すいんぐばい
「椿さん大丈夫かな? また顔が赤いみたいだけど…。」
うん、ボクもちょっと気になっていたんだけれど、紗羅さんがね『あ〜…あれは体調が悪いとかではないので… 』って。
簡単なストレッチはしたけれど、あんなに劇的に血行が良くなる訳はないはずなんだがなぁ…。本人も体調に関しては大丈夫だとは言ってたけれど、鼻血の事もあるし少し心配ではある。
まぁ、それも紗羅さんが『私が見ておくので大丈夫ですよ。』と請け負ってくれたので、お任せしてしまったのだが。
「ふぅん…体調じゃないのなら良いんだけど…紗羅さんが、ねぇ。なるほどなるほど。」
ん? 何? 紗羅さんがどうかしたの?
何か気になる事でもあった?
「ん〜ん。なんでも。」
えぇ…そう言われると気になるんだけれど、こういうはぐらかし方する時の なづなは食い下がっても答えてくれないんだよなぁ…。
まぁ仕方ない、そのうち気が向いたらおしえてくれるでしょ。
気が向いた時にボクがその事を覚えていればいいんだけれど、ね。
彩葵子さんの終了宣言後、皆はパラパラと帰り支度を始め三々五々教室を後にしている。
それでも残る子はいるもので、特に椿さんと沙羅さんは未だモニターを見ては、ああでもないこうでもない、と試行錯誤を繰り返しながら編集作業を行っているのだ。
…真面目だなぁ…。
「お先に〜。」「また来週。」
挨拶を交わし退室する子達を見送りながら、ボクも帰る準備を始めた。ま、準備と言っても持ってきた教科書とノート、筆記用具等をスクールバッグに放り込む程度の事なのだけれど。
机の中に残してゆくのは分厚い国語辞典、英和、和英辞典くらいの物で、その他は基本的に全部持って帰っている。
何故かって?
初等部低学年の頃にねぇ…教科書その他を置きっぱなしにしておいて、学期末に纏めて持ち帰る羽目になった事があってさ…画板の上に山の様に荷物を積み上げて、ヒィヒィ言いながら持って帰ったという苦い思い出が…ね。
普段なら徒歩20分の距離を倍以上かかって歩いたんだよ。
なづなも『自分の荷物なんだから、ちゃんと自分で持ちな』って言って手伝ってくれないし。当たり前って言えば当たり前なんだけれど…。
あの時初めて『自業自得』という言葉を理解したね。
そんな事があって“持ち帰れる物は普段からこまめに持ち帰る”を心がけているんだ。
む、また逸れちゃった。いけない、いけない。
彩葵子さんは自分の席で…あれは日誌を書いているのかな? 皐月さんと相談しながら何か書き物をしている様に見えるな。あれ? そういえば、まだ日直って決めてなかった気がするな?
「せりさんと なづなさんはまだ帰らないの? 」
ああ小梅さん。
うん、ボク達は現在、時間調整中。
「時間調整? 」
「うん、部活が終わるのを待ってるんだ。」
「部活? 」
そ。庭球部がね、終わるの待ちなんだよね。
はっきり約束した訳じゃないんだけれど、一緒に帰ろうと思って待ってるんだ。先に帰って後で合流でもいいとは言っていたけれど、一応ね。
「庭球部…って、あ、広小路さん? 待ち合わせ何処か行くの?」
そうそう、広小路 桂ちゃん。
なんかねぇ桂ちゃんが久しぶりにボウリングやりたいんだって。
んで、1ゲームだけならって事で行くことになったんだ。
「1ゲームなのは せりだけだよ? 」
なんですと?!
え?!なづなは2ゲームやるつもりなの!?
お財布にそんなに余裕が?!
くっ…!
「あの…ボウリング場って…近くにありましたっけ? 上の方に一軒あるのは知ってますけど…。」
「ああ…国道沿いのボウリング場は去年の夏に閉店しちゃったんだよ、ね。」
「え!そうなの!? 」
そうなんです。
ちょっと遠いから最近は滅多に行かなかったけれど、初等部の頃はパパやママに連れってってもらってたよ。広くて設備も良かったんだけれどねぇ。
そういえば、パパが子供の頃は駅前とウチのすぐ近所、歩いて2分くらいの所にも一軒づつあったって言ってたなぁ。
「じゃあ、何処に行くの? 」
「駅南のショッピングモールあるでしょ? あの中に最近できたの。あまり広くはないんだけど、最新式なんだって。」
「あの中に?!…はぁ~…広いとは思っていたけど、そんなモノまであるなんて…映画館もあるわよね? 」
あるある。なんでもあるよ、あそこ。
あのショッピングモールの中を見て回るだけで1日つぶれちゃいそうだもん。
「で、寄り道して行こうって約束なんだ? 」
まぁ…そうですね。
寄り道って言われると、なんかイケナイ事をしてるみたいだなぁ…。




