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すいんぐばい⑯

加筆修正済み。




…小梅さんを送って行くにしろ、文房具屋に一緒に行くにしろ、如何にして誘おうかと考えていたのですが…


「小梅さん、あとは帰るだけなんでしょ? だったらさ、どうせだからもう少し付き合わない? 」


…という、桂ちゃんの身も蓋もないストレートなお誘いによって、もう暫く同行する事になりました。うむむ…どうやらボクは体裁を整える事に気を取られていたようだ…『引っ張り回しちゃったから送って行くよ』なんて言ったら遠慮されちゃうかもしれないからとか、『自然に送って行く流れにするには如何すれば良いか 』なんてのは余計な考えだったかもしれん。

そうだよ、普通に『一緒に行かない? 』で良かったんじゃないか。

どうもボクは、妙な所で考え過ぎちゃって変に気を回しちゃうきらいがある…良くないよねぇ。それに比べて桂ちゃんのこういう素直な部分ってさ、いつもながら凄いと思うんだ。裏が無くて純粋な厚意…いや、好意かな? なんだもん。そりゃ誘われたら『うん 』って言っちゃうって。

ホント、見習うべき部分だと思う。

ボクも、もっと素直に言葉に出す様に心掛けよう…

…と、何度思った事か…!

なっかなか出来ないんだよねぇ〜コレが。

気をつけてはいるんだ。いるのだけれど…なんか不意にね、『うわ出来てない?!』って思う時があってさぁ…その度に反省するんだよねぇ。そんな事の繰り返しだよ。


まぁ今は持ち直しているとはいえ、今日は少々精神状態下がり気味だったから仕方ない、と思う事にしよう。そう今日は偶々そういう日だった。

なので、いつも通り帰ったら身体動かして汗かいて、お風呂に浸かってゆっくりほぐして、んで、ぐっすり眠る。そうすれば明日の朝はスッキリしてるはず。そう信じる。




「うっわ!この筆すっごい値段!九千円…こっちは二万円?!え、これ十…二万円…!? なにこれ?!」


はい桂ちゃん。お店の中なので少し声のボリューム落とそうか?

自戒し反省し、少しだけ気持ちを新たに…と真面目な事を考えていたのに…桂ちゃんの思わぬテンションの高さに全部持っていかれたよ!

いや良いんだけれど!

気持ちが堕ちているよりずっと良いんだけれどね?!

なんていうか落差がね? あり過ぎてですね、ちょっと気持ちが付いていかないって言うか、()()()()置いてけ堀になってるというか…うん、自分でも何を言っているのか理解(わか)んなくなってきた。

…よし。

細かい事はいいや。


で?

どうしたの桂ちゃん?

筆が何だって?


「ちょっと せり。これこれ。この筆凄い高いんだけど。なんなの? 」


ガラスケースの中に陳列されている筆を指差しながら、興奮気味に質問を投げかけてくる。

まぁ書筆に限らず天然の毛を使った物はそれなりに高いからね。

どれどれ?

ああ、この高いのは山羊(やぎ)の毛だね。ほらここに純羊毫筆(じゅんようごうひつ)ってい書いてあるじゃない? これ羊毛100%なんだと思う。聞いた話だと超柔らかくて使うの難しいらしいよ? ま、こういう高いのはだいたい上級者向けだよね。

テニスのラケットにもそういうのあるでしょ?


「あるね。ガットの素材がナイロンとか()()()()()()ってやつとか…ラケット本体も色々あるから組み合わせで全然違っちゃうし。」


うん、たぶんポリエステルだね。

まぁそれは兎も角。

筆も同じでね、軸が何で出来てて穂首が何で…って事にこだわる人もいるみたい。軸は普通だと竹が主流なんだけれど、木やプラスチック、牛の角とか陶器なんてのもあるんだってさ。

ボクは竹とプラしか使った事ないねぇ。

え? 何でって…持ってないから?


「やっぱり珍しい素材を使ってるほど高いの? 」


大凡(おおよそ)はその通りだけれど絶対ではないね。

珍しいのだと胎毛筆っていう“産まれたての赤ちゃんの毛”を使った筆とかあるんだけれど、ほぼ一点物なのにお値段はそれほどでもないんだ。

ま、記念品だから本人と家族以外には無価値といってもいい物ではあるんだけれど。


「へぇ~…髪の毛も筆に出来るんだねぇ。」


ね、ビックリでしょ? 人の毛の場合は実用には向かないっていうけれど記念の品としては特別感があるからねぇ。特に赤ちゃんの毛って凄く特別な物でさ、本当の、二度と作れない、一度きりの一点物になるんだ。

知ってる? ()()()()()()()()()()()のって赤ん坊の時だけなんだよ?

一度でも鋏を入れてしまったら先端は失われてしまうから、その先端を筆という記念の品にして残すんだ。勿論ボクと なづな、すずな姉ちゃんも作ってもらってるよ?


「いろんなのがあるんだね。そっか一点物の記念品かぁ。」


そう、桂ちゃんが喜びそうな物に例えると…プロ選手のサイン入りラケットとか、卒業する憧れのお姉さまから貰ったラケット…みたいな感じかな?

桂ちゃんは『ははぁなるほど』と頷いた後、暫くケースの中を覗き込んでいたのだけれど、突然顔を上げ何かに気付いた様にボクを見て、クッと微笑みをこぼした。

え? なになに?

ボク何も変な事は言ってないでしょう?

