閑話 光 独り語り
私は、妹尾光と申します。
明之星女子学院 中等部2年生
今日、新しいお友達が出来ました。鈴代なづなさん、鈴代せりさんと仰る双子の女の子です。
お二人とも、それはもう可愛いらしい容姿で、御伽噺の様な噂も枚挙に暇がない程です。
今迄もお二人を目にする機会は多々あったのですが、初等部からずっと別のクラスだった事もあり、お話しする事もありませんでした。
けれど、噂だけはよく耳にしていたんですよ?
曰く、桜舞い散る中庭で踊っていた。
曰く、木漏れ日の中で、寄り添い眠っていた
曰く、夕陽射す教室で口づけを…
等々、それはもう、少女小説か漫画の様な噂でいっぱいです。
勿論、その話を鵜呑みにはしていませんでした。
ゴシップ好きな子達が尾ひれを付けて話しているのだろうと。兎角こういう話は誇張されがちですから、話半分で聞いておかないと後でガッカリするなんて事も無いとは限りません。
そして今日、友人の鈴木菫さんと一緒に新しいクラス分けを確認したら、とても驚きました。私と菫さんの間に鈴代さん姉妹が揃って挟まっているのですもの。
菫さんと「お友達になれたら良いわね」と話してはいたのだけど、ビスクドールと言われる様な子達ですから、あまり人と関わるのを良しとしないのではないだろうか?少し冷たい人なのではなかろうか?そう思っていました。
この時は。
本当に驚きました。
綺麗なんです。
白磁を思わせるきめの細かい肌。白とも金ともつかない色合いの髪、アクアマリンとバイオレットの色違いの瞳、ほんのり桜色の唇。
幼さの残る顔立ちは、なるほどビスクドールと言われるのも頷ける、いえ、その他にどう例えれば良いのかわからない美しさでした。
「私、妹尾光。はじめまして。」
平静を保って握手を交わしご挨拶。
こちらの方がお姉さんの鈴代なづなさん。ベリーショートの髪がキュートな印象ですね。柔らかな表情も、あぁお姉さんなんだと納得しました。
妹の鈴代せりさん。お顔の作りは同じなのですが、とてもよく表情が変わるんです。くるくると。思っている事が全部顔に出ているんじゃないかと思う程に。
なづなさんの表情が乏しいのではなく、せりさんの表情が激しいんです。
ご覧になったらびっくりしますよ。
「可愛いらしい日本人形と西洋人形に挟まれて至福の時だ、って」
突然褒められて照れ臭いやら恥ずかしいやら、菫さんも絶句して固まってます。照れ隠しに「私からは西洋人形と日本人形が並んでいるように見えてよ?」なんて言ってみましたが、上手く言えてたでしょうか?
あ、菫さんが眼を見開いて。更に固まっちゃた。
ごめんなさい。
その後も教室で髪を弄りあったりして、少しづつわかって来ました。この子達、触れ合う事に躊躇いがないんです。お互いに触れる事が当然の事、いえ、触れあっている状態が自然な事なんです。
その触れ合いは私達にも一部適用される様で
なづなさんが「おいで、光。」と両手を広げて抱擁の体勢を取った時は、飛び込んで良いものか迷ってしまいました。
その直後、せりさんに背中を押され、なづなさんに抱きついてしまったのですけど。
なんというか凄い安心感でした。
正直、こういう触れ合いには慣れていないのですが、全く違和感なく抱擁を受け入れてしまって、自分で驚きました。それが妙に可笑しくて、はしゃいでしまって、ちょっと恥ずかしいです。
そうそう、思い返して気付いたのですけど、この時初めて呼び捨てにされてたんですよ。
あまりに自然で、全然意識してませんでした。
私達が”さん付け“でなくなるのは、もう少し後の話しなので、最初が出会ったその日だったと云うのは驚きですね。
せりさんは、私の事を「母性溢れる」と評していましたが、なづなさんの方が包容力があるんじゃないでしょうか?私も歳の割には落ち着いているという自覚はあります。でも、なづなさんのそれは、なんて言えばいいんでしょう?どっしりとした安定感…とでも言えばいいんでしょうか?
