すいんぐばい⑫
「知らなきゃそんなもんだって。苗字が同じだって赤の他人だなんてよくあることじゃん? 『ワタナベさん』とか『サトウさん』なんてどんだけ居るか…まぁ『鈴代』って苗字は珍しいけどさ。」
桂ちゃん…フォローしておいて最後に落とすのやめてあげて?
「あっはっは!気にしないでも大丈夫だって小梅さん。二人とすずな姉ちゃんってあんまり似てないからさ!私だって突然言われたら信じないかもしれないしね。ほら髪の色なんてぜんっぜん違うじゃん? 姉妹だって言われても信じられないって子もいるんだよ。」
ぬぅ…概ねその通りではあるのだけれど改めて『似てない』って言われるとちょっと凹む…が、事実だから仕方ない。すずな姉ちゃんはママに似て美人だからね!
「それに私達、結構歳も離れてるから、ちょっと結びつかないかも、ね。」
うむ確かに。
親戚とか従姉妹って言われれば『あぁ!』って納得出来るけれど、姉妹で10歳差って言われるとね…なかなか珍しい年齢差かもしれない。
「まぁこれで少しお互いの事を知れたんだし、良かったんじゃない? 」
少し…うん、少しだけれどね。
確かにボクの中にある“小梅さん像”とズレていたし、御両親の事を聞いたのも初めてだった。ボクも両親の事を話題にはしなかったんじゃないかなぁ…小さい頃は家族の話はしたとしても、親の趣味とかっていう話はしなかったはず。…しなかったよね? そもそも当時のボクはママの趣味が何かなんて知らなかったと思うんだよねぇ。
それに話題。
やはり小さい頃と今とでは話す内容も違うし、初等部低学年の頃の話題なんて、お化粧がどうのお洋服がこうの…好きな子は居るだ居ないだ…と…ん? あれ? あんまり今と変わらない…? そんなもん? う〜む…女の子ってマセてるんだなぁ…。
因みにボクはその手の話題には乗れなくてねぇ、聞いてはいても積極的に輪に入ろうとはしなかったっけ。
…や、でも、ゲームの話とかもしていた気はする!
ボクは全然そっちにも興味なかったのけれど、桂ちゃんが熱心に話してくれていたから話題にはついていけてたもん。
そもそもボクも なづなもゲーム機とか欲しがらなかったから持ってなくてさ、その手の知識はもっぱら桂ちゃんか雑誌からだったはずなんだ。
あ、でもゲーム機自体はウチにもあるんだよ?
パパが買って来て格闘ゲームとかシュミレーションゲームとかやっていたからね。下手だったけれど。
あ、あとパーティゲームは皆んなでやってた。うん。テニスとかゴルフとかエクセサイズとか、コントローラーをぶんぶん振り回す系のやつ。他にもVRってのもあったなぁホラーゲームだったかな? …パパが30分で酔ってそれっきり使わなくなったヤツ。
…ああ!そうそう!酔い止めのツボ覚えたのってこの時じゃなかったかな?
そうだ、そうだよ。うんうん唸っているパパに教りながらグイグイ押してたんだ!あっはっはっ何年も経って今日役にたったよ。
…む、また脱線…
「その少しずつっていうのが大事なんだよ〜。その“少し”が積み重なって“友”という関係に至る、だよね、なづな。」
「うん。…あ、えっと、受け売りなんだけどね。」
「へぇ〜…。」
「まぁ、私は友達になってから深く知れば良いと思ってるんだけどね!」
桂ちゃんは『えへん』と胸を張る。
うんうん、君はそういう子だよね。
ドーンとぶつかって行って持ち前の明るさで直ぐに仲良くなっちゃう。ボクなんか初対面いつもドキドキなのにさ。
「その割には光さん達とは速攻イチャイチャしてたじゃん? 私という者がありながら他のオンナとイチャつくなんて!許す!存分にやりなさい!」
おぉい!
そこは『許さないんだからね!』じゃないの?!
