おはようお姉ちゃん③
せり 心語り その後
目覚めれば、いつものなづながいて
おはよう、って言ってくれる。
いつもの情景。
ボクも起き上がり、なづなの正面に座ってじっと見つめる。
不思議そうな顔をしている彼女に、そっと両手を伸ばし、顔から首、肩から胸、腰、脚と掌を滑らせていくと、くすぐったそうに顔を歪めた。
「なぁに?どうしたの?」
女の子座りしている、なづなの腿をさすり、実体がある事を確かめて。両手を彼女の膝の上に置き、下から覗き込む様に顔を見た。
碧と菫色の瞳も、桜色の口唇も、長く密度の高い睫毛も、確かにここにある。
「なづな。いるよね?」
「?…いるよ?」
「ボクにしか見えない幽霊、とかじゃ、ないよね?」
「…えぇ…?」
「昨日、事故で死んじゃってるとか、その現実に耐えられなかったボクが見てる幻覚とかじゃ、ないよね?」
「設定が細かいね… 」
「ちゃんと、いる、よね?」
「…どんな夢見たの… 」
はぁ、と溜息を吐いて
「鈴代せりの姉、鈴代なづなは、実在の人物です。架空のアニメ、漫画等の設定は一切適用されません。」
ほら、と両手を広げて見せる。
整った顔立ち、しなやかな腕、筋肉のラインが美しい肩、うっすらと割れた腹筋、可愛いおへそ、形の良い乳房、彫刻の様な脚。
うん。
全 裸だーーーーーー!
うわ、綺麗、じゃなくて!
ななななんで
のけぞり、背後に手をついた時に気づいた
ボクも だーーーーー!
自分の身体を見下ろして絶句した
全裸だーーーーーー!
ボク、さっきまで、この格好で、なづなに抱きついていたのか!道理で柔らか
いと、じゃなく!
「感情、忙しないな。」
なづなが笑いながら腰に手を当て、胸を張る。あ、ぷるん、ってした。いやいやいやいや!違う違う!
「何を恥ずかしがってるの。お風呂だって一緒に入ってるじゃない。」
何を今更。見慣れたものでしょ。って。
お風呂の裸とベッドの裸は、同じ裸でも全然違うんですよお姉ちゃん!
「そう思うのは邪念がある、から。」
え?
「そんな風に心が汚れてしまったなんて、お姉ちゃん悲しい。」よよよ。
ヒドイ!
あんまりだ!
言うに事欠いて!
「私は、せりに見られて恥ずかしいトコロなんて、ひとつも無いもの。心も、身体も。ぜ〜んぶ。」
うぬぅ…!
「そして、せりの身体はいつでも見たい。」
は?!
「だって、大理石の彫刻みたいなんだよ?」
なんだよ、って言われても!
「2人だけなんだから、良いじゃない。」
他の人に見せる気はないよ!?
「それはそうだよ、せりは私のだもん。」
………え…?
「私は、全部せりのもの、だよ?」
こんな、こんな告白みたいな…
「告白だよ。」
こっ…!?
「そう。愛の、告白。」
か、家族愛とか、姉妹愛とか、あ、あるもんねっ!?
「もちろん、それも含めて。」
なづな は少し考えを巡らせる様に視線を落とし、数舜の後、顔を上げ、射抜かんとばかりに眼を合わせた。
「私は、鈴代せりを。愛しています。」
…本気だ。本気で言ってる。真剣な、こんなに真剣な瞳で、真っ直ぐに見つめられたら、誤魔化すなんて出来ない…。そんな事、しちゃいけない。ちゃんと応えなくちゃダメだ。ちゃんと、ボクの気持ちを。
そうだよ。覚悟なんて、ずっと前に、出来ているんだから。
「…なづな。」
「うん。」
「ボクは、なづな が、いなきゃダメです。」
「うん。」
「なづな が、いなきゃ、生きていけません。」
「うん。」
「なづな が、好きです。愛してます。」
「うん…。」
「一緒に生きて下さい。ずっと。」
言った。言ってしまった。今迄も似たような台詞は言ってた気がするけれど、こんなに真剣に、面と向かって言ったのは…初めてな気が…する。
だって、これ、愛の告白というより、プロポーズだよね。
「よろこんで。」
ボクの手に、手を重ね微笑む。潤む瞳がとても綺麗だと
「また孫が遠のいたよ?ママ。」
え。今の声、何?何処から?誰?なんて言った?
今まで見ていたはずの、なづな の顔を改めて見る。
その視線は、ボクの右後方…扉の方をに向かい、表情は凍りつき、額には滝の様に汗をかいていた。
「…仕方ないわね。娘の幸福が最優先だもの。まぁ、もう一人産むって手もあるし。」
その声にボクは、弾かれた様に首を回し扉の方へと目を向けた。そこには。
扉に寄りかかりこちらを見ている長姉と。
しゃがんで両手で頬杖をつく母の姿が…
……え。
待って待って?
