あわーくらするーむ④
…は?
え?
今、なんて言われた?
好きが溢れて止まらない、って言った?
「だ…だから、せり の事、好き、だなって思ったら、朝の、恥ずかしいの思い出しちゃって…。」
それで、顔を合わせられなくなって?
「恥ずかしくなるくらい、好きなんだ、って思ったら…また恥ずかしくなって…。」
「ぐるぐるしちゃって… 」
「顔、見れなくて… 」
そっか…ボクを意識し過ぎてこんなんなっちゃったのか…嬉しい、と思ってもいいのだろうか?
いや、嬉しいよ!嬉しいに決まってるじゃん!
ちゃんとボクをボクとして意識してくれてるって事でしょ?嬉しくない訳がない。
…あぁ、でも、顔を見られないのは嫌だなぁ…。
顔を見て、お話し、したいな。
…よし。
「なづな。」
呼びかけても俯いたまま
「な、なに…?」
チラリとこちらを窺うものの、やっぱり目を合わせてくれない。
「見て。」
一瞬、顔を上げても直ぐに逸らしてしまう。
仕方ない…少し荒っぽいけど…。
「ボクを、見て。」
両手で なづなの頬を包み、グッと持ち上げ目線をあわせると赤く染まっていた顔が、更に熱を帯びた。
「ねぇ、なづな。ボクを見て。」
未だに視線を泳がせている彼女の頬をムニムニと抑え語りかける。見て。ボクを見て。ボク、今どんな顔してる?君を好きで、君をに好かれている事を知って、君と一緒に生きたいと願ったボクは、今、どんな顔をしてる?教えて?
ゆっくりと、ボクに視線を向けて、くすっと笑った。
「せり、真っ赤、だね?」
それはそうだろうさ。
ボクだって、収まっていただけで朝の浮ついた気分を、完全に克服出来た訳じゃない。今だって意識すると顔も熱くなるし鼓動だって早くなる。
「そうだよ。ボクだって、なづなを見たら、こうなるんだよ?」
「だ…って、仕方ないじゃないか、あんな、ぷ、プロポーズ、みたいな事、言っちゃってさ… 」
「言った時は平気だったんだけど…… 」
今度はボクが なづなから目を逸らしてしまった。
これじゃダメだ。ボクが君といて、どれほどドキドキしているのか。ちゃんとわかってもらわなくちゃ。
なづなの手を取って、両手で抱く様に自分の胸に押し当てる。
「…ねぇ、わかる?まだ、こんななんだよ…?」
未だ早鐘の様なボクの心臓は、目の前にある なづなの存在と、その なづなの手が自分の胸に触れているという事実だけで、破裂しそうな程に大きな音を立てている。
「なづなが、側にいてくれる。それだけで嬉しくて。こんなに胸が高鳴るの。」
なづな が恥ずかしくなるくらい好きが溢れるって言うなら、ボクだって心臓が飛び出すくらい好きが溢れてるんだよ。
「早いね…こんなに早い…。」
「私だけじゃ、ないんだね。」
俯き気味に目を閉じたまま なづなが柔らかく微笑んだ。
ゆっくりと目を開けて、今度は上目遣いでボクと目を合わせてくれる。まだ頬は赤いままだけど、今度はしっかりと。
「ねえ、せり。」
「なぁに?」
「…私、まだちょっと、ふわふわしてるの…もしかしたら、また、急に目を合わせられなくなるかも…しれない。」
「そしたら…ごめんね?」
急にそうなっちゃたら、さっきみたいにちゃんと話せなくなるかもしれないから、先に謝っておくね。だって。
うん、わかった。
取り敢えず、今はかなり落ち着いてくれたみたい。
心臓の音って、凄く人間の精神に影響を与えるって聞いた事があるけど…こんな鼓動が早くなってたら、逆に落ち着かないと思うんだけれど。
大丈夫だったのかな?
普通は平常時の心音で安心させるんでしょ?
あれ?それって赤ちゃんの話なんだっけ?
まぁいいや。
ボクだって、なづなの心音聞いたら落ち着くのかもしれないし。
だって双子だし。ママのお腹の中でずっと聴いていた、自分以外のふたつの心臓の音。
安らぐんじゃないかなぁ?
そういえば…
「ね、なづな。聞いていい?」
「うん?」
「もし、また“恥ずかしい”が止まんなくなったらさ… 」
「う、うん…?」
「上書き大作戦、やってみる?」
そう言った途端、なづなの顔が今迄見た事もないほど青くなり、続いて赤くなった。
え、なに、今の?!
