あふたーすくーるあくてぃびてぃ㊴
加筆します
絶対します…。
「あ、ごめん。驚かせた? 」
声のした方向を見ると、半袖の体操服の肩にジャージを羽織り、腰に手を当てたポーズの…えぇと…あ、体操服にゼッケンが付いていないから高等部のお姉様だね。ジャージの色が学校指定のものじゃなかったから一瞬混乱したよ。
「いえ大丈夫です。ごきげんよう、お姉さま。」
なるべく平静を保って優雅にご挨拶。
内心バクバクしていても、ご挨拶だけはきっちりとしないとね。
「はい、ごきげんよう。」
声をかけてきたお姉さまは、背中の中程までありそうな長い髪を前髪も含め全て後ろに流しヘアバンドで留めている。こういうのもオールバックって言うのだろうか? こんな風におでこを出している髪型の人って、ボクの周りにはあんまりいないなぁ。
「あの、お姉さま『大会が近い』というのは…陸上競技会はまだ先だと記憶しているのですけれど…? 」
「あら、よく知っていること。そうね、インターハイや中体連の大会はもう少し先になるわね。」
ふむ、間違ってはいなかった様だ。
だとしたら、お姉さまの言う『大会』とは…
「マラソン大会がね、今月半ばにあるのよ。」
マラソン大会? え? 明之星のじゃないよね? 明之星のは冬のはずだ。って事は外部の大会という事か。それでみんな気合い入ってるの? なんで? いや、長距離の選手が力試しで小さな大会に出るとかっていうのは理解出来るのだけれど、あまり関係無さそうな短距離や高跳びの人達も妙に熱心に練習している様に見えるのだが…?
「まぁ県主催の市民マラソンみたいな大会なんだけどね。ずっと前からの伝統みたいなもので、毎年参加している所為かみんな妙に気合い入っちゃうのよ。」
ええ…?
つまり、なんですか、お祭り前で浮かれてる状態って感じなんですか、これ。何に楽しみを見出すかは個人の感性に拠るから否定する事は出来ないのだけれど…マラソン大会で浮かれますか普通?
「…良い成績を残したらご褒美があるとか、でしょうか? 」
……小梅さん、いくらなんでも即物的じゃないですか? ボクじゃないんだから…あ、これ前にも話したっけね。ええ、ボクはお汁粉目当てでマラソン大会楽しみにしてましたから、ご褒美目当てでも驚きはしませんよ。しませんけれど、部として参加するモチベーションとしては些か…ねぇ? どうなの? って思いません?
お姉さまはその問いに笑って『流石にそれはないわ。』と返した。そりゃそうだ。そんなの考えるまでもなく長距離を専門にしている選手が強いに決まっているし、その選手達を除いた成績で…なんて事をしたら長距離選手達の反感を買うのは必定だもん。
「毎年参加している恒例行事なのよ。そうね…言うなれば一年間の成長を見る機会であり試金石…って感じかしら。」
ははぁなるほど、以前の自分と比べる事の出来る最初の機会という訳か。
それならば気合の入るのも頷ける。なんたって自分自身が『成長している自分』を一番見たいんだから。
「…っと、そんな事を言いに来たんじゃないのよ。」
ん? あ、そうなんですか。
…そういえばご用事伺っていませんでしたね。
「ええとね『今やっている20mダッシュが終わったら休憩に入るから、なるべく手早く済ませてくれると助かる』ですって。」
わざわざ伝言を持って来て下さったのですか。
それはありがとうございます。
…って、お姉さまは練習しなくていいんですかね?
「わたし? あ~…私はねぇ、幽霊部員みたいなものだから。」
“幽霊部員”とは。
『部に所属しているが部活動に参加している様子を見たことがない者を指す言葉。姿の見えない存在といった意味合いから幽霊に喩えられた。』
いやいや、実際ここに居らっしゃるのに“幽霊”はないでしょう。
「ふふ。実際、普段の練習には殆ど顔を出していないから、私の事を知らない子もいるんじゃないかしら。今日だって偶々顔を出しただけだしね。」
ふぅん…。
言われてみれば…今 練習に参加している部員は桂ちゃんほどではないにしろ皆よく日焼けしている。それに対してこちらのお姉さまは、まったく焼けていないと言って良い。色が白い、というか青白い?
…インドア派の椿さんよりも色白かもしれない。
「ま、それはいいのよ。それより伝言、確かに伝えたわよ? そんな訳だからもう暫く待っていて頂戴。」
「は、はい、ありがとうございます。」
…小梅さん、なんか恐縮しちゃってる? まぁ部活やっていないボクらみたいなのは高等部のお姉さま方と接する機会が極端に少ないからねぇ、緊張するのも理解からなくもないけれど。
「…あ、そうだ。えと、あなた噂の双子ちゃんよね? 」
「はい、妹の方です。」
“噂”のっていうのが少々気になるが…。
いったい何処でどんな噂になっているのやら…。
「…なるほど、なるほど。」
なにやらニコニコとボクを眺めながら頻りに頷いている。
なになに、なんなの。
「え…と、お姉さま? 」
「こうして見ると噂以上…聞きしに勝るとはこの事ね…確かに揃っているところは見てみたいわ。」
うふふ…と何か含みを持たせた様な、少し怪しい笑みを浮かべたかと思えば、くるりと背を向けて去って行ってしまった。
何、今の?




