ようこそリルシスター
リボンお渡し会
がんばります。
また子供が連れて来られた
こんな小さな子まで
実験体とか素体とか
ホント外道だなコイツら
まぁボクにとってはどーでもいい事か
どうせボクの時みたいに
ちょっとづつ
減ってくだけだし
運が良ければ
ボクみたいに強くなるかもね
知らないけど
「入学おめでとう。頑張ってね。」
「はい!お姉さま!」
お姉さまだって!
お姉さまって言われた!
やだ可愛い!
ぶかぶかの制服も初々しい!
あ!高等部のお姉さま方がボク達に感じてる感覚ってこんな感じ!?あーなるほど!
そっかぁ!後輩って可愛いね!
これは仕方ないね!
複雑だけど!
思わず顔が緩んでしまう。
それにしてもこの年頃の子達って身長差が凄いね。
凄く背の高い子もいれば、凄く小さい子もいる。
1番大きい子と1番小さい子で比べたら50cm違うんじゃない?
去年の僕らもこんな風に見えてたのかな?
「あの、お姉さま…」
ボクよりちょっと背の高い子が遠慮がちに声をかけてきた。俯き気味だけど綺麗な顔立ちをしているのがよくわかる。短く揃えた艶やかな黒髪がとても目を引く。うわ、睫毛長い。
「はい、なぁに?」
「わ、わたし!お姉さまが、好きですっ!」
ビシッ!
「あ!いえっ!違っ…!いえ!違わないんですけどっ…!そのっ…!」
「大丈夫!落ち着いて。ゆっくりでいいから。」
これは彼女に向けた言葉じゃない。自分に向けた言葉だ。そりゃそうでしょ!こんな衆人環視の中、公開告白されるとか!いや!そういうんじゃない!そういう“好き”じゃない。わかってる!わかってるから。落ち着けボク!
「え、と。あの…私…」
「うん。」
「以前、初等部の体育祭でお見掛けした時に、凄く、カッコよくて、キレイで、その…」
「うん…。」
「お姉さまみたいに、なりたいって…!」
あぁ。憧れられるのは嬉しいけど、コレはプレッシャーだなぁ。実際のボクは、こんな風に憧れられる様な存在じゃないもの。
ボクも、お姉さま方みたいに、すずな姉ちゃんみたいに、って思っているだけで。頑張ってみてはいるけれど全然届かない。いつかあんなお姉さまになれるのかな?なれないかも、しれない。なれない確率の方が大きい気がする。
でも、それでも。いつか失望されるとしても、今だけは、この子の望むカッコいいお姉さまでいよう。
そっと、彼女の頬を両手で包み
「なれるよ。ううん。きっとボクなんかよりずっと、ずっとカッコいいお姉さまに。キミが望む限り。きっと。」
ふわっと、彼女の顔が赤くなり、瞳が潤む。
ありがとうございます!と、大きくお辞儀をして小走りに去っていく。
その背中を見送りながら、ちょっとはお姉さまっぽい事出来たかな?なんて考えてた。
彼女にとってボクは憧れのお姉さまなんだろう。それはたぶん今だけだ。いつか彼女はボクという幻想を超えて、彼女の目指すお姉さまに辿り着く。
きっと麗しいお姉さまになるんだろうなぁ。
ボクも頑張らないと。
…そこからはもう、大変。
次の子なんて、もンのスゴイ期待した目で見つめてくるし、胸の前で両手をギュッと握って告白する直前みたいな顔してる子はいるし、顔を真っ赤にしてスカートの裾を握ったまま固まっちゃう子はいるし。
なんか、期待されてるっポイから、頭撫でたり頬に触れたり、耳たぶなぞったり、手を取ったり。一言声をかける毎にちょっとしたスキンシップしてたんだけど…。
周りのお姉さま方や、なづなに迄その期待が飛び火したみたいで、全員スキンシップ大会になってしまっていた。ちょっと予定より時間かかっちゃったみたい。
おぉう…ごめんなさい。
で…でもさ、期待にはさ、答えたいじゃない?
今だけだし、ね?!
二百余名のお渡しが終わった後は、ボクらも進級式に向かわねばならない。
「お姉さま、机は出しっぱなしで良いのですか?」
「ええ、高等部の入学式でも使うから。そのままで良いわよ。」
片付けが必要ないなら、このまま体育館だろうか?