言ってないよね?

何故笑う?


「言ってない言ってない、そうじゃないから気にしなくて大丈夫。ただ、()()()()()()()()()()なって思っただけだから。まぁね、好きな事を共有したくなる気持ちはよく理解(わか)るよ。うん。」


そ、そう?

なのに笑っているのは何故なんですかね?


「んふふ、なんでもな~い。」


えぇ~…


「なぁに、どうしたの? 面白い物でも見つけた? 」


少し離れた場所で買い物をしていた なづなと小梅さんが声をかけてきた。

小梅さんがお店の袋を持っているところを見ると、既に会計も済んでいる様だが何を買ったのだろうか? サイズ的にノートかな?


「うん、これこれ。山羊の毛で出来てるんだって。」


「え、山羊? 」


桂ちゃんは先程ボクがした解説を、若干のアレンジを加えて小梅さんに説明している。うむ、丁寧な説明だね。素晴らしい。

小梅さんは、桂ちゃんの説明を受けながらケースの中を覗き込み、値段を読んでは驚きの声をあげていた。

まぁ墨に比べたら桁がひとつずつ違うからね。

当然の反応だと思う。

なづなは スッとボクの近くへ寄ってきて同じ様にショーケースを覗き込む。

やあ、買い物済んだ?

って言うか何か買ったの?


「ううん。今日は冷やかしだからね。」


あら、そうなの。

結局、付き合いで来た小梅さんだけが買い物をしたんだね。なんか余計なお金使わせちゃったのだったら申し訳ない事をしたな…。


「それは大丈夫みたい。元々買おうと思ってたし、一度タイミングを逃すとわざわざ買いに行くのが億劫になっちゃうから今日一緒に来れて良かった、って。」


左様ですか。

ならいいんだけれど。



「……って、せりに教わった。」


「せりさんってホント物知りなのね。」


はい?!え? なに?

突然名前が出てきたので驚いて桂ちゃん達の方を見ると、小梅さんはショーケースの中を覗き込み()()()()と頷き、桂ちゃんはボクの方を見てニヤニヤしていた。


「ん? どうしたの桂ちゃん。せりが またなんかやった? 」


ちょ…!なづな!?

“また”って何?! “また”って!?


「別に何もしてないよ〜。思ったより保たなかったってだけ。」


「保たなかった? 」


なづなは桂ちゃんとボクを何度か見比べて、やがて『ああ、そういう事 』と言って苦笑した。

なんなの。

教えてくれても良くない?!


「後でね。」


後で、かぁ。

って事はやっぱりボクがなんかしたんだな。

何をしたんだ…大した事じゃないみたいな感じではあるけれど…。

えぇ気になるなぁ?

まぁ食い下がったところで なづなと桂ちゃんの事だ、そうそう口を割るまい。ならばここは大人しく『後で』を待つのが得策だろうな。

…気にはなるけれど。



「じゃあ、私こっちだから。」


お店を出て直ぐに小梅さんは、ボク達が歩いて来た方とは反対側、更に西の方を指差してくすくすと笑った。


「流石にここまで送って貰えば大丈夫よ、もう5分もかからないから。」


え? あれ?


「1人で帰らせるの心配だからって着いてきてくれたんでしょう? ありがとう。本当ならウチに寄って行ってって言いたいのだけど、引き止めると暗くなっちゃいそうだし…そしたら今度は私が心配だし…。」


ありゃりゃ…バレてましたよ。

こういうのはバレずにやるのがカッコイイのになぁ…。

バレちゃカッコよさ半減だよ。

まぁバレてしまっては仕方ない。

ここは潔く認めて引き下がるのが良いでしょうな。

では…小梅さんボク達はここで。あ、あと、まだ大通りだからね、車多いから充分に気をつけてね?

『お母さんか。』という桂ちゃんのツッコミは軽く流しておく事にする。いや、だって、ボク達の都合で歩き回らせちゃったんだもん、ちょっと心配じゃない?



「それじゃあ、また学校で。」


「うん、また学校で。」


「またね〜。」


気をつけてね〜。

少し先の横断歩道で車道の向こう側へと渡り、振り返って手を振る小梅さんを見送って、ボク達も帰路に着こうかという段になっったところで、突然 桂ちゃんが『折角ここ迄来たんだからさ、なんだっけ、楼門? のなんとかって像、見て行こうよ!』などと言い出した。


随身像ね。

そりゃ、ボクは良いけれど…急にどうしたの?


「いや、ほら、こういうのってさ、後回しにすると“また今度” “その内に” “次来た時ついでに”ってなって、結局見ないってなっちゃたりするじゃない? 後になればなるほど、わざわざ見に行こうって思わなくなるだろうし。だからさ、興味ある内に見ておこうかなぁって。」


なるほどね。

素晴らしい。

どう? なづな?


「ん。じゃあ、ちょっとだけ寄ってみようか。」


「よっしゃ。レッツらゴー!」


レッツらゴー?

死語っぽいけれど…まぁいいや。


というわけで、お社の楼門まで足を伸ばす事になったのですが…楼門に着くなりマジマジと見た回した桂ちゃんは…


「こんな隙間の狭い格子窓で!硝子まで入ってるのに!中が見える訳ないじゃん!門の中に像が有るって知ってただけでも、私はもっと褒められても良いんじゃないかな!? 」



…と、若干お冠でした。







次話も未完成ではありますが、修正と同時に公開致します。

P.M.16:30加筆


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