あわーくらするーむ 菫 裏話②
後半部分加筆しました。
あら?
あらあら?
なづなさんが、あわあわし始めたわ?
また振り出しに戻っちゃった…訳ではなさそうね。
何かしら?
気にはなるけど声が聞こえる所まで近付く訳にもいかないし…誰か聴こえている人、いないかしら。
「光さん。なんて言ってるか、わかる?」
「ううん…残念ながら聞こえないわ。」
「椿さんは?」
「…駄目です…ここで聞こえないのなら、前の子達も無理だと思います… 」
そうよね…こちらの方が2人に近いくらいだもの…
「…っ!!」
私達がひそひそ話をしていると、椿さんに口を抑えられていた子が声にならない声を上げ、小さく2人を指さし示す。何事か動きがあったのかしら?
再び教室内の2人に目をやると、そこには
耳打ちをしている双子の姿があった。
これはまた何かのポスターみたいな、絵になるポーズだこと!写真に納めておけば文化祭のポスターとかに使えたかもしれないわね…。
後で同じポーズで撮らせてもらうのもあり、かしら?
「はかっ…!?」
突然、せりさんが悲鳴の様な声をあげて身を逸らしたんだけど、何?
凄く動揺している様に見えるけど。
え?
今度は、せりさんの方が挙動不審になってない?
なづなさん もまだ若干あわあわしたままだけど、何を言ったのか…それ程衝撃的な発言だったんでしょうね。驚愕からの落ち込みっぷりが半端ないもの。
「…どう思う…?」
聞くとはなしにした質問だったのだけれど
「なづなさん だけが知っていた情報があって、それが せりさんにとっては衝撃的な内容だった… と、いう事なんでしょうけど…」
「その情報の所為で、なづなさんの様子がおかしかった?」
「そうだとすると、この後は2人とも変になっちゃうんじゃ…?」
光さんと椿さん達から返答をもらったのだけど…
そ…それは良くないわね…。どうフォローしたら良いのかしら?
「…椿さん。」
椿さんが口を抑えていた子が小声で呼びかけて来た。
「なづなさんが、時間を気にしたみたい。出て来るかもしれないわ。」
「…私達も移動しましょう。私は前の扉の子達と西階段を使います。」
「お願いするわ、椿さん。」
「では、私達は東階段で2人と合流してから校庭に降りましょう。皆さんも宜しくて?」
光さんの言葉に頷き、音を立てない様にこっそりと移動を開始する。。
「私と菫さんは階段で待つつもりだけど、お二人はどうします?ご一緒しますか?」
光さんが後方扉で一緒に覗…鑑賞していた2人に問い掛けた。
「いえ、私達は せりさん達と親しい訳ではないから、わざわざ待っているというのもおかしいでしょ?昇降口まで行っているわ。」
階段で4人で談笑していたという体なら、特におかしくはないと思うけれど…あまりゾロゾロとお出迎えしても引かれちゃうかしらね。
「わかった。また後でね。」
「ええ、また後で。朝から良いものが見れたし、残って正解だったわ。」
今後もこんなイベントが有るようなら、是非誘って頂戴だって。誘うのは構わないけど、早々あるものじゃないでしょうに。…そうでもないかしら…?
2人と別れ、私と光さんは階段手前で待っていますよ、というポーズをとった。
「ねぇ光さん。」
「なぁに?」
「聞いても意味がないのだけど、聞いていい?」
「意味ないのに聞くのね。…いいわ。」
クスクスと笑いながら聞く体勢を取ってくれたのだけれど、正直、聞いても答えなんて出るわけがない。
さっきから自問してはそれを打ち消し、の繰り返しじゃない。なんでこんなに気になるのかしら?
「なづなさん、何があったのかしら?」
「それは、わからないわね。」
そうよね。わかる訳ないわよね。
「ただ、昨日の せりさんみたいな不安定さ、ではないと思うの。もっと違うものじゃないかしら。」
あら、別の予想が返って来たわ。
…違うもの?
「見た印象でしかないのだけど… 」
うん。
「もっとポジティブな…例えば……」
例えば?
「……恋…とか… 」
恋!?
誰が?誰に?!
あ、イヤこの場合は なづなさんが、誰かに、なのか。
…ちょっと光さん!自分で言っておいて照れてモジモジするのやめて?
あ。でも今の光さんって、さっきの なづなさんと似てるかも?相手を思い出して照れてしまった、とか?
なるほど、それなら納得いく。
納得はいくけれど、じゃあ相手は?
お相手がいるのよね?!なづなさんが、あんな状態になるほどに懸想しているお相手が!
それこそ、私の知らない方なんだろうから、考えても意味がない気がするのだけど。
そっかぁ…恋、かぁ。
あんな風になっちゃうくらい想われてる人って、どんな人なんだろう?気にしたって仕方ないのはわかっているのだけど、気になっちゃうわよね。
でも、そうすると…せりさんの想いは届かないって事になるのよね…
物語の悲恋は美しいけれど、目の前にあると…どうすれば良いのか、わからなくなっちゃう…。
せりさんは、あんなにストレートに好意を示していたのに……あら…?
