はろーまいふれんど④
お片付け回
続きます。
”あの子“が血を吐いた
なんで?
ボクの攻撃なんて一発も当たってないのに
もう保たないってなに?
なんの事?!
ねえ!
ねえってば!!
みんなの動きは迅速だった。
あれだけあった椅子がみるみる内に撤去され、ラックに収まっていく。早い早い。
貼り紙も剥がされ、一箇所にまとめられていく。光さんがちらちらと目をやって、気にしているのがなんか可笑しい。
ボクとなづな、蓮お姉さまはアーチの撤去だ。支えのロープを外し、横倒しに寝かせる迄は何の問題もない。ここからが大変。空気を抜いて畳まなきゃいけないのだけれど、いやもう、萎まない萎まない。
皆がチャキチャキ動いているのを横目に、空気を押し出すためにジーッとしてるのは心が痛い。
「居た堪れない…。」
「わかる。」
「やらないと片付かないんだもの。仕方ないわ。」
わかっています。わかってはいるんです、お姉さま。
けれど、こう、みんなが動いている傍でジーッとしてるという行為が、サボっているみたいで、なんか、ねえ?
「花乃が気に入るのもわかるわね。」
蓮お姉さまがそんな事を呟く。
「気に入ってもらえている、のですか?」
「ええ、そりゃあ、もう。」
悪印象は持たれていないのはわかるけど、気に入った
と言われる程の事をしただろうか…?
「指示すればキチンと動く。指示しなくても、自身の判断で動ける。でも、周りの迷惑になる様な余計な事はしない。」
…組織として動くなら至極当然の事だと思うのだけれど。
「これって、意外と出来てないのよ。」
「特に高等部中等部の、先輩後輩が混ざった場合ね。下の子はどうしても指示待ちになっちゃうの。」
確かに…自分が先輩になれば自ずと変わるのだろうけれど、先輩の指示に従うのは下級生にとって当たり前の事だものね。
「あなた達は確定が出るまで待って、他の部署の事も考えて行動した。私達が気付かなかった事に気付いてもくれた。任された事、仕事への意欲も充分。」
いえ、その、予備を作成したのは、自分の担当部分の補填をしただけなんです…。アーチだって見つけたのは偶々ですし、発見者はなづなです。
任されたからには十全の仕事を心掛けるのは当然以前の話だと思います!うあぁ、過大評価が痛い!
「そしてなにより。」
そしてなにより?
「可愛い。」
ぐふぅ!
「あなた達の愛らしさにどれだけ癒されたか…仕事が出来て可愛いのですもの、そりゃあ手元に置いて置きたくもなるわよ。」
あああぁ…褒め殺しというヤツでしょうか?
なづなが耳まで赤くして瀕死です。
「期待に応えられる様に努力します…。」
「過剰な努力はダメよ。あなた達の持ち味を消しかねないからね。」
あなた達はそのまま伸びていくのが良いのよとアドバイスを貰った。ボク達のまま伸びていけば…か。
難しい事言うなぁ…。
畳み終えたアーチを袋に入れ、今度は絶対間違えないよう、袋に“エアーアーチ” “バルーンゲート”とデカデカと表記しておく。これで良し。
アリーナに戻れば、既に椅子も机も撤去済み。
ここまでくれば残すはフロアシートと清掃のみ。あと一息。
フロアシートを半分また半分と折っていき、反物みたいにして、専用の台車に載せるなだけれど、これが重い!本気で重い!持ち上げようとするとグニャって曲がっちゃうので、力が逃げちゃって全然持ち上がらない。
さすが非力な女の子、6人掛かり8人掛かりでようやく移動させた。やっと一枚。
こんなのが20枚近くあるのだからゲンナリです。
5〜6枚載せたところで小休止。
ちょっと雑談タイム。
「ねぇ、せり。」
「…このシート、幅は私達のベットより大きい?」
なづなが畳んだシートに腰を掛けながらそんな事を言った。…どうだろう?同じくらい?
なづなを挟んで、反対側に座っていた光さんと菫さんが頷き合い、意を決した様に。
「なづなさん、間違っていたらごめんなさい。」
はい、なんでしょう
「もしかして、2人で一緒に寝てるの?」
食い付いてきたのは菫さんだった。
「え?うん。そう、だよ?」
ざわっ…
「せりさん、本当?」
「うん。本当、だけど…?」
ざわっ…
「小さい頃からずっと?」
「そうだね。ずっと。」
ざわざわっ…
1人のお姉さまから質問されたのが、隣に人が寝ていて煩わしくなったりしないか?という事だったが、実はそう感じた事が一度もない。寧ろ逆だ。
あ〜これは、否定しても変だとか変わってるとか言われるパターンかな?
