ごきげんよう、お姉さま②
あれ…?
お手伝い開始してない…?
ようやく超ハイスペック長女登場です
彼女のエピソードは、そのうちゆっくりと。
先ずは残念姉の部分から
大人はキライ
戦闘訓練の時、一切の手加減も躊躇もなくボク達を打ち据えた。
性能試験の時、あきらかに無茶な相手と戦わされた。
投薬や生体改造、何度も行われたそれらの行為の中、大人達がボクらに向ける目は…モノを見る目だった。
それでも自我の薄かったボクらは疑問など持たずいわれるがままに行動していた。
実験体とか改造素体とかにされて、子供達はどんどん減っていったったから
けれども、ボクはちょっと特別だったから最後まで問題なく残った。
ボクが“完成”したと判断された日
調整カプセルから解放されて1番最初にやった事
1番キライな目をしていた主任研究員とかいうヤツを
殺した
「おーーーー鈴代姉妹!よく来てくれた!」
高等部の柔道部顧問もしている体育教師…えーと…
「お待たせしました宗方先生」
そうそれ!
宗方先生!大胸筋と三角筋がもの凄い“むなかた”先生!マッスル!
なづな凄いな。高等部の先生までちゃんと名前覚えてるんだ、と妙な感心をする。
なづなが先生と話している横で職員室の中を見回す。他の先生が居ない…という事はもう講堂か体育館で作業開始してるのかな?
「…でだ。君達には式の看板の文字を書いてもらいたい」
「え?それならすずな姉ちゃ、じゃなかった、鈴代先生の方が良いのでは?」
うん、ボクもそう思う。
すずな姉ちゃんは確かどっかの書道会で師範資格がどーのこーのっていうくらい上手かったはずだ。
ボクらもそこそこ上手いはずだけれども、正直比べ物にならない。あれと同列に語られるのは勘弁してほしい。
姉ちゃんが本気で書くと“達筆過ぎて読めない”のだけれどね。
「鈴代先生には賞状と式のプログラムをお願いしているんだ。賞状も結構な枚数があるからなぁ。」
なるほど
そっちを先に頼んじゃったのなら看板はボクらがやった方が早いか
「わかりました。書くのはどちらで?書道室ですか?」
「いや、看板はそれぞれ講堂と体育館に運ばれているはずだ。そっちで書いてもらう事になる」
ほうほう。
「はい。では行ってまいります。」
一礼して退室。
「道具って看板なんかと一緒に行ってるのかな?」
と、疑問を口にしてみた
「あ、そうだよね。書道室に寄って道具借りてった方がいいかな?」
「…そうだね。向こうに無かったら戻って来なきゃいけなくなるから…寄って持っていっちゃおう。」
そうと決まれば書道室にGOだ。
書道室は武道館の二階、講堂の手前にある。
講堂への通り道を一寸横に逸れた場所だ。
高等部で理数系クラスを選択すると、ほとんど来る事がなくなる。
まぁボクは文系志望だから当分お世話になるけれど
書道室に着くと、中で作業をしているのが見える
艶やかな黒く長い髪を無造作に束ねた女性教師
すずな姉ちゃんだ。
「「失礼しま〜す」」
「はいは〜い。あら2人とも」早かったわね、と作業の手を止めてこちらに向き直り漆黒の瞳を柔らかく細め、おいでおいでと手招きする
我が姉ながら綺麗な人だ。
髪と瞳の色以外、ママ似の姉ちゃんは身長も高くスタイルも良い。更には文武に秀で弓道では全国常連の腕前で書道に至っては先に紹介したとおり。極めてハイスペックな自慢の姉である。
閑話休題
見回せば書き終えた賞状が数枚と、これから書くのであろう賞状の束がある。姉ちゃんの手元には、受賞者のリストだろうか、名簿も見える
「これ、全部書くの?」
「予備もあるから全部ではないね」それでも結構な数だけど、と名簿を振って見せる
「それで?こっち手伝いに来てくれたの?」
こてりと首を傾げて質問を投げかけてくる。こういう仕草を見ると姉妹だなぁと改めて思う。ホントによく似てる。
「ううん。宗方先生から看板をって言われたの。だからこれから道具借りて講堂と体育館」手分けして、となづなが説明すれば
「なぁんだ一緒に居てくれないんだ」ぷぅと頬を膨らませて拗ねてみせる
可愛い。
「はいはい。今はお仕事優先ですよ鈴代先生」
「なづなぁ…末の妹が正論でいぢめる」
いぢめてないし。
「もぅ…さくっと終わらせて戻って来るから拗ねないの」一緒にお昼、食べよと宥めれば、一応の納得を得られたようだ。それでもなお両手を大きく広げて
「ん」
これはあれか。
ぎゅーっとさせろ、と
なづなは一瞬の躊躇も無く姉ちゃんの胸に飛び込んでいく。ボクだって自慢じゃないけれど、お姉ちゃん大好きっ子の端くれである。続いて抱きつく。
「朝、寝てるウチに出てきちゃったから」
そう呟いてボク達の髪に顔を埋める
スリスリと顔を動かし…スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ
長い長い
スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ
長い長い長いって!
