はろーまいふれんど②
クラスメイトとの交流
初めての子相手とか
緊張しますよね。
え〜…めんどくさい
なんでボクが行かなきゃいけないの?
強いのがいる?
知らないよそんなの
どうせ大した事ないんでしょ
いっつもそうじゃん
殲滅戦?とか?
手強いのがいるって言ってたのに
全然弱っちかったし
アンタらでテキトーにやれば?
進級式自体は何の問題もなく進行した。
花乃お姉さま方が慌てている様子も見えなかったので、きっと予定通りにいったんだろうな。
まぁ、昨日あれだけ入念に確認してたんだから、問題なんか起こるはずもないのだけれど。
式の進行を学生に任せてしまうと学院も、なかなか凄いよね。確かにバックアップとか、セーフティラインみたいなのは設定されているのだろうけれど、基本的には学生に丸投げ。自主独立の精神を育むのを目的に、企画から設営、運営進行等々の全てで学生が中心となって執り行われる。でも、運営側に回ると基本式典には出られない。もちろん例外はあるけれど、不参加になる事がほぼ確定。
式って大多数の生徒にとっては退屈なものだから、不参加目当てに実行委員に入ったりする人もいなくはない。こういう人はやる気がないから、いい加減な書類作成したりして周りに迷惑をかける。
昨日のトラブルは、これの典型だったみたいね。
式が終わり、ボク達は新しい教室に移動だ。
2年生の教室は中等部棟の3階。一番手前、下駄箱のある昇降口に最も近いところにある。ラッキー。
教室では廊下側の前から出席番号順に席が割り振られていた。席は6列、ボクは2列目の後ろから3番目。
前の席は当然、菫さん。後ろ姿も麗しいね。
机に頬杖ついて、あ〜髪つやっつや、綺麗だなぁ〜触ってみたいなぁ
「ねぇ、せりさん。」
「はひっ?」
振り向いた菫さんと目があった。
邪な事を考えている時だったせいで声が裏返った。うわ恥ずかしい。
「なに、変な声だして。」
「あ、あ。ごめんなさい。ちょっと邪な事を考えてました。すいません。」
「邪な事?」
首を傾げて、さらに問うてくる。しまった!何で馬鹿正直に答えてるんだ。普通に考え事してたでいいでしょうに!
「え…えっと、菫さんの髪がツヤツヤで綺麗だな、とか、触ってみたいな、とか…。」
「なんだ。そんな事?」
はいどうぞ、と頭を傾けて寄せてくると、サラリと流れる髪に天使の輪の様な輝きが揺れる。
手を出しかけて思い直し、慌てて掌を制服でゴシゴシ拭いてから再度手を伸ばす。
掬い上げる様に触れてみたら、なんだコレ。しっとりした質感なのに、重くない。濡れたような色合いなのにサラサラしてる。密度が凄い。うわぁ。
TVのCMで観るようなモデルさんの髪みたい。
「はへぇ〜…あうちっ!」
菫さんの髪を堪能していたら、なづなが覆い被さってきた。頭の上に。
「こぉら。あんまり女の子にそういう事しちゃダメ、だよ。」
そういうなづなだって、机の上に腹這いでボクにのしかかっているじゃないか。レディらしからぬポーズじゃありませんコト?そっちはイイの?え?イイんですか?そうですか。
「はい。ごめんなさい。」ボクが手を離すと
「でも、触ってみたくなるわよね。」と光さんが参戦してきた。私も良いかしらと菫さんに確認し、髪を撫で、するりと指の間を通る髪に感嘆の息を漏らす。
「本当、凄いわね。私、癖っ毛だから羨ましいわ。」
雨の日なんかブワッーってなっちゃってスゴイのよ、とか言ってる。
ブワーってなっちゃうんだ。どれどれ?
光さんにもお願いして触らせて貰ったが、こっちも凄かった。指通りもいいしサラっとしてはいるんだけれど、なんて言うか、ふわっふわなの!例えるなら羽毛布団?みたいな?ウエーブのかかった髪が空気を閉じ込めてふっくらしてるの。菫さんとは全然違う。
「確かに違うわね。ふわふわだわ。」
菫さんも興味深げに弄り倒している。なんだかんだで、なづなも触らせて貰ってた。
終いには「いい匂い…」とか言ってうっとりしてたし。なんだよぅ、ボクにはダメって言っといて自分だって触りまくってるじゃない。ふーんだ。いいもん、後でなづなの髪、わっしゃわっしゃしてやるんだから。忘れてていいよ。ボクが覚えてるから。
で、とうとうボクの番らしい。
2人とも眼をキラキラさせて触らせろオーラが凄い。
まぁ断る理由も無いので、どうぞと背を向ける。
「え?何これ?」
「菫さんがシルクなら、せりさんはビロードだわ。」
ボクとなずなの髪は2人に比べるとしっとり系でまとわりつく感じがある。手触りも指通りも悪くないのだけれど、少し重い。色から軽い印象を受けるので、触ると驚かれる事が多いんだよ。
菫さんがボクを、光さんがなづなを弄りまくっている。そんなに楽しい?いや、楽しいわ。ボクが触る側の時は超楽しいもん。
なづなは髪が短いのもあって頭を撫でられているも同然なので、ちょっとくすぐったそうだ。うひひとか言ってるし。
「私だけ仲間外れみたいでイヤだわ。」
不意に光さんがそんな事を言った。
何の事かわからなくて、なづなと菫さん、3人で顔を見合わせ首を傾げる。
「だって、せりさんとなづなさんはビロードみたいだし。」
うん。
「菫さんはシルクみたいでしょう?」
そう言ったね。
「…私だけ羽毛布団よ?」
…うふっ。
また3人で顔を見合わせて。吹き出した。
「ひどい〜。なんで笑うの〜。」
頬を膨らませ、両手で拳を作り、胸の前で小さくブンブンと振る。
拗ね方も可愛いな。
まぁ、本当に拗ねているわけじゃなくて“拗ねるポーズ”なんだろうけど、可愛いから良し。
3人で撫で回したりしてちょっと距離を縮めてみる。
光さんと菫さんは、このくらいの距離感は大丈夫な人か。ボクとなづなは、もっと距離が近いから測り間違えると大変だ。スキンシップを極度に嫌う人もいるからね。
髪はダウンとかフェザーとか言い換えてみて、一応の納得は得たみたい。
「ところで菫さん。」
「はい?」
「さっきボクに話そうとしてた事って?」
「話そうとしてた事?」
あれ?