待って…。
ちょっと待って…。
昨日、体育館の告白の時は、せりさんの言葉を全て肯定して、受け入れる様な感じだった。
今日は?
椿さんの話からすれば、昨日と似た様な告白劇があって、その直後から様子がおかしくなった…というか、悶え始めた、のよね?
え…?
まさか…。
まさか本当に…?
…なら。それなら…。
辻褄は、合う。
あくまで現状の、私達が持っている情報が全てだとして、かつ、第三者の存在が無いものとして考えるなら…
なづなさんの想い人って…
「せり、さん…?」
私がそこに思い至ったのとほぼ同時に光さんが呟くのが聞こえた。
思わず顔をあげ光さんを見れば、振り向いた彼女と目が合った。
「…そうなるわよね?」
「勿論、見当外れの可能性はあるけれど、1番説明が付きやすい…わね.」
私達の希望的観測や、願望も多分に含まれている答えではあるけれど、これなら不幸になる人がいないんだから、是非そうあって欲しい予想だわ。
あと気になるのは、昨夜別れてから今朝迄の間に、何があって なづなさんの様子がおかしくなっていたのか、なのだけど。この辺りは、そのうち、ほとぼりが冷めた頃にそれとなく聞けばいいかしらね?
「椿さんには教えてあげた方が良いかしら… 」
「口外法度として教えてあげれば良いのではなくて?」
「うふふ、きっと喜ぶわよ。」
あの子、綺麗な女の子大好きだから。
光さんも相当な美少女なのだし、なづなさん達と並べて置いたら、椿さん大喜びしそうよね。
それにしても、あれだけ好意を示していたのに、今更恋心を自覚したのかしら?
…示していたのは せりさんの方か。
もし私達の予想が当たっていたなら、昨夜から今朝、教室に来る迄の間に“決定的な何か”があったのよね。
2人だけの時間の中で、相手に与える“愛”ではなく、相手を求める“恋”を自覚してしまった。
なんてドラマティック。
…昂るわ。
「菫さん… 」
「なに?」
「お顔が緩みっぱなしですよ?」
え?緩んでる?
慌てて頬を抑えると光さんが吹き出した。
「〜〜っ、あまり笑わせないで……」
そんなつもりは無いのだけど…何か光さんの琴線に触れたらしく肩を震わせて笑っている。
「そ、そんなに笑われるほど変な顔してた?」
「そういう訳ではないのだけど…どう言えばいいのかしら…?」
変な顔をしていた訳じゃないのね。よかった。
せりさん みたいに百面相してたのかと思っちゃった。
あ、せりさんの百面相が変な顔というわけではないわよ?誤解しないでね?
「…菫さんは、おふたりが好きなのね。」
「え?」
突然、何を言い出すの?!
そりゃ好き嫌いで言ったら好きだけど。
「だって、なづなさんのお相手が せりさんじゃないか…という辺りから、明らかに嬉しそうな顔をしていたもの。」
安心してお顔が緩んだんでしょう?って。
…あぁ、そうかもしれない。
確かに、なづなさん達の事は好ましく思っている。
あの容姿もあって以前から興味はあったし、話してみたいと思ってもいた。
実際に話してみれば、自然体で人懐っこい笑顔が魅力的な普通の女の子だったわ。
ただ、なんだろう…妙に惹かれたのよね。
この子達と一緒にいたら楽しいんだろうな。
仲良くなれたら、もっと楽しいんだろうな、って。
近くでこの子達を見ていたいなって。
…思った。間違いなく。
そうか。
そうよね。
私は“2人と”一緒にいたいのね。
だから、2人が一緒に居てくれる事に安心したんだわ。2人の間に溝が出来るような事にならなくてよかったって、思ってるのね。
「光さんだって、そうでしょう?」
「…そうね。きっと好きなんだと思うわ。」
自分の気持ちって、意外とはっきりわからないわよね、と。
「このお話は後でゆっくりしましょう。」
せりさん達出てきたわよ、と教室の方に視線を向けた。
ほんの数分前迄と随分と違って見えるわね。
ちゃんと顔を見て話が出来ているみたい。
それを見てホッとしている自分に気づいて、改めて光さんの指摘通りだと自覚した。
私、この子達が並んでいるのが好きなのね…。
きっと私は、このふたりと並んでいたいんだわ。
何故なのかはわからないけれど、同じものを見て、同じ経験をしていければ良いなって、そう思っているんじゃないかしら。
2人には一緒にいたら楽しそうだから、とか一緒に居れば自分の成長に繋がるとか、偉そうな事を言ったけど、究極的には“ふたりが好きだから”なのかもね。
あぁ、そうすると昨日言った事もあながち間違いじゃなかったのかもしれないわね。
運命、だって。
ふふふ。
「遅いわよ。急がないと始まっちゃうわ。」
また…未完成のまま掲載してしまいました…
まさか寝落ちするとは…