えまーじぇんしー⑦
番外編、続きます。
えまーじぇんしー⑥の後半になる予定だったのですが…時間が無くて書ききれなかったので分割しました。
「ジェットは随分とミアに懐いたねぇ。」
懐いて…いるのかなぁ?
ここ数日一緒に行動してなんとな〜く感じてたんだけれど…ジェットって、ボクの事を庇護対象というか…なんかそんな風に見てるっぽいんだよなぁ…。いや、上から目線とかっていうんじゃなくて、何て言うんだろう…こう…『〇〇ちゃん、やめなよ〜危ないよ〜、もう〜…お姉ちゃんに言い付けちゃうからね〜…』的な事を言ってくる友人…みたいな…?
うん、良く理解らないよね。
ボクも上手く説明出来ている気がしないもん。
ま、それなりの日数を共に過ごしているから、気心が知れてきたって事かな、と、思う事にする。
そうそう日数と言えば。
出発前にエマは『5~7日くらいで着く』みたいに言ってたと思うんだよね。実際、何もなければ7日あれば充分に到着するはずだった。
が、しかし。
既にその7日という時間は経過しているにも拘らず、全道程の半分とちょっとしか進めていない。
旅の日数に関してはかなり余裕を持たせているのだけれど、それでもあのネズミ騒ぎで3日ほど潰れてしまっている。軍が出張って来て街道沿いの調査をするってんで、その期間足止めを食らったのだ。
これが半分くらい進んだ所で起こったトラブルならば、『良い骨休めだ』なんて言ってられたのだろうが…何せ一日目だったからねぇ…大して疲れてもいない初日から待機を言い渡されるのは、正直キツかった。
と言ってもキツかったのはボクではなく、団員さん達の方なのだけれど。
更に言うなら暇でという意味でもない。
『せっかく時間が出来たのだから有効に使おう。』というアルベルタさんのひと言で、ブートキャンプが始まってしまったのだ。それも3日間みっちり。
いやぁキツかったと思うよ?
毎日夕飯時は、みんなグッタリしていたもの。
ボク?
ボクは参加しなかったのかって?
当然参加しましたとも。2日目3日目に。
…1日目はねぇ…筋肉痛で動けなかったんです…いやぁ、あれにはビックリでした。全身が軋んでぜんっぜん動けないんだもん。
歩くだけでビキビキいってさぁ…産まれたての子鹿みたいになってたよ…。
たった1日で回復して、翌日には普通に動けたってのにも驚きだけれどね。
まぁ、幸いあの一件以降は大した問題も無く順調に進んでおりまして、今は旅程の五分の三程をこなしているので、出来れば今後もトラブルなく進めると有り難いなぁと思います。
ジェットをブラッシングしたり鞍や手綱などの再チェックをしたりしているうちに、だんだんと団員さん達も前庭に集まって来て自分の馬の世話を始めている。
当番の人が居ると言っても、やはり最後は自分の目で確認しないとね。
ほら、車とかバイクだって乗る前にミラー見たり空気圧チェックしたりするんでしょ? 以前の世界ではそうだったと思うんだけれど?
まぁボクは免許取ったかどうかも憶えて……あれ…? スクーター? 乗ってたかも…あ。これ、まだ思い出せてない先の記憶かな? あ~、だったら嬉しいな。
やがてアルベルタさんが、そしてルーチェが侍女さん達を伴って前庭へとやって来る。宿のSTAFF さん達もわらわら出て来て玄関前に整列しはじめた。
さすが公女様。お見送りに従業員総出とは…っていうか、なんかお偉いさんっぽい人まで率先して並んでるよ!一流の宿ってどの世界でもこんな感じなのかねぇ? 昨日までの宿ではここまで凄くはなかったのだけれど…。
「皆様、大変お世話になりました。お陰様でゆったりと過ごさせて頂きました。」
「勿体ないお言葉。またのお越しを心よりお待ちしております。」
「よしなに。」
宿のお偉いさん相手に挨拶を交わすルーチェは、さすが公女殿下といった風格、実に堂々としたものだ。これでまだ11歳だというのだから末恐ろしい。
「では公女殿下、よろしいですか? 」
「はい、アルベルタ。お願いします。」
そうひと言だけ言ったルーチェは、既に整列済みの団員達の中央を通り、専用馬車へと乗り込む。
「総員、騎乗!」
号令と共に団員さん達が一斉に馬や馬車に乗り込み、出発の態勢を整えた。当然ボク達もだ。何故かこの時だけはジェットも妙に真面目な顔をしている…ような気がする。
出発の合図で護衛団は列を作り、公女の乗った馬車の周囲を固めて街道へと進み出るのは何時ものことではあるが、街の中では“麗しい”と評判のルーチェをひと目見ようと沢山の人達が沿道に押し寄せて、ちょっとしたパレードみたいだったね。ルーチェは慣れたもので和かに手を振って街の人達に応えている。
ああいうサービスも公女殿下という立場の彼女には必要なんだろうが…大変そうだよねぇ。ボクだったら表情筋がつっちゃいそうだもん。
漫画やアニメ、小説なんかでもファンタジー物の定番とも言える街中のパレード。よもや自分がその中に居る事になろうは…場違い感が半端ない。
…ジェットは何故か得意顔をしている…気がする。
街道に出てからは何の問題も無く、至って平和に進めていた。
そう、進めていたのだ。
昼を少し回った頃、もう少し進めばひとつ目の街が見えるという街道の上で、ボクはそれに気づいた。何処からともなくピリピリとした感覚…“刺さる様な気配”と言えばより正確だろうか? そんな感覚に襲われたんだ。
凄く微かな気配。
けれど間違いなくこちらに向けられたそれは、殺気…の様でもあるけれど、それにしては襲って来る気配はない。何より数が少ない…一人か…いや二人かな?
