あふたーすくーるあくてぃびてぃ㉞
「おっ…… 」
お?
「お姉さまはっ…そのっ… 」
うんうん。
大丈夫だよ〜。
急いでいるのは確かだけれど、ちゃんと言えるまで待つからね〜。慌てなくても最後まで聞くよ〜。スロウリィ アンド シェアリー、ゆっくりと確実に、だよ。
…さっきまで走っていた自分とは矛盾してるけれどネ。
それはそれ。これはこれ。
…っていうか『ボクは』なんだろう? “どうしてそんなに白いのか”とか聞かれたら、どう答えたら良いんだ? “そぅよ母さんも白いのよ”とでも答えるか? まぁ事実だけれど。…などとくだらない思考が出来てしまうくらいに彼女達の言葉が続かない…緊張で上手く喋れないのか… そんなに怖い雰囲気を出しているつもりはないし、どちらかといえば優しげに微笑んでいる…はずだ。
え…? あれ? ボクの顔、引き攣ったりしてないよね?
「あ、違う、じゃなくて、えと、」
…うん、落ち着け?
あ、これは目の前の子達に向けた言葉じゃなくてね、自分に言い聞かせてるの。なんか目の前でテンパっていられるとさ、こっち迄ザワザワしてくるんだよ。そんな必要無いのに焦っちゃう…みたいな。
「わ、私達、初頭部は中央校だったんですけどっ…!」
うん。ボクとは違うトコの子なんだね。うんうん。
因みにボクは東校って所の卒業生。ボクん家から徒歩15分くらいの所にある明之星初等部の学校なんだけれど小さい学校でね。一学年に15人のクラスが3クラスしか無いんだ。まぁ私立の学校で入学試験もあるしすぐ近くに公立の学校もあるから、入ろうってなるとそこそこ敷居が高かったりする。
…いや、これはまたそのウチに説明するよ。
今はあんまり関係無いだろうし。
「…東校から来たクラスメイトにお姉さまの話を聞いて…!一度お会いしたいなって、思っていて…!」
うんうん……どんな話を聞いたんだ…?
なんかとんでもない噂じゃないだろうね?
卒業生の話ってのは兎角誇張されがちだからなぁ…。
妙な幻想を持っている様ならばしっかりと否定しておかないと…後々自分の首を絞める事になりかねない。
「そうなんだ、ありがとう。で、どうかな? 実物を見て幻滅したりしなければ良いのだけれど? 」
そう応えると彼女たちはブルブルと首を振って
「いえ…いいえ!聞いていた通りに可愛いくって…じゃなくて…!えと…お、お綺麗で…!」
か、“可愛い”に“お綺麗”ときたかぁ…。
褒められるのは単純に嬉しいけれど、容姿はボクが自分で勝ち取ったモノではないからなぁ…正面から褒められると只々照れくさいですね。いやはや、顔が赤くなってないと良いのだけれど。
「それは良かった。期待を裏切っていないのなら一安心だね。 」
なんとか平静を保って応えはしたつもりだが…ど、どうかな? 動揺を見て取られているのではなかろうな…?
…なぜ頬を赤らめる…?
なんか最近ボクと話していると紅潮する子…多くない?
おかしいな…ボクなんにもしてないよね?
『あざとい事』も『媚びて見える』様な事もしてない筈なのだけれど?
しかしこれは困ったな…。
彼女達、更にモジモジして話が進まなくなっちゃったぞ?
『用事があるから』とこの場を離れるのは簡単だけれど、せっかく話しかけてくれたのにこちらから話を切り上げるのはなぁ…ちょ〜っと申し訳ないよねぇ。
何か、長くならなそうな話題…振ってみる…?