…こういう時は先んじて断言してしまった方がいい。
「昔、本当に小さい頃の話なんですけれど…。」
「別々のベビーベットに寝かせたら、ボクが、それはもう火がついた様に泣き出したんだそうです。」
これは本当の話だ。
「どんなにあやしても泣き止まなくて、大変だったと聞きました。」
覚えていなくても、本当の事だと確信している。
「なづなが見えなくなると泣き、離して寝かせれば泣き、寄せればベッタリくっついて離れない。そんな子だったんです。…今でも似た様なものですけれど。」
変な子だと思われてもいい。
「初等部に上がる頃に部屋を分けようかという話もあったんですけれど、ボクが絶対嫌だと。なづなと一緒がいいって強硬に言い張って。2人部屋のままなんです。」
偽りの無い本当の気持ちを。
「ボクは…彼女がいないとダメなんです。たぶん、生きていけないくらいに。」
隣に座るなづなの手に手を重ね、彼女を見つめれば、
柔らかくボクを見つめ返し、指を絡めて愛おしそうに微笑む。
目を伏せて額を合わせると、なづなの熱を感じた。
「…素敵…。」
誰かの呟きが漏れたのが聞こえた。
あ、いけない、また意識があっち行ってたよ。
慌てて呟きが聞こえた方に目を向けると…
口に手を当てて赤面なさってたり、両手で顔を覆って指の間から覗き見てたり、胸の前で両手を組んでうっとりしてたり、2人で両手を握り合い顔だけ此方に向けて放心していたり…
あ。ああ、これはやっちゃったヤツだ。
「ごめん、やっちゃった…」
「ううん。大丈夫、いつもの事、だよ。」
フォローになってません、お姉ちゃん。
「なにこれ?何があったの?」
柔道場の清掃に行っていた花乃お姉さまが、放心中のお姉さま方を指差し問うてくる。え〜…どう答えれば良いのだろうか…?
「愛の告白があったのです!」
最初に復活したお姉さまが、花乃お姉さまにそう告げたのだけれど、それじゃ伝わりません。たぶん。
「よくわからないけど、双子ちゃんが何かやったのね。」
よくわからないのに断定した?!酷いですお姉さま。
正解ですけれど。
「さぁさ、みんな。もうひと頑張りしましょう!ケーキが待ってるわよ。」
花乃お姉さまの言葉に、皆が意識を取り戻し再び動き始めた。菫さんと光さんもいつの間にか復活した様だけれども、何かこう、熱に浮かされているみたいな、足元がおぼつかない感じで見ていてハラハラする。
大丈夫かな…?
残り3枚くらいのところで半数が掃除に回る事になり、残りの半数がフロアシートの続きだ。
ボクとなづなはフロアシート組になった。
「じゃ、せーので上げます。せーの!」
さすがに8人掛かりならなんとか上がるけど、移動は無理そうだなぁ…あのお姉さまフラフラしてるし。
収納台車をなるべく寄せて、持ち上げるだけにしないと転んで怪我しそう。
もう少しです、お姉さま。
どうにかこうにかフロアシートの積込みも完了しステージ下収納に入れてしゅーりょー!
お掃除チームがアリーナのモップがけを始めた。手伝いたいところだけれど、モップの数が足りないので戸締りでもしに行こうかな?
手分けしようって事で下フロアをステージ上手から時計回りに廻るチームと反時計回りに廻るチーム、そして2階を廻るチームに分けた。チーム分けは適当。ボクは2階チーム、菫さんが一緒だ。なづなは時計廻りチームで光さんが一緒。
しゅっぱーつ。
鍵を持ったお姉さまを先頭に4人行動だ。
ロビー横の階段を上り2階へ。…昨日はここから覗かれてたんだっけ…思い出し羞恥が襲ってくるよ!ひいぃ。
「ねぇ、せりさん。」
「なぁに?」
「さっきはごめんなさい。」
謝られる様な事あったっけ?
「不用意に、一緒に寝てるのとか聞いちゃって…あんまりおおっぴらに話したい事じゃなかっただろうから…」
ああ、その事。
「大丈夫だよ。ああいうのは、揶揄われる前にハッキリ断言しちゃった方が良いからね。それに全部事実だから。」
「でも、嫌な思いを…」
「してないしてない。言ったでしょ、全部事実なんだから、何にも問題ないよ。」
ちょっと後で思い出して、恥ずかしくなったりはするけど…ま、その程度ですよ。
「そう…それなら良いのだけど…」
優しい子だなぁ…そんなに気にする事じゃないのに。
「気にしないでいいって。どうせボク達の事だから、そのうちバレたと思うよ。」
今回だって、ポロってこぼしちゃったのが原因だしね。きっとそのうちやっちゃてたと思う。
「…ありがとう。」
その後も色々話してたんだけど、あんまり踏み込んだ質問は無かったなぁ。
遠慮させちゃってごめんね?
そうこうしているウチに2階の施錠確認と窓の閉鎖確認も終了!
後は1階が終了すればコンプリートですね。
階段室を出ると、みんながロビーに集合していた。1階フロアの方が早かったか。
「よろしい。みんな揃ったわね?」
はい。
「施錠確認はOK?」
「1階扉及び窓の施錠確認。大丈夫です。」
花乃お姉さまがひとつ頷く。
「2階も全施錠確認しました。大丈夫です。」
「うん。では全員速やかに退出。施錠後鍵の返却を行なって、全作業終了とします。」
そう言って渡り廊下の方を示す。
それに従い全員が退出、花乃お姉様が扉を施錠し
「みんなご苦労様。道すがら鍵を返して、その後は…ケーキパーティーへ突撃よ!」
「「お供します!」」
ケーキ食べ損ねてます
次回は食べられるとイイね。