あふたーすくーるあくてぃびてぃ㊶
加筆予定です…
「カッコよく…ねぇ。小梅はどんなのが良いと思う? 」
「せりさんが言ってた『スタートする瞬間』とか格好良いと思うけど、上手く撮れるかわからないのよね…。」
そうなんだよ。ボクのスマホカメラだとタップしてからシャッター落ちる迄のタイムラグがあるから、タイミングを掴むのに何度か試し撮りしてみたい…って、ああ!…そうか!しまった!
「え? なになに? どうしたの? 」
つい大きな声を出してしまい、周囲の注目を浴びてしまった。小梅さんと桃萌香も驚いた顔でボクの方に振り返る。
「あぁ~…いや、そのぅ…大した事じゃないのだけれど…待ってる間に試し撮りしとけばよかったなぁ…って思って…。」
「え? でも、陸上部の部活紹介と被ると困るからなるべく写らないようにって……あ…!」
どうやら小梅さんも気がついた様だ。ボクと同じくその部分に思い至っていなかった様で、愕然としている。
そうなんだよ。クラスメイト以外の部員の写真及び動画の使用はNGだが、絶対に撮るなとは言われていない。例え他の部員が写り込んだとしても、練習として撮影して使用しなければよかったのではないか、と。
詭弁の様ではあるけれど、そこまで厳格なルールがある訳でもなし、お叱りを受ける程の脱法行為ではない、はず。
「そうよね…クラスメイト以外はダメって言われたから…カメラを向けるのもダメだと思い込んでいたわ…。」
ね〜…折角練習する時間が有ったのに…なんで気付かなかったかなぁ、思い込みはいかんねぇ…。
「ま、過ぎた事は仕方ないじゃない。サクッとやっちゃいましょう。で? 何本かスタートダッシュすれば良いの? どのくらい走る? 」
あっけらかんと言い放ち、自分はどうすれば良いかと問うてくる桃萌香。非常に切り替えが早い。いやしかし、その通りだ。済んでしまった事は仕方ないし、ウジウジと思い悩んで悩んいても時間を浪費するだけで良い事は何も無い。ならば切り替えてやるべき事をやろう。反省は後で気が済む迄すれば良い。
「うん、じゃあ最初はスタートを撮りたいな。走るのは2〜3歩でいいから全力で。たぶん4〜5本で何とかなると思う。」
「ん。わかった。」
「小梅さんはボクとアングル違いでお願い。小梅さんが『この角度がカッコいい』って思うアングルで。」
「桃萌香のカッコいい角度って…どこかしら…? 」
「ちょっと? 私は何処から見てもカッコイイでしょうが。」
う〜ん、まだまだ可愛いの範疇だと思う…って、いやだから、それはもう良いってば。はいそこ、戯れない戯れない。
「ねえ、スタートの合図はどうするの? 」
「あ、そうね。…私か せりさんが『よーい、どん』…? 」
それで良いんじゃないかな。
桃萌香に自由なスタートされたらタイミング合わなくて苦労しそうだしね。まぁ、その場合一番大変なのは桃萌香本人な訳だが。
「じゃあ小梅が合図出してくれる? 」
「うん。せりさん、良いかしら? 」
もちろんです。
そんな遣り取りがあって、桃萌香がスタート位置に立つ。
…お? この立ったまま息を整える様なポーズ、なかなか様になっているんじゃない? 一枚撮っておこう。
地面に手を着き、クラウチングスタートの体勢になった桃萌香が『いつでもいいよ』とボク達に声を掛けるてきたので、小梅さんと頷き合ってスマホを構える。ボクはほぼ真横から、小梅さんは2〜3歩離れた斜め前方から狙っている。
さて、上手に撮れたらお慰み。
「よーい…ドン!」
小梅さんの号令と同時に飛び出す桃萌香。おぉ!素晴らしく良い反応だね!
