はろーまいふれんど
新学期始まります。
新しい教室
新しい友達
期待と不安でいっぱいです
アイツ…
いっつも“あの子”の側にいるヤツだ
なんでこんなとこに…?
まぁボクには関係ないか
あ?
そっちには確か…
でっかいイヌみたなのいなかったけ?
あ〜…
食べられちゃうかな?
関係ないか
………
……
…ちっ
「せり〜!なづな〜!」
おおぅ、相変わらず大きな声だね。
しかもなんか凄い勢いで走って来るのだけれど、ちょっと、スカート捲れてるから!後ろからだと見えちゃってるから!たぶん!
朝も早くから元気な声でボク達を呼ぶこの子は、ボク達の幼馴染で、同級生の桂ちゃん。
日焼けした肌と、短い髪、弾ける笑顔が魅力的な元気っ子部活少女だ。
「ねぇ!もうクラス分け見た?!」
「ううん。まだ、だけど?」
ボク達の目前で急停止して捲し立てる。
「じゃあ見に行こう!何たって11回目かどうか!確かめずにはいられないじゃない!?途切れるのか続くのか、すっごく気になってたのよ!気にならない?気にならないの?!嘘でしょ!?それはちょっと冷たくない?!」
おぉ…久々に聴くと圧倒されるな、このマシンガントーク。
はやくはやくと急かされながら職員棟玄関前にあるクラス別リストを確認しに行く。
貼り出された名簿はクラス別、机の上に置かれている名簿ノートは名前、五十音順になっているので、そちらから探す。ボクとなずなは必ず並んでいるから見つけ易い。えーと。あ、あった。
1組だ。どういう配慮なのかわからないのだけれど、ボクとなづなは、一度も別のクラスになった事がない。普通、同年の姉妹とか双子は別々のクラスに配置されると聞いた事があるのだけれど…この辺りは学校側の自由裁量なのだろうか?
「何組?」と問われ「ボク達は1組。圭ちゃんは?」
うっふっふっふと悪い笑顔を向けてきて
「1組。11回目!継続決定!」くるくる回って万歳してる。テンション高いな。
そう、桂ちゃんもボク達とずっと同じクラスなんだよね。幼稚舎からずっと。腐れ縁とも言う。
まぁそれでも、こんな風に喜ばれるとこっちも嬉しくなるよね。はしゃぐ桂ちゃんを見ていてなんとなく微笑ましくなったんで、なづなと2人で頭を撫でてみた。
「え?何?どしたの?なんで撫でるの?え?」
なんでもないよー。なんとなくダヨー。
「確認できたし、一丁お姉さまの手伝い行ってくる!なづな達もお手伝いでしょ?がんばってね!私も頑張るよ!じゃ、また後でね!」
…ちょっとは喋らせて。
返事を聞きもせず走り去って行っちゃったよ。
だからスカート捲れちゃってるんだって、パステルイエローの可愛いのがチラチラしてるってば。
先生やお姉さま方に見られたら、お小言案件だよ。
あ、もう見えなくなった。忙しないな。
相変わらずだねぇ、となづなが呟く。
うん。でも春休みの2週間程度で、ガラッと変わられちゃうのもかなり寂しいよね。ボク達が知らない間に何があったんだろうって。
出来る事なら、桂ちゃんにはずっとやかまし…うるさ…忙しい…じゃなく、熱くるし…いやいや、えーと、うーんと…あ、元気いっぱいな子で?いて欲しいなぁ。うん。
講堂前が中等部生徒会の面々とお手伝い数名の集合場所になっている。ボクもお手伝いさんなので、ここに来たのだが
「誰もいない…?」
「いない、ね。」
あれ?ここでいいんだよね?
講堂のエントランス?確かめてみるか。
「ちょっと中見てくる。」
「ん。わかった。」
エントランスには数人のお姉さま方がいらっしゃるけれど、皆、高等部の制服だ。中等部の制服を着ている子は一人も見えない。
…しかたない。
「お姉さま、よろしいでしょうか?」
「ええ、あらジェミニちゃん?どうしたのかしら?」
一番近くにいたお姉さまに声をかけ、外にいるはずのリボン係が見当たらない事を伝えるものの、残念ながらお姉さま方には理由はわからないらしい。リボンは先生方が持ってきてくれるので、取りに行ってる訳ではないんじゃないか…とは言っていたけれど。
取りに行ってる線はありそうだなぁ…
どうにも連携取れてない感があるんだよねぇ。
「お役に立てなくて、ごめんなさいね。」
「とんでもございません!お忙しいところ、申し訳ありません。」
「あ、そうそう。リボン係なら、先に長机を用意しておくと良いわよ。」
脇に置いてある2機が外用だから、と教えてくれた。
そうだったのか…そんな事すら伝わってないとかホウレンソウ出来てなさすぎじゃありませんコト?
