あふたーすくーるあくてぃびてぃ㉟
加筆予定です…。
「えっとね、2人にお願いがあるのだけれど…。」
さて、どう言い含めるのが良いか。
ボク達の事を話題にされるのは百歩譲って良しとしても、マキ先生とマリー先生はなぁ…どう考えてもとばっちりとしか思えないもの。
「は、はい!わかってます!人に言わない方がいいんですよね!? 」
…おや? 先に言われてしまったな。
まぁ話が早くてありがたいが。
「うん…『噂』なら兎も角実名が出ちゃうとね、周りの人にも迷惑かけちゃうかもしれないから…出来るだけナイショにして欲しいな、って。」
唇の前に人差し指を立てて、ウインクなんかしてみたりして。漫画なんかでよく見る、少しあざといけれど定番である“ナイショのポーズ”でお願いしてみる。
『お願い』と言うに割にはちょっと上から目線だけれど、そこはまぁ一応お姉さまですから? 大目に見て欲しいなぁなんて思ったり?
…うぅ…やってから思ったけれど…これ、意識してやると結構恥ずかしいな?!しかも!やっている自分を想像するに似合ってない!似合っていると思えない!なんか客観的に見たら『何やってんのキミ? 』って感じがする!これ、きっとセリナ様や司お姉さまがやったら周囲が悶絶卒倒するんだろうけれど…ボクじゃあなぁ…。ぐぁあ、やらなきゃよかった!
ほらぁ!2人とも呆れて固まっ………あれ?
……手を握り合って呆気に取られていた彼女たちの顔が紅潮し、喜色満面といった表情に取って代わり、『きゃぁ』という小さく短い悲鳴が上がった…。
お、おぉ?
何が何やら理解らないけれど…ウケた?
ふぅむ。ボクがやっても一定の効果があるみたいだ…もしかして“ナイショのポーズ”ってネタとしては優秀なのかしら?
それともやっぱりおかしかった?
何にせよしら〜っとされるよりは随分マシな反応ではある。返事を貰えただけで良しとしよう。
…いや待て待て。今の『きゃあ』は返事じゃないだろう。
ボクの“ナイショのポーズ”に対するリアクションなだけで、『ナイショにしてくれるか』という問いにはまだ答えは貰っていないじゃないか。
…一応確認はしておこう。
「え…えと、ナイショにしてくれる…? 」
「ひゃい…!お約束しまひゅ!」
「そ、そう? ありがとう。」
にこりと微笑めば、2人は首がもげるんじゃないかってくらい激しくこくこくと頷いて約束してくれた。よかった。ひとまず安心。…なのは良いのだけれど、微妙に呂律が回っていないのは何故だろう? 大丈夫だろうか? 頭を振りすぎて目が回ってるとかじゃないよね?
「あ~…それで話は戻るんだけれど。」
ボクが影法師の事をうっかり口走っちゃった所為で、彼女達が七不思議の話をしようとしていたのを遮る形になってしまったからねぇ。
「他の七不思議の場所って何処に行ったの? 」
「え…? あ!はい!えと、『妖精さん』の屋上に行こうと思ったんですけど閉まってて…次は『笑い声の響く廊下』かなって。」
「『笑い声の響く廊下』…? そんなのあったっけ…? 」
「誰もいないのに話し声や笑い声が響いてくる…みたいな噂だったと思うんですけど…ご存知ありませんか? 」
えぇ〜…誰も居ないのに声が聞こえてくるの? ちょっと待って、何それ恐い…影法師と似た様な感じだけれど、これも精霊さんの類いなのかな?
いやしかし、それは聞いた事ない…と思うな。
文芸部の部誌に載ってたっけ?
読んだ記憶はないのだけれど…。
単に読み飛ばしちゃっただけか?