いつからそこに居たの?
どこから聞いていたの?
嘘でしょ?聞いてたの?黙って?あれを?
確かに、確かに言った言葉に嘘はないよ?!その気持ちにも、なんら恥じるところは無いよ?!誰に憚る事もない偽りの無い気持ちだよ?!けど、その現場を!選りに選って姉ちゃんとママに?見られていたってっ!?
…全身から汗が噴き出た気がする。
「あの…どこから…?」
口を開いたのは なづな だった。
「ん?え〜と、“なづな、いるよね?”のあたり、から?」
それ、最初から…
「忙しないな、くらい?」
後半はまるまる、だね…
「な…んで、見て…」
「可愛い妹が全裸で見つめ合ってれば見るでしょう普通。気になるじゃない。」
そ、れは、そう、かも…だけど… いや、違う、騙されるな、普通、じゃない。
あぁ、でも。でも、例えば、すずな姉ちゃんと なづな が、は…裸で見つめ合って…たら……見るかもしれない…。見続けるかも、しれない。だって、きっと綺麗だし…。
「一段落したなら服を着なさい。まだ余裕あるけど、気持ちの整理する程の時間はないわよ。」
「…ママ!」
なづなが叫ぶ。
「ママは、変だと思わないの?!わ、私達、双子の、姉妹…なのに… 」
「なづなは、変だと思ってるの?」
「世間一般…から、見たら、たぶん。」
「そう。それをわかってて選んだんでしょう?」
「それ、は…うん。」
「なら、良いじゃない。」
…良いの…?ママは、それで…?
「さっき言った事、聞いてなかった?娘の幸福が最優先、なのよ。ママはね。」
腰に手を当て
「たぶん荊の道よ。齢13にして、そんな道を選ぶとは思ってなかったけどね。」
「それでも。」
「選んだなのなら貫いて見せなさい。」
堂々と言い放つ。
はいはい、わかったら、さっさと服着て降りて来なさい、すずな もね、と言いながら去って行く。
我が母ながら凄い女性だ…
実の娘が世の常識から外れても、“本人が選んで、幸せだというのならそれで良い”なんて、言える?言えないよね。“普通の幸せを掴んで”って常識を押し付けるのが普通じゃない?肝が据わっているというか、芯が通っているというか…いつか、こんな女性になれたらいいな。
「まぁ、あんた達が好きあっているのは知ってたから、別に驚きゃしないけど…。」
「朝っぱらから裸で、は予想外だったわ。」
可愛い妹を堪能出来たから問題ないけどなどと言って溜息を付いている姉を見遣り、疑問を口にする。
「すずな姉ちゃんは、変だとか、思わない…の?」
「全然。」
即答された。
「何が変なの?」
逆に質問された…。
「だって、姉妹で…女の子同士で… 」
「反対したり、しないのかな、って… 」
「…あのねぇ… 」
すずな姉ちゃんが、ゆっくり近づいて来て、ベッドの脇に膝をつきボク達と目線を合わせた。
「反対しても無意味なのよ。」
「誰かを想うって事は、止められないの。自分ですらね。」
「一緒にいる事は許さないって言われたら諦められるの?出来ないでしょ?特になづな。」
なづなが、名指しされて背筋を伸ばす。
「例えば遠くに引き離されて会えなくなったとしても、あんたの事だから、せりは元気かな、ご飯ちゃんと食べてるかな、風邪ひいたりしてないかな、夜泣いてないかなとか、始終心配してるに決まってる。」
うぐっ、っと詰まる。
「せりは、どうにかして逢いに行こうとするね。」
…否定できない。
「あなた達が大事に想った相手が、偶々、女の子だったってだけの話よ。」
そんなんで、良いのかな…?
「それに。」
「今時、女同士なんて珍しくもない。」
ふんっって鼻息をひとつ。
両手をボク達の背中にまわし抱き寄せる。
「ママも言ってたでしょう?可愛いあなた達が幸せであれば、それに勝るものなんて無いの。」
ボク達も、すずな姉ちゃんの背中に手を回し抱き締めた。
「「ありがとう、姉ちゃん。大好き…。」」
すずな姉ちゃんはカッコいい。
昔からそうだ。顔の造形は優しげなのに、凛として撓やかで。穏やかなのに熱くて。何でも出来るのにそれを鼻にかける事もない。自慢の姉で憧れの女性。
「さ、ホントに時間なくなっちゃうから、服、着なさい。」
そう言ってボク達から離れた姉ちゃんが、ドアの所で立ち止まり、ヒョイっと両手で胸の前に弧を描いて
「成長している様で何よりだわ。」
台無しだよ、お姉ちゃん。
メタ回から日常
この落差。
ヒドイですねw