当の桃萌香は ほんの数メートル進んだ所で振り返りボクたちの所迄戻って来た。
「どう? いけそう? どれどれ? 」
ちょっと待ってね、確認確認。
画像フォルダを呼び出し今撮った写真を開く。
「…うっわ。私、結構ブサイク?!」
んなこたぁない。
これは偶々撮ったタイミングが悪かっただけだ。
おそらく気持ち早かったのだと思う。
ブレも無く綺麗に撮れてはいるけれど表情がね…う〜ん…ちょっと微妙? 息を止めて頬を膨らませて、息んでいるみたいな感じになっちゃってるんだよなぁ…。眼もなんか見据えているというより睨んでいるみたいな…小梅さんは?
「私はダメ。ブレちゃった。」
「そっか。ならもう一回? 」
だね。悪いけれど、もう何本かお願い。
流石に一発で納得出来る物は撮れないとは思っていたからね。けれど意外と手応えはある。これならサクッと終わりそうだ。
…そう思っていた時期がボクにもありました…。
「なんで〜?!なんかさっきより酷くなってない?!」
うん…確かに悪くなっている。
2回目は気持ち遅くシャッターを切ったのだけれど、桃萌香の加速が想定より鋭くてブレてしまったし、続く3回目は気負い過ぎて早くシャッターを押してしまった。4回目に至っては画面の中央に被写体が写っていないときたもんだ。うがぁ!
…ふぅ、落ち着け。まだ時間は有る。
「小梅は? 」
「私なんかもうブレブレで全然ダメ。せりさんはちゃんと写せてるのに…カメラの性能なんて大差ないはずなんだけど…。ねえ、せりさん、どうやっているの?」
「どうやってって…普通に流し撮りしてるだけで変わった事はしてないよ? 」
「…流し撮りって何? 」
あ。そこからなんだ?
詳しく説明していると時間がなくなっちゃうので、ざっくりと『被写体をカメラフレームに収めたまま追いかけながらシャッターを切る』手法だと説明する。実際にはシャッタースピードやら光の加減やら何やら色々あるのだけれど、スマホカメラの機能はボクも詳しくわからないからね。全部すっ飛ばしました。
「…とまぁ、こうすると被写体だけくっきりと、周囲はブラー…ええとブレて滲んだ様な写真が撮れるんだ。」
「はぁ〜…なるほど。」
「でもさぁ、せりが失敗してるくらいだから結構難しいんじゃないの? 」
信頼がキッつい!
ボクに出来る事なんて微々たるモノですよ?!
「いやぁ、ボクが下手なだけだよ。」
なにしろ知識として知っていただけで今回が初めての挑戦ですからね。機材もちゃんとしたカメラではなくスマホですし? 上手くいかないのは仕方ないと思いません? まぁ言い訳に過ぎないんですけれど。
もう何回かやれば一回くらいは理想に近い写真は撮れそうな気はするが…ちょっと今別の構図が浮かんじゃった。折角だからそっちも撮っておきたいな…そっちならば桃萌香はほぼ静止しているはずなので、失敗のリスクは低い。勿論、絶対ないというわけではないけれど。
「桃萌香。次は20mくらい先まで行ってみてくれる?」
「あいよ〜。」
「小梅さん、ボクちょっとゴールの方に行ってるね。」
「え? あ、はい。」
小梅さんに言伝て15m程離れた場所まで移動する。もちろん思惑あってこの場所に陣取ったのだが…先ずはこの辺りで一枚、そして…その次。そっちの方がボク的には本命だ。ちゃんと撮れればカッコいい桃萌香を写真に収められる……はず。
「せりさーーーん、いきますよーーー。」
脚を止めたボクに小梅さんからの合図が届く。
はーい、いつでもどうぞーーー。
しゃがんでいた桃萌香がクラウチングの姿勢をとり、グッとお尻を上げて…スタートを切る。ぐんぐんと加速して、あっという間にボクの前に到達し、そして駆け抜けてゆく。
シャッターは…切れた。
おそらく今迄で一番良いタイミングで。
よし、次だ。
ゴール地点を走り抜けて立ち止まった桃萌香に追いつくべく、ボクもその場へと急ぐ。……狙っている場面はほんの僅かな時間にしか存在しない筈だ。今回を逃したら…二度目は拒否られそうな気がするので失敗は許されない!
なんたって、ある意味隠し撮りだからね。
A.M.11:20
微修正及び加筆を行いました。
次話は明日深夜に投稿の予定です。