スーーーハーーースーーーハーーー
スーーーーーーーーーーーーーーーーーー
隣のなづなからうひぃぃぃぃぃって呻き声が聞こえてくる。くすぐったいから身を捩りはするけど決して逃げようとはしない。お姉ちゃん思いだこと。
ボクもだけど。
「はふぅ」
ようやく解放されたボクらはお互いの髪を手櫛で整えている
姉ちゃんは「ご満悦」といった表情で
「さあて妹成分も補給したし、続きやりますかね!」
元気いっぱいである。お役に立てて良かったです。
「あ、そうそう。体育館の入学式の看板ね」
「うん?」
「筆、そっちの棚の30mmより大きいの何本か持っていきな」
え?普通の、あの、立て看板じゃないの?
「明星祭で使ったアーチ使うんだって」
んん? 明星祭って中高等部合同の文化祭の事だよね? あの時、校門に所にあったでっかいアーチの事?
待って待って、高さ4M近くあるアレ?!
嘘でしょ?!
「あれ、組み上がってたら字を書くの難しくないかな?」と、なづなが呟く。その通りだ。たぶん足場なんて用意してないだろう。これは早急に確認した方が良さそうな気がする。
ボク達はアドバイス通り大き目の筆を数本と小さめのバケツ、お徳用ボトルみたいな墨汁を4本ほど持って書道室を後にする
「「すずな姉ちゃん、また後でね」」
「ん。そっちはよろしく」
荷物を抱え急ぎ足で講堂へ。
武道館へ続く階段を降り、講堂へと繋がる渡り廊下を過ぎロビーに入る。
…あれ?誰もいない?
キョロキョロと見回してみても講堂ロビーに人の気配はない
入れ違いになった?それとも皆んな体育館の方で作業してるとか?
そんな考えを巡らせていると目の端に何かが映った。
「あ。」
講堂の外、重たそうな両開きの扉の横、格子窓の向こう側に人がいる。
ちらちらとだけれど複数人いる様に見える。
しまった迂闊だった。外で作業していたのか。何で考えが及ばなかったんだ、十分考えられた事じゃないか。むしろ何で中でやってると思い込んでいたんだ…
…仕方ない
講堂のロビーから広い土間へ降りて格子窓に駆け寄る。
上履きは後で拭いておかないとなぁ、なんて考えながら格子窓の鍵を外し、上に持ち上げる。
「あの、お姉さま方」
「おわぁ!?」
ビクゥッ!と大袈裟に驚いたお姉さまがこちらに振り返り
「びっくりしたぁ…脅かさないで」
ごめなさい。
「申し訳ございません、それで、あの、看板設置のお手伝いに参ったのですけれど…」
「あ、噂の双子ちゃんがお手伝いさんだったんだ。」ラッキー!だって。
何がラッキーなのかはわからないけれど、作業場所はここで間違いない様だ。
もうひとりも中?と問い掛けられてはい、こちらにと応答しながら振り返ると…あれ?
いない?
あ、いや、いた。
バケツと雑巾を持ってお手洗いから出て来たところだった。
流石なづな、先手先手で痒い所に手が届く。考え足らずのボクと違ってよく気付く。
「…います。」
「じゃあ、うーん、どうしようか…」
あの、すいません、お姉さま。実はボク、超爪先立ちで窓枠に顎を乗せて必死にお話しておりまして、そろそろ、ふくらはぎがプルプルし始めています。長考なさるなら一度降りてもいいですか?吊りそうです。
「講堂の正面扉って中から開けられるよね?ならそこから出てもらえばいいんじゃない?」
ここからは見えない位置だけれど、他のお姉さまの声が届く。
「そうね。そうしてもらえるかしら?」
「承知致しました」
ふくらはぎが限界を迎える前に結論が出て良かった。ほぅと安堵の息を漏らす。
「…って事だから」ふくらはぎをほぐしながら、なづなにざっくりと説明する。
「なら、私はこのまま中を通って体育館の方へ行ってみるよ。」これ使ってと足元の雑巾とバケツを指差し、一歩ボクに近づいて来た
コツンと額を合わせ
「行ってくる」
そう一言呟き後ろにぴょんと跳ねて離れていく。
「じゃあ、せり」
「うん。なづな」
「「また後で」」
おや?
お手伝いしてないな…
最後の「おでこコツン」を格子窓から覗き見ていた人がいます。
その辺り、別人視点で番外編を書いてみても良いかな、と思っています。
どのタイミングにするかは決めてません。