ほわいどんちゅーだんす㉔
ご無沙汰しています
『 ぴゃあ 』…とな?
いや、なづな が嘘を吐くとは思えないから、実際やっていたのだろうし言っていたのだろう。たぶん。微妙に信じたくないけれども。
…そっかぁ…ぶりっ子ポーズで『 ぴゃあ 』…まぁね、他の子がやっているのを見たら『可愛いなぁ 』とか思うんだろうけれど、自分がやっていたと思うと…なんかこう…むずがゆいなぁ。
ま、それはさておき。
「さておくんだ? 」
はい、おいときます。
で、ですね。話を戻すと…お姉様はボク達の正体に辿り着く事が出来ると思う?
まぁ推理でも何でもなく、単に記憶を掘り起こせるかどうかの問題ではあるけれど。
「別に辿り着かれて困る事もないからねぇ。ど忘れはキッカケがあれば一瞬だよ。」
ふむ、確かにそれはそうだ。何かヒントがあればズルズルって思い出すモノではある。
…ただ、そこまでが…知っているはずの事を思い出せない時って、何故か堂々巡りになるんだよね。何か閃いたみたいに『これか?!』ってなっても『あ…これさっき違うって結論づけたヤツじゃん… 』って。
気持ち悪いんだ、これが。
「普通に気付くんじゃないかな? 私達この辺じゃ珍しい苗字だもん。」
あぁ名前。
確かに苗字は珍しいか。
ん〜、でも生徒会執行部のメンバーの名前なんて覚えてないんじゃないかなぁ?
顔は兎も角、名前となると…ボク達だって蓬お姉様や真弓お姉様の名前、知らなかったじゃない?
ましてや6年前となると、どうかなって。
「あ〜そうか…そうだねぇ。いや、でも… 」
中断していたストレッチを再開しつつ“お姉様が正解に辿り着けるか談義”が続く。ま、そうは言ってもこの会話自体に意味は無いし答えだって出るはずもない。なんとなく続けているだけなのだ。いつ途切れても話題が変わっても構わない。
要は雑談。よしなしごと、というやつです。
「あ、そういえば。」
ふと思い出した様に なづなが顔を上げる。
ほら来た話題の転換点。
「さっきお姉様のお友達? に聞いたんだけど、今来ている人達、近々競技会に出場するんだって。」
ほほう、なるほどね。
それで先生の所へ練習に来てるんだ。
「しかも。」
しかも?
「デビュー戦らしいよ。」
デビュー戦!…デビュー戦?こういうのもデビュー戦って言うのかね?ま、まぁ初参加って事だというのは伝わるけれど。
「けど、リーダーが2人しか居ないから掛け持ちになりそう、みたいな事言ってたの。」
へぇ、それはまた…
ん? もしかして、ここに居る人で全員なのかな? もしそうなら男性は2名だけだし完全に人数不足だけれど…てっきり大学のサークルとかで近場に住んでいる人だけがここに練習しに来ているものだと思っていたけれど…違うのか?
しかしまぁ、デビュー戦って事は始めてからそれ程経っていないのだろうし、最近始めたというのならばリーダー不足は仕方ないだろうね。年配のご夫婦が一緒に始めるというのと違って、若い人が始める時は1人でってのが大多数だし…若ければ若いほど圧倒的に女子の比率が高くなるらしいから、必然的に男性ダンサーが不足…即ちリーダーが不足するのだ。
それ故にジュニアクラスだと女の子同士のカップルも出られる競技会が多いのだけれど。そのせいでというか、そのおかげで? 『出てみないか 』というお誘いを何度受けた事か。
そりゃあね、なづなの凄いところとか可愛いところとかをさ、みんなに見せてあげたいな、見て欲しいな自慢したいなって気持ちもあったのだけれど…ボク自身が…みんなの前で踊る…衆人環視の中でってのがね、ちょっとね、かなりね、抵抗がね…。
なら、なづなだけ出場すれば良いんじゃないかって? えぇヤダよそんなの。なづなのパートナーはボクで、ボクのパートナーは なづなが良いの。そりゃね、決して、一回たりとも、絶対に、駄目って訳じゃないけれどさ、やっぱり なづなに釣り合う人じゃないとヤじゃない? 最低でもボクより上手で、なづなを尊重して、ちゃんと輝かせてくれる相手じゃないと。誰がなんと言おうとこれは譲らないよ?