「や…!やらないよ?!やだよ!?」
え、そんなに全力で否定する程の方法なの?
そこまで全力だと、なんか気になるんだけど?!
「…ボクも一緒にやるから、って言っても?」
今度は顎が外れそうなくらい驚愕の表情をしている。
「だだだだめだよ?!あ、あんな事、せりに、させられる訳ないじゃない!」
あんな事…?
いったい、どんな作戦だったんだろう?
気になる。
「なんか、スゴイ気になるんだけど… 」
「ダメだよ?!絶対、ぜったいダメだからね?!」
やるならひとりで…や、やらない!出来ないよ!と葛藤しつつ悶絶している。
「じゃ、じゃあ…やるやらないは別にして、どんな方法なのか、教えて?」
そう言うと物凄く渋い顔をした後、う〜ん…と首を捻り考え込んでしまった。
そんななの…?
「…教えるだけ…なら。」
教えてくれるの?!
「教えるだけ…だよ!?」
「絶対やらないからね?!」
「絶対やっちゃダメだからね?!」
わ、わかった。やらないです。
「ホントに、ホントだよ?!」
そんなに念押しされる程なの?それとも、ボクだったらやっちゃいそうだと思われてるんだろうか?
…内容によるけれど、ボクなら出来るって事?
あ、でも“やらない”って言うんだから なづなにも出来る事ではあるのか…。
はぁ〜、ふぅ〜、と息を整えて
「…すずな姉ちゃんが言ったのは…その、し… 」
そこまで言って眼を泳がせ、逡巡する。
口に手を添えて、内緒話の様なポーズを取ったので耳を寄せて聞く体勢を整えて待つ。
「…その、下……を、は………で過ご……って…。」
「……は?!」
「はかっ…!」なづながボクの口を両手で抑える。
思わず声をあげそうになったけど、言えないよ!
いや、無理だって!
こ、こんなのっ!出来る訳ないじゃん!
た、確かに!行為としては出来るよ!?出来るけどもっ!出来ないよ!これは確かに恥ずかしいを上書きできるっ。
出来るけどっ!
無理っ!
姉ちゃんってば!
なんて提案をするの?!
いや“やるって言い出さなくてよかった”って言ってたんだから、本気でやらせる気は無かったんだろうけどっ。
恥ずかしいがらせる為の方便なんだろうけれどっ!
いくらなんでも、これは…っ!
ち…ちじょ、じゃないっ!
こんなのっ
万が一、見られたらっ…!
軽く死ねますねっ!?
「…ごめん、なづな…これは、出来ません… 」
「やっちゃダメだよっ?!」
なるほど、朝なづな が、あの状態だったのも納得出来る…これは、キツイわぁ…
なんにしろ、すっごい脱力しました…脱力したら楽になった気がする…。朝も思ったけど、これ狙ってるんだったら凄いな…。
はぁ、と息を吐いたところで気付いた。
教室に誰もいない…。
あ!
全校集会!始業式!
校庭に集合だった!
…え?
クラスのみんな、ボクらが話してたから気を遣って、声を掛けずに移動してくれたの?
うわぁ…最初から気を使わせちゃったのか…
ごめんなさい…。
「せり、校庭、行かないと…!」
「うん…そうだね…行こう。」
慌てず急いで、走らないように。
廊下に出て階段の方へ…あれ?
誰かいる?
「遅いわよ。急がないと始まっちゃうわ。」
菫さん、待っててくれたんだ…。
「無事にお話しは終わったのかしら?」
光さんまで…
「うん。おかげさまで。」
「菫さん、光さん。…ありがとう。」
2人は顔を見合わせて、ふふふと笑い合った。
「「どういたしまして。」」
「けど、お礼なら後で椿さんにも言ってあげてね。」
椿さん?
「あの子が、あなた達に集ってた野次馬さんを誘導して散らしてくれたのよ。」
「今回1番の功労者よ。」
なんと…
「それは、よくお礼言わないと、ね。」
「…そうだね。」
椿さんも良くしてくれたんだなぁ。
知り合ったばかりなのに。
…いい子だよね。
「さぁさ、今は兎に角急ぎましょう。」
告白の続きですね
今回、会話が上手く転がらなくて大変でした…
たったこれだけのエピソードが、全く進められないという事に驚愕です…会話の誘導が上手くいかず、勝手に喋り出しては思わぬ方向に進み…
何度も手詰まりになってしまい、全ボツを繰り返し…
難産でした…