閑話 生徒会日誌
短編です。
加筆します。
私は今、生徒会室で書類の整理をしている。
新年度が始まったばかりなのに、そんなに書類があるのかって?
…あるのよ、それが。
うちの学校、明之星女子学院は幼稚舎から大学まである大きな学校で、中等部と高等部は一貫校の扱いになっているの。そのため初等部…小学校にあたる学年から中等部へと進学する時は進級試験を受けて合格しなければいけないのね。と言っても試験そのものは余程の事が無い限り不合格になったりしないのだけど。
で、その進級の際にね、新入生歓迎会みたいな催しがあるのよ。
『新歓祭』という何の捻りもない、そのまんま名前の催しなのだけど、内容が各部活の紹介及び勧誘のパフォーマンス、各委員会の紹介、そして有志クラスによる出し物。
このクラスの出し物に関する書類というのが、今現在手元に有る訳なのね。それに目を通して、『新歓祭』で上演するのに相応しい内容であるのか、どの程度の規模であるのか、照明や音響、スクリーンや机椅子などを使用するか否か、等々。それらを吟味した後、許可を出すかどうか。許可を出したら次は上演の順番をどうするのか。
そんな事を細々と決めなくてはいけないの。
しかも『新歓祭』は一週間後。
他の生徒会執行部のメンバーも、自分のクラスが新歓祭で何かをやるとなれば協力せざるを得ないのだから生徒会室に来るのも遅くなるのは仕方ない。
が、正直、手が足りない。来週執行部に入って来る中等部の子達はとても優秀らしいので少しは楽になると思いたい…。
そう。来週早々に噂の双子ちゃんが執行部に正式所属になるのだ。
花乃や蓮、司をはじめ、何人もがこぞって推薦するくらいだから、かなり出来る子達ではあると思う。
実際先日話した妹さんの方は、受け答えも立ち居振る舞いも立派だった。
ハッキリ言ってしまえば、現執行部メンバーの誰よりもしっかりしていると言っても大袈裟ではない。私だってそれなりに礼儀作法は学んでいるし、普段から出来ている方だとは思っている。思っているけど…。
完全に自分の物になっているかと問われたなら…『否』と答えざるを得ない。
けれど双子ちゃん…少なくとも妹の方、『鈴代せり』さんは日常生活レベルであの振る舞いが出来ている様だった。しかも妹のせりさん曰く、お姉さんは自分等及びもしない程に優秀なのだとか。身内贔屓があるにしても、これだけキッパリと言い切るのだから、お姉さんの方も同レベル以上なのだろう。
そんな優秀な二人が、揃って来てくれるのはなんとも心強いのだけれど…私、ちゃんと“お姉さま”が出来るのかしら?
そりゃ、今迄だって下の学年の子はいたけれど、あんなに凄いのは初めてじゃないかしら?セリナの代も優秀ではあったけれど、その分クセが強かったし…未完成の部分が大きかったから指導する余地も多かった。
けど…せりちゃんは、なんか完成されている気がするのよねぇ…。
「これで最後、と。」
ようやく積まれていた書類に目を通し終わり、椅子に座ったままグイっと伸びをする。
さて、一応直近の書類は捌き終わった訳だけど、どうしたものか。
直ぐに教室に帰って、新歓祭の準備をしているであろうクラスメイトに合流するか、ここでひと息ついてゆっくり合流するか…
…ほら、これよ。
ちょっと時間が空くとのんびりしようとしちゃう。勿論それが悪い事な訳じゃないのだけど、せりちゃんの事を考えていた所為で、随分と怠惰なのではないかと思ってしまうのよね。
今更ではあるけど、やっぱりね、下の子には『お姉さま』らしいところを見せたいわけよ。
まぁ今見られている訳じゃないから『今行動しなくても』って思わなくもないのだけど、それが恒常化するとね、不味いから。
有名な言葉にもあるでしょう?
『行動に気をつけなさい。それはいつか習慣になるから。』
って。
ふぅ…仕方ない。
動くとしますか。
私は席を立って、選り分けた書類の束を幾つかの箱に放り込む。後は週明けに全員揃ってからでないと出来ない作業だからね。
私一人で出来る作業はこんなものだ。
さて、どうしよう。
教室に戻るのは良いとして、もう一度ここに来るか、そのまま帰るか…
などと考えていたら生徒会室と応接間の間にある扉が開いた。
「あら?もう来ていたの?早いわね。」
入って来たのは同じく高等部3年生のメンバーだ。
我が執行部の実質的なリーダーであり、学年主席の才女。
名を『大場 蓬』という。
「クラスの方が纏まらなかったから、こっちを先に片付けようと思ってね。抜けて来たのよ。で、今から戻るところ。」
「そうなの?おかわりの書類持って来たのに。」
箱の中にある処理束を見ながら、持参した書類の束をポンと弾いて見せる。…書類増えた…。
「う…あ、後で手伝いに来るわよ。」
つい口走ってしまったが、これでここに戻って来る事は決定だ。じゃあ鞄は生徒会室に置きっぱなしにしておこう。移動の際に荷物が少ないのは良い事だ。いや、戻らなければ移動距離が短くなるんだけど…まぁ戻るって言っちゃったし。
「まぁ。それじゃ残しておかないといけないわね。」
いやいや、終わるのなら終わらせてくれても良いのよ?
クスクスと上品に笑う彼女に苦笑を返して、入れ替わる様に扉に向かう。
重厚な扉を引いたところで、蓬の方に振り返って
「何かあったらメールちょうだい。」
まぁ特に何かがある訳じゃないし、問題など起ころうはずも無いのだけれど、何となく。
「ええ。わかったわ。行ってらっしゃい。」
「ん。また後で。」
そう言って私は生徒会室から出る。
え〜と、教室に戻って新歓祭の準備を手伝うのは良いとして、あの子達、ちゃんとやっているのかしら?なんかこう…勢いだけで始めてる気がしてならないのだけど…せっかく私が一番に書類審査通してあげたんだから、せめて形にして貰わないと困るのよね。
え? 職権濫用?
違うわよ、失礼な。
ちゃんと正規の手続きを踏んでいるんだから問題ないわ。
最初の企画書は随分ざっくりした物だったけれど、内容には問題無かったんだもの。
教室に向かって歩いていると、職員室の前を通った辺りで宗方先生が前を歩いているのが見えた。
挨拶をしようかとも思ったのだけど、わざわざ走って追いついてまで挨拶をするのもなぁ…なんて考えているウチに武道館の方へ曲がって行ってしまった。あぁ、これから部活動の指導かしらね?
宗方先生は体育教師なのにテンプレート的な格好をせず、ワイシャツにスラックスという、いかにも教師っぽい服装をしている所為もあってか、生徒には結構慕われている。
まぁシャツがパツパツなのはどうかと思うけど。
教室に到着すると、クラスメイト達は粛々と作業を進めている…はずもなく、キャアキャアと騒ぎながら作業していた。
いや、楽しそうなのは結構なんだけどね?
ちゃんと予定通りに終わるのコレ?
楽しく作業しているところに水を挿すのもなんなんで、一声かけて私も作業に混じった訳だが…まぁ今やっているのは単純作業なので、ついつい口が動いてしまう。…ダメじゃん。私、迎合しちゃってるじゃない。
とは言っても、みんなに黙ってやれって言うのも酷な話だし、私一人だけムッツリしてるのもねぇ…う〜ん…
「…あれ? 誰か携帯鳴ってない?」
ふと、そんな声が耳に入った。
携帯の着信? ……あ、ホントだ、鳴ってる。
うん? …止まった?
メールかな? 皆が一斉に自分の携帯を確認し始める。当然私もだ。
「……ごめん。私だ。」
蓬からだ。
珍しい。
確かに何かあったらメールをとは言ったが、今までメールしてくる様な事はほとんど無かった。…問題でもあったのだろうか?
メールフォルダを開いて内容を確認すると…
『たいへん おうせちまで はやくきて ただしくるときはしずかに』
…なにこれ?
え? おうせちま…あ、応接間か?
応接間がなんだって?
って言うか、文章の変換も出来ないくらい慌てて打ったの?
なんか出たのかな? ネズミとか…Gとか…?いや、でも静かに来いというのは…どういう事だろうか?
謎だ。
「ごめん呼び出しだ。行ってくる。」
すぐ近くに座っていたクラスメイトに声をかけ、私は急いで教室を飛び出した。
P.M14:00
加筆修正。
本日はここまで。




