あふたーすくーるあくてぃびてぃ㉘
「皐月さんも、人の影響で変わったんだろうねぇ。」
小走りで皆を先導して行く皐月さんの後姿を見ながら、なづながそんな事を呟いた。ああ、そういえば片思いじゃないかって話、したっけなぁ。
「その影響を与えた人って…彩葵子さん?」
「ん〜それはわかんないけど…。もしかすると、ね。」
人見知りで引っ込み思案な自分の手を引いて、側に居てくれる人に好意を持って、やがて大事な存在になる。みたいな? まぁ万人に当て嵌まる訳ではないだろうが…自然な流れな気がするなぁ。
「ときにお姉様? 」
「何かしら妹様? 」
「何もボクの小さい頃の話をしなくてもよろしいんじゃありませんこと?」
「あら。あれは話の流れですもの仕方ないでしょう? それに全て事実ですわよ? 」
なづなは、お嬢様ポーズでホホホと笑いながらゆっくりと昇降口に向かって“しゃなり”と歩き出す。
うぎぎ、そうだけれども…そうなんだけれど!
別に知られて困る事ではないし、ちょっと恥ずかしいけれど悪印象を与える様な事もないエピソードなのだから気にする必要はない。
ないのだけれど…な、なんか悔しい。
何故悔しいのかは解らん。何が悔しいのかも解らん。
解らんが悔しい!
何かに負けた気がする!?
「ほらほら、みんな行っちゃったよ? 私達も行こう? 」
数歩先で振り返って当たり前の様にボクに向かって手を伸ばしてきて、ボクも当然の様にその手を取る。
さっき言われるまで、ほとんど思い出さなかったけれど…ボクって小さい頃は、こういう風に手を取る事も出来てなかったんだよなぁ…今にして思えば、あの頃の なづなには結構悲しい思いをさせていたのかもしれないなぁ…。
…ほんの一時期だけだよ!? いやホントに!
やめやめ!今度はボクが悲しくなっちゃうから、ここ迄にしよう。うん。ネガティヴ思考禁止!
皐月さん達は小走りと言っても、なづなと手を繋いで走れば、直ぐに前の集団に追いついたが…昇降口には、他のグループの姿は見えない。
「私たちが最初みたいですね。」
皐月さんからそういう言葉が出るって事は、待ち合わせは昇降口前で良いんだね。ふむ。じゃあ中で待ってるって線は無いのか。
さて、ではどうします?
ここで待つか、他のグループと連絡を取って合流するか、取り敢えず行ってみるか…3つ目は愚策だな。
「そうですね…ちょっと連絡してみます。ちょっと休憩していて下さい。」
他の皆は伸びをしたり、お喋りしたりとお寛ぎモードに移行した様だ。休憩って言っても…ボク達からすれば途中参加だし実質なにもしていないから、ずっと遊んでいる様なものだけれどねぇ。
で、皐月さんは…
「…もしもし、彩葵子ちゃん?…うん、こっちは終わって今昇降口。…うん、あ、そうなんだ、じゃあ待ってみる。うん、また後で。」
彩葵子さんに電話していた様です。
「で、なんて? 」
「あ、はい、えと椿さんと沙羅さんが体育館から戻るから合流したら教えて、だそうです。」
体育館ね。バスケかバレーか、あるいは両方にウチのクラスの子が居るのか。他に体育館で練習してる部活って何があるんだろうか。あ、卓球とか? あれ、そういえば武道館には誰も行っていないのだろうか?
「剣道部と柔道部は部活お休みよ。」
ボクの疑問にクラスメイトの中から声が上がった。
お休み…へぇ、そうなんだ。って、いつのまにやら皆さん周りに集まって来ているじゃありませんか…全然気付きませんでした。
「顧問の先生がね、試験前だから勉強しろって言ったらしいよ。」
え? 柔道部の顧問って宗方先生だよね?
学業優先な人だったんだ、意外…って言ったら失礼かな?
「そうそう聞きたい事があったんだけど、いい? あ、スリーサイズじゃないからね? 」
む!? 先制された?!
…っていうか、やっぱり定番ネタなのか?!
ボク全然知らなかったのだけれど?!