「いやぁ…なんか今年は せりが普段よりも積極的というか、今迄よりも社交性が一段上というか…そんな感じがしたからさぁ。これは後押しせねば、みたいな? まぁ なづなの方は…なんだろう、少し余裕ある様に見えるって言えば良いのかな?…うん、そんな感じ!」
え? そう? 自分じゃよくわからないんだけれど…そんな風に見えてるの? 社交性が増した様に見えてるのならそれ自体は嬉しい事であるけれど、全然意識出来てないからなぁ…勘違いじゃなくて?
なづなを見ても『う〜ん…』と唸って首を捻っている。
「あれ!? なづなもそんな反応?!」
「いや、だって、全然余裕なんて出来てないよ…生徒会室にご挨拶に行くだけで緊張しちゃって、せりに泣き言を言ったくらいなんだから。」
あ〜、うん確かに。
けれどアレはね、まぁ仕方がないというか、当然と言えば当然な気もする。反対の立場だったらボクも尻込みしてたかもだし、何より最近ね、少々…情緒がね、不安定気味だったから。
「なづなが泣き言とは珍しい!ねぇ、せり!どんな感じだったの!? 」
ど、どんな感じと言われても…あの時はボクもテンション下がってたからなぁ…うぅん…でも、それを言うと桂ちゃんの興味の先がボクに向いて来そうだし…かといって正直に喋ったら なづなから叱れれそうだし…ええと、う〜んと、あ〜…う〜…
言っても良いものかと問いを込めて、ちらと なづなを見る。
笑顔だ。
笑っていない笑顔だ。
ほら、あれだよ、漫画なんかで笑顔なんだけれど、顔の上半分に影が入る…あんな感じの顔!これはつまり、『イッチャダメダヨ』という事ですネ!恥ずかしいんですネ!イエス・マム!
う、うん、ちょっと可愛かったヨ? とはぐらかしつつ、変える為の話題を探す。
え~と、なんか話題!できればボク達から遠い話題!
何か〜…何かないか〜?
なんでもいいんだよぅ!
ボク達から話題を逸らせれば!
うおぉ、こういう時に咄嗟に思い付かないのは人生経験の浅さ故か!?
その時
ブブブ!とテーブルの上に置かれたスマホが振動した。なづなのだ。
「あ、ごめん。私だね。…ママからメール? 」
スマホを手に取り画面を見て、『ちょっと電話してくる』と席を立ってしまった。
「…ママさんからメールって珍しいね? いつも電話じゃん? 」
おぉ、話題変わった!ナイス桂ちゃん!
「そういえばさ、ママさんって電話かけて来ては2〜3コールで切っちゃうじゃない? そんで毎回なづなが掛け直してるけど…あれ、何か意味あるの? 」
電話代はどっちがかけても同じなんでしょ? って。まぁそうだよね。家族一括だから払う金額は変わらないはずだ。…ボク達が払っている訳ではないので、如何程払っているのかは知らないのだけれど。
ふむ…? なんでだろう?
単にメールを打つのが面倒とか?
…それはないな。
ママはタイピングとか凄く速いし、ボクより遥かにスマホの機能把握しているし、メール打つくらいの事を面倒がる様な性格じゃないし…あれ? ホントになんでなのだろうか?
「あの、度々ごめんなさい。」
「はい、小梅さん。どうぞ。」
ピッと掌を上に向けた頂戴のポーズ。
うん。桂ちゃん、気に入ってるんだな。このポーズ。
「桂さんって、なづなさん達のお母様の事を『ママさん』って呼んでるの? 」
ああ、その事か。
確かに。友人のお母さんを“ママさん”と呼ぶのは珍しいよね。
「うん、そうだよ〜。まぁちょっと理由があってさぁ… 」
「ただいま〜。」
「あ、お帰り〜どうだった? てか、何だったの? 」
うおぉおい?!
期せずしてまた話題が変わってしまった!
いや、良いんだよ?!
別にね?!
小梅さんも意識がなづなの方に行っちゃったみたいだし、実際大した理由じゃないし!
…良いんだけれど、さぁ…