明日のお手伝いの話も、せりさんが1人でやろうと考えている事を見抜いて諌めた時、それまでとはまるで違う強い否定の意思を示していた。妹に甘いだけではない、しっかりと厳しい意見も放つ。
妹も、ちゃんと理解を示し素直に従う。
同い年なのに変かも知れませんが、人生経験が豊富な様な気がします。
…何か、以前、辛い事があったんでしょうか?
いつか、話して貰える日が来るのでしょうか?
…いずれ、の話ですけど。
せりさん達が進級式のお片付けをお手伝いすると言うので、同行させて貰う事にしたんです。
進級式の進行表や看板を書いたのが彼女達だと知って、柄にも無く興奮してしまいまして、お恥ずかしい。今日は恥じてばかりですね、ふふふ。
朝見た時は美しい書体に眼を奪われあまり気にしていなかったのですけど、改めて見るとなづなさんが書いた物と、せりさんが書いた物は、はっきり違いますね。
なづなさんの書は堂々と揺るぎない書体で、正に彼女の心が現れています。…うちの祖父より揺らぎがないんじゃないでしょうか?
対して、せりさんの書は若々しい揺らぎが見て取れます。たぶんこの看板が最初に書いた物でしょうね。枚数を重ねる毎に、段々と安定していくのが理解ります。不安定だけど、表情豊かな彼女らしい瑞々しい書です。
貼り紙を回収した時、お姉さまにお願いして数枚譲って貰っちゃいました。
二人には内緒ですよ?
きっと恥ずかしがりますから。
お片付け終了後にケーキパーティーにお誘い頂いて、御相伴に与る事になったんですが、良いのでしょうか?急遽飛び入りで、押し掛けお手伝いなのに…
「花乃お姉さまが、連れて行くって言ってたんだから平気平気。」って言ってましたけど。
ここでも色々なお話が聞けてとても楽しかったです。
ひとつ気になるお話もありましたけど…
菫さんと相談して最寄りの駅まで歩く事にした。
なづなさん達が最寄り駅方面のルートを使っているのは聞いていたから、駅への道すがらあのお話もできるかと思っていたのだけど…意外とタイミングが掴めなくて…
そんな時
「光さん、菫さんウチすぐそこだから、寄っていかない?」
お家に誘われた。
有り難くお誘いを受け、お邪魔する事にしたのだけど…ここでも驚かされました。
お二人のお母様。
柔らかな雰囲気の凄い美人なんです。
銀髪というのでしょうか?なづなさん達よりも少し濃い色合いの長い髪をひとつに纏め、和服に割烹着という出で立ちで現れ、「…開けたら、みんな裸だったとか、な〜い?」なんて言い出したんですよ。
驚くなと言う方が無理です。
我儘を言って、お二人のお部屋も見せて頂きました。
仰っていた通り大きなベッドですね。
「横になってみたら?」
お言葉に甘えてベッドに腰掛けたら、後ろから肩を引かれベッドに仰向けに寝転がる形になってしまいました。
わぁ…ふかふか。
…良い匂い…
「どう?私とせりの…愛の巣、だよ?」
そう言いながら私達の頭を撫でるなづなさんが、悪戯っぽく笑う。…もう!
やり返されちゃった。うふふ。
私が笑うと、なづなさんも満足そうに笑った。
あはははって。
「すごくいい匂い…」
菫さんが目を閉じてうっとりしてますね。
大丈夫でしょうか?このまま寝てしまいそうなんですけど。
「せりの、フェロモンじゃない?」
フェロモンって匂いあるんでしたっけ?
「メロメロになりそう…。」
「強力なライバルが出来ちゃったなぁ。」
何をおっしゃってるんですか。
せりさん本人が「ボクは…彼女がいないとダメなんです。」って言い切ってらっしゃいましたよ。
完全に恋する乙女でしたもの。
あんなに堂々と宣言出来るというのも…羨ましいですね。
ともあれ、初日から濃い交流でした。
これから先も、彼女達とは色々な事を経験していくのですけど。
それはまた、追々。