…むぅ、ないとは言えない…いやしかし…。
「うぅん…たぶんその話は知らないや…ごめんね? ああ、でも妖精さんの方は知ってる。『百合の乙女』って言われてる話だよね。」
「百合の乙女? 妖精さんじゃなく?」
「ああ、妖精さんの正式名称…っていうか昔は『百合の乙女』って呼ばれてたんだって。凄く古くからある話らしいよ。」
「凄く、というと…どのくらい…。 」
「少なくとも40年前にはあったみたいだよ。もしかしたらもっと前…学院の創立時からあるのかも。」
「そ…!創立時って、え?!何年前?!」
2人は顔を見合わせて、明之星の創立っていつだっけとか今が何年だから40年前っていうと…なんて言い合っている。
うん。気持ちは理解るよ。
自分が生まれる前の、下手をしたら両親すら産まれていない時代の事だもん、簡単には想像出来ないよねぇ。
「詳しく知りたければ図書室に行ってみると良いよ。文芸部が発行した部誌に七不思議の事が書いてあるから読んでみて? 」
正直、全部攫おうと思ったらどれだけ時間が掛かるかわからないけれど…。
「文芸部って七不思議の研究とかしてるんですか?!」
研究? 研究ねぇ?…考察はしていたけれど、果たしてあれを研究と呼んでいいものなのだろうか?
「時代毎の考察とかあってなかなか面白いよ。」
「お、お姉さまはお読みになったんですか?!」
「一応ね。ほら、例のナイショの事がね、あったからさ。」
2人が『あぁなるほど』と頷いたところで、丁度教室の前に到着した。話しながらゆっくり歩いた所為で随分とかかってしまったが、漸く目的地だ。
最初に走って来たアドバンテージは既になくなっている。これだったらずっと歩いていた方が時間かからなかったかもしれないなぁ…なんて思ったりもするが…まぁ仕方ない。
可愛い後輩とお話し出来た事を喜ぶとしよう。うん。
「ちょっと待ってて、忘れ物取りに行ってくる。」
自分の机の横に掛かっているスクールバッグの中から、入れっぱなしにしてあった携帯…すっかり“不携帯電話”と化したスマホを取り出す。
…う…不在着信とメールが何件か…。
ごめんなさい…なるべく携帯する様に努力します。
スマホを上着の胸ポケットにしまい、さて行くかと振り返った時、ふと見ると菫さんの席に掛かったままの鞄が目に入った。
あれ? まだ校内に居るんだ?
撮影に参加していないから、てっきり下校したものだとばかり…ふむ、校内で何か用事でもあるのかね?
「お待たせ。ボクは下に降りるけれど、2人は? 」
「は、はひっ!御一緒しまひゅ!」
…あ、また噛んだ。
2人で話しているところに背後から声をかけたのは悪かったけれど、何もそんなに驚かんでも…。
「そ? じゃあ昇降口まで一緒に行こうか。そうそう、ボク達は使っている中等部の玄関、あれが『雨女』の出る場所だよ。こっちも正式には『雨垂れの少女』って言うらしいね。」
「それも文芸部の本に書いてあったんですか? 」
「そうだよ〜。ほら、七不思議って基本お姉さま方からの口伝でしょう? 伝言ゲームみたいに途中で余分な物がくっついたり削れたりして少しづつ変わってるんだよ。」
その過程で全然別の話と合体したり分離したり、話そのものが形を変えてしまうなんて事もあったりするからね。まぁ古い物ほど原型に近いまま伝わっているのは恐らく…恐らくだけれど、それが繰り返し出現するから、なのではないのだろうか?
「そういうの結構あるみたいだから、もし興味があったら図書館行ってみるといいよ? 入口のところに居る委員会の人に聞けば場所は教えてくれるからさ。」
「そうなんですね!行ってみます!」
階段を降りつつする会話はほぼずっと七不思議の話だった。
彼女たちはオカルト系の話が本当に好きな様で、実に喰いつきがよかった。昔行った事のある、糸を垂らせば釣れる釣り堀みたいだったね。
「…あの、お姉さま。」
「うん? 」
「明之星にオカ研の様な部は…あるのでしょうか? 」
オカ研というと『オカルト研究会』の略だよなぁ…そんな部あったかなぁ…? いや少なくとも“部”としては存在していないんじゃなかろうか?
「“部”は…どうだろう? ちょっと聞いた事ないねぇ。」
「…そうですか、残念…。」
ああ、あからさまにがっかりしている!
い…一応フォローしておこうか…いやいや無いものを有るっていう訳にもいかないし、フォローったって…あ、そっか。“部”じゃなければ、もしかすると…。
「で、でも同好会とかならあるかもしれないよ?!」
…望み薄ではあるけれど。