ん?……あれ? …待てよ?
その条件だと結構…いや、かなり居そうだな? ボクより上手い人なんていくらでも…
あれ?
それだったら…任せて…
って、いやいやいや!
ありえない!
パートナーはボクだって言った側から何を言ってんだ!うおぉ、また思考が行ったり来たり!いい加減思考の迷路に嵌るの止めようよボク!
「せり? なに唸ってるの? 」
へ?
あ、なに?
唸ってる?
ボクが?
「唸ってたよ? ガルル〜って。」
いや、その、ちょっと考え事をね?
していたのだけれど…唸ってた?
ガルルって?
そんな犬じゃあるまいし… ホントに?
「ホントだよぅ。」
肩のストレッチをしているボクの眉間に指を当て、左右に伸ばす様にグリグリ擦りながら『景勝さんになっちゃうぞ? 』と言ってクスクスと笑った。
景勝さんって…上杉の景勝さん?
あぁそういえば前に読んだ本に出てたっけ。確か、ほとんど笑った事が無くて眉間に深い皺が……って、え?!ボクそんなに顰めっ面してた?!
「してたしてた。なんかデレっとしたりギュッて眉間に皺寄せたり、唸ったり。百面相? 」
おおぅ…。
「何を考えて…あ、もしかして自分が競技会に出場するのを想像したの? 」
や、それは想像しなかったって訳でもないけれど…そうじゃなくって…え〜と…笑わない?
「ん? 笑わないよ? 」
ホントかなぁ…まぁ良いけれど。
んとね、なづな が他の人をパートナーにして競技会に出場したらって考えちゃってさ…それはちょっとヤダなぁ…って。
あぁいや!勿論なづな のパートナーもリーダー役だって誰にも渡すつもりはないよ?!
ないけれどね?!
でもほら、正直なところボクより上手な人なんて五万といる訳じゃない?
なづな を一層可愛く美しく魅せる事が出来るのならそういう人に任せた方が良いんじゃないかなぁ…なんて、思ったり、しなくもないって言うか…や、でも頭で理解っていてもそれはイヤだなぁってね、考えちゃってね、だから、その…
「ははぁ、想像上のライバルを威嚇してたんだ。」
威嚇…!?
…ああそうか、なるほど。
唸ってたっていうのはそれの事か。…唸りもするって…。
なづな は『ふむ 』とか言いながら後ろ手に組み、真剣な表情で肩を後ろに逸らし、胸を開き、そのままゆっくりと上を向く。グッと腰を逸らして天井に顔を向けた辺りで、笑いとも吐息ともつかない声を漏らした。
「…ふ、ふふふっ…。」
中腰で肩入れをしていたボクからは顔が見えなかったが、おそらく笑っているのだと思う。微妙に腹筋がピクピク震えてるから、多分ね。
…笑わないって言ったのに…。
まぁ言った手前、ボクに笑っているのを見られない様に上を向いた…ってのは理解っている。わかってるんだけれど。
「せり。」
上体を反らせ、上を向いたまま暫くピクピクと腹筋を震わせていた なづなが、『ふぅ』とひとつ息を吐いた後、ふいっと体を起こしてボクの名前を呼んだ。相変わらず顔は天井に向けたままだが。
ん〜?
なぁに?
ボクもボクとて肩入れの体勢を維持したまま、ほぼ生返事とも言える返し方をする。まぁ、要するにお互いの顔を見ていない状態な訳だ。
そして、次に なづなから発せられた言葉のあまりの衝撃に、ボクは肩入れの体勢の状態で身体が固まった。
「…やきもち、妬いてくれたんだ? 」
? …!!!
やきもち?!
