あふたーすくーるあくてぃびてぃ㊷
ボクは立ち止まった桃萌香にの傍へ、なるべく静かに、気付かれない様に近づき、パシャリ、パシャリとシャッターを切る。ほとんど静止しているのでブレも無い。よっしゃ!上手くいった!
流石にシャッター音で気付かれてしまったが、これは仕方ないね。撮りたいシーンはしっかりと撮れたので問題ない。重畳重畳。
直後、ボクの存在に気づいた桃萌香がバッとボクの方に顔を向け、捲し立てる様に文句?を言ったが。
「うぇ?!なに撮ってんの?!ってか、なんでここにいるの?!さっき迄あっちにいたでしょ!? 」
いや、そりゃあ追いかけて来たから?
別に追い抜いた訳じゃないのだから大した事ではなかろう。
「追い抜かれてたらプライドズタズタだよ!? 」
あっはっはボクそんなに速くないって。
……なづな ならやりかねないけれど…。
それよりもさ。なんか今の言い方、桂ちゃんみたいだったね?
やっぱり似てるんじゃない?
「…ま、マジか…… 」
…何故そんなにショックを受けるかな?
あぁ、そうそう『何を撮っているか』だったね。
ええと…桃萌香はさ、ゴールしたあと立ち止まると決まって腰に手を当て大きく天を仰ぎ、長く息を吐きながらゆっくりと下を向く…って動きをするんだよ。
これがルーティン…というか癖? かな?
数本走るのを見ていたが、走り終えた後は必ずやっている。
それに対してスタート前のルーティンは未だ確立されていない様で、首回したり腕グルグルしたりストレッチしたりと色々やっていた。まぁそのうち固まってくるんだろうけれど。
…で、そのルーティンの時に『どんな顔をしているのかな? 』って思っちゃってね。もしかしたら“やり切ったアスリートの顔”が拝めるんじゃないかな、と。それを写真に収められたら“カッコいい”んじゃなかろうか、なんて思ったわけさ。
あんだーすたん?
「…えぇ…先に言ってよ… 」
何言ってんの、先に言ったら意味ないんだって。
絶対カッコつけてわざとらしくなるもん。自然体が良いんだよ、自然体が。
「それは…まぁ…わかる。」
うむ。わかっていただけた様で何より。
では早速、先程撮った写真の確認をしましょうかね。
どれどれ……
お…
おお…
おおぅ…
これは、これは良い。
一枚目の走っている姿を撮ったもの。被写体である桃萌香は疾走するポーズのまま静止したように綺麗に写り、背景はブラー…流れてブレた様に写ってている。
…成功した。はっきり言って思った以上の出来栄えだ。
二枚目は…これも良いねぇ。
天を仰ぐ姿を少し煽り気味で狙ったのだけれど、微妙に逆光で汗がキラキラしてとても美しい。三枚目も同様だが、こちらは俯き加減なのでアンニュイというか…憂いを帯びた表情に見えて“ドラマを感じさせる写真”になった。
いやいや、これは良いんじゃないか?
ボクにしては上出来過ぎるくらい上手く撮れていると思うよ?
どうよ桃萌香?!
「お…おぉ~…私カッコいいじゃない…。」
ね。実像とはかけ離れているけれど、これは良いよね?
なかなか良い写真が撮れた。これは卒業アルバムとかに使っても良いレベルじゃなかろうか?
「どれどれ? 私も見たい。」
ぉうわっ?!
小梅さん何時の間に背後に?!
「え? 今来たばかりよ? それより上手に撮れたんでしょう? 私にも見せて? 」
あ、はい。
どうぞどうぞ。
うぅ…また背後を取られた…。
「うわぁ…これカッコイイわね。凄い疾走感。」
「ね!カッコいいでしょ?!『スプリンター 』って感じよね!」
確かに。
でも自分で言うかなと思わなくもないけれど、自信を持っているのは良い事です。ちゃんと実力に裏打ちされているのだから誰も文句は言わないし、ね。
「でも、こっちも良いじゃない? 走り切った〜って雰囲気が出てて私は好きよ? 」
「やっぱり私カッコいいのよ。ねぇ? せり? 」
そうだね。写真で見るとカッコいいね。
「……写真で見ると…?」
細かい事は気にしなくて良いよ。うん。
ところで小梅さんの方はどうだった?
ボクの腕じゃ今撮った写真以上のは撮れないと思うんで、終わりにしても良いかと考えていたのだけれど…
「あ、そうだった!私も良いのが撮れているの!最初の趣旨とは違うのだけど…ちょっと素敵な写真になってるのよ。撮れたのは偶然なんだけどね。」
ほぅ!
それは是非拝見したいですね!
普段は控えめな発言の多い小梅さんが“良い”と言うのだ、これは期待せざるを得ない。どれどれ?
「ちょっと待ってね… 」
スイスイとスマホの画面を弄り画像フォルダを開く。
…結構な枚数撮っているね? なんかボクと桃萌香が話している写真とかドヤ顔してる写真とか…ボクだけを写したのまであるじゃないですか?!ええ…?
…何時の間に撮ったの…全然気付かなかったよ…。
「あ、これこれ。見て見て、凄く素敵だと思わない? 」
…ほほぅ。
これはこれは。




