あふたーすくーるあくてぃびてぃ⑭
「お茶のお代わりいいかが?」
立ち上がりながらそう言った蓬お姉さまに反応して、ボクと なづなも立ち上がろうと腰を浮かし掛けたところで『座っていて』と制されてしまった。
「今日はお客様なのだから、私に任せてちょうだい。」
だそうです。
いやしかし…なんかこう、お姉さまが動いているのに自分が座ってるのって違和感があってムズムズするんだよなぁ… 横を見れば なづなも同じ様に感じているらしく微妙にソワソワしている。
だよね?そうなるよね?
普段が普段だもんね。
家で すずな姉ちゃんが台所に立ったら手伝うのが当たりになってるからねぇ。まぁ、ママは滅多に手伝わせてくれないけどさ。
自分が動いていた方が気分が楽だと思っているからなのか、こういうのは新人の役割なんじゃないの?って考えているからなのか…あるいは両方なのか。
ボクは圧倒的に前者。
…なんだけれど、『全部自分でやろうとするな』って、こないだ言わたばっかだからね、ちょっと気を付けてる。つもり。
…の割には今動こうとしちゃったけれど。
まぁそれは、ほら、癖みたいなモノだからさ。
大目に見てね、って事で。
「ねぇ、せり?」
「ん〜?」
「なんか手持ち無沙汰。」
「…凄く理解るけれど、前回手を出した所為で教育係がどうのって話になっちゃったんだよ。今日はお客様に徹してた方が良いと思うよ。」
ヒソヒソ。
こんな事言ってるけどさぁ…これ、ほとんど自分に言い聞かせているセリフなんだよね。わかっていてもね、言葉にして言い聞かせないと納得していない自分がいるんだもん…我ながらこの性質はなかなか難儀だねぇ。
ま、流石に今日は妙な条件が追加される様な事は無かろうが、君子危うきに近寄らず、大人しくしているのが最大の安全策ですよ、と。
「なるほど…こういう感じだったのかぁ… 」
こういう感じだったんですよぅ。
ご理解頂けた様で何よりです。
…あ、そうだ。どうせ暇なんだから、さっき疑問に思った事、聞いてみようかな?帰ってからでも良いかと思ってたけど、なづなも手持ち無沙汰だっって言ってたしね。
一度、奥の部屋の方へ視線を移し、蓬お姉さまがまだ見えない事を確認してから、座る位置をおしり半分ずらし
身体ごと傾けるる様に頭をなづなの方に寄せ
更に一段声のトーンを落として
内緒話をするが如く
ヒソヒソ〜っと
「ね、なづな。ちょっと質問があるんだけど。」
「うん?なぁに?」
「さっきさぁ、蓬お姉さまが『さすが鈴代先生の妹~』みたいな事言ってたじゃない?」
「ああ、言ってたねぇ。」
「あの時に蓬お姉さま『しくじった』みたいな顔してたでしょ?あれ、どういう意味だったのかな…って。」
「あれねぇ…蓬お姉さま、『失礼な言い方かもしれないけど』って仰ったでしょう?」
うん言ってた。
「あの言い方だとね『鈴代すずなの妹』って前提がある様に聞こえちゃうんだよ。だから『失礼かも』って前置きしたんじゃないかな。」
うん。…うん?
いや実際そうだし。すずな姉ちゃんの妹は事実じゃない。
特に変な言い回しには聞こえないけれど…?
「え〜と、ね。『すずな姉ちゃんの妹』であるならば優秀で当然って思っている、って発言に聞こえるのね。蓬お姉さまにはそんな意図は無かったんだろうけど。」
ふむ。
つまり?
「人物評価がゼロからじゃないって事。」
ゼロからじゃない…?
最初の時点で下駄履いてるって事?
評価が高いのは良い事なんじゃ……あ。
「うん、最初に『すずな姉ちゃんの妹なんだから優秀なはず』って位置から始まってるから、出来て当然、出来なかったら減点評価。私達という個人を見ていない…そんな風に取られかねない発言だった…と思ったんじゃないかな。」
ははぁ、それで『しくじった』とか『しまった』みたいな顔をしたんだ。
「なるほどね〜。でも凄いな、よくそんな事わかったね?」
「私はちょっと捻くれてるからね。まぁ、蓬お姉さまが表情を変えなかったら、そのまま褒め言葉として受け取ったと思う、よ?」
なづなが?捻くれてる?
ほう?面白い冗談だね?