やきもちと言ったか?!
やっ…!やきも…!!!
そっ、それっ…は、違っ……!
あ?! いや、違わない?!
あれは嫉妬か!?
ボク以外の誰かが なづなの手を取るという事に対しての?!
嫉妬!?
嫉妬か?
嫉妬だな…。
嫉妬かぁ…。
ぬぅ…我ながらなんと狭量な…!
…いや!狭量なのはそうかもしれないが、なづなも何故に今それを指摘する!? 直接、狭量だ、と…、そう指摘された訳じゃないけれど!…いやいや何をいってんだボクは?!指摘されたのは“やきもち”だ。狭量かどうかって事じゃない…って、なんか慌て過ぎて思考がとっ散らかっているぞ?!落ち着け、先ずは落ち着くんだ!……はっ!? これはもしかして…照れ隠しというか、笑った事を誤魔化す為にボクを揶揄うとか、そういうパターンかっ?!そうであれば、きっと!今!なづな の顔を見たらニヤニヤしているに違いない!くっ…!ならばっ…これはアレだ、言われっぱなしにせず『 そうだよ 』と敢えて肯定し、以降の追撃を躱わすのが上策と見た!
そうだ、それでいこう…!
よし!決めた!
ちなみに『 妬いてくれた〜… 』からここまで訳3秒!
「…そ…そうだよ……悪い? 」
その言葉を口にした途端、ブワッと汗が噴き出した様な感覚に襲われた。
…あれ? あれあれ?!
予定ではもっと軽く言うはずだったんだけどな?!モゴモゴと口篭ってはっきり言えなかった上に、視線を逸らしたままだったから…なんか素直になれない人が拗ねてるみたいになっちゃったぞ?!
や、そりゃ実際の話、素直に認めるのも癪だし、揶揄われると思ったからさ、先んじて予防線のつもりで虚勢を張る事にしたワケなのだけれども!…こ、これじゃ殆ど今の心情そのままじゃないか?!
自分の顔が熱を帯びてゆくのがわかる。
これは…やってしまった感が否めないな?!
……って、あら? なづな からの反応が、返って…こない…? 無反応というのは予想していなかったぞ…?
恐る恐るというか、そぉっとというか…ギギギと音でもたてそうなゆっくりとした動きで硬直したままの首を無理矢理動かし、やっとの思いで なづなを見上げると…
こっちを見ていなかった。
顔は見えないが、真っ直ぐ前を向いている。
てっきり“したり顔”で見下ろされているものだと思っていたので、これも予想外である。
…
……
…んん? …肩に掛けたタオルで汗を拭う仕草をしているが…別に汗かいてないよな? 拭いている場所も額や首じゃなくて、なんか妙に口元を覆う様な格好で……ていうか、これ、汗を拭いているんじゃなくて…顔を見られない様に隠してる? …なんで?
少々不思議に思ったので一寸だけ視線を上げて下から覗き込む様にすると、真っ直ぐ前を見ていた なづなの視線が一瞬…一瞬だけボクの方を向いて、すぐに逸らされた。
…んん?
何故に逸らす?
これは…怒ってる…わけじゃ、ない、な…?
今、ほんの一瞬だけれど、目が合った時に見えたのは怒りとかじゃなくて、なんというか…ちょっと『 困った 』みたいな…いや、少し違うな…もうちょい複雑な感じの…うぅ〜…上手く表現出来ない。
なんにせよ、だ。もう少しちゃんと顔を見たいと思ったので、上体を起こしつつ前の方にグッと身体を…
べちっ
あだっ?!
前側から顔を覗き込もうとしたら突然、なづなの掌がボクの顔を覆う様に当てられた。叩かれた…というより、視線を遮ろうと手を伸ばしたら当たっちゃったって感じだったが。
「あ!ごめっ… !」
謝罪を口にするのと同時に慌てて手を引っ込め、ボクの方へ振り向く。ボクは なづなの方を向いているのだから今度は当然バチッと目が合った訳だ。
…合ったのだけれど、また直ぐに逸らされてしまって、おまけに再び掌がボクの顔に向けて飛んで来るじゃないですか。
…2回目ぇ?!