シューズは持って来ているし。
「お姉さま方も、進級式参加なさるのですよね?」
「勿論よ。あ、進行の子達は会場にはいないわね。」
花乃お姉さまや蓮お姉さまも進行だと言っていたから、会場にはいないんだろうな。
中等部は3年生だけが進行に関われる、ボクら2年生は普通に会場入りだ。
「せり、行こう。もう集まってる。お姉さま、お先に失礼します。」」
「うん。ではお姉さま、失礼します。」
「ええ、お疲れ様。」
体育館のアリーナには、既に大半の生徒が集まっているようだ。あ、蓮お姉さまだ。忙しく動いていらっしゃる。
ボク達のクラスは2年1組なので端の方、え〜と、あの辺りかな?お、桂ちゃん来てる。
手を振ってみたら凄い勢いで振り返してくれた。
こうしてみると、新クラス、半分以上知ってる子ばっかりだ。初等部の頃一緒だった子もいる。久しぶり〜あ、向こうも覚えてるッポい。柔かに微笑んで手を振ってくれてる。同級生にこんな事言うのは失礼かもしれないが、可愛い。
変わってる子もいれば、全然変わらない子もいるな。あくまで印象の話だけど。
椅子の並びは出席番号順なので、大概10番くらいのところになるのだけれど、正直ありがたい。
いやほら。ボク達、平均より少し、少しね?小さいから。身長がね?少しね?
ボク達の席はこの辺り。
確か名簿だと前の番号の子は鈴木さん、後ろの子は妹尾さんだった…はず。
今迄、同じクラスになった事はなかった子達だ。
「なづなさん、せりさん、こっちよ。」
あれ、呼ばれた?ボク達の席の辺りで手招きしてる子がいる。あ、あの子が鈴木さんかな?
「中の2つがあなた達の席よ。」
「ありがとう。え…と、鈴木…」
「菫よ。鈴木菫。」
「「ありがとう。菫さん」」
菫さん。肩まで伸びた黒髪を綺麗に切り揃えた、日本人形みたいな女の子。清楚な外見とは裏腹に強い意思を宿した黒い瞳がキラキラと輝く美少女だ。
誘われるまま席に着けば、奥に着席していたおそらく妹尾さんであろう子が挨拶をくれた。
「私、妹尾光。はじめまして。」
おもむろに手を差し出し、なづなと握手を交わしている。
光さん。ふわふわのウエーブがかった長い栗色の髪、柔らかに細められた大きな目。漫画だったら“聖女様”とか“シスター”がこんなデザインになるだろうって感じの容姿。紛う方なき美少女だ。
今は二人とも“可愛い”けど、何年かしたら凄い“美人”になるんじゃないだろうか?
え。なにこれ。ボク達美少女に挟まれてるよ。
「しかし…これは壮観だわ…。」
突然、菫さんがボク達の方を眺めながら呟いた。
「何かあったの?」応えたのは光さんだ。
「私の位置から見たら、それはそれは美麗な西洋人形が三体、並んでいるように見えるのよ。」
予想外の言葉に思わず3人で顔を見合わせてしまった。
「それはボクのセリフだよ。可愛いらしい日本人形と西洋人形に挟まれて至福の時だ、って。」
「右に同じ、だね。」
「ふふ。私からは西洋人形と日本人形が並んでいるように見えてよ?」
今度は菫さんが目を丸くしてボク達3人を見ている。びっくり顔も可愛いね。
なんか、お互いを褒め合ってしまったのが照れ臭いというか、恥ずかしいというか、くすぐったい。
ムズムズする。
確かに側から見たら凄いのかな?なづなとボクだって、ビスクドールに例えられるくらいには見目が良いらしいから、この二人と纏まっていたら…う〜ん、。
ま、まぁいいや。
正直、新しいクラスというのは不安が大きい。
ボク達は容姿が容姿だから目立つ。前にも言ったが遠巻きにされる事も多々あった。勿論、そんな事は全く気にしない桂ちゃんみたいな子もいるのだけれど、なかなか近づいて来てくれない子の方が多い。
菫さんや光さんみたいに普通に、本当に普通に接してくれるのは貴重なんだ。
ありがとう、2人とも。
ボクは菫さんの、なづなは光さんの手を取ってお礼を述べる。ボク達は君達と、ちゃんと友達になりたい。
ボク達にきっかけをくれてありがとう、と。
「「これから、よろしくね。」」
憧れをぶつけられるのは、嬉しい反面凄いプレッシャーです。
期待に応えたい、応えなきゃ。
そんなふうに自分を追い詰めてしまう事もあります。
勿論、頑張る動機、モチベーションにもなり得ます。
難しいですね。
出席番号、前の子は鈴木菫さん。後ろの子は妹尾さん