あふたーすくーるあくてぃびてぃ㊻
「彩葵子さーん、どううだった? 上手く撮れた? 」
小梅さんが手を挙げて呼びかけると、彩葵子さん達もようやくスマホ画面から顔を上げてこちらを見た。うん、こっちじゃなく前向いて?ほら陸上部の子が前に居るから。余所見してるとぶつかっちゃ……わなかった…。よかった相手が避けてくれたよ。
う~む、どうも光さん菫さん椿さんと立て続けに衝突しそうな現場に居合わせた所為か、ちょっと過敏になってるっぽいな。普通に考えれば少々ぶつかったところで、そうそう怪我などするものではないんだから。
まぁ椿さんに関しては衝突相手が柱の角だったから、危なかった事は危なかったのだけれど。
当の彩葵子さんはといえば、ぶつかりそうになっていた事に気付いた彩葵子さんが避けてくれた陸上部の子にペコペコと頭を下げていた。
「せりさん、小梅さん、そちらはどうだった? 私達はまぁまぁって感じだったけど。」
ボクと小梅さんは一度顔を見合わせ、その問いにニヤリと笑って答える。
「「バッチリ!」」
綺麗にハモった。
「え…そんなに良い出来なの? ホントに? 」
「ええ、とても。私のは偶然に撮れただけなんだけど、せりさんは狙って撮っていたのよ。桃萌香が珍しくすっごいカッコイイの。」
小梅さん…今、さらっと『珍しく』って言ったね。
やっぱり普段の桃萌香はカッコよくはないんだな。うん。
「へえ…それは気になるわね。早速見せてもらいたいところだけど…ちょっと移動しましょうか。」
あ、そうですね。他の子達も集まって来るでしょうし、ソフトボール部の方に行っている なづなも程なく戻って来るだろう。みんなが集まったら結構な大人数になってしまうからね、今のうちに広い所に移動しておくのが正解だろう。
各々の成果の程を報告し合いながら、グラウンドの端を東の通路側へと移動する。そちら側ならば開けていて邪魔になる事も無ければ、ソフトボール部のいる野球場から戻って来る際にも容易に視認出来るはずだ。
移動中に振り向いて見れば、遥か後ろのから紗羅さんと椿さんが此方に向かって歩いているのも確認出来た。あぁ…もう、やっぱり2人とも手元を覗き込見ながら歩いてるよ…ほらほら前見ようね? 転ぶよ?
…なんて心配しても仕方ないのだけれど。
グラウンドの中にいる制服姿の子は皆ボク達と同じ方向に移動しているので、この調子なら程なく合流出来るはずだ。
『ね、彩葵子さん、どんな感じに撮れたのか見せて? 」
グラウンドの端に辿り着いたところで、小梅さんが言葉を発した。
「それは良いけど、たいして凝った物は撮っていないわよ? 小梅さん達はなんか何度もやり直していてみたいだけど。」
うん。最初に“これ”っていうテンプレ的な映像イメージが有ったからね、どうしても撮って置きたかったんだよ。
けれどまぁ、ボクが思い描いていた物より小梅さんの“なんとなく”撮って写真の方が何倍も良かったんだもん、いやぁ参ったね。
「…へぇ。どれどれ見せて。」
「もちろん。ほら、せりさんのも見せてあげましょうよ。凄くカッコいいんだから。」
ああ、はいはい、ただいま。
如何ですか?小梅さんの方が良いんのは間違いないのだけれど、こちらもなかなか良い出来だと思ってますよ。
…そうは言っても被写体は桃萌香なので、やっぱりよく見ると可愛いに比重が振れてるんだけれど。
「これは…良いわね。卒業アルバムとかに使えそうだわ。…せりさんのも素敵ね。疾走感が凄い…これ、狙って撮ったの? 」
ですよ〜。
だがしかし。ボクの撮った写真もなかなか高評価ではあるが、やはり小梅さんの撮った写真は評判が良い。うむ、さもあろう。あれは良いものだ。
他の子達の写真も見てみたが…まぁ悪くはないかな、くらいだ。
とはいえ映像の一部分、ほんの一瞬しか映らない様な物なのだから必要充分ではある。ボクが拘り過ぎなだけなのだからあまり気にしないで欲しい。
「けどねぇ、せりさんや小梅さんのを見ると私達のっていい加減に見えるわよねぇ…。」
「ね。どうする? もう一回撮らせてもらう? 」
「今から? また休憩まで待つの? 」
…いやいや、だから気にしないでっていってるじゃない。
みんなのも充分及第点なんだってば。
さっきも言ったけれどボクのは独り善がりな拘りの産物だし、小梅さんのは“小梅さん自身の感性の成せる業”であるからね、ボクのは兎も角そちらは真似できる様なモノじゃない。
少なくともあの時点でボクはあの瞬間を切り取ろうとは思わなかった。
もしかすると小梅さんには画家や写真家といった芸術系の素養があるのかもしれない。いや、わかんないけれど。なんとなく。
「お待たせしました…なにかあったんですか? 」
沙羅さんおかえり~首尾は如何でしたか? 椿さん…はスマホ見ながらブツブツ言ってますが大丈夫なんでしょうか?
「あ、平気ですよ。『どういう順番で並べるのが効果的だろう』って悩んでいるだけです。」
ほほう。
ならば思い通りの写真は撮れたのですな。心は既に編集作業の方に切り替わりつつあると云うところか。とすれば後は なづなが戻ってくれば本日の目的は完了ですかね? 途中、若干要らぬ行動をとる羽目にはなったが思いの外すんなりと済みそうだ。
「ねえ!沙羅さん達の写真も見せてもらっていいかしら?! 」
「え…? ええ、もちろんです。」
沙羅さんの所に群がり写真の見せ合いを始めるクラスメイト達。
なんかよくわからないけれど、真剣な顔でうんうん唸っている。
だからぁ、君達のは君達ので充分なんだってば。
ちょっと椿さん自分の世界に行ってないでなんか言って?!
「はい?!え? なんですか? あれ? せりさん?!何故ここに? 」
…すいません…寝ぼけている訳ではないですよね…?
うぅむ、どうやら本当に自分の世界に行ってたみたいだねぇ。
まぁいいや。
ええとですね、かくかくしかじか…という訳なので、皆が撮ったものは態々撮り直す必要はないんですよと、その様にですね演出担当から説得して頂きたいのですが…お願いできませんかね?
「ああ、なるほどです。状況は理解りましたけど…小梅さんのって、そんなに良いんですか? 」
やっぱりそこは気になっちゃうのね…でも!写真の確認は後回しにして皆を抑えましょう。そうしないと…下手をすれば部活終了時間まで待つ事になりかねませんよ?
「確かに。では全員揃い次第撤収して戻るとしましょう。…え、と、戻って来ていないのは… 」
後はソフト部に向かった なづなと…もう一人、かな?
あちらも終わる頃合いだと思うのだけれど…
「あ、来ましたね。じゃあ皆に言ってきますから少し待ってて下さい。」
おや? ちょうど良く帰って来た? …って、あぁ本当だ。確かにこちらに歩いて来ているのが見える。よく見つけたなぁ椿さん。