べしっ
おぶっ?!
今回は狙い澄ました様に真っ直ぐボクの顔面に向かって来た。わかっているのに何故か避けらんないんだよなぁ…や、まぁ、今それはどうでもいい。そんな事よりも、だ。
今の一瞬に見えた眼は…やはり、困惑というか迷いみたいな感情を湛えていた様に思える。勿論ボクの勘違いじゃなければだが。
うぅむ…さっきのボクの言動に なづな を惑わせる様な言葉が含まれていただろうか? …はて…心当たりがあるとすれば直前のあれ…ちょっと素直になれない、所謂ツンデレ的な受け応え…だけれど。
…いやでもさぁ、あんなので困るとは思えないよね? どちらかと言えば『 似合わない 』って笑われそうな態度だったと思うのだが。
なんにせよ なづな の反応が妙だってのは事実だし? それが“何故か”というのは気になるところでありましてね? 一度そう思っちゃうとさ、確かめたくなるじゃない?
そんな訳で、観察。
掌がボクの顔を覆っているとはいえ完全に視界を塞がれてはいない、隙間はあるのだ。指と指の間、その隙間から なづなの顔を覗き見る。
どれどれ? …う〜ん…先程と変わらず真っ直ぐ前を向いているうえに口元のタオルのせいで、どんな表情をしているのか全くわからない…やはり意図的に表情を隠しているっぽいなぁ。
ちょっとこっち向いてくれない?
ちょっとで良いから、ね? ほら、ちょっとだけ、なづなってば。
…などと頭の中で呼びかけながら、斜め下から横顔を見つめ続けているのだが…
じぃ〜…
…こっち見ないな…
じぃ〜〜…
…見ないかな…?
じぃ〜〜〜…
…見てくれないなぁ…
う〜ん…あ!顔に当てられてる掌、ペロってしたら驚いてこっち向くかも!……いやいや…ダメだな。それじゃあ例えこちらを見てくれたとしても“今の表情”ではなく“驚いた顔”になっちゃってるはずだもん。
今どんな気持ちなのかを知りたくてたくて“今の”表情を窺いたいのだから、驚かせてしまったら顔に出る感情そのものが変わってしまう。それでは本末転倒である。
そしてチョップかアイアンクローが炸裂するであろう事も想像に難くない。
よって先の案は却下。
…むぅ…どうにかこっちを見てくれないかなぁ…。
じぃ〜…
なづな?
じぃ〜〜…
こっち見て?
じぃ〜〜〜…
う〜ん…だめかな……ダメそうだな…。
ちぇっ…残念無念。
目を伏せかけた正にその時、前を向いていた なづなの顔がちょっとだけ此方を向いて…
あ。
目が…合っ……?
諦めかけた瞬間だったのもあって、驚いて思わず目を見開いてしまったのだけれど、何故か なづなもビックリした表情で、けれども今度はさっきみたいに目を逸さなかった。
というか固まった。
ありゃりゃ…驚き顔になっちゃったかぁ…
う〜ん、まあ、そうなるよねぇ。
さっきの“困惑”の様な表情の理由が知りたかったから、もう一度その顔を見たかったのだけれど…これじゃわからないな。
まぁ仕方な… ん? あれ? 待てよ…なんか…ちょっと様子が…?
…んん? 顔、赤くない?
なんで?
え?
あれ?
どうして …あ…まさか体調を崩しちゃった、とか…や、そういう訳じゃなさそうだけれど…
あの、なづな…?
大丈夫?
「…だ、大丈夫、大丈夫だから、ちょっと待って…。」
ボクの顔を抑えているのとは逆側の手で自分の顔を隠しながら、ふいっと視線を逸らす。普段ならあまりしない仕草だ。
…あれ?
あれあれ?
これは…
もしかして
照れているのか?
…
……
………
…………何に?
ぼちぼちですが
書き始めたいです…




