教室での出来事
短いです。
えぇと。
今、私達の教室では、何故か大マッサージ大会が催されている。
いえ、最初は私がマッサージ、というか指圧? を受けていたのよ。それがいつの間にか全体に伝播して、二人一組に分かれてお互いの手のひらを揉み合っている…という、自分で言っていてもよく解らない状況ね。
事の起こりは、私が『目が回っちゃった』みたいな事を言ったのが最初だったと思う。
そうしたら せりさん…なづなさんだったかしら…? どちらかが『画面酔いだろう 』みたいな事を言ったのよ。私は『画面酔い』と言うものが何か知らなかったのだけど、なづなさんの説明によると『自分の記憶している空間知覚と現在見えている画面及び体感覚との齟齬で脳が混乱する』現象なのですって。
…今ひとつ理解らないわよね…。
『ゾンビを倒して行くゲームあるでしょ? あれ、景色が流れるのに、自分は止まっているでしょう?その差が酔いの原因』と説明されて、『ああ3D酔いと似た物か』と漸く納得したわ。
私3Dで一人称視点のゲーム、苦手なのよ。
直ぐクラクラしちゃって続けられないの。
あれと同じ物だった訳ね。
今回の『画面酔い』は『自分の意志と無関係に画面が動いた』事で脳が混乱したんだろうって。
バスとかの乗り物に弱いんじゃないかって聞かれたけど、特にバスで酔った記憶はないのよね。何故かしら?
…話を戻すわね。
まぁ、そんな感じで酔い止めのツボを押してあげるって流れになったわけ。何故か皐月がやる事になったんだけど。
二人がかりで両腕をムニムニと押されまくる事暫し。
正直に言えば、効いているのかどうか判断出来ない。
楽になった気もするけど、マッサージも効果かと問われたら…『そうかもしれない』とし言えない。
続けて脚のツボも押されたのだけど、こっちは少し効果がある気がしたわね。上手く伝わるか疑問だけど『押されている場所の内側が痛い』って感じで。あぁコレが“効いてる”って事かぁなんて思ったわけ。
これで終わりかと思うでしょ?
まだ続きがあるのよ。
腕を揉んでいた なづなさんが私の背後にまわって、首や
耳の裏側を押し始めたのよ。首のつけをグーっと押したり、両手で頭を包む様に持って、上にグーっと持ち上げたり。
これは気持ち良かったわね。
ええ、気持ち良かったわ。
詰まっている首の関節が伸ばされるみたいで。
ときどき、偶に、ほんの少しだけ、後頭部に当たる柔らかな感触さえ気にしなければね。
私がそんな状況だった時、他の子達もマッサージに興味を示したらしくてね、せりさんが『なら、簡単なのを教える』と提案したらしいの。
で、手のひらマッサージを教えたって訳ね。
せりさんが誰か一人にやってみせて、ここが何々のツボでどんな効能があって、こっちはどれどれのツボで〜…ってレクチャーしていたわ。
生贄…じゃない、実験台になった紗羅さんは、普段からは想像出来ないくらいだらしない顔をして『あ゛〜…… 』とか唸って…呻いて? いたけれど…あれ大丈夫なのかしら?
なづなさんに言わせると、手のひらは一番ツボが集中している場所なので、凄く効くんだって。
一人でも出来るけれど、人にやって貰った方がリラクゼーション的に、より効果的なんだそうよ。
そういうものかしらね。
で、みんながお互いマッサージをしあっている中、せりさんが最後の最後に椿さんのマッサージを始めたの。
『椿さんも、あまりモニターばかり見つめてると疲れるでしょう?』とか言って。疲れ目のツボやら肩凝りのツボやらって、色々と押していたの。
椿さんの手を取って、両手の親指でギュッ!ギュッ!って。
解説付きで。椿さんは『押される度に手の甲が痛い』みたいな事を言っていたけれど、あれは私の『内側が痛い』と同じ感覚なのかしらね? 後で試してみようかしら?
両手が終わると次は頭のツボ。
私と同じパターンね。
余程効いているのかしら? 顔が蕩けている様に見えるわ…
あーあー、手と頭だけじゃなく肩のストレッチまで始めちゃった。
せりさんって一度始めるとどんどんエスカレートするタイプなのかしら? このままいくと『はい、そこに横になって』とか言い出しかねないわねぇ…適当な所でストップかけた方が良いかも…。
…あら?
椿さんの顔が赤くなってきた?
マッサージが効き過ぎて、血行がよくなり過ぎちゃったのかしら?
…どんどん赤くなっていくんだけど、ホントに大丈夫…?
あれのぼせてるんじゃないの?
また鼻血出ちゃうとかない?
ねぇちょっと?!
…なんて一人で焦っていたら、『はい、おしまい。どう? すっきりした?』って言ってせりさんが椿さんから手を離したの。
内心ホッとしたわ。
このままじゃ本日2回目の流血沙汰になりかねない!って思っちゃったもの。
まぁ…流血寸前だった当の本人は、何故か凄く残念そうな顔をしていたのだけど。
そんなに気持ちよかったのかしら?
マッサージ。
いずれにせよ、みんな集中切れちゃってるみたいだし、このままここに居ても雑談してダラダラと時間を潰すだけになりそうよね…今日のところは、そろそろお開きかしら?
斯く言う私もちょっと緩んじゃっているし…
そうね…そうしましょう。
「はい、みんな聴いて。」
パンとひとつ手を打つと、教室内の子達が一斉に私に注目する。
「みんな程良く緩んじゃっているみたいだから、今日はこれで解散にしましょう。どうかしら、なづなさん? 」
『そうだね』と賛同をを示してくれるものの少し苦笑気味なのは、おそらくこの緩みの原因、大元が自分だと思っているから、でしょうね。
でも、原因と言うなら私だってそうよね?
マッサージするって言われた時に『後でお願いするわ』とか『一区切り出来たら』って断ればよかったんだもの。
「椿さんはどう? 」
相変わらず赤い顔をしたまま、こくこくと頷いている…なんか民芸品の牛の置物みたいな動きね。
「なら決まりね。みんなお疲れ様!」
という私の言葉で本日は解散と相なった。
それにしても今日は新たな発見があったわね。
実を言えば、皐月があんな風に積極的に人触れるのを初めて見たのよ。まぁ相手は私だった訳だけど。
今迄だって肩をポンってするだけでビクッてなってたから、皐月って潔癖性のケがあるのかと思っていたんだけど…如何やらそういうわけではないらしい。
せっかく委員長、副委員長という近い役職になったんだもの、もう少し仲良くしても良いと思うのよね。いや、仲が悪いとかって意味じゃないのよ? 少し距離が遠いなぁって思ってるだけ。
せりさんのいう“スキンシップ”…してみようかしら?
流石に…せりさんみたいなゼロ距離は憚られるけど。




