あふたーすくーるあくてぃびてぃ③
「椿さ~ん。ごめん遅くなった。」
今日の素材撮影をどこでするのか確認しておきたいのだけれど、って事で椿さんをはじめとする本日の参加者チームに声をかけに来ました。
と言っても同じ教室にいたんだけれどね。
ボク達はさっきまで桂ちゃんと話をしていたので、参加者チームの集合に間に合わなかったという感じになっちゃてさ。いや申し訳ない。皆は『大丈夫、まだ雑談していただけだから』と言ってはくれるけれど、ちょっと長話しすぎちゃったかな…?
まぁ、まだ何の話し合いも行われていない様なので何となくボクらも雑談の輪に加わっていたんだ。そしたらさ…
「ねぇねぇ椿さん、PFってもう出来てるんでしょう?」
演出チームの子からそんな声があがってね、皆が一斉に椿さんに注目したんだ。そりゃ出来ているんならボクだって見たいもん。
「え?出来てるの?!」
「ホントに?!見たい見たい!」
「いえ、あの、まだ音楽も載せてないのでPFというより、試作品…ていうか、ただ繋げた物なんですけど… 」
みんなの迫力に押されたのか椿さんタジタジです。
それでも良いから見たいと言われるのは既定路線な訳だけれど、案の定、椿さんが折れました。『本当にただ繋げただけなので…』と言いながら“試作品“と書かれたファイルを開く。
なるほど確かに、ぶつ切りの素材をなんとなく並べただけの映像だった。だが、椿さんのチョイスが良い所為だろうか、ひと繋がりの映像にも見える。皆の反応はと言うと「良いわね!」「こんな風になるのね。」「確かに音楽は欲しいわ。」等々、概ね好評な様だ。
何故か、ボク達の踊っている部分が特に良いという評価だったのだが
、全くもって納得いかない。いや確かにね?『素人臭さ』が良いって言う意見には賛同しましたよ?しましたけれど、やはり、コレは…恥ずかしい!もうやめて!ひいいぃ!
…今更使わないでとは言わないけれど…トラウマになりそぅ…
ワイワイと動画に対しての意見を出し合い始め、話し合いが加熱してゆく。あ、こりゃいかん、抜けるタイミングを逸してしまった。
「あの、せりさん、なづなさん…少し良いですか?」
声をかけて来たのは凛蘭さん。あれ?さっきまで参加者チームの中には居なかったのに…もしかして帰るつもりだったのに、わざわざ戻って来たのかな?
「うん、もちろん。」
近くのクラスメイトに少し離れる旨を伝え、誘われるままに、なづなと2人で凛蘭さんについて廊下へと。
廊下に出ると、凛蘭さんはボク達に向き直り深々と頭を下げた。
「あの…先程は、ありがとうございました…。」
いえいえ、何も問題ありませんよ〜。
…全然なかった訳じゃないけれど…まぁコレは此方の話なので凛蘭さんには関係ないもんね。故に言う必要は無い。
って言うか凛蘭さん覚えてないでしょ?
もう体は平気なのかな?
気分が悪いとかはない?
「は、はい、大丈夫です。それで、あの… 」
はい?
「私、抱っこされて運ばれたと聞いたんですが… 」
抱っこして運びましたね。間違ってないです。
「ど、どちらが…」
「それなら、せりだよ?」
それを聞いた瞬間、バッとボクの方を見て、ほんの数舜ぷるぷるした後、ガバッと顔を両手で覆って俯いてしまった。うおぉビックリしたぁ…今、ボクの方を見た時の顔!目ぇ見開いてすんごい形相だったんで、殴られんのかと思っちゃったよ!
いや、あれは別に怒っている訳ではなく…照れ、か?…羞恥の表情だったのか?
え、いやごめん、そんなにイヤだった?
でも、ほら、緊急事態だったからさ、その、なんだ、ごめんね?
「あ!違うんです…!イヤとか、そういうんじゃなくて…!あの…お……かったんじゃ…って… 」
ん?なんて?
「…お…く、なかった……かなって… 」
もごもごと口ごもってしまって、良く聞こえない…う~む、そんなに言い辛いことなのか?と、首を捻っていると、凛蘭さんはぎゅっとスカートを掴み意を決したように、言った。
「私!重かったんじゃないかなって…!…思って…その…私…」
…重かった…?
凛蘭さんが?
思わず なづなの方を見ると、『さぁ?私は椿さんを抱えてたから知らないよ?』って顔をしてる。いや実際その通りなんだけれども。だがしかし、あの時は“軽い”って思ったんだよなぁ…なんてったって抱えたままダッシュ出来てるんだし。決して重くはなかったはずだけれど?