あ、いや今は質問の方優先だね。
「いいよ~…スリーサイズは三か月前のしかわからないけれど。」
「あはは。そっちは後で教えて。」
「聞きたかったのはねぇ、なんで部活入らないのかなって事。聞いた話だけど結構お誘いがあったんでしょう? 」
あぁそれかぁ…いや実際そんなに大した理由がある訳じゃないんだよなぁ。ぶっちゃけちゃえば“面倒だった”のだけれど、何故面倒に思ったかというのが…まぁ色々な要因があってですね、ひと言で説明するのが難しいんだ。ひとつひとつは本当に小さい理由なのだけれど複合すると断るに足る大きな理由になるというか…。でも、それを納得してもらうのもなかなか難しくてねぇ。どう説明すれば良いかな…なんてちょっと頭を捻っていたのだけれど…。
「それはね、」
と、なづなが不意に割り込んできた。
どういう言い訳をするのかと思いきや。
「私シスコンだから。せりといる時間が減るのがヤだったんだよ。」
あっけらかんと爆弾ぶっ込んで来ましたよこの子!
ちょちょちょ、ちょっと!何を言い出すんですかお姉様!みんな呆気に取られてるじゃない!いや、それも理由の一つではあるけれど、選りに選ってそれを言いますか?!一番賛同を得にくいんじゃないかな!?
「え…? それが理由? ってシスコン? 」
ほらぁ!引かれてるんじゃない?!
変な子だって思われるよ?!
ボクは全然大丈夫だけれど!事実だし!
「そう私、妹の事が大好きだから。少しでも長く一緒にいたいんだぁ。」
『ね。』って同意を求める様にボクを見る。
なんだろう、何か意図があってこんな事を言っているのだろうけれど…それに普段だったら、こういう台詞はボクが言って なづなが照れるみたいなパターンなんだよなぁ。それを避ける為に自分から言った? …う〜ん、いまいち読めない。
けれど、まぁ、ここは乗っておこうか。
ボク自身は変な子だと思われても一向に構わないからね。
「…うん、そうだね。一緒にいたいのはボクも同じ。」
きゃぁと小さく悲鳴が上がり周りの子たちが口を押さえて赤面したり、手を握り合ってぴょんぴょん飛び跳ねたり、なんかこう…大変喜んでこんでおられるみたいです。
あれ? 引かれるの覚悟で言ったのだけれど、思ってたのと反応が違うな?
「ね、ね、お姉さまから聞いたのだけど一緒のベッドで寝てるって本当? 」
それは本当。
随分前からずっとだよ。
「寝苦しかったり邪魔だなって思ったりしない? 」
「私は思った事ないなぁ。丁度良い抱き枕だとは思ってるけど。」
「抱き枕?!」
「うん、せりってねぇ程よく柔らかくて抱き心地が良いんだよ。寒い時は湯たんぽがわりになるし。」
なづなの方は夏場に冷感枕に早変わりだね。
「はぁ〜…私は同じベッドで寝るって想像つかないわ。」
そうね、私も、と賛同の声が上がる。
いやぁ多分ね、その時が来たら気にせず眠れちゃうと思うよ? 皆んなだってバスの中とか電車の中とかで寝ちゃうでしょう? あれだって隣に人がいるじゃん。それと変わらないって。
「そうなのかしら…? 」
「そうね、修学旅行の時には嫌でも隣に人がいるわよ?」
「初等部の時だって修学旅行も林間学校だって行ってるじゃない。眠れなかったわけじゃないでしょ? 」
「そっか、そういえばそうね。」
うん。実際には同じベッドと隣の布団は大きく違うと思うけれど…まぁなんか納得してるみたいだし敢えて指摘する事でもあるまい。
で、何故かそこから寝具の話になって、羽毛布団が良いとか、重さが無いと布団を掛けてる気にならないだとか…実は毛布は掛け布団の上に掛けた方が良いだとか。まぁ色々言ってました。
同じベッドの話が出た時は、根掘り葉掘り聞かれるものだと構えてたのだけれど、サクッと話題変わったもんね。
女の子の話題の移り変わりって、ホント読めないなぁ。
ちょっとしたきっかけでコロッと話題が変っちゃうんだから、ついていくのが大変だよ。
皐月さんだけは、途中から神妙な顔をしてしいたけれど。
P.M.17:50
本日はここまでとさせていただきます。
次話は明後日01:00の予定です。
よろしくお願い致します。




