ほわいどんちゅーだんす⑤
「準備出来た様だね。いやしかし相変わらず独特なアップの仕方するねぇ。」
あ、先生。よろしくお願いします。
…って、独特ですか?
「うん、体操選手みたいな動きだ。以前にも増して動きのキレが良くなっているし…何か部活でも始めたかい? 」
なづなと顔を見合わせて首を傾げる。
いえ特には…普段から少しずつ身体を動かしてはいますが… 鍛えているという意識は無いので…はて?
「ふむ。成長期という事かな? 」
あ、それは心当たりがありますね。
なづなの握力とか。
ビスッ
あいたっ?!
ちょっと?!今のは悪口じゃないでしょ?!
ボクは何故に攻撃されたのか?!
「はっはっは、いやいや成長期というのは知らず知らず色々変わるものだ。ワタシも一晩で身長が伸びて学生服が合わなくなった、なんて事があったものだよ。」
ほえぇ、それは凄い。
そっか、もしかしたらボク達にもさ、そんな事が起こるかもしれないね? 朝起きたら制服のスカートがミニスカートみたいになっちゃってたりとか!うひゃあ、そんな事になったらどうしよう!
「とりあえず…ママに言って制服新調しないといけないねぇ。」
…いや、そういう事ではなくてですね…
まぁねぇ、ボク達はパパ似だからあまり伸びないだろうとは思うのだけれど…もしかすると、万が一、奇跡的に、伸びるかも知れないじゃないか。可能性で言えば無くはない訳だし? そういうね、夢というか希望的観測というかさぁ、あっても良いんじゃないかなぁ?!
「……ふっ。」
ちょっとぉ?!
なにその『夢を見るのは自由だよね… 』みたいな達観した笑みは?!
「まぁまぁ、せっかく来たんだ。早速始めようじゃないか。…と、おや? もう一人の子は…? 」
あれ…? そういえば凛蘭さん出て来ないね?
着替えに手間取っている…とは思えないが…。
エアコンの効いた室内だから、暑さ寒さとかで体調が崩れたなんて事はないだろうし…緊張で急に気分悪くなったとか…?
考えすぎだろうか? や、でも、昨日の貧血もあるしなぁ…流石に今日は朝御飯を抜いてきたって事はないだろうが……なんか心配になってきたぞ?
「ちょっと見てきます。」
なづなも同じ事を考えたのだろう、言葉を発あすると同時に少し慌てた感じでドアの方に向かった。
「凛蘭さん、入るよ。」
コンコンとノックするのと同じタイミングで声をかけ、ほぼ間髪入れずにドアを開く。
…と、
「あ、はい、すいません、あの…ちょっと… 」
衝立の向こうから首だけを覗かせた凛蘭さんが、少し顔を赤らめて、恥ずかしそうにそう応えた。
お? あぁよかった、倒れたりはしていなかったか。声も普通だし、ふむ、少なくとも体調不良とかではなさそうだ。
…うん?
じゃあ、なんで出て来なかったんだろ?
「あ、あのですね、着替えたんですけど…実はその、思っていたより大きくなってて… 」
大きくなってた?
「…あぁ、そういう事ね。」
衝立の所まで入って行った なづなが、納得といった表情で笑った。
なになに? どういう事?
よく意味がわからなかったので、とりあえずボクも見てみようと更衣室に入り、衝立の向こう側を覗き込む。
…ほう?!
ほっほぅ、これは予想外。
確かに『動き易い服装で』とか『汗をかいてもいい服で』と説明をしたはずであるから、このチョイスは間違ってはいない。いや寧ろ普通に考えれば最初に思い浮かぶかもしれない。
ボク達くらいの年齢であれば。
凛蘭さんが着ていたのは明之星女子学院中等部の校章が印刷され、ゼッケンが縫い付けられた白いシャツと紺色のセミハーフパンツ。
そう、学校指定の体操服を着て立っているのである。
そういえば先程ボク達が入ってきた時、凛蘭さんは少し恥ずかしそうにしていたっけ…。ふむ? 少なくとも一年生の時はこの格好で体育の授業を受けて受けていたのだから、今更ボク達に見られたところで別に恥ずかしい事はなかろうに…。
いや待てよ。
『思ったより大きくなってた』って言ってたよな? 大きくなってた、って…服が、な訳ないから…凛蘭さんが、って事だよね…?
