あふたーすくーるあくてぃびてぃ④
「あ、明日は先生の所に…ダンス教室に行く予定だったじゃない。わざわざ先生に時間取ってもらったのに…!」
そう、先日の余りに不出来な踊りを動画を見て、これは一度基本を叩き直して貰おうという事になり、ボク達に踊る事を教えてくれた先生にお願いして休日に時間を頂いたのだ。
と言っても、ダンス教室そのものはやっているので、生徒に混じって端の方で基本を見てもらう程度の事なのだけれど。
…いや“程度”なんて言っちゃいけないよなぁ。お月謝だって払っている訳じゃないのに、レッスン受けさせてくれているんだもの。
それをドタキャンは流石に…いや、ボクだけ行くって手もあるのはわかってるんだけど…。
「え?やだな、行くに決まってるじゃない。」
ああ、そう、なら良いけど…って、凛蘭さんはどうすんの!?
「連れてく。」
連れて…は?!
え、先生ン所?教室に連れてくって事?
いきなり連れて行くの?!
あ、もしかしてダイエットの案って、これの事?!
「そうだよ〜。明日は見学可のビギナークラスの教室が有るからねぇ。丁度良いでしょ?」
…ははぁ、なるほど、ね。
普段はシニアクラスの人に混ぜてもらう事が多かったから、明日もそうなんだとばかり思っていたけれど…そうかビギナークラスか。それなら普通の初心者pレッスンと変わりないから凛蘭さんが入っても問題ない。寧ろいい運動になるのではなかろうか。
因みに“ダンス”というのは社交ダンス又は競技ダンスというものだ。最初に教わるワルツの基本ステップなんて簡単だし動きも緩やかなのでかなり取っ付き易い。
が、実はそこそこの運動量があって立派な有酸素運動だったりする。
「後で先生に練習生候補連れてくって連絡しておかなきゃ。凛蘭さん立っ端あるから見栄えすると思うんだよね〜。」
…凛蘭さん、逃げるなら今のウチかもしれません。なづなが悪い顔をしています。
「ところで。」
ん〜?
「さっき、ちょっと妬いてた?」
ぅぼぉおわぁ!?
ななななにをおっしゃってらっしゅ…らっしゃるンデスかお姉様?!や、やだなぁ、妬いたりなんて、そそそそんな事は、あ、あれは、ほら、ボクとの先約があるのにさ、先約のね、先生の所をね、キャンセルしなきゃいけなくなるんじゃないかなってね、思っただけで……
「ふぅん?」
隣に立っていた なづなが後ろ手に手を組んで、体ごとひょいと折り曲げる様に、下からボクの顔を覗き込む。
にこにこと微笑みながら。
くっ…あざとい…!
「ん?」
ぐぎぎ…ああ、そうですよ!
ちょっと妬いちゃいました!
ちょっとだけだけれど、ね!
「そっか。」
今度はひょいと体を起こすと、トンットンットンッと弾むように前に出てクルリと振り向く。手は後ろ手に、脚は交差させて、はにかみながら上体ごと首を傾げるようにして。
「ちょっと、嬉しい。」
それだけ言って、再びクルリと回って歩き出す。
少し弾む様な足取りで。
ボクはといえば、突然の言葉に思考が追い付かず…しばらく呆けてしまった。
ちょ、ちょっと、今、嬉しい…嬉しいって言った?
ボクが妬いたのが嬉しいって?!そういう事?!
え、勘違いじゃなく?
今更ヤキモチを妬いたって意味ないと理解ってるのに、それでも少しだけ湧いてしまった嫉妬心を、嬉しい、と?ヤキモチ妬いてくれたのが嬉しいって事だよね?
顔が熱い…耳たぶが熱い…茹だっちゃいそうだ。
「ほら、さっさと職員室行ってお小言貰っちゃおう。こういうのは覚悟を決めて早めに終わらせるに限る、よ?」
立ち止まりもせず、肩越しにそんな事を言う なづな。
わ、わかってる。わかってるけれど、ちょっと待って。
今、絶対、顔赤いから。
ちょっと冷まさせて。
冷却時間を頂戴!
