ほわいどんちゅーだんす⑧
序盤のみの投稿です…まことに申し訳なく…
23:30加筆しました。
「なるほどね、二人だけで踊ってるウチに変なリズムで癖がついちゃったと。」
「それだけじゃないとは思いますが…おそらく最大の要因はそこにありそうな気がします…。」
先程スタジオに入って来た奥さん先生に事のあらましを説明中です。当然ながら説明は主に なづなが担当していますね。
ボクだと若干…若干ね、抽象的な感じになりそうだし、整理して話すのは なづなの方が上手だからね。いやボクが説明下手っていう意味じゃないから、そこは誤解しないでくれるかな?
…ちょっと、しないでってば!
…こほん。
説明を受けている奥さん先生はと言えば、さっきの少しぼんやりした説明でもボク達の症状を把握したらしく、『なぁんだ、そんな事か。』と、まるでたいした事ではないといったふうに笑っていた。
こういう癖の矯正って結構大変な気がするんだけれど、何かいい方法があるのだろうか?
「うん、じゃあ先ずは姿勢から直していこうか。」
…はい?
姿勢から、ですか?
「そうよ。基本から、徹底的に、やり直していきましょうね。」
さ…最初っからですか!?
そ、そりゃ、やれと言われればやりますけれど…徹底的にって……あ、そういえば…ご挨拶に伺った時に『ばっちりしごく』的な台詞を聞いたっけな…。
「なづなちゃん。立ち方のポイント、覚えてるよね。」
「は、はい。頭の天辺で上から吊られているイメージで背骨を真っ直ぐに、です。」
「よろしい。では せりちゃん、それから? 」
え、と、骨盤を立てる、です。
「はい、その通り。じゃ、やってみようか。」
なづなと二人並んで直立し、操り人形の様に吊られているイメージで脱力する。まぁこれは普段からやっている立ち方なので特に迷うような事もない。分かり易く言えば、いわゆる“気をつけ”の姿勢で、その状態をキープしつつ肩から力を抜いた感じの立ち方である。
「よろしい。次、ホールド。」
スッと腕をパートナーを迎え入れるポーズ。
実はこれが意外と難しいんだよね。最初の難関といっても良い。
肘を上げ過ぎても引き過ぎても、力が入ってしまっても美しく見えない。
初めて教わった時は全然決まらなくって、何度も注意されたっけなぁ…。まぁそうは言っても今のボク達にはね、それほどの難題ではないのですよ。要は力まずゆったりと自然体の構えを取れば良いのだ。
…と、思っていたんだけれど…
「…うん。ここまでは大丈夫かしらね。よし、じゃあ次。」
次はいよいよステップな訳だが…“ボックス”というステップを始めた途端に先生から嵐の様な指導が入りはじめたんだよねぇ…。
『ほら、早くなってる!』『溜めを作らない!』『ゆっくり入って素早く引きつける!』『ほらまた早く動こうとしてる!』『直線的に動かない!』などなど…いやもう「良いとこないんじゃないの? 』ってレベルでバンバン指摘されるものだから、一番最初の超初心者の頃に戻った様な気分ですよ。
でもね、こんな風に注意されるって事はさ、改善の余地だらけでまだまだ上手くなれるって事だもの、やる気も出てくるってもんです。
辛い練習とか厳しいレッスンとかを課されて、それをこなしたあと、ちょっと上手くなったって実感が得られるの…意外と嫌いじゃないんだよね。
あ、別に一番上手くならなきゃ〜とか思っている訳ではないから、『誰に見られても恥ずかしくない 』程度までいければ良いんだけれど、ネ。
そういえば…厳しい練習だのキツい訓練だのと言えば思い出すな。
前にさ、似た様な事を桂ちゃんに言ったら…『…せりってマゾっ気あったの…? 』とか本気で引かれた事があったんだよ!
だが!それは絶対に違うと主張したい!決してそんな事は無いと!ボクにはそんな気は無いと!
勿論その時も否定はしたんだけれど、『あ〜はいはい。わかったわかった。』って感じで全力スルーされたんだよなぁ。
あの誤解は解けているのだろうか? なんか今更ながら気になってしまったぞ…?
…なんて余計な事を考えていられたのも最初のうちだけで、暫くすると脚運びや姿勢の事しか頭に無くなっていた。
「はい!そこまで!」
先生の声でステップを止めた時には、もう二人揃って汗だくでしたね。いやぁ…どのくらい動き続けていたんだか…脚を止めて周りを見れば、一緒に練習していたはずの生徒さん達は誰もいなくなっているではないか。どうもみんな帰ってしまったらしい。
はて? そんなにやっていた感じはしないのだけれど…グループレッスンだと大体1時間くらいが一コマ…あ〜、えっと…ああそうそう、一回の授業になるので、少なくとも数十分は経っている事になるんだな…そりゃ汗だくにもなるよねぇ。
「うん、だいぶ良くなったわね。午後はもう少し進めてみましょうか。」
はい。お願いします。
…ん? 午後は?
「そぉよぉ、もうお昼だからね。」
はぃ?!
え?
じゃあ1時間以上動きっぱなしだったの?!
お…おぉ、そりゃ疲れるわけだ…っていうか、言われてみれば確かにお腹も空いているな。
「3人はお昼どうするの? ウチで食べる? 」
「いえ、持参しています…けど…あの、スタジオで食べても…良いでしょうか? 」
なづなの言う通り凛蘭さんの分も含めて持参しているし、スタジオ内飲食禁止って規則は無いはずだが…そっか、何処で食べるかっていうのは考えてなかったな。
まぁこの季節なら屋外であっても寒くはないから、近くの公園って手もあるんだけれど。
「あら、そうなの? ここで食べるのはかまわないけど…遠慮しなくてもいいのよ? 」
「はい、ありがとうございます。ですが… 」
なづなは ちらりと入り口近くで先生にレクチャーを受けている凛蘭さんの方を見て、奥さん先生だけに聞こえる様な小さな声で少し悪戯っぽく『凛蘭さんが緊張しちゃうと思いますので 』と言った。
お誘いは有り難いし、事実、去年レッスンを受けていた頃にはボク達も何度かお呼ばれもしている。が、今日は凛蘭さんも一緒だからねぇ、知った顔だけの方が肩の力も抜けるだろう。
「あぁ、それもそうね。じゃあ、2時前くらいに午後の子達が来ると思うけど、それまでゆっくりしてて。午後もみっちりいくからね。」
そう言い残して奥さん先生は入り口の方にいる先生に声をかけ、自宅の方に戻って行った。
うひぃ…ホントにシゴくつもりなんだ…お、お手柔らかに願いたいなぁ…。
まぁ…それは一旦置いといて…。
と、いう訳で。
お昼ご飯です。