あれれ?本気で首捻ってるよ。
「ボクが髪の話する前に、呼ばれた気がするのだけれど…?あれ?違った?」
菫さん、暫し考え、ぽんと手を打った。
「あ。あれ。あれね。」
うん。
「話そうと思ったのは、その通りなんだけど。」
うんうん。
「話題は考えてなかったわ。」
考えてなかったかー。そっかー。
「折角、噂に高い双子ちゃんとお近付きになれるチャンスだもの。兎に角話しかけようと思って。」
えへ。
えへって。可愛いな。
だから髪の話をしてくれて助かったわ、だって。
そっか。お近付きになりたいと思ってくれてたのか。嬉しいな。
「ボクも、お近付きにはなりたいもの。凄く嬉しい。ほら、ボク達こんなだから、なかなか取っ付き難いみたいでさ。」段々慣れてはくれるんだけどね、と髪を摘んで笑ってみせる。
「勿体ないわよね。」
もったいないですか?
「容姿端麗にして中身愉快。」
ようしたんれいにしてなかみゆかい!
「お友達になったら、楽しいに決まっているもの。」
容姿端麗は褒められてますねありがとう。
中身愉快は褒められてるんですかね?てか、そもそも四文字熟語じゃないですよね?
え〜。でも、え〜。えへへ。
楽しいに決まってるかぁ。照れちゃうなぁ。
「そう。そういうとこ。」
ピッと指を立てて、ボクの鼻の頭に触れる。
「表情がよく変わるとこ。見ていて楽しい。」
「そんなに変わる?」
「せりは、よく百面相、するよ?」
「してるわね。」
…してるんだ。知らなかった。
「なづなさんと、光さんは同じタイプね。」
同じタイプ?と2人が顔を見合わせる。
「柔らかく微笑んで、全部受け止めてくれる感じ。側に居て安心しちゃうタイプよね。」
あぁ!確かに。ふわっと包み込んじゃう感じは似てるかも。光さんは見た目通りだけど、なづながそういうタイプだってよくわかるなぁ。
「そうかしら?自分ではよくわからないけれど。」
「光さんは母性溢れる感じだよね。」
「そうそう。お姉さま通り越して、お母さま。」
「光ママって呼んで、いい?」
「…それはやめて?」
あはは、そうだよね。
「そう呼ばれたら、なづなママって呼ぶから。」
ぷぅって頬を膨らまして抗議する光さんが可愛い。
くすくす笑いながら両手を広げハグの体勢を取って
「いいよ〜。おいで、光。」
予想外の反応だったのだろう、光さんが躊躇していたので、背中を押すようになづなにダイブする。
なづなとボクで挟み込む様にハグすると、きゃあと小さく悲鳴を上げたあと、なづなに抱きついて何が可笑しかったのか声をあげて笑い出した。
「あ、ずるい、私も!」
まさかの菫さん乱入。あ、この人達TPOさえ弁えれば濃い目のスキンシップもOKなんだ。へぇ、意外。
きゃあきゃあと、一頻りはしゃぐと菫さんが離脱して
「あはは、なんかこんなにはしゃいだの久しぶり。」
「私も。こんなに笑ったのいつ以来かしら。」
そうなのか。ボク達は結構はしゃいだり、笑ったりしてるからなぁ。それでやらかしちゃってるんだけれども。
「ボクは結構笑ってるかなぁ?」
「私達は、そうだねぇ。はしゃぐ、よね?」
「あ、知ってる!「踊るホワイトジェミニ!」」
そんなハモらなくても。
というかその噂、高等部だけじゃないの?!
「中等部までその呼び方が知られているなんて…」
「あら、かなり有名だと思うわよ?」
「そうね。よく耳にするもの。」
おお…
「でも…」なづなが呟く
「何故ホワイトでジェミニなんだろ?」
…ん?あ、そういう事か。確かに。
「言われてみればそうだね。ホワイトならツイン、じゃないのかな?」
「なるほど。ジェミニだったらアルブム…かしら。」
「だめよみんな。意味ないわ。」
え?意味ない?
「命名者がそんな事考えてるわけないじゃない。」
というと?
「ノリで知ってる単語を並べただけに決まってるわ。」
おおぉなんと中学生らしい発想!
そして身も蓋もない!
「…きっと、それね。」
そうだよね。こういう噂話ってその場のノリで命名されて、伝言ゲームみたいに途中で少しづつ変化していったりするものだから、オリジナルとも限らないし、そのままなのかもしれない。
確かに意味を求めてもしょうがないね。
そんな話をしている時、教室の前の扉が開いた。
「はい、席に着いて。」
その声を合図にパタパタと皆が移動を始めた。
ボク達も急いで席に着く。
「「「「また後でね。」」」」
HR、始まりませんでした。