お姉さまにお礼を言って長机を持って出る事にする。
う〜ん。いっぺんに2つは無理だなぁ。
ひとつづつ行こう。どっせい。
うん持てる。全然重くはないね。
重くはないのに、フラフラする!バランス取りにくい!
あ、これ、あれだ。重心に入れてないんだ。おとと。
うえ、やばい、こける?!
ガシッ。
誰かが机を支えてくれた?
「大丈夫?」
「あ。はい、大丈夫です。お陰様で。」
背後側を支えてもらったので顔が見えない。
「このまま行きましょう。行けるわよね?」
「はい。行きます。」
講堂前の配布スペースまで運び、担いでいた机からようやく解放された。
そこで初めて手助けしてくれた方に目を向ければ、制服は中等部…タイの色から新3年生だとわかる。
あ、生徒会の腕章してる。じゃ、この人がリボン担当の人?
「ありがとうございます。助かりました。」
「いいえ、間に合って良かったわ。今日はジェミニちゃん達が手伝ってくれるのね。」
今年の新入生は幸運ね、と微笑む。
「あの、お姉さま、失礼ですが、その、他の方はいらっしゃらないのでしょうか?」
「こちらに集合と伺っていたのですが…」
今いるのは、ボクとなづな。そしてこちらのお姉さまの3人だけ…予定では10名以上いたはずなんだけど、どういう事?!
人員配置は実行委員会の仕事だよね?
ぬう…また実行委員か!新年度は全員入れ替えた方がいいんじゃなかろうか。あまりに酷い。
生徒会のお姉さまも困惑している様で、しきりに首を捻っている。
「いないものは仕方ないわ。準備だけでもしてしまいましょう。」
「そうですね…人員については先生方に相談…でしょうか。」
「流石に3人では難しいと思います…。」
とにかく準備だけはしなければいけない。こちらのせいで、新入生に迷惑をかけるのだけはダメだ。
生徒会のお姉さまにお願いして、講堂か体育館の人員を回してもらうか、これから来るであろう同級生に頼み込むか…。
実行委員の方はアテにしないのが無難だと思う。
さっきの生徒会のお姉さまの口ぶりからすると、誰が来るかすら把握出来てなかったポイもの。
実行委員はお手伝いのリストすら作成していないんじゃない?
机は良し。白布でクロスもかけた。リボンは先生が持ってくる。あとは…やっぱり“人”だよねぇ。
少しずつ生徒が増えてきた…新入生もクラス毎に整列し始めてる。これはもう、手を拱いていても仕方ない。何処からか人手を引っ張って来るしかない。
「お姉さま、背に腹は変えられません。講堂内の方に手を借りましょう。」
「…それしかなさそうね。ちょっと行ってくるわ。」
「ではボクは、リボンを受け取りに行きがてら先生方に相談してきます。」
「私はここで待機、ですね。入れ違いになっては本末転倒ですから。」
それぞれ担当を決めたら行動あるのみ。
職員棟玄関口へ小走りに向かう。こう人目があると流石に、スカートバッサバッサさせて走る訳にはいかないし。
職員棟、見えた。あれ?先生と3年生のお姉さまが5人…玄関に居る?
「先生!」
「何?どうかした?」
ボクはリボンを受取りに来たついでに、人手の相談に来た旨を説明した。先生とお姉さま方が凄く驚いている。
「あなたたち、集合場所に行かないで直接職員室に来たの?」
「え?はい。実行委員から職員室に行って受け取る様にと指示されたものですから…」
なんと…リボンの配布場所を設営する事は聞いていなかったと…?順番がめちゃくちゃだ。実行委員会何してくれちゃってるの?
いや、今はそんな事より準備に専念するべきだ。
「では、お姉さま方はリボンの配布をお手伝い頂けるのですね?」
「ええ、そうよ。遅くなった様で、ごめんなさい。」
リボン付けは二人一組で行うから、ボク達3人と合流組5人。講堂内から2人借りられれば5列で捌ける。
一人30秒かかったとして1分で10人。新入生が200人前後だから…式の開始予定には充分間に合う。
高等部の入学式のリボン付けは、高等部のお姉さま方の担当なのだけれど…うわ。むっちゃ心配。手伝った方が良いかな?…聞いておいた方がいいかなぁ?
生徒会のお姉さま、無事3人キープして下さった様で、既に待機してらっしゃった。一安心だよ。
ボク達もようやく合流して軽くミーティング。一応みんな流れは理解出来ているらしい。
「じゃあ、先生が新入生を引っ張って来たら、始めましょう。慌てなくても大丈夫。ひとりひとり、丁寧に声をかけてあげてね。」
生徒会のお姉さまが最後にそう述べた。
では、始めましょう。
可愛い後輩達に最初の贈り物。
「「ようこそ。明之星女子学院へ。」」
中等部制服タイの色
緑 新1年生
臙脂色 新2年生
紺 新3年生
タイといっていますが、スカーフです。
スカーフは持ち上がりですので、3年間色が変わる事はありません。