて、ない?」
「それもわからないの。先生方がいらっしゃらなくて。」
職員室は施錠されていて中には誰も見えないらしい。
「せり。」
「うん。昇降口経由で校庭に戻ってみる。」
「菫さん、教室に先生がいないか確認、して。」
「え、あ。わかった。」
「椿さん、高等部の方の確認を。どなたでも先生がいらっしゃったら、この状況をお伝え、して。」
「はい!」
「光さん、満さんはここで待機してて。入れ違いになるかもしれない、から。」
「ええ。なづなさんは?」
「用務員室を廻って職員棟の玄関見てくる。確認したら一度ここに戻ろう。いい?」
なづなの指示通りに皆が動いてゆく。
普段はそう見えないけれど、有事の際の決断と行動はとても早い。最良最善ではなくとも、皆が迷っている時のこの決断力はとても心強く頼りになる。
先ずは昇降口まで戻って…うわ、人がいっぱい。
人の波に逆らって下駄箱までたどり着くのも一苦労なんだけど。
お、
ウチのクラスの子達だ。丁度良かった。
「ねえねぇ!先生方って、まだ外にいた?」
「あら、せりさん。職員室に行ったんじゃなかった?…って、職員室に先生いないの?」
「そうなの。職員室に行ったのだけれど、誰もいなくて。外にいらっしゃるのかな、と。」
「え?外にはいなかったわよね?」
「どうだったかしら…?」
「放送委員の方と話していた先生は、いた…と思うけど…。」
「私達より先に戻ったんじゃないの?」
「1年生の担任は、引率していたのではなくて?」
わいわいガヤガヤ
うむ。見事にバラバラだネ!
そこまで印象にないなら、校舎内に戻っている人数の方が多いと見ていいかな?
なら、なづなの方が当たりか。
じゃ、ボクも職員棟に…じゃない。
職員室前の集合って言われたんだから、ちゃんと戻らなきゃ。
「ありがとう、やっぱり職員室戻ってみる。みんなは教室で待ってて。」
ちょっと遅くなるかもだけど。
「ええ、気をつけてね。」
「また後で。」
クラスメイトと別れ、再び職員室へと戻るべく廊下を
走…らないよ?走りませんとも。
さっき蓬お姉さまに注意されたばかりだからね!
流石に走りませんよ。
ここで走ると絶対また止められるもん!
流れ的に。フラグというヤツだね!
急ぎ足ではあるものの、決して走ってはいない速度で
なるべく優雅に。
「鈴代せりさん。」
止められた…
走ってないのに…
フラグは折ったはずなのに…!
そう考えた事が既にフラグだったのかっ!?
「はい。」
声のした方、階段の上の方へ身体ごと向き直る。
見上げたその先、踊り場から二、三段降った辺りに、その人はいた。
ポニーテールに纏められた赤味がかった髪。
薄い碧眼。
白い肌。
ほんの少しある、そばかすが愛らしい。
この人は、さっき、見た。
流石にこの容姿は忘れない。
校庭で、ボク達を見ていた人。
現中等部生徒会役員のひとり
百合沢セリナお姉さま
蓬お姉さま
生徒会執行部のひとり。
規則には厳しいけれど、基本温和な人
高等部三年生
セリナお姉さま
生徒会執行部のひとり
中等部三年生
赤毛、碧眼、色白
およそ日本人離れした容姿の人
フルネームは百合沢セリナ
司お姉さま、優お姉さまも「5年通ってた。」と言っているので、三年生ですね。
✳︎セリナは、ユリの品種で八重の花弁を持っているピンクの豪華な花です。




