すいんぐばい⑭
加筆予定です。
「せりさんってそういうの詳しいの? 」
いや、詳しいっていうか少し詳しくなったというか…
ちょっと興味があったんで宮造りの事を調べてたら…いつの間にか知識がついちゃっただけで、所詮は素人の一知半解 、本当に詳しい人とは比べ物にならないよ?
「何言ってんの。ウチらの歳で玄人なんて居ないでしょうよ。それに好きな事を夢中で語るなんて普通よ、普通。私だってテニスの話だったら語れるわよ~。」
そ、そりゃそうだけど…。
桂ちゃんの場合は専門でやってる訳じゃない? ボクは専門じゃないし、なんかこう…かじった程度の知識ををひけらかしてるみたいでさ…一応、自分の中で反芻したり聞かれた事に対して解説したりって言うならね、まぁ許容の範囲内かなぁと思うのだけれど…押し付ける様に捲くし立てるのは違うよねぇ。
自分にその気があるのは自覚しているので、気を付けてはいるつもりなのだけれど…ついつい出ちゃうんだよぅ…。
「神社とか好きなのね。なら修学旅行は楽しみなんじゃない? 」
そう!すっごい楽しみなの!
でもほらボクの場合、見たい所が多すぎてね? 日数がね? 足りないんだよ!
例えば東大寺!
大仏様はもとより南大門に二月堂、法華堂に千手堂、東大寺ミュージアムも!あと奈良公園!鹿で有名な所ね!戒壇堂は今改修工事中だから見られないけれど、ざっと挙げただけでこれだけあるんだもん、東大寺なんて1日で見られるわけないじゃん!あ、そうそう!さっき桂ちゃんと小梅さんが言ってた仁王像ね。南大門におっきいのがあるんだよ。これは是非見てね!あ、その前にお社の随身像も見とかないと比べられないか…うん、見ておいて!てか見に行こう!
「…せ~り、そのくらいにしとこうか。バス停、着くよ。」
なぬ?!
おぉ? いつの間に?!
いかん…また無意識に語ってしまっていたッポイ。
気を付けてるなんて言った直後にコレだよ!
ぐおぉ…ボクも大概ポンコツだな。
「じゃ、修学旅行のときはバッチリ解説してもらうとして、今はバスの路線と時刻表の確認だね。え~と案内所は… あれ? 案内所ってどこだっけ…駅の一階にあるんだったかな? 」
桂ちゃんは慣れたものでツッコミもそこそこに目的地の事へと話題を変える。なづなは なづなでクスクス笑っているだけだし。
…触れないでくれて有難いのか小恥ずかしいのかよくわからないが、こういう時は『どうせならツッコミ入れてくれ』と思わなくもない。突っ込まれたらそれはそれで恥ずかしいのだけれど。
で、話しを戻すけれど、路線バスの案内はロータリーじゃなかった? 駅の一階は確か交番だったはず…あれ、他にも何かあった様な…なんだったけ? ふむ…ま、行けばわかるでしょ。
南口の階段を上がり、駅舎の中にある自由通路を抜けると駅舎の2階部分と同じ高さのt広い歩道橋…ちょっとした公園みたいになっているフロアへと出る。
ええと…こういう構造、なんていうんだっけ?
「ペデストリアンデッキ? 」
あ!そうそう!それだ!ペデストリアンデッキ!
流石なづな。よく知ってるね…って、ボク今、口に出してた?
「うん。」
おぉ…また蘊蓄語り出すとこだった。
もう暫く口抑えとこ…。
「あ、違う。一階にあるのは観光案内所だ。」
駅北口のデッキから下を覗き込んでいた桂ちゃんが声を上げた。
なるほど観光案内所か。確かに駅舎に併設されているのは効率良いもんね。そっかそっか。ていうか、普段見ているはずなのに意外と覚えてないものだねぇ。
「あと、交番無くなってる。」
は? 無くなってる?
交番って無くなるものなの?
気になったので手摺りに寄ってみると、なるほど確かに、交番のあった場所が工事用の白いフェンスで囲われていた。改修…建替え工事かな? 一時的なものだと思うけれど、確かに無くなっている。
「最悪交番で聞こうと思ってたのに。」
いや駅員さんに聞けば良いんじゃないかな?
ていうか、バスロータリーに降りる階段の所に周辺地図的な看板あるじゃない? それ見れば書いてあると思うのだけれど。
…と言いたいが、現在自らの口を押さえて発言封印中なので、むーむーと唸るばかりだ。
そんなボクを、桂ちゃんが訝しげに見て首を傾げ『何? どしたの これ? 』と、なづなに質問を投げかけた。
「…えぇと、たぶん『また蘊蓄を語っちゃうかもしれないから、ちょっと黙っておこう』…とか思ってるんじゃないかな。」
…正解です。
流石はお姉様。
コクコク。
「…あってるみたい。とはいえ、別に普通の会話まで封印する必要はないと思うけどねぇ。」
それはそうかもしれないけれど…実は今、既に蘊蓄を語りたくなっているんです!口を開いたら溢れそうなんです!
そのひとつが、このペデストリアンデッキ…長くて言い難いな…が完成する前にはこの場所に大きな鳥居があって、お社の参道入り口だったらしいんだよ。40年ほど前に撤去されちゃったから写真でしか見る事は出来ないんだけれどね!
…という事を言いたい!説明したい!解説したぁい!…けれど、言ったとしても『へぇ~…』で済まされちゃうんだろうなぁ…たぶん。
なので言いません。我慢します!
「あぁ、あそこに案内板あるね。 」
「ほんと? あ、あれか。どれどれ私見て来るよ。ちょっと待ってて。」
そう言うと同時に桂ちゃんが案内板まで駆けて行き、睨めっこを始めた。
まぁ、ここで待っていても仕方ないのでボク達も案内板まで行くんだけれどね。
それはそうと…なんか今、修学旅行でこんなふうに路線図とか案内図に駆けて行って、挙句みんなと逸れてしまう桂ちゃんの姿が見えた気がした。うむ。ありそう。
とはいえ現代はスマホみたいな手軽な通信手段があるからね。はぐれたとしても、それほど問題ないのだけれど…昔はどうしてたんだろうね? パパがボク達くらいの頃って携帯電話とか無かったらしいし… もし万が一はぐれちゃったら先生方が探し回ったりしたのだろうか?
… とんでもない迷惑だな?!
うん。桂ちゃんにはスマホだけは必ず持つ様によぉ〜く言っておこう。
桂ちゃんの追い付き、ボク達も案内板を覗き込む。
案内板には今居るペデストリアンデッキ…長いから略してデッキでいいや…の全体像と階下のバスロータリーの図が書いてあり、発着場の番号が示されていた。
「ええとバスの案内は… 」
「これじゃないかしら? チケット売り場。」
「この下…? 」
この下って、バスロータリーとタクシー乗り場だよね? 案内所なんてあったっけ? っていうかチケット売り場なんてあるんだ? あ、もしかして回数券とか定期券買える窓口があるの? この下に?
「…そうみたい。兎に角降りてみよう。」
案内板の直ぐ脇にある階段を降りると…
あったよ。チケットカウンター。
定期券購入も高速バスの予約も出来る総合窓口なんだって。
まさかこんなにこじんまりした建物だったとは…いや、建物の存在は知っていたんです。ただ凄く小さい建物だったから…大変申し訳ないのだけれど、お手洗いの建物だと思っていました…。
「そうですか。ありがとうございます。」
窓口のお姉さんと話していた小梅さんボク達のところに駆け寄って来る。
自宅に1番近い停留所とその路線を聞きに行っていたはずだが、わかったのだろうか?
どう? あった?
「うん、登山道行きのバスがお社の横を通るみたいなんだけど…次のバスが来るの30分くらい後なんですって…。」
ありゃま。
なんか今日はバスのタイミングに嫌われているねぇ。どうする? 待つ? 待つならボク達も付き合うけれど。
…と、目で訴える。
何故なら今、お口を押さえて発言自粛中だからである。蘊蓄じゃなければ喋ってもいいじゃんって? いやまぁそうなんだけれど…暫く黙ってようと決めたのはボクなので、5分や10分で話しちゃうのはなぁ…と。
はい、自己満足です。
「30分待つのだったら、歩いた方が早いわよね…待ってる間に着いちゃうもの。」
うぅ〜ん…確かにそうだけれど、学院からショッピングモールまで歩かせちゃったし、なんか今日は歩かせっぱなしで申し訳ないなぁ…。
「…ね、小梅さん。」
「なあに、なづなさん? 」
「歩いて帰るならご一緒しませんか? 」
うん?
ご一緒に?
ボク達の家は反対方向なのですが?
え、どゆこと?
「私達、宮町の文房具屋さんに行くつもりだったから、方向が一緒ならついでにと思って。」
はい?!
「え? 商店街の文房具屋さんじゃなくて? お社の方まで行くの? 」
「うん。お習字の道具をね、見に行こうかなって。宮町の文房具屋さんの方が大きいから品揃えがいいんだよ。ね、せり? 」
わざわざお社の先まで…あ、もしかして理由を付けて小梅さんを送って行こうって魂胆か? 確かにね、小梅さんの希望もあったとはいえ引っ張り回しちゃった形になっちゃったんだし、ここから1人で帰すのは…ちょっとね。
うん、そういう事なら是非に行きましょう。