伏兵は…いないみたいだが…元よりこんな開けた場所じゃ隠れる所なんかありはしないし、離れた場所に隠れているのなら此方の迎撃体勢が整う方が早い。
目的は何だ?
物盗り…ではないな、人数が少な過ぎる。
ルーチェを狙って…? それも考え難い。こちらには護衛の一団がいるのだから、暗殺にしろ誘拐にしろこんな場所で…しかも真昼間では成功の確率など無いに等しい。
何よりその類の連中…盗賊団や暗殺者のような犯罪者が動いているのならば、事前に情報が入っていると思うのだが、少なくともボクは聞いていない。
「ミア。気づいてる? 」
前の方に居たエマがスッと寄ってきて言った。
いつもの柔らかな笑みが消えた横顔には、少し剣呑な雰囲気を滲ませている。
「10時の方角、1kmくらいかな。たぶん、あの大きな木が並んでる所に居るね。」
うん気づいてる。
場所までは判らなかったけれど。
あ、でも、ジルコンとジェットはわかってたみたいだね…エマの言った方角を気にしているもの。…この子達、ボクより余程敏感じゃないか…なんてこった…。
「どう思う? 」
どう…と言われても…。
ターゲットがボク達一行だとするならば、ここで狙うというのはお粗末に過ぎる。それにこんな気配ダダ漏れにしてる時点で盗賊や誘拐狙いの犯罪集団とは思えないし、狩りをしている一般人…だとしても殺気を隠せていないし、何より殺気をこちらに飛ばして来ているのはおかしな話だ。
「…う〜ん、もしかして、だけれど…挑発? してるのかな、って。」
ボクがそう言うと、エマはニッと笑って『私も、そう思う。』と頷いた。
「街道沿いだとね、腕自慢の武芸者が野試合を挑んで来るとかあるからねぇ。そういうのかもしれない。…寧ろ、そうであってくれれば楽なんだけど…。」
ふむ。
そういう言い方をするって事は、だ。エマはそうじゃない可能性が高いと思っている訳か…。
まぁエマの希望的観測…の方で考えるのならば、この一行の中に殺気を放っている連中の目的…いや標的か? に、なっている誰かが居るという事になる。
この一団の中で強い人と言えばアルベルタさんか……エマだよなぁ…。
一行はそのまま街道を進み、エマの言った木の並んでいる場所へと差し掛かると、少し先の木の陰から、のそりと起き上がる人影があった。2人…だ。
「……楽じゃない方…だった、かな…。」
…みたいだね…どうも狙いはエマと…ボクみたいだ。
視認できる距離になった瞬間、突然標的にされたもん。
これ程あからさまなのも珍しいなぁ…。
明らかな殺気を飛ばしているところを見れば、エマの言っていた武芸者などではない様だが…まぁそれは良い。…いやいやあんまり良くはないんだよ?!分かり易くて助かるってだけでね?!あくまで敵意や殺意を隠して近づいてこれる様な類いの奴じゃなくて良かったって事だからね?!
それより問題はエマの方だ。
タゲられる少し前から、エマが明らかに不機嫌になっている様に見える。
ものっすごい不快感を顕にしているんだよ。
蛇蝎の如くなんてものじゃない、Gを…あの黒くてテカテカした例のヤツを見た時の…いや違うな…もっと吐き気を催す程の何かを見た様な眼だ。
こんな顔をしているエマは本当に珍しい。
「…ミア、アルベルタさんを呼んでもらって。」
「え? うん、わかった。」
何故自分でやらないのか、って?
エマは今、例の2人に向けて威圧しているからだ。
牽制している、と言えば良いかな?
近くに居る団員さんに声をかけ、アルベルタさんに此処に来てもらえるよう伝言をお願いする。ボク達は隊列の中ほどに位置していて、アルベルタさんは先頭近くで指揮を執っているので直接声をかけられないのだ。
…以前の世界にあった携帯電話って凄い便利な物だったんだなぁとつくづく実感するよ。まぁ無い物は仕方ないので、使用するのは最もアナログな手段、『伝言』である。
暫くしてアルベルタさんが隊列中央まで下がって来た。
険しい表情をしているところを見ると、どうやらヤバい奴がいるというのは察している様だ。
「エマ様…やはりお気付きですか…? 」
「…ええ。」
「何者でしょう? 」
「…わかりません…ですが、手練れであるのは間違いないと思います。」
大きな樹の横に立つ2人はフード付きのマントを羽織っているため、残念ながら顔までは視認出来ないが…二人ともボク達よりは背が高めかな? 170ちょいはありそうだ。
「え? よくわかるね? 」
いや大体だよ、大体。
身長は等身からの予測でおおよその数値だからね? 細かいとこまでは流石にわかんないよ?
「…170くらいの2人組…もしかして…いや、でも…まさかもう外にいるのか…? 」
「誰か心当たりが? 」
「……ええ、予想通りなら正直会いたくないですね…なにせ、」
エマがアルベルタさんの方に視線を向けた瞬間、一人が動いた。
樹に立て掛けてあったのであろう長い棒の様な何かを、思い切り投げたのだ。
投擲!?
あれは槍か!?
あの距離から!?
投げられたそれはグングンとこちらに迫って来る。
狙いは、ボクでもエマでもない、軌道が違う。これは、ルーチェの馬車か!
「ジェット!お願い!」
と、ボクが声をかけるのと同時にジェットはボクを乗せたまま軽く跳躍し、槍の軌道へと入った。ナイス!ジェット!
おぉぉりゃぁ!!!
迫り来る槍に向かって腕を突き出し、ガントレットの曲面を利用して滑らせる様に弾く!
ギャリィーーーーン!!
激しい金属音と共に槍は軌道を変え、遥か後方へと弾け飛んで行った。
よっし!
成功!
「ミア!前!」
え?
慌てて振り向くと、ほぼ目の前で2人組の片割れが跳躍したのが見えた…と思えば、次の瞬間ドロップキックの様な技でジェットから蹴り落とされてしまった。
空中で体勢を立て直して、着地と同時に構えを取る。相手も低く構えている。流石にこちらの体勢が充分であるのを見てか、連続して飛び込んでは来ない様だ。
しかし…。
辛うじて手甲で受けたけれど…いや驚いた…。
コイツ相方が槍を投げたのと同時に走り込んで来たのか? 凄いな? 速くない? 脚。
「おまえ…エマの、妹? 」
目の前のフードの襲撃者が、突然話しかけて来た。
ええ、そうですよ。
それがどうかしましたかね?
ていうか、人の事蹴り飛ばしておいて言うこたぁそれだけかい?!
「そう。なら、いい。」
何がいいのか理解らないけれど…それだけ言うと襲撃者は構えを解いて立ち上がり、フードを取った。
フードの下から出て来たのは、黒髪に一条の白いメッシュが入った、暗い眼をした美人さんだ。
なんか…アサシンギルドとかに所属していそうな…そんな感じ。いや、アサシンギルドなるモノが存在しているならって話ね? そんな物騒なモノが存在していたらヤだよなぁ。
「…お、まえ…。なんでここに居る? 」
そう言ったのはエマだった。
いつの間にかジルコンから降りていたエマがボクの直ぐ後ろに立っていて、白メッシュを睨みつけている。
「そんななぁ、出て来たからに決まってんじゃねぇか!」
こう言ったのは、もう1人のフードの襲撃者。
ゆっくりとこちらに歩み寄りながら、フードを外す。
こちらは、綺麗な金髪に一条の紅メッシュが入った、これまたワイルドな美人さんだ。なんなの、美人しかいないの?
「やっぱりオマエか… 」
エマが眉間に皺を寄せ不快感を顕にする。
何か因縁があるのだろうけれど、エマがこんな顔をするとは…。
何が何やら判らなくて、ボク達を見てニヤニヤと笑う紅メッシュとスンとした白メッシュを交互に眺めていると、ボクの肩にエマの手がポンと置かれ、衝撃的な一言を発した。
「ミア、気をつけて。コイツら覚醒者だから。」
ようやく予定の所まで書けました。
次話は予定通り本日深夜、26:00頃投稿致します。
次話に関しては、若干長めですが、完成品をお届け出来ると思います。