あぁもう…最近はもっぱら『照れるのは なづな』で、『愛でるのはボク』だったから油断してた…!こんなクリティカルな反撃を喰らうとは…思ってもいなかったよ。いや別に勝負してる訳じゃないのだけれど、すんごい負けた気分…。
それでも慌てず騒がず、深呼吸をして浮き立つ心を抑えながら なづなを追う様に歩き出し、少し早足で歩いて横に並べば、目を細め少し照れ臭そうに笑う なづなと目が合った。
ああもう…ホントにもう…
頭ン中に“好き”と“可愛い”しか浮かんでこない。
語彙力が壊滅してるよぅ。
家に帰ったら垂れ流そうが駄々洩らそうが自由だからさ、今だけ…学校に居る間だけは平静を保とうか。
がんばれボクのメンタル。
と、まぁそんな感じで、浮ついた気分を鋼の意思によって封じ込め、どうにかこうにか普段通りに振舞えているのが現状です。
鋼の意思って…自分で言ってて笑っちゃうけれど。
そうこうしているいるウチに職員室は目の前だ。さっきまでの浮ついた気分が緊張で塗り替わってゆくのがわかる。…そりゃね、これからお小言いただこうってんだから気分も沈もうってもんですよ。けどこれ、考えようによってはバランス取れているんだから丁度いいのかもしれないね?
「「失礼します」」
「おや、鈴代姉妹じゃないか。どうした?」
入室すると同時に声を掛けて来たのは宗方先生だ。すずな姉ちゃんの同僚で高等部の体育教師。そういうと何時もジャージ着てそうなイメージだけれど、宗方先生は基本ワイシャツにスラックスという…意外と言っては失礼だが、きっちりした格好をしている事が多い。
「宗方先生、こんにちは。」
「実はマキ先生に呼び出しをくらいまして… 」
「マキ先生?なんかやったのか?」
「ちょっと… 」
「ふむ、心当たりがあるのかい?それじゃあしょうがないな。しっかり叱られてくると良い。」
デスヨネー。
宗方先生はカラカラと笑いながらボク達と入れ替わる様に職員室を出て行った。あ、取り次いではくれないんですか…って、そりゃそうか、時間的にこれから部活の指導ですもんね。それにマキ先生の席すぐそこだし。
「先生、参りました。」
「ああ、来たか。じゃあ早速だが、これに記入して来週迄に提出しなさい、当然今すぐでも良いぞ?」
うえっ!?
お小言じゃなくて反省文ですか?!これは予想してなかったな…お小言だったらその場で終わりだけれど、反省文はなぁ記録に残るんだよなぁ…っていうか、あれってそんな大事だったの?いや確かにね?『生徒が校内を半裸で走り回ってた』って言葉だけ聞くと大問題だけれども、急病人の看護だし?緊急事態だと判断したからの行動なのだから、もう少し大目に見て頂いてもバチは当たらないと思うんですけれど…。
「先方からせっつかれているしな。早い方が良かろう?」
…先方から、せっつかれている?
何の話だ?
「先生…これ…。」
「見ての通り所属承諾書だが?」
所属…あ反省文じゃないんだ。
所属先… って事は、先方って生徒会執行部の事?
え?あ、アレ?ボクって申請してなかったんだっけ?確か先日、生徒会室で正式に採用したと宣言すれば良い話みたいな事を言われた気がするのだけれど…で、お世話になるのだからご挨拶に伺わねばって話を…したはず…あれ?あ違う、申請書じゃなくて承諾書なのか。『右の者生徒会執行部所属とす』って書いてある。
「まぁ形式上の物だ。連中的には他の部活なんかに奪られたくないって事なんだろうよ。体育館のアレ、ちょいと噂になったらしいしな。それに… 」
それに?
「新歓祭の後だと運動部からの勧誘が五月蝿そうだろう?」
ああ、体育館のアレ、動画で見たらそうなるかもしれませんね…去年の球技大会や体育祭の後、そうでしたもんね…書類一枚で『もう所属先が決まっている』と言えるのなら楽かも。
「呼び出されたのは、これの事だったのですか?」
「うん?そうだが?」
なんだ…保健室の件で叱られるのかと思っていたのに…
「ああ、あれか。ふむ、そうだな救護に関しては褒めてやるが…ストリーキングはなぁ。ガツンと叱っておいた方が後々の為か?」
すいません!結構ですぅ!
あと全裸ではないですからっ!
P.M.13:30
本日の更新は以上です。
本当に申し訳なく…
P.M.13:40
単語間違いを微修正しました。




