あわーくらするーむ⑤
昇降口に降りると、まだ人がいるのが見えた。
ウチのクラスの子達もいるね。
椿さんもいる。こっちに気づいた。
手を振れば、はにかむ様に小さく手を振りかえしてくれる。
あ、行っちゃった。お礼言いたかったんだけどな…後でいいか。どうせ全校集会の後で一緒にお仕事するんだし。
まだ慣れない自分の下駄箱から靴を取り出し、上履きをしまう。なづなは順応するのが結構早いんだけど、ボク新しい場所に慣れるの結構かかるんだよね。ついつい、馴染んだ所に行っちゃって、あ違った、ってなる事が多い。そういう事ない?あるよね?
校庭には大半の生徒が整列し終わっていて、もう始まる寸前といった雰囲気だった。
ボク達はグルリと大きく回り込んで列の後方へと向かったのだけれど、中等部1年生から高等部3年生まで、全ての生徒が並んでいるものだから、自分のクラスの列迄が遠い遠い…。
小走りで移動していても、10人近い人数な上にそれなりに時間がかかってしまうので注目の的になっている。
すいません、すいません!
直ぐに並びます!
整列は番号順なのでボク達は真ん中より前なのだけれど、あんまり移動するのも良くないんじゃないかと思って列の最後尾に付いたら
「なづなさん、せりさん、前、前。列開けてあるから。」
「菫さんも早く早く。」
「光さん、こっち!」
「椿さんここ、ここ。」
クラスメイト達が口々に案内してくれる。
「皆さん、ありがとう。遅れてごめんなさい。」
いいのいいの、大丈夫よ、間に合って良かったわ、菫さんを先頭に列の前の方へ進めば、皆が声をかけてくれた。
自分勝手な理由で遅くなっただけなのに、皆んな優しいなぁ…
みんなにお詫びとお礼を述べつつ自分達の場所へ並んだ。当然だけど前に菫さん、後ろに光さんがいる。
菫さんの前にいる子が一瞬ボクの方を見て、ニッコリと微笑み「後で詳しく聞かせてね。」と菫さんに囁いたのが聞こえてしまった。
…うん。聞かなかった事にしよう。
全校集会という名の始業式は、まぁ定型だよね。
放送委員の司会によって、先生の挨拶、新任教師の紹介、今後の学校行事のおおまかな説明、高等部及び中等部の生徒会の紹介と挨拶、校長先生の訓示等々。
ちょっと気になったのは高等部、中等部の執行部のお歴々かな。全員3年生で3〜4人づつしかいない。
あの人数で切り盛りしているなら、相当に能力がある人達なんじゃないかな…?
…そんな人達の手伝いをしろって…無茶振りが過ぎませんか?花乃お姉さま、蓮お姉さま。
それにしても、執行部の方々…全員が美人なんですけど。中等部のお姉さま方もひとりは可愛い系の顔立ちだけれど、みんな綺麗なんだよね。凄いね。
…あの中に入るのは気後れしちゃうなぁ…見劣りしちゃうだろうしなぁ…うーん…
あ、でも光さんと菫さんなら違和感ないんじゃないかな?2人ともまだ幼さがあるけれど、顔立ちは美人系美少女だし。うん。
集会は進行し、今は執行部役員挨拶が行われている。
中等部と高等部、それぞれの代表者が壇上に上がり、挨拶というか訓示というか、演説?を行っている。
含蓄のある良いお話なのだけれど、大多数の生徒にとっては退屈なんだろうなと思う。
校長先生のお話と同じだね。
そんな事を考えながら壇上の2人を眺めていたら、気付いた。
高等部のお姉さまは、話している時も、後ろに控えている時も全体を見ているのに対し、中等部のお姉さまは時折視線を留めている。
誰かは解らないけれど、複数の個人を見ているのではないだろうか?
現在、控えている中等部のお姉さまは、やはりゆっくりと視線を動かしている。何を見ているのだろうか?