…
……
おぉ、なるほどなるほど。
確かに大きくなっていらっしゃる。
多分背も伸びたのだろう、トップスの丈も少し短く見えるし、ボトムスも結構みっちりして見える。が、ウエスト周りは多分以前とそれほど変わっていないのじゃなかろうか? だってギャザーが全然伸びていないもの。
つまり、だ。
縦に伸びて、
肉がついて、
凄くスタイルが良くなっている、と。
「三学期の間はジャージでしたし…鏡に写したりしませんでしたから…あまり気にしてなかったんですけど…。」
そう言って壁に貼られた姿見を見る。
確かになぁ…体操服で姿見の前に立つなんて普段はしないよね。そもそも学校でしか着ない服だし、学校の姿見鏡なんて制服を整える以外ではわざわざ見ないとういか…あんまり気にして見てない気がする。どちらかと言えばお手洗いの鏡の方が使用頻度高いんじゃないかな。
「凛蘭さん、この冬の間に身長伸びちゃったんだ。う〜ん、これは…体操服買い替えないといけなそうだねぇ。」
「うぅ…。」
いいじゃない。
身長伸びるなんて羨ましい!
ボク達なんてほっとんど伸びてなかったからね?!体重は増えてるのに!そりゃさ、体型が変わったんだし? どうやら筋力も増しているみたいだから? 増えているのは必然な訳だけれども? 背もなぁ…ちょっとくらいさぁ…。
…や、ボクの事は置いておこう…うん。
まぁしかし、だ。
格好はどうあれ、折角来たのだから身体を動かそう? 大丈夫大丈夫、体操服は珍しいけれど、そんなの誰も気にしないから。体操服は珍しいけれど。
「さ、行こうか。」
「…あ、あの、ちょ、っと待っ…!」
だぁいじょうぶ、こんなのは勢いだって。
凛蘭さんはつんつるてんになりつつある体操服の事を気にしているのだろうけれど、平気平気、自分が気にする程まわりは気にしてないから。
……コレが何時ぞやのブーメラン発言だってのは理解してますよ…いいでしょ別に!? そうゆう方便なんだから!
…こほん。
なづなと二人で凛蘭さんの手を取って、多少強引に更衣室からフロアへと移動すると、フロアで練習していた人達が丁度休憩に入ったところだった。
「お、やっと出て来た。で? 大丈夫かね? えぇと…。」
「あ、すいません、渡邊です。今日はよろしくお願いします。」
「渡邊さん。はい、よろしくね。まぁ難しい事は何にも無いから気楽に楽しんで下さい。」
難しい事は何も無い…な、ないかなぁ…?
「さあて、なづなちゃん達はどうしたんだっけ? 競技会用のステップ覚えに来たんだったかな? 」
ちちちちがいますよ?!
きょ、競技会とか無理ですから!
いえ、そうではなくてですね、ステップはステップなんですが、なんと言えば良いのか…えぇと…
「あの先生、実は… 」
なんか変な冗談を言われて若干テンパってしまったボクの代わりに、なづなが事の経緯を簡潔に説明してくれた。
うぅ…いつもすまないねぇ…。
「…ふぅむ、たまたま踊っているところを動画で撮ったら、下手になっていてショックだった、と。」
「…はい、クラスのみんなは充分だと言ってくれたのですが…。」
「で? 自分で見てどこが悪かったんだい? 」
そう!それ!そこ!
どこが、と具体的に指摘出来ないんですよ!
よくわからないんですけれど下手なんです!
「ん〜…そうなのか…。なら、そうだな、ひとつ踊ってみようか。」
踊る、んですか?
今?
「そう。百聞は一見にしかず。第三者が見れば指摘も出来るだろう? 幸い人はたくさんいるからね。さ、いってみよう。」
え、えぇ〜…こんな衆人環視の中、踊れ、と仰る?
下手なので人様にお見せ出来る代物では無いと、そう思ったからレッスンを受けに来たのですけれど…?
それをいきなり人前で披露せよ、と?
…鬼ですか?
A.M.11:30
微修正を行いました。