「嘘です!だって私…体、大きいし…体重だって… 」
いやいや、嘘なんか吐かないですよ?
正直な話、凛蘭さんって立っ端の割に軽くてさ、驚いたくらいだよ。ちゃんとご飯食べてないんじゃないかって余計な心配しちゃったもの。
…もしかして、体重を気にして朝御飯を抜いたり…したとか?
「……それ…は…。」
…あ~、やっぱりそうか。ダイエットのつもりなんだな。
ただ安易に絶食断食をしたって体調を崩すだけで大して効果はないんだけどなぁ…。思春期の女の子だし体重が気になるってのもわからなくはないのだけれど…。と、同級生のボクが言っても『じゃあ止める』とはならないだろうし、親御さんが言っても『ほっといて』になっちゃうかもしれないし…うぐぅ、思春期面倒臭い…。
「凛蘭さん。」
と、そこで割り込んでくる声。
当然、なづなな訳だけれど…何か良い説得方法でもあるのだろうか?
「は、はい。」
「ダイエットなら任せて!」
ぅおぉい!?なづな!?いきなり何を言い出すかな!?
任せてって、ダイエットなんてした事ないじゃん!
いやボクもないけどさ!?
「…え?任せてって… 」
「いい方法があるんだよ。」
うわぁ、いい笑顔だ…!
なんの裏もないけれど、鵜呑みにすると結構とんでもない目に遭うタイプのヤツだコレ…!と、止めた方が良いかな!?い、いやしかし、100%厚意で言ってるんだよね…だから厄介ではあるんだけれど!
「凛蘭さんって何処に住んでるんだっけ?」
「え?あ、北高のちょっと上、です。」
「あ、市内だね。よかった。じゃあ明日、時間ある?」
「え、ええ、特に予定は無いので…。」
なづな がどういうつもりなのか微妙に解らないけれど、凛蘭さんとの話をトントン拍子に進めてゆく。
明日はボク達も予定組んでたのに、何の相談もなく凛蘭さんと約束しちゃってさ。そりゃね、イヤな訳じゃないよ?凛蘭さんの無理なダイエットを抑止する為の案を実行しようとしてるだけだもん。彼女の為というなら反対する理由も無いからね。
…あ。やだなぁ、ヤキモチ妬いてる訳じゃないよ?ちょっとね、先約があったのに、って話なだけでね?ほら、最悪ボクだけ先生ン所にお邪魔するってパターンもアリな訳だしね?
「あの、せりさん?」
ぅおわぁ?!
ななななんでしょうか椿さん!?
…びっくりした、びっくりした!
また考え事に没頭していたらしい、うぅ。
なんとか平気なフリをしたけれど、内面的には心臓が口から飛び出しそうでした。いやホント、ボクってこんなに簡単に背後を取られちゃうんだなぁ…以前じゃ考えられない緩みっぷりだネ。今世では大した問題じゃないんだけれどさ。
で、それは兎も角、どうしたの椿さん?PFのチェックはいいのかい?
「ええ、そちらは問題なく。それでそろそろ移動をと思いまして…せりさん達は職員室ですよね?」
そぅなんですぅ…。
あんな格好で走り回っちゃったからねぇ、お小言の二つ三つは頂くでしょうけれど、まぁ致し方無しでしょ。
「あの、その節はご迷惑をお掛けしました… 」
はい?いやいや何も問題ないよぅ。
それより大事なくてよかった。最初はボクがぶつかって怪我させたのかと思ったからね。失礼ながらホッとしちゃった。
「ちょっとのぼせちゃっただけなので…はい、もう大丈夫です。」
なら、よかった。
…のぼせちゃった?
あの時って、スポブラ触ってただけだよね?…んん?のぼせた、とは?…はて…?……まぁいいか…。
そうそう、これからの予定なんだけれど、何処で撮るつもりなのかな?ボク達も後ほど合流するつもりなので、教えておいてくれると助かるな、って。
「えっと、屋外を中心に撮って回ろうと思ってます。プールだけは無理そうですが。」
あ~、じゃあ合流する前に連絡入れた方がいいね、どこに居るの~って。
じゃないと校内を彷徨う事になりそうだ。
「あ、そうですね。メールでも電話でもいいので、そうして貰えると助かります。」
では、そちらは良いとして…
「じゃあ凛蘭さん、明日駅前に十時に。」
「はい、お願いします。」
…なんの話をしてるの?!