頭髪、制服、アクセサリー等、違反の有無が無いかどうか。とか?
…それは風紀委員の仕事か。
あら?こっち見た。
んん?菫さんを見てない?
視線が移動した。ちょっと後ろを見てる様に感じる…
光さんの辺りに視線が行っているよなぁ…。
あ、また視線が動いた。今度は…
…目があった。
これは勘違いじゃないな…間違いなくボクを見ている。あ、視線が外れた。…なづなを見てるっぽい?
なんだなんだ?なんでボクら4人で視線をとめた?
ボクとなづなだけなら髪の色の所為かな?と思うところだけれど、菫さん光さんもとなると…
まさか、執行部入りを望まれている又は希望している者を見ていた…?
いやいや。壇上から個人を特定したって?
そんな馬鹿な。
…クラスと出世番号がわかっていれば…難しくはないのかな?視力が一定以上あれば顔の識別くらい出来るから、顔を見ておこうと考えたとか?
う〜ん…考え過ぎかな?
お姉さま方の挨拶が終わった後、朝礼台の上に誰も居なくなったタイミングで、菫さんの肩を指でトントンと叩く。
「ん?どしたの?」
菫さんが前を向いまま振り返らずに、少しだけ顔を寄せて聞いてきた。
「…さっき、見られていたの…気づいた?」
「…やっぱり?なんかこっち見てるなぁ、とは思ってたけど…。」
少しだけこちらに顔を向けて
「私も、なの?」
「うん。菫さん光さんボクとなづな、を見てたんだと思う。」
「せりさん達はわかるけど、なんで私まで… 」
そこまで言って気付いた様だ。
「執行部希望者…?」
希望者ではないよ!?
「…値踏みされてたって事かしら。」
値踏みて。
「候補者の顔を見ておこうってトコじゃないかな?」
たぶんね、と付け加えておく。
「…でも待って。私、執行部希望だって誰にも言ってないわよ?」
む?そういえば、その話したの昨日の夕方だね。
「花乃お姉さま達にも?」
「言ってない。最初にその話したの、せりさんの家だったはずよ?」
そうだ、確かボク達の部屋でそんな話をした。
あれが最初なら、執行部の人が知っているはずが無い。…あれ?どういう事?
「花乃お姉さま達、菫さんも推薦したのかな?」
「昨日の今日で?」
「ボク達だって一緒に居たのなんて2日程度だよ。」
そうは言ってみたものの、流石に花乃お姉さまや蓮お姉さまが推薦したという線は薄いだろうなぁ。
えー?ますますわからない。
「まぁいいわ。考えたって意味ないもの。」
気にならないの?!
「どうせ答えなんて出ないじゃない。」
それは、そう…だけど。
いくら考えたところで所詮は想像の域を出ない。
なら、考えるだけ無駄。不毛だと。
菫さんの、こういう潔いところ好きだなぁ
「…ちょっと、やめてよ。照れるじゃない…。」
うえ?声に出てた?!
「…出してた…。」
「ご、ごめん。でも本心だから… 」
「ナチュラルに追い撃ちかけるのやめて?!」
『これにて、全校集会を終了します。』
『気をつけ。』
『礼。』
『直れ。』
司会の人が終了の宣言をした。
「せり、菫さん。先ずは職員棟、だよ」
後ろから、なづなが呼びかけてくる。
「うん。新クラス最初のお仕事だね。」
さて、ここからがボク達のお仕事だ。
実は、せりさん
整った顔だとは自覚していますが、自分が美少女だとは思っていません。
姉の なづなの事は美少女だと思っているのに、同じ顔をしているにも関わらず、自己評価だけが低いのです。
私の同級生にほぼ瓜二つの姉妹がおりまして、妹さんの方が自己評価の低い方でした。
我々他人からすれば、とても可愛い姉妹だったのですが「お姉ちゃんみたいに可愛くないし…」と口癖の様
言っていたのをよく覚えています。
なんとなく、こんな感じだったな、と思い参考にさせて頂きました。