「…卑下してる訳じゃないよ?完全に緊張が解けてる訳じゃないからさ、言葉の裏まで考えちゃったんだと思うんだ。ちょっとひねた考え方でね。…たぶん、まだ構えちゃってるんだろうねぇ。」
天井を仰いで『やっぱり感情のコントロールって難しいなぁ』ってぼやく。
あぁそうか、ちょっと饒舌気味なのもそのせいか。あまりに普段通りの態度だったから、並列思考で上手に隠してるんだと思ってたけれど…ちょいちょい顔を出してたんだねぇ、ネガティブ思考。うん、わかるわかる。
「ねぇ、なづな。」
「うん?」
「ボクはさ、なづなに比べるとお気楽思考だから余り当てにならないかもだけれど… 」
「うん。」
うおぃ。そこは『そんな事ないよ』って言って欲しいとこですよ?!
いや別にいいんだけどさ。
おっと、そんな事より続き、続き。
「蓬お姉さまは悪い意味で言った訳じゃないんでしょ?」
「…そうだね。そのつもりだったのなら、あんな顔はしないだろうし…失言だろうねぇ、本人的には。」
「それなら素直に褒められたって思っておこう?だって“あのすずな姉ちゃんの妹だけある”って言って貰えたんだからさ。“ボク達凄い!”でいいじゃん?」
上を向いていた なづなが、グリンと首を回してボクを見る。
え、何?なんで微妙に驚き顔なのかな?
なんか変な事言った?言ってないよね?ごく普通の事しか言ってないでしょ?!
「せりは良い子だねぇ。」
いやん褒められた。
じゃなくて。
えっと、つまり、良い方に考えればそれだけ期待されてるって事だからさ、前向きに考えれば頑張ろうって気になれるかなってね、事であってね?
「わかってるよぅ。」
座ったままグ〜ッと伸びをして、ふぅ…と息を吐き表情を緩め
「蓬お姉さまに“そのつもり”がなくて、褒める意図だったというのは理解っているから、大丈夫だよ。」
「そっちじゃなくて。ただ、思ったより緊張が緩和出来てなかったのがねぇ、せりの方が余程感情をコントロールしてるなって。いやぁ…私、まだまだだなぁ。」
複数の思考を並行して走らせて、ネガティヴ思考を抑え込むとかいう離れ技やっといて『まだまだ』は無いと思うが…ボクのは他の思考に全振りしてるだけの自己暗示に近いからねぇ。集中が切れると押し込めてたモノが噴き出して悶絶する事になるんだけれど…おっと、揺り返しが怖いので考えない考えない。集中集中。
両手の指でこめかみをグリグリとマッサージして、なづなのエスコートだけを考える。この後、椿さん達に合流して、それが終わって家に帰るまで。
帰っちゃえばいくら悶絶しようと誰にも見られないからね!
そこまで我慢だボク!
「せり。」
ん〜?なぁに?
え?なに?なんで撫でるの?何故に撫でられてるのボク?
「なんとなく。」
…なんとなくね。
それは仕方ないね。
明確な理由は無かったりするからね。
ま、精神安定剤がわりになるんだったら拒否する理由は無い。それ以外の目的であったとしても拒否なんてしないのだけれど。存分に撫でるが良いさぁ。どんと来い。
「ふふふ…落ち着くなぁ。最初からこうすれば良かった。」
おぉ、ホントに精神安定効果が?!
確かに なづなって髪の毛弄るの好きだもんね。
髪に指を通し手櫛で梳いたり、毛先を指に絡めたり、編み出したり。いやまぁ、楽しそうだからイイけれども。
片側だけ梳かされていると、そっち側だけ艶々しそう。
「せり。」
ん?
なんだろうと思って なづなの方を見れば、ぽんぽんと自分の膝を叩いている。…寝ろ、と?…反対側も撫でさせろと?いや、髪を撫でるのは構わないけれど、ここで膝枕?
う、う〜ん…流石にここでは…こういうのはさ、せめて2人だけの時とかウチに帰ってからとか、の、方が、良いんじゃ、ないかなぁ…って、だから!そんな恨めしそうな目で見るのやめて?!
…わかった。わかりました。
ちょっとだけね。蓬お姉さまが戻る前に起きるからね?!
もう少し加筆したいです…
時間が足りない…
P.M12:00
加筆修正
もうちょっと加筆します。
ちょっとだけですが。
P.M16:00
本日はここまでとさせていただきます。
仕事の合間に書くの…ちょっと楽しい…
いけない事なんだけど。(^◇^;)




