すいんぐばい⑬
すいんぐばい⑫に加筆修正を行いました。
「何時に帰って来るのかって確認だった。」
それだけ?
「そ。それだけ。」
あらま、左様で。
んで? なんて答えたの?
「ちょっと流動的だけど、あと1時間くらい。それより遅くなりそうなら改めて電話するって言っておいた。」
おぉなるほど。
ちゃんと心配されない程度の時間で帰りますと宣言し、それでいて若干予定より遅くなる可能性もあると示して余裕を持たせる。更には連絡を密にする約束をしてママに安心感を与える、と。
素晴らしい。流石はなづなだ。
「褒めすぎ。このシスコン。」
うぐぉ?!
ちょっと桂ちゃん?!
シスコンて……いや良いのか。
うん、シスコンですよ?
それが何か?
「あ、開き直ったよこの子。」
会話を聞いていた なづなが『それ、この前ママに言われたばっかり』と笑う。
そうだよ!
あれがあったから開き直ったんだよ!
って、なづなが先に開き直ってたんじゃん!
シスコンって呼ばれても構わないって。
…そう言ったらさ…なづなってば腰に手を当てて、チッチッチと指を振ってニヤリと笑い
「違うね。自分を受け入れてたのさ。」
だって。
え〜……
物は言いようだねぇ…
「んで、話を戻すけど、あと一時間って区切ったのはなんで? なんかあるの? 」
「ううん。用事があるんじゃなくって、単に暗くなる前にって思っただけだよ。」
そうか日没か。住んでいるから当たり前になっているけれど、この辺りは海沿いや平野部に比べて大体10分くらい陽が落ちるのが早いんだよね。
というわけで移動するのならば早い方がいい。
「あ〜なるほどだね。さて、じゃあこの後どうする? どっか行く? それとも大人しく帰る? 」
「そうね…久し振りにボウリングも出来たし、私はそろそろ帰ろうかな。」
「あ、小梅さん帰るの? じゃあ駅まで送っていくわ。つってもほぼ通り道なんだけど…小梅さんち方面って駅からバスで行けるんだっけ…? 」
どうだろう…?
北口から出てるバスって、山のキャンプ場や大きなお寺さん、観光地になってる滝の方に行く路線と高速バスぐらいしか知らないんだけれど…いやでも、お社へ行く路線バスくらいはあるはずだよなぁ…。
「私も学校のバスしか使わないから…。」
「スクールバスは北口を通る路線なんてないもんねぇ。」
そう、明之星の生徒で電車を利用する子達は南口発着のバスに乗る。小梅さんの様に街の北側から通う子達が乗るバスは、そもそも駅を通らないのだ。
…ふむ。
なら、行くだけ行ってみよう?
有る無しは兎も角、調べおいて損はない。
有るなら有るで時刻表とかも見ないといけないからね。
「うんうん、そうだね!市民プール行く時とかに使えるかもだし!」
市民プールて…ちょっと気が早いんじゃないかなぁ? 夏休みの話でしょう?
でもまぁ、そうだね。去年迄は保護者に車で送ってもらっていたけれど、自分達だけで出掛けるとなったら、バスが便利かもね。
「あら。市民プールなら夏じゃなくても行けるわよ? 」
…え?
そうなの? 知らないんだけれど?!
あれ? 市民プールってあれでしょ? ウォータースライダーのある、体育館横の、屋外プール、だよね?
「勿論、屋外のは夏場限定だけどね。屋内プールは25mプールで狭いけど一年中入れるよ。」
なんてこった。
初耳ですよ。
そうか屋外プールは一年中使えるのか。
「知ってたってどうせ行かないんだから、知らなくても同じじゃない。」
いや…それは、そうかも、しれないけれど…。
う〜ん…確かに冬場に「プール行こう!」とはならないか…? ならないだろうなぁ。それだったら温泉とかスーパー銭湯とかスパリゾートとか…そっちに行きたいかもしれない。
料金はかなり違うけれどね!
「温泉って…随分と渋いのね…。」
そ…そう?
「この子は昔から“こう”なのよ。時代劇好きだし、お寺や神社好きだし、骨董にも興味津々だし、挙句の果てお社にあるこんなカッコした像あるじゃない? あれに見いっちゃって動かなくなっちゃうし。」
『こんなやつ』と言って、桂ちゃんが歌舞伎の見栄みたいなポーズをとる。
「ああ、えっと仁王像? 」
いや待って!?
違うから!誤解だから!
そんなポーズとってないから!
桂ちゃんイメージだけで言ってるでしょ!?
ちゃんと見てないよね?!
金剛力士像があるのは仏教系の、端的に言えばお寺!で、街にあるお社は神道の建築物なの!だからね、門の中にあるのも違うの!楼門の…、あ、本殿の前にある門の事ね? その楼門の中にあるのは随身像って言って神様を護衛する神様なの!ほら、お雛様の『右大臣』『左大臣』っているでしょ? あれと同じなんだよ!だから裸じゃないしちゃんと服も着てるし、なんなら金ピカの束帯姿だからね?!お顔だってお髭を蓄えた穏やかなおじさま方なんだよ?!見えづらいから中を見る人って少ないんだけれど、すっっごく立派な像なんだって!一度でいいからちゃんと見て?!
…ふひぃ…。
「……ね? 」
「…なるほど。」
ボクを指差し、真顔で呟く桂ちゃん。
そして指差されたボクを見て、大きく頷く小梅さん。
あ…やってしまった…つい熱弁してしまった…。
いや、あのね? これはね?
あの、その、ええと…あうぅ…。