いや、いっそ移動しながら話すというのはどうだろうか? スマホ取ってきて昇降口まで歩いて行って、そこで別れる…。
いや彼女達の行き先次第ではそれより前に別れる事になるかもしれないが。
…うん、それが良い気がしてきた。
そうしよう。
「…そうそう、ボクね、教室に忘れ物取りに行く途中なのだけれど…良かったら歩きながら話さない? 」
「…はい!」
先程まで俯きがちでモジモジしていた子達が、パァっと表情を明るくしてコクコクと頷く。
おやまぁ素直だこと。
でも、あんまり知らない人にホイホイついて行っちゃいけませんよ?学校内では大丈夫だろうけれど外ではね? 絵とか壺とか売りつけられたりするから気をつけなさい、ってパパが言ってた。
それに今年ボク達二年生は修学旅行があるからね、注意してし過ぎる事はないって すずな姉ちゃんにも言われてるし。今から自己防衛の意識は持って置いた方がいいよ〜。
と、自戒を込めて考える。
「じゃあ、すぐそこだけれど一寸付き合ってくれるかな。
「は、はい!」
……
………
…………
わ、話題!
何か話題!
連れて来たは良いけれど話題のネタ考えてなかった!
なんでも良いから軽い話題を…
「2人とも直ぐに下校しないで何かあったの? あ、先生のお手伝いを言い付けられたとか? それとも部活見学…だったら校舎内にはいないか…ふむ?」
「あ、いえ、お手伝いではないです。」
「部活は、その、まだ決めていなくて… 」
うん。部活に関してはボクは人に何かを言える立場じゃあないからね。ゆっくり考えれば良いと思うよ。
ん〜、じゃあなんで残ってたんだろう?
もしかしてアレかな?
校内の探検!
明之星中等部高等部の校舎は、初等部とは随分と違って珍しいものがいっぱいあるからね!去年ボクも なづなと一緒に校内を見て回ったもんなぁ。講堂と図書室なんて、珍しすぎてずっと眺めてたっけ。
いや待てよ? 探検だったらそれこそ講堂や武道館の方に行くよね? 2人は上から降りて来たんだからその線は薄いんじゃ…?
「あの、お姉さま… 」
はい、なんでしょう?
「お姉さまは七不思議の事をご存知でしょうか? 」
「…明之星の? うん、まぁ知ってる… 」
…ご存知ですとも。
ごく一部とはいえ、それはもうイヤっていう程よぉ〜〜〜っくご存知ですよ!そりゃあね? わざわざ調べて、自分の中では『怖いモノではない』って結論は出ていますけれどね? そうそう何度も遭遇したいモノではないんですよ。
「…私達、その噂の場所巡りをしてたんです。」
ははぁ、心霊スポット探訪みたいな事をしてたのか。
まぁ確かに、明之星の七不思議は祟る系の怪談はないからね、それほど恐い目には会わないだろう。
ボクは会ったけれどね!
「あれ? でも七不思議で決まった場所に出るのって…昇降口だけじゃない? 」
「…え?!そうなんですか?!」
あ、あれ? 違ったっけ?
だって“妖精さん”は屋上だったり階段の踊り場だったりだし、影法師は学院中何処でも出るでしょう? ボク達の時は保健室だったけれど、すずな姉ちゃんの時は廊下だったはず…
他のは“何処で”という記述あったっけ? あ〜…影法師に気を取られてたからかなぁ…あんまり覚えてないや。
「…あ、あの…!あの、お姉さま!? 」
おっと。また独りで思考に沈んでいた様だ。
ほんの数秒のはずだが、気をつけねば。
「はいはい、なんでしょう? 」
「い、今『ボク達の時』と仰いませんでしたか?!」
「…え? ボク今、声に出してた? 」
「小声でしたけど、確かに… 」
「…ええ、影法師って… 」
あ、あぁ~…なんてこった…考えてる事が口を衝いて出ちゃったのか…影法師の事は誰にも話すつもりなんてなかったのだけれど…しまったなぁ。
ばっちり聞かれてるっぽいから誤魔化すのは無理だよね。
下手に言触らされるとマキ先生やマリー先生に迷惑がかかるかもしれないし…一応は口止めをしておいた方が良いだろうなぁ…。
…思う様に書